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第一側妃アンネローゼ 2
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注意!ここからは本編よりも未来になります!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
窓から差し込む光にゆっくりと瞼を開ける。
「ふぁ……」
誰にも起こされない朝って素敵。
今まではやる事が沢山あって、実に面倒だったわね。
気持ちの良い毛布に敷布、柔らかく織られた布で包まれた枕……
ゴロリと寝返りをうって窓から目を背ける。
たしか王宮お抱えの魔法医師からのご指導は五日は開けろ……だったわね。
明後日にはミネルバが入宮してくる、そしたら一緒にお茶しよう。
全くつまらないんですもの。
「良かったわ、ミネルバが同じ側妃で。」
ぐーっと体を伸ばし、二度寝を諦める。
「やはり毎日の習慣とは侮れないわね。」
体を起こしサイドデスクに置いてあるはベルを鳴らす。
チリンチリン
軽やかな音を立てるベルを置いて待つ。
「おはようございます、アンネローゼ様」
「アンネローゼ様、おはようございます!」
「おはよう。体がベタベタして気持ち悪いわ。湯あみを。」
「「畏まりました。」」
乳姉妹がやって来て、私の言葉を聞いて動き出す。
やはり慣れた者が一番だわ。
「おはようございます、アンネローゼ様。お体の調子はどうで御座いますか?」
「あら、ばあや。気怠いけど、それだけね。ある程度毎日鍛錬しておくと良いと、エリーゼ様から聞いておいて良かったわ。」
ばあやがコロコロと笑っている。
私付きの侍女が一礼して紅茶を持って来たけど……悪くはは無いけれど、私好みでは無いわね。
「これ、朝はもう少し軽い香りの物を用意なさって下さいな。」
「はい、申し訳ありません。では淹れ直して参り「それで結構よ。明日からは気を付けて頂戴。」はい、畏まりました。気遣いが足りず申し訳ありませんでした。お許し下さいませ。」
あら、随分と素直ね。紅茶を受け取り、一口飲む……香りも強いし味も濃い、誰かの好みで淹れてしまったのかしら?確かに目を覚ますには良いのかも知れないけど……私が持って来た物とは違うわね。
「今朝淹れたのは王宮の物ですね。朝は持ち込んだ物からお淹れなさい。良いですね。」
「はい。畏まりました。では失礼致します。」
一礼して侍女は下がって行った。チラリと見た侍女の顔は不満顔でも無い……鍛えれば長い間使っても良いでしょう。
「見所はありますね。いかがいたしますか?」
「様子を見ながら仕込んで頂戴。あまり人が変わるのは好きではないわ。」
「十分、承知しております。おや、ニーナとナナが参りましたよ。湯あみに参りましょうか、ではこちらは私めが……」
まだ飲みきってないけれどカップをばあやに渡し、ベッドから抜け出し乳姉妹がいる扉へと向かう。
浴室でゆっくり湯あみを楽しむ、あぁ……朝の湯あみは本当に気分が良いわ。
朝は自分の好きな時に起きて、湯あみして……ふふ……悪くないわ。
温まった体に香油を使って体を揉みほぐされる。
柔らかく織られた布を何重にも重ねて作られた室内着を羽織、着付けする為の場所へ移る。
「コルセットは緩めにして頂戴。何だか、締め付ける気にはならないわ。」
「はい!」
軽く締められただけのコルセットにドロワーズ、シンプルな造りのドレスを着せて貰い揃いの靴を履かせて貰い移動し髪を結い上げて貰う。
小ぶりで可愛らしい造りのお飾りを付けて貰う。
「では、朝食を頂こうかしら。」
「あちらにご用意しております。」
居間のテーブルに案内され、朝食を見て王宮が困ってる事を知る。
「これでは我が家の朝食と変わらないわね。シュバルツバルト家が離れたのは痛手だったでしょうね。」
あら?何だかあちらが騒がしいわね。何だと言うのかしら?
「騒がしいですね。見て参りましょう。」
「ばあや、悪いわね。」
扉の向こうは階段があるわね……まさかね…………あら?ばあやが慌てて帰って来たわ。
「アンネローゼ様、正妃様がおいでに……」
「あら、わざわざいらっしゃったの?お呼びして頂戴。」
「よろしいので?」
「本来なら私が向かうのだけど、あちらが来て下さるなら手間が省けるわ。」
「畏まりました。」
ふぅ、結構食べたわ。コクリと改めて淹れられた紅茶を飲み、一息つく。
バタバタと歩く音がする、何とも無作法ね。
「ちょっと!何でこんなキレイな食器使ってるのよ!」
全く……
「おはようございます、正妃様。こちらの食器は私のお気に入りですの。王子宮に行っても使いたいと申したら、入宮前に一揃いご用意して下さったのよ。…………それにしても、正妃様は何でそのような恰好なのです?」
何故正妃様は春の装いでいるのかしら?
侍女達は何も言わないのかしら?月の装いが最も正しいけど、最悪冬の装いで居るのが普通だわ。
「え……?食器も持って来るの……?って、私の恰好の何がいけないのよ!」
「え?正妃様……?黄色のドレスは春の装いですわ。今は冬の装いでしょう。月の装いでいけば白と茶、濃い緑に深い青に黒しか使ってならない筈。何故、王室典範を無視なさるのですか?」
「王室典範?何それ。」
あらあら、キョトンとなさって……って、どうして王室典範を知らないのよ!
「王室典範をご存知無いと。」
「知らない……わ。」
本当に知らないようね、ドゥルテ男爵は何を考えていたのかしら?いえ、あの実に下らなさそうな男は己の欲だけで碌に考えずに輿入れさせたのかも知れない。
「正妃様、少し正妃様のお部屋を見せて頂いてもよろしいかしら。」
「えっ!それは……その……困る…………」
「何故ですか、恥ずかしがる理由なぞありませんでしょう。」
「だって…………私の部屋、こんなにキレイじゃない……」
男爵家なら知れてるわ、比べられても困るわね。
「関係ありません。私達は殿下を支える仲間です。王室典範を知らないでは、話になりません。では、正妃様のお部屋に参りましょう。」
私は立ち上がり、正妃様の腕を掴んでグイグイと引くように歩く。ばあやをチラリと見ると、軽く頷き私の後を付いてくる。
困り顔の侍女長を見て「正妃様のお部屋に行きます。」と伝えると先に歩きだす。階段を上がり、女騎士に声を掛け一つの扉へと案内される。
「あのっ!本当に何にもなくてっ!」
「まぁ、ご謙遜なさらなくて良いのですよ。」
何を言ってるのかしら?輿入れに道具一つ入れないなんて、貴族家にあるまじき事あるわけ…………扉を開けられ見た部屋は、到底輿入れしたとは言い難い部屋だった。
思わず掴んでいた腕を離し、部屋の中を進む。
自分の頬が強張ってるのが分かる。思わずこぶしを握る。ギリ……と歯が鳴る。
怯えたように私を見る正妃様付きの侍女達……
「これは…………この部屋は一体何だと言うのです!」
年嵩の侍女が一人前に出て頭を下げた。
「正妃様のお部屋は最初からこの様でした。」
「何ですって!…………正妃様は王室典範を知らないと仰ったわ。輿入れされるのであれば、王室典範は必ず要るものです。」
「王室典範も最初からありませんでした。」
「ばかな!それでは、正妃様は何一つ分からずお過ごしになると言うことよ!父君であるドゥルテ男爵は何を考えてるの!」
「アンネローゼ様、私の方から手配致します。」
「ばあや、頼んだわ。これは由々しき事。こんな事があってはならぬ事よ。…………この中にドゥルテ男爵家とやりとり出来る侍女は?」
「私達は全て王宮勤めの者です。それ故、父君にあたるドゥルテ男爵様とは連絡が取れないままでおりました。」
ふぅ……とため息がこぼれる。
「それは分かっているわ。王宮勤めであれば、親族を伝っても難しいもの。連絡を取れる侍女も付けず、まともに輿入れの準備もなさって無い。正妃様の装いがおかしいと思って来たけれど、こんなにも無い無い尽くしだとは……」
大声で泣く声が後ろから聞こえる。振り返れば正妃となった彼女が肩を震わせ子供のように泣きじゃくっていた。
「何で!何で誰も!」
つまらない事を叫ぶ。
「ご友人を作らなかったのは正妃様です。せめてエリーゼ様とまともにお話していれば、この様な事は無かったでしょうに。」
「何でよ!何でここで悪役令嬢のエリーゼの名前が出るのよ!」
この女!カツカツと近付き碌に結わえた訳でもない髪を引っ掴んで睨み付ける。
「エリーゼ様の事を悪し様に言うなど、許されなくてよ。」
「ヒッ……」
言葉を失い、ヘナヘナと力無くへたり込む正妃の髪から手を離し無言で見下ろした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
窓から差し込む光にゆっくりと瞼を開ける。
「ふぁ……」
誰にも起こされない朝って素敵。
今まではやる事が沢山あって、実に面倒だったわね。
気持ちの良い毛布に敷布、柔らかく織られた布で包まれた枕……
ゴロリと寝返りをうって窓から目を背ける。
たしか王宮お抱えの魔法医師からのご指導は五日は開けろ……だったわね。
明後日にはミネルバが入宮してくる、そしたら一緒にお茶しよう。
全くつまらないんですもの。
「良かったわ、ミネルバが同じ側妃で。」
ぐーっと体を伸ばし、二度寝を諦める。
「やはり毎日の習慣とは侮れないわね。」
体を起こしサイドデスクに置いてあるはベルを鳴らす。
チリンチリン
軽やかな音を立てるベルを置いて待つ。
「おはようございます、アンネローゼ様」
「アンネローゼ様、おはようございます!」
「おはよう。体がベタベタして気持ち悪いわ。湯あみを。」
「「畏まりました。」」
乳姉妹がやって来て、私の言葉を聞いて動き出す。
やはり慣れた者が一番だわ。
「おはようございます、アンネローゼ様。お体の調子はどうで御座いますか?」
「あら、ばあや。気怠いけど、それだけね。ある程度毎日鍛錬しておくと良いと、エリーゼ様から聞いておいて良かったわ。」
ばあやがコロコロと笑っている。
私付きの侍女が一礼して紅茶を持って来たけど……悪くはは無いけれど、私好みでは無いわね。
「これ、朝はもう少し軽い香りの物を用意なさって下さいな。」
「はい、申し訳ありません。では淹れ直して参り「それで結構よ。明日からは気を付けて頂戴。」はい、畏まりました。気遣いが足りず申し訳ありませんでした。お許し下さいませ。」
あら、随分と素直ね。紅茶を受け取り、一口飲む……香りも強いし味も濃い、誰かの好みで淹れてしまったのかしら?確かに目を覚ますには良いのかも知れないけど……私が持って来た物とは違うわね。
「今朝淹れたのは王宮の物ですね。朝は持ち込んだ物からお淹れなさい。良いですね。」
「はい。畏まりました。では失礼致します。」
一礼して侍女は下がって行った。チラリと見た侍女の顔は不満顔でも無い……鍛えれば長い間使っても良いでしょう。
「見所はありますね。いかがいたしますか?」
「様子を見ながら仕込んで頂戴。あまり人が変わるのは好きではないわ。」
「十分、承知しております。おや、ニーナとナナが参りましたよ。湯あみに参りましょうか、ではこちらは私めが……」
まだ飲みきってないけれどカップをばあやに渡し、ベッドから抜け出し乳姉妹がいる扉へと向かう。
浴室でゆっくり湯あみを楽しむ、あぁ……朝の湯あみは本当に気分が良いわ。
朝は自分の好きな時に起きて、湯あみして……ふふ……悪くないわ。
温まった体に香油を使って体を揉みほぐされる。
柔らかく織られた布を何重にも重ねて作られた室内着を羽織、着付けする為の場所へ移る。
「コルセットは緩めにして頂戴。何だか、締め付ける気にはならないわ。」
「はい!」
軽く締められただけのコルセットにドロワーズ、シンプルな造りのドレスを着せて貰い揃いの靴を履かせて貰い移動し髪を結い上げて貰う。
小ぶりで可愛らしい造りのお飾りを付けて貰う。
「では、朝食を頂こうかしら。」
「あちらにご用意しております。」
居間のテーブルに案内され、朝食を見て王宮が困ってる事を知る。
「これでは我が家の朝食と変わらないわね。シュバルツバルト家が離れたのは痛手だったでしょうね。」
あら?何だかあちらが騒がしいわね。何だと言うのかしら?
「騒がしいですね。見て参りましょう。」
「ばあや、悪いわね。」
扉の向こうは階段があるわね……まさかね…………あら?ばあやが慌てて帰って来たわ。
「アンネローゼ様、正妃様がおいでに……」
「あら、わざわざいらっしゃったの?お呼びして頂戴。」
「よろしいので?」
「本来なら私が向かうのだけど、あちらが来て下さるなら手間が省けるわ。」
「畏まりました。」
ふぅ、結構食べたわ。コクリと改めて淹れられた紅茶を飲み、一息つく。
バタバタと歩く音がする、何とも無作法ね。
「ちょっと!何でこんなキレイな食器使ってるのよ!」
全く……
「おはようございます、正妃様。こちらの食器は私のお気に入りですの。王子宮に行っても使いたいと申したら、入宮前に一揃いご用意して下さったのよ。…………それにしても、正妃様は何でそのような恰好なのです?」
何故正妃様は春の装いでいるのかしら?
侍女達は何も言わないのかしら?月の装いが最も正しいけど、最悪冬の装いで居るのが普通だわ。
「え……?食器も持って来るの……?って、私の恰好の何がいけないのよ!」
「え?正妃様……?黄色のドレスは春の装いですわ。今は冬の装いでしょう。月の装いでいけば白と茶、濃い緑に深い青に黒しか使ってならない筈。何故、王室典範を無視なさるのですか?」
「王室典範?何それ。」
あらあら、キョトンとなさって……って、どうして王室典範を知らないのよ!
「王室典範をご存知無いと。」
「知らない……わ。」
本当に知らないようね、ドゥルテ男爵は何を考えていたのかしら?いえ、あの実に下らなさそうな男は己の欲だけで碌に考えずに輿入れさせたのかも知れない。
「正妃様、少し正妃様のお部屋を見せて頂いてもよろしいかしら。」
「えっ!それは……その……困る…………」
「何故ですか、恥ずかしがる理由なぞありませんでしょう。」
「だって…………私の部屋、こんなにキレイじゃない……」
男爵家なら知れてるわ、比べられても困るわね。
「関係ありません。私達は殿下を支える仲間です。王室典範を知らないでは、話になりません。では、正妃様のお部屋に参りましょう。」
私は立ち上がり、正妃様の腕を掴んでグイグイと引くように歩く。ばあやをチラリと見ると、軽く頷き私の後を付いてくる。
困り顔の侍女長を見て「正妃様のお部屋に行きます。」と伝えると先に歩きだす。階段を上がり、女騎士に声を掛け一つの扉へと案内される。
「あのっ!本当に何にもなくてっ!」
「まぁ、ご謙遜なさらなくて良いのですよ。」
何を言ってるのかしら?輿入れに道具一つ入れないなんて、貴族家にあるまじき事あるわけ…………扉を開けられ見た部屋は、到底輿入れしたとは言い難い部屋だった。
思わず掴んでいた腕を離し、部屋の中を進む。
自分の頬が強張ってるのが分かる。思わずこぶしを握る。ギリ……と歯が鳴る。
怯えたように私を見る正妃様付きの侍女達……
「これは…………この部屋は一体何だと言うのです!」
年嵩の侍女が一人前に出て頭を下げた。
「正妃様のお部屋は最初からこの様でした。」
「何ですって!…………正妃様は王室典範を知らないと仰ったわ。輿入れされるのであれば、王室典範は必ず要るものです。」
「王室典範も最初からありませんでした。」
「ばかな!それでは、正妃様は何一つ分からずお過ごしになると言うことよ!父君であるドゥルテ男爵は何を考えてるの!」
「アンネローゼ様、私の方から手配致します。」
「ばあや、頼んだわ。これは由々しき事。こんな事があってはならぬ事よ。…………この中にドゥルテ男爵家とやりとり出来る侍女は?」
「私達は全て王宮勤めの者です。それ故、父君にあたるドゥルテ男爵様とは連絡が取れないままでおりました。」
ふぅ……とため息がこぼれる。
「それは分かっているわ。王宮勤めであれば、親族を伝っても難しいもの。連絡を取れる侍女も付けず、まともに輿入れの準備もなさって無い。正妃様の装いがおかしいと思って来たけれど、こんなにも無い無い尽くしだとは……」
大声で泣く声が後ろから聞こえる。振り返れば正妃となった彼女が肩を震わせ子供のように泣きじゃくっていた。
「何で!何で誰も!」
つまらない事を叫ぶ。
「ご友人を作らなかったのは正妃様です。せめてエリーゼ様とまともにお話していれば、この様な事は無かったでしょうに。」
「何でよ!何でここで悪役令嬢のエリーゼの名前が出るのよ!」
この女!カツカツと近付き碌に結わえた訳でもない髪を引っ掴んで睨み付ける。
「エリーゼ様の事を悪し様に言うなど、許されなくてよ。」
「ヒッ……」
言葉を失い、ヘナヘナと力無くへたり込む正妃の髪から手を離し無言で見下ろした。
応援ありがとうございます!
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