婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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午後の一時(フェリシア)

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私は自室で侍女達と共に紅茶を飲みながら、松露を摘まみながら思い出話に花を咲かせていた。
エリーゼは本当に手の掛からない娘だった。言葉を喋れるようになってから、粗相という事は殆どなかった。それだけじゃなかった、どういう訳かエリーゼはとにかく愛想の良い娘だった。ハインリッヒ様の執務室に連れて行った時。

「おとちゃまちごちょ?あんばっちぇ!」

ニコニコと笑顔で手を振って言ったのだ。その瞬間に崩れたハインリッヒ様のお顔ったら!娘は特別と良く言ったものだわ……と思ったわ。
ハインリッヒ様だけじゃない。キャスバルは更に溺愛振りが激しい。キャスバルは生まれて間もない頃からエリーゼを溺愛してたけど、喋りだしてからは更に酷くなった。なんせ、エリーゼのあの舌っ足らずで可愛らしい声でしかも笑顔で言うのよ。

「ちゃすにぃちゃま。」

って。それだけでキャスバルは上機嫌で近寄り抱き上げ甘ったるい声で「どうしたんだい、僕のお姫様。」って随分とおかしな事を言っていたわ。またエリーゼもそんなキャスバルに対して。

「ちゃすにいちゃま、らいしゅき!」

と言って抱きついてたわね。キャスバルはそんなエリーゼに尊敬される良き兄となるためにありとあらゆる努力をしてたわ。お陰で立派な男に育ったとは思うけど。
トールもトールで、エリーゼを可愛がる一人だけど大きくなる内に少しキャスバルとは違う感じになったわ。とにかくエリーゼが敷地内のあちこちに行く時はトールと一緒の事が多かったわね。泥だらけになるのも二人一緒で……

「ねぇ、エリーゼって小さい頃から相手によって態度変えてたわよね?」

エミリはちょっと考え込んでクスリと笑った。

「そうですね。お小さい頃からご自分の事を理解してらっしゃったんでしょう。」

自分の事を理解か……なる程。そう言えばあの子は私の事を良くジッと見ていたけど。

「私の事は良く見ていたわよね、あれはどういう事だったのかしら?」

クスクスと笑うエミリ。

「エリーゼ様はフェリシア様の事をお手本にしてたんですよ。私は時折お守りしてましたからね、良く憶えてますよ。」

「まぁ!そうなの!」

「はい。フェリシア様の真似をして「ちぇみり、おちゃをいれちぇちょうあい。」とか仰って。お小さいのに本当に良く真似てましたよ。」

私は思わずぷぅと頬を膨らませる。

「ズルイわ!私も見たかったわ!」

「私の大切な思い出です。本当に可愛らしかった。エリーゼ様はお小さい頃から可愛いお姫様でございます。」

「ええ、そうね。あの子は本当にお姫様と呼ぶに相応しい娘だと思うわ。」

私よりも遙かに里に相応しいお姫様(おひいさま)。大婆様も里長様も可愛がるであろう私の娘。あの子の為ならば私は鬼にも夜叉にもなれる。

私達は静に微笑む。この部屋にはシルヴァニアの者しか居ないのだから。
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