終末のダンジョンアカデミア

三國氏

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SV

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 初代を畏怖し二代目を敬愛した、S級攻略者パーティー紅蓮乙女の三代目リーダー、|宍戸(ししど)|結美(ゆみ)。
 彼女は現在、第一ダンジョン学園における林間学校の、|SV(スーパーバイザー)として同行している。
 ちなみに1つの班につき1人の割合である。
 本来S級と呼ばれる日本における最上位の攻略者が、学園の林間学校で同行することはまずあり得ない。
 のではあるが、|初代(朱夏)が学園長を務める学園から、|二代目(幽々子)を通して頼まれてしまえば断ることなどできるはずもなかった。

 とはいっても、結美の側にとって全くメリットが無いといえば嘘になる。
 なにせダンジョン学園といえば、将来有望な金の卵が大勢いること間違いなしであるからだ。
 だから結美は"どうせ断れないんだし、せめて使えそうなやつに唾をつけとけよ"と、仲間達に念を押すことを忘れなかった。

 特に結美に至っては、林間学校の打ち合わせで学園長の朱夏と会った際に、一番面白そうな生徒のいる班に同行させてくれと直談判したほどである。
 ちなみに朱夏がその時真っ先に頭の中に浮かんだ生徒は2人、多田真司と柳生一夏である。
 しかし朱夏は寸分も迷うことなくこう答えた。

「だったら柳生一夏という生徒のいる班に同行させてやる。まだまだ荒削りだが中々に面白いはずだ、まぁ、紅蓮乙女に入りたいと言うかは別だがな」

 結美の新人勧誘という魂胆はお見通しとばかりに軽く釘を刺す朱夏だが、朱夏は真司ではなく一夏を推した。
 ただ、朱夏が一夏を選んだ理由は実に簡単である。
 というかパーティー名が紅蓮|乙女(・・)の時点で、真司が入れるわけもない。
 珍しいと言えば珍しい女性のみで構成されたパーティーに勧めるのであれば、一夏が適任だと朱夏は判断した。

 結美も朱夏が推す生徒であれば見てみたい、そんな期待に胸を膨らませ生徒同様に林間学校を楽しみにしていたわけだが、残念なことに結美は大いに失望していた。

(……なんだこれは?正面から突っ込んで力任せに刀を振るう?まさか朱夏さんが嘘をついたとも思えんが、こんな猪武者いくら見てもつまらんな)

 真司達が適材適所の連携で倒したワイルドボアを、一夏は力任せの一振りで薙ぎ倒していく。
 そんな一夏の仲間を頼らず己の力を過信し戦う姿に、結美は失望しつつもどこか懐かしさを同時に感じていた。
 そして数体目のワイルドボアを仕留めたところで、あぁ、とため息を溢し懐かしさの正体を思い出す。

「少し昔の私に似ているかもしれないな。だが、いつか必ず破綻するぞ。一人じゃダンジョンで生き残れない。とはいっても、こればかりは人から教えてもらって理解できることでもないのかもな……。とにかく早く気付くといいな、、、取り返しのつかないことになる前に」

 そんな結美の胸中など知らぬ一夏は、本日五体目のワイルドボアを倒し、ワイルドボアの牙をドロップさせ。
 他の班員が拾うのを確認すると再び前進する。
 その様子はまるで誰かと競争でもしているかのように結美には映った。

(もうちょい周りが見えればいいんだが、他の奴らはお前のペースについていけてないぞ。しかも誰もこいつに意見を言わないなんてな。少し浮いているのか……誰かこいつを上手く扱えるような奴がいればいいが、望み薄かもな)

 朱夏さんには悪いが、途中で他の仲間に会ったら観る班を変えてもらうか、そんなことを考えつつ結美は静かに一夏達の後へ続いたのだった。

 ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 失望という感情を抱いた結美と似て非なる感情、物足りないという感情を抱いていたSVがいた。
 戒能由美子、第一ダンジョン学園の生徒会長にして、真司率いる第八班のSVを務めている女性。
 ただし由美子も結美と同様に、後ろからついて行くのみで指示などは一切出していない。
 もちろんサボっているわけでも、人見知りというわけでもない。
 ただ学園からの指示で、初日のウォークラリーは致命的なミスをしても、極力手を出すなとさえ言われている。
 だから由美子はその指示をキチンと守り、真司達第八班のダンジョン攻略を退屈に思いつつ傍観していた。
 とはいってもそんな態度を微塵も表に出さないため、本人以外はまず気付くことはないが。

(それにしても噂に聞いていたのと随分違う気がするわ。それにあの仲間を頼って最小限の消費で戦うなんて退屈だわ。彼も|AV(アベンジャー)ならAVなりの戦い方があるはずなのだけれど。それとも大勢の前では使わないということなのかしらね。……そう言えば彼がAVという情報は誰から聞いたのだったかしら?……あらあら、ど忘れしちゃったわ。でもちゃんとした情報筋から聞いたはずだったわね)

 索敵を担当している大川という女生徒が音系のアビリティを使う、という情報を事前に聞いているため、不用心に思ったことを口に出すことはない。
 なにせ索敵系のアビリティに優れる攻略者の耳は、異次元的な地獄耳を持つ場合が多いからだ。
 だから由美子は作り物の笑顔を貼り付け、ただ黙って監督役の仕事をこなしていた。
 もちろん、もし退屈な戦い方などと真司の前で言えば、それの何が悪いんだと全力で意見するに違いないし、それが正論であることは由美子も理解している。
 それでも由美子はもっと違うものを期待していた、、、

 復讐者という意味を持つAVとは、ダンジョンという存在を、それによって壊された己の日常を呪い、親の仇のように憎んでいる者の事を指す。
 いや、実際ダンジョンが親の仇であるAVは少なからずおり、由美子もその内の一人なのだが、由美子がAVだと勘付いている人間はごく僅かしかいない。
 それもそのはず大資産家のご令嬢という立場から幼少より養われた、自分の感情を隠すというスキルに優れているため、由美子がAVだと簡単に気付かれることはなかった。

 ただしその逆、AVだという人間に由美子から近づくことは幾度かあった。
 それが現生徒会の面々であり、真司でもあった。
 だから真司の戦い方に違和感を禁じ得なかった由美子は、人差し指を整った小さな顎に当てて小首を傾げる。

(うーん。もしかしたら彼って私以上に感情を隠す術に長けてるのかしら?なんとも正統派な戦い方だわ。こんな戦い見せられたら欲求不満になりそうね。もし代わってくれそうな人がいたら観る班代わってもらおうかしら。それに、できれば柳生さんの戦いを見ておきたいところでもあるし。。。でもちょっとあの子も気になるわね、灰音杏花さんだったかしら、確か役割はヒーラーよね。でもなんだろう、なんかあの子は私と同じ匂いがするような……いえ、気のせいよね)

 そんな事を思いながら真司から杏花に一度視線を移し再び戻すと、由美子は静かに第八班の後に続き森の奥深くへと歩みを進めるのだった。

 ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 10分ほどの休憩を挟んだのち、再びウォークラリーを開始した第八班。
 ダンジョンに入って間もないとはいえ、順調な足取りで進めていることに緊張を幾らか解きほぐしていく中で、一人だけ逆に緊張感を高めていく女生徒の姿があった。

(間違いない、絶対間違いない。会長さんは真司君に気があるに違いない)

 そう考えるだけで杏花の意識は前ではなく、山道だというのに優雅な足取りで進んでいる由美子へと向いていた。
 思い返してみれば怪しい点は幾らでもあった。
 もちろん"杏花の中では"という但し書きが必要にはなってくるが。

(入学初日でいきなり生徒会に誘ったのも不思議だし、今回だって真司君のいる班のSVになったのも裏で何かやってるかもだし。それにさっきの休憩中もマジマジと見つめてたよね。あの目は絶対ほの字だったもん、私の中の女の勘が間違いないって言ってる)

「あいたっ」

 後ろにばかり気を取られながら歩いていた杏花は、案の定というべきか木にデコをぶつけうずくまる。

「大丈夫か杏花?何か気になることでも───」

 案外派手に激突音が響いたことで、ピクリと反応し振り向いた真司に尋ねられ、当然答えられるわけもなく杏花は高速で首を横に振った。

「うっ、ううん!全然大丈夫だから。ちょっと余所見してただけ」

「それならいいけど。何かあったら報告は早めに頼むぞ。他のみんなもな」

 そんなやりとりをしながらも、やはり杏花の意識は若干後ろのまま。

「うぅ、せめて活躍の場があればなぁ。。。ちょっと不謹慎だけど」

 せめて、せめて少しだけでも活躍する機会があればアピールできる。
 そう思いつつもいつも通り杏花の回復役としての出番の無さは否めない。
 順調なのはいいが出番が無い、自分だけ何もしてない罪悪感のようなものを感じつつも。
 味方を回復しなければいけない状況になるということイコール、仲間の誰かが負傷することなのだと自分を戒める。
 そんな時思い出すのはやはり真司に言われた言葉である。

 "杏花が暇なのはいいことでもある。負傷者無しで攻略できればそれに越したことはないからな。でも何もなくとも杏花が側にいてくれるだけで、俺は安心して戦えるし、杏花のことも守れるんだ。"

 少し前にその言葉を言われた場面を思い出し、嬉しそうに一人小さく返事をした杏花は、今日初めての回復アビリティをじんじんと痛む自分のデコにかけたのであった。
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