終末のダンジョンアカデミア

三國氏

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ダンジョンウォークラリー その3

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 頭上には水分と養分がよく混じった焦げ茶色の土が広がり、そこから樹齢何百年越えているのかもわからない大樹がいくつも根を下ろしている。
 しかもそれが頭上にあるのだ、まるで世界が反転してしまったかのように、、、というか実際反転していた。

「やべぇ!解けねえぞおい!」
「目、目が回るっすー」
「ちょっ、服がめくれてっ。だ、誰かなんとかしなさいよ」

 あちこちで聞こえる声はほとんど悲鳴のように木々の葉を揺らす。
 その悲鳴は最高点から急降下するジェットコースターように、爽快とも言える風切り音に混じり消えゆく。

 これらの事象全て踏まえ、今俺達の置かれた状況を整理しよう。
 鞭のようにしなる木の|蔓(つる)が数十本うねり、終いには俺達の足を絡めとり宙吊り状態。
 本当に突然だった。
 初見殺しというべきか、いきなりの奇襲に対応しきれず見事に全員(一人の例外を除いて)蔓に足を絡め取られたのだ。

 アビリティによる遠距離攻撃を得意とする蘭丸も味方に当たる可能性の高さから蔓を攻撃できずにいる。
 東にいたっては木を燃やそうとする始末で、危うく全員山火事で全身焼かれるか一酸化炭素中毒で死ぬところだった。
 とにかくこの状況を一言で説明できる便利な言葉がある。そう、非常にピンチである、と。

 幸いというべきかこの蔓を操る植物がモンスターではないということだろう。
 モンスターであれば今頃俺達は地面に叩きつけられ、グロ注意の18禁映像になっていたに違いない。
 だからこうして宙吊りで振り回されてるだけなら何の問題も……あー、やばい。
 1つ問題があるとすれば胃の中をかき回されたような状態が続き、気持ちが悪くなってきた。
 乗り物酔い(?)かは判断しづらいところだが、とにかくこのままだといろんな意味でやばい。。。吐く。

「そういえば杏花が酔い止め持ってたっけな。とにかく今は地面に降りる方法を……」

 しばし考え最善策を模索……模索……模索。
 途中宙ぶらりんで服のめくれた杏花と音符が視界に映り、脇の下周辺のブラジャーの紐らしきものが思考の邪魔をするわ。
 できるだけ気にしないようにしておいたSVが、宙吊りで振り回されている俺達を地面から涼しい顔で見ていたのと目が合ったような気がしたが、とにかく考えをまとめることに成功する。

「あー……今の俺にはこれしか出来ないのか。俺のアビリティがもっと使い勝手良かったらいいんだけど……」

 とはいえ、今は手持ちでなんとかするしかないわけで、愚痴をこぼしてる間にも胃の中のものが逆流してこないとも限らない。
 そうして俺はなんとか離さずにいた剣で足に絡んだ蔓を切る。
 もちろん簡単に切れる、なんたって俺のアビリティで作った剣なので切れ味は保証付きだ。
 ならなんですぐそうしなかったのかって?
 答えは簡単だ、あと3秒でわかる。2、1、0。

「痛っ」

 ドサリと鈍い音を立てて地面に着地、もとい衝突する。
 痛いだけで済んだのはダンジョン内で、肉体が強化されてるおかげではあるが、それでも地上十数メートルから命綱を切るのは勇気が必要だった。

「左肩は上がるな。格好悪いけど一応着地成功ということで」

 右肩を強打し剣が振らなくなるよりはマシだろうと左の肩口から地面に着いたが、骨に異常はなさそうなので一応成功だろう。
 そんなことを思っていると左肩が僅かな光に包まれる。
 暖かな人肌程度の温もり、例えるならば子供の頃院長に頭を撫でてもらった時のような優さ。

「杏花の回復魔法か。凄いなあいつ、あんな体勢でも回復忘れないなんてヒーラーの鏡だ。助かったよありがとう」

 小さな声でお礼を述べるとほぼ同時。それまで杏花が必死に押さえていたジャージは、回復アビリティで両手を使ったことで解放され、見事にめくれ上がり健康的な10代の肌を大いに晒す。
 しかも足に絡んだ蔓で逆さまの状態で宙吊りにされ、しかもめくれた服が顔を覆うという、とても男子には見せられない有様。

「あぁ、うん……まずは杏花を助けないとな。あれは健全な男子には見せられん、まぁ、俺もそうなんだけどノーカンということで」

 それに一度確かめてみたい事もあったのでちょうどいい。

「さっきはまともに思考するのもキツかったからやめたが、今回はいけるはず。」

 戦闘をサポートするための武器などを作るC組、攻略サポート科の霧島に言われ思い付くに至った新境地を試す機会が早速来たわけだ。

 霧島曰く、"使ってる素材の構成とかも練らず、単純に硬くて鋭い剣を作れるってことは、もっと応用が効くんじゃないっすか?例えば今日野宿する時にベッドを作るとか。えへへ、自分ベッドじゃないと眠れない派なんすよ寝袋じゃあちょっと……"

 後半はさておき、霧島のおかげで広がった俺のアビリティの使い道。
 の前に、いつも通り武器を作る、木を切るならやはり斧がいい。

「バトルアックス……伸びろっ!」

 黒い刃に燃えるような赤い装飾の斧を作り、高さ5メートルほどのところにある蔓の根元を叩っ斬る。

「杏花受け身っ!」

 蔓が切れたことで無造作に空中に放り出される杏花の落下予測地点は、おそらく俺の前方数メートル。
 まるで人形のように無抵抗で、上下もわからず哀れに放り出される杏花を見て物凄い不安に襲われた。

「ねぇ多田君、あれはマズイくはないかしら」

「ですよねー」

 自分の周囲の蔓を全て鎖のようなもので拘束していらっしゃる会長様は、森林浴でも楽しむお嬢様然とした態度で木陰から声を掛けてくる。
 ただ会長の言うことはごもっとも、服で顔は覆われていても落下していることには気付いているのだろうが、バタつくだけで受け身とかそういう問題ではなくなっている。

 それでも俺はいつも武器を具現化しているアビリティの可能性を信じ、巨大マットを具現化する。
 まずはイメージ、色、形、大きさ、厚さ。
 そして、、、あとは柔らかさなのだが、そこでつまずく。

「マットの柔らかさ……ベッドくらいか、いやもっと柔らかく。豆腐、違う潰れる。プリン、一緒だ。えっとおっぱい、いや触ったことないっ!」

 そんなことをやってる間にも杏花はもうすぐ目の前、俺は慌てて学園長の部屋のソファーを思い出し柔らかさを設定。
 縦横4mほどのふかふかの白マットを生み出し、さらにそこへ飛び乗る。
 想像通りの柔らかさに満足しつつも、受け身を取れない杏花を両手で受け止める。

「重っ、くないっ!」

 おそらく45キロもない華奢な体とはいえ、落下してくるスピードや何やらでえらい重さが掛かるが、なんとか踏み止まり無事キャッチ成功。

「プハッ!あっ着地してる、受け止めてくれたんだ、ありがとう真司君」

 ようやく服から顔を出せた杏花の満面の笑みを見る限りどこも怪我はないようだ。
 そう思った矢先杏花の顔がみるみるうちに紅潮していく。
 さらには唇を軽く噛みしめ、逸らされた瞳は羞恥に耐えんとして閉じられる。

「あっ、ごめっ」

 それもそのはずだ、肋のあたりまでめくれた服は俺が抱えた手に引っかかり、肌を露出した状態でお姫様抱っこ状態。
 さらには俺の右手にはっきりと感じる柔らかな肉の感触。
 それは程よく手に収まるようでもあり、少し持て余すようでもある今までにない感触であった。
 次にクッションを具現化する時はこの柔らかさにすべきだろう。

「あぁ、これがおっぱいか。今後の参考に……っじゃなくて、すまん杏花。怪我はないな」

「え、えっ、参考っ⁉︎」

「あー、違う。そのなんだ、今後のダンジョン攻略の参考とかなんかで、ほら、うん」

「よくわかんないけどわかった」

 ここがダンジョンの中でなく、緊迫した状況でなければ土下座で謝罪するべき事案だが、蔓の襲撃を回避しつつではそれも不可能。

「とにかくみんなを助けていこう。まずは蘭丸だな」

 よくわからなくても、空気を読んでわかったと言える優しさに助けられつつも、話題の転換に成功した俺は地面に置いてあった斧を再び握りしめる。
 そしてまず最初に助け出すのは言葉通り蘭丸だ、そう思った矢先蘭丸は自身の足元を攻撃し自力でマットに着地する。
 しかも着地の寸前に風を操る魔法での減速をしてみせる。

「ちょうど説明の手間が省けそうだな。蘭丸、俺が蔓を斧で切っていくから、落ちてきた人をお前がやったように上手くマットに着地させてくれ」

「あっ、うん任せて」

 蘭丸を最初に助け出そうとした一番の理由はこれだ。
 木々の間ギリギリの大きさで作ったとはいえマットの大きさにも限界がある。
 だから蘭丸には落ちて来る人を無事着地させる仕事を任せようと思っていた。

「次は音符、そんで東。あとはC組とD組のやつを助けやすいやつから助けてくぞ」

「うん、了解」

 言葉通り音符を助け、次に東を助けようとしたとこで、上空から東の声が響く。

「俺は後でいー!確認したいことがー!あるからー!」

「確認?」

 激しく揺られながら叫ぶ声には、流石にあの状況を楽しんでいるという風には聞こえない。
 それになにがしかを考えての行動というのであれば、東の考えを支持しよう。
 もちろん木の蔓がモンスターではなく、今すぐどうこうされないだろうという前提ありきだが。
 ともかく東に負けない声量を持って返答し、他のメンバーを次々と助けていくことにする。

「ふぇー……た、助かったっす。マジヤバっす、ダンジョン怖いっす」
「ありがとう、多田氏。自分絶叫系はちょっと」

 そんなことを言いつつ助けられた霧島と田沼の顔は真っ青。
 後少しで気絶までもはいかなくとも、吐瀉物を上空で撒き散らしていた可能性は大だったことだろう。
 しかしそれも杏花の発動した状態異常回復系のアビリティで、顔の血色もすぐに元通りになっている。

「へぇー、毒とか麻痺以外にも酔い覚ましにも効くんだな」

「うん、基本何でもいけるみたいだよ」

 そんなことを何の気なしに答える杏花だが、やはりヒーラーが優秀だというだけで、俺みたいな前衛としては精神衛生上非常にありがたい。
 ともあれ、これで残すは東一人になったわけだ。

「おいっ東っ!どうだ」

「スタンプっ!スタンプだ!」

 意味不明な身振り手振りとともに東は必死に伝えようとしてくれているが、逆にあの身振り手振りはいらない気もする。
 なんせスタンプという言葉一つで二つのことが俺の中で確定できた。

「ナイスだ東、後はこっちでやるから落とすぞ」

 そう言って俺は最後に残った東の蔓を斧で切断する。
 二回転ほどしながら見事足から着地を決めた東は、霧島らとは違いフラつくことなく自分の足で立ち、木の幹の上方へと指を指す。
 もちろんドヤ顔である。

「あそこにウォークラリーのスタンプがあったぜ。あの状況で見つける俺、ナイスっ」

「そうだな、ナイスだった」

「まぁな、ジェットコースターに乗っても、必ずカメラを見つけてピースする男だからな」

 そう、スタンプと東が叫んでいたのは、ウォークラリーのスタンプのことだ。
 ちなみにもう1つわかったというのは、あんな場所にスタンプを配置する教師陣の非常にお優しい心である。
 まぁ、もちろん最大限の皮肉を込めてという言葉をは忘れてはいけないが。

 そんな誇らしげに胸を張る東に霧島が賞賛の拍手を送る中、俺は逡巡しいくつかの方法を考える。

「さて、どうやってあのスタンプを押しに行くかだな……」
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