終末のダンジョンアカデミア

三國氏

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ダンジョンウォークラリー その2

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 森に入ってから40分は経っただろうか。
 俺達第8班はまぁ、それなりの順調さで森の中を進んでいた。

「そっち行ったぞ真司、蘭丸!」

 東の叫びと共に向かって来るのは、体を守る役目も帯びた黒く分厚い体毛を持ち、個体差はあるが体高ですら1.5mを超える巨大猪。
 ワイルドボアという名称で知られる、第四ダンジョンの下階層では定番ともいえるモンスター。

「蘭丸っ、足!」

「うん、|拘束する蔦(バインドオブアイビー)」

 俺の発した短い言葉で全て理解した蘭丸がアビリティを発動すると、ワイルドボアの両前足に蔦を絡ませ転倒させる。
 時速数十キロは出るワイルドボアは前のめりに顔から数メートル地面を抉った後停止する。

「真司君っ!」

「おうっ」

 そしてその停止位置とは俺のちょうど真横、つまり俺が振り上げていた剣を、立ち上がろうと絡んだ蔦に前足をばたつかせる、ワイルドボアの頭部に突き立てれば討伐完了な訳なのだが。
 ───実は問題はここからなのだ。

 若干低音の豚の断末魔のような叫びと共に、ワイルドボアの背の辺りから光の粒子が風に舞う。
 モンスターを倒した後に起きるいつもの光景を眺め、ワイルドボアの体が|全て(・・)消える。
 そう綺麗さっぱり全て消えてしまったのだ。

「……またダメか。もう5回目なんだけどな」

 ここまで手際良くワイルドボアを処理出来た理由は簡単。
 俺達が倒したワイルドボアは今回ので既に5体目、もはやパターン化されたワイルドボアの処理法が確立されつつあるほど。
 本当ならこんなやつほっといて先に進みたいのだが、そう出来ない理由がある。

 ウォークラリーのスタンプカードとは別に出された課題、ドロップアイテムの採集と鉱石の採集の一つ、ワイルドボアの牙を採集しろ。
 これがなかなかに曲者だった。
 霧島曰く、モンスターのドロ率は様々っすけど、ワイルドボアは余裕っすね。50パーはあるっす。3体も倒せばそりゃもう間違いないっす。
 という霧島の言葉通りなら50%を5回連続で外したわけで、俺達は運がなかったとしか言いようがない。
 どちらにせよ牙を手に入れなければどうしようもないわけで、次は落ちると信じてもう一度倒すしかないのである。

「もう一体見つけたよ。どうする、殺る?」

 気持ちを切り替えたちょうどいいタイミングで、音符の索敵範囲に敵を捉えたようだ。

「あぁ、6度目の正直といこうか」

 自分を鼓舞する言葉を紡ぎ、音符の指差す方向へと進路を向ける。
 もうワイルドボア狩りにも慣れたもので、最初のような堅さはない。
 それは気を抜いているというわけではなく、適度な緊張感も保ちつつ心にゆとりを持てているということである。

「距離は?」

「あと30くらい」

「……見えた。全員止まれ。蘭丸行くぞ」

 先程と同様である。音符がエコーローケーションを使って発見した敵に気付かれぬよう背後から近付き、蘭丸がワイルドボアの尻に遠距離魔法を放ち挑発。
 ちょうど背後にいた俺を見つけ怒り狂ったように突進し、蘭丸が足を引っ掛け転ばせ俺がとどめを刺す。
 ちなみに東は非戦闘員のC組D組の守りに回り、杏花は適当なところで回復アビリティの待機をしている。

 付け加えるならばとどめを刺す役目が俺なのは単に節約するためだ。
 蘭丸が背後から一撃で仕留めてもいいのだが、それだと蘭丸の精神に負荷がかかる。
 アビリティを使えば使うほど精神を削るので、一度剣を出した後は壊れない限り精神に負荷を掛けることなく、戦闘が可能な俺が攻撃するのは順当でもある。
 とはいえ、こうも牙がドロップしないとなると、なんだかとどめを刺してる俺が悪いような気さえする。

(落ちろ落ちろ落ちろ……)

 頭の中で何度も唱えながらワイルドボアの光化を見送っていると、離れたところにいた他の班員達も集合していた。

「あれじゃない?」

 と杏花が指差した場所を見れば確かに何かある。
 30cm程の白い物体、間違いないと確信したところで実際に手に取り霧島に渡す。

「これでいいんだろ?ドロ率50%のワイルドボアの牙ってのは」

「嫌味っすかそれ?でも落ちなかったのは多田っちのせいじゃないっすか」

 そう言われるとこちらも返す言葉はない。
 ……いや、よくよく聞いて見れば一つだけあった。

「多田っちって俺……だよな」

「うぃっす」

 無邪気な笑顔でそうはっきり言われては仕方がない。俺は多桗っちというあだ名を受け入れよう。
 そんなことを考えていると、霧島は俺の右手の辺りへ視線を移す。

「そーれーでー。ワイルドボアの牙を入手したんっすから、ヤツをサクサク刺しまくってた剣をそろそろ見せてくださいっす。約束したじゃないっすか」

「してないけどな。まぁ、いいけど。とりあえずここで一旦休憩にするか。音符、近くにモンスターは?」

「半径30m以内に敵無し」

 音符に確認を取ったのち、森の中で暫しの休息を挟むことにする。
 始まったばかりで急いでもしょうがないし、おそらくダンジョンでの活動にまだ慣れていないであろう、C組及びD組のメンツのためでもあった。
 まぁ、新しいオモチャを手に入れた子供のようにはしゃぎ、俺がアビリティで作った剣を突っついてる|嬢ちゃん(キリシマ)は例外にしておいたほうがいいかもしれないが。

「ところで霧島さ。この、刻鉱石って石はどこにあるんだ」

 ワイルドボアの牙と別の採集素材の一つ刻鉱石。
 名前からして何か文字でも刻まれているのかもしれないが、俺達はどんな石なのか知らない。
 であれば霧島もしくは他のC組の生徒に聞くしかないのである。

「えーっと、まぁ読んで字の如し、とだけ。模様だったり絵みたいなものだったり、そういうのが刻まれた石のカケラを刻鉱石って呼ぶっすよ。ぶっちゃけ自分も生で見たことないんで、まだなんとも」

「へぇー、例えばこういうのとか?って流石にこれは違うか」

 俺のぴったりすぐ隣で霧島の話を聞いていた杏花は、そう言って何やらポケットから取り出し出す。
 杏花の小さな手のひらにちょうど収まるスベスベした平たい石ころ。

「いや、それその辺に転がってる石ころだろ。どう見たって───」

「あっ、それっす。間違いないっす」

「そうだろそうだろ。そういう石が刻鉱石って言うんだ……って、えっマジなの?」

「マジ中のマジっす」

 そう返した霧島の目は確かに真剣そのもの。
 マジ中のマジという表現は意味不明だが、どうやら本気で言ってるようなので、俺も小石をさらに注視する。

「うーん……あぁ、なんかこの模様とか?」

 スベスベした石の表面にいくつかに描かれた?文字というか絵というか、なんとも言えない模様。

「うん、確かにこれは刻鉱石で間違いないですな」

 霧島の意見に同意したのはD組の田沼。
 先程までは少し疲れていたような気がするが、疲れも吹っ飛んだと言わんばかりに精気に満ち満ちている。

「そっか、田沼もそう言うなら本物みたいだな。それにしてもこれは絵なのか元々ある模様なのか……いや、絵なわけないか」

「いえいえ、多田氏はなかなかいい着眼点をしておりますな。実は知性のある生物がこのダンジョン内に生息している、もしくはしていたのではないか、と未だにこの石などを巡って学会では現在進行形で意見が割れております程でしてね。とはいえ、実際に発見されたこともありませんので、UMAの存在以上の与太話というのが通説であります」

「奥が深いなダンジョンってのは。今まで戦い方のことばっか考えてたけど、もしかしたらそれだけじゃダメなのかもな」

「ふっふっふ。ですが、実際おりますよ、戦闘をこなしダンジョンの謎を解きあかそうという方々はね。しかも攻略者ではなく冒険者と新たに自称しているとかなんとか。まぁ、世界平和のためとか、真面目にダンジョン攻略しろなんて叩かれることもあるそうですがね」

「へぇー、冒険者ね。俺もその呼び名の方が好きだけどな。なんか響きがいいよな。それにゲームじゃ冒険者って呼び方のが主流だし」

 田沼の言葉に返したのは俺ではなく東だった。
 どうやら東は冒険者という響きがかなり気に入ったようだ。
 思い返してみれば、東がダンジョン攻略者を目指したきっかけも、ダンジョンの奥底に眠る大秘宝がどうとか言ってたので、冒険者とか探索者とかの方が合っているのかもしれない。

「それがしも戦えれば目指してみたかったものですが、向き不向きもあります故……。それでも未知を既知に変えたいという気持ちは揺らいだことはないですぞ、東殿も多田氏もきっと良き冒険者になれますぞ」

 兎にも角にも健全な男子高校生の俺としては中々に興味を惹かれる話である。
 未知の存在に繋がるかもしれない石なんて、素敵に過ぎるというものだ。
 実際、遠過ぎない距離ながら個別で休んでいた他の班員たちもいつの間にか輪に加わり、様々な意見を交わし今日一番と言っていい盛り上がりすら見せている程だから間違いないはず。
 一つ言えるとしたら杏花と音符は若干引き気味に聞いているように、見えなくなくもなくない。

 とはいえそんな楽しい時間もそろそろ終わらねばならない。
 音符が索敵系のアビリティを発動しているとはいえ、ここはダンジョンのど真ん中。
 普通科高校の林間学校とは違い、遊び気分でやっていれば怪我だけでは済まないし、最悪全滅すらあり得るのだ。

 俺は適当な頃合いを見て、会話の一瞬の合間を突き手を叩く。

「はい、休憩終了!続きは気になるけどキリが無さそうだからな、この話はまた後にしよう。課題2つクリアして、多分もうすぐ第一ポイントに着く。今のところ順調だけど気を抜かずにいこう」

 そこまで言えば十分。遊び気分で来ている愚か者など当然おらず、全員気持ちの切り替えが完了し、一斉に立ち上がり始める。

「さて行くか」

 こうして無事休憩を終えた第8班は、再び隊列を組み直し行動を開始したのであった。
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