婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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悪い報せと良い報せ(マクスウェル)

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この邸から見える大海原と島々。深い海の青と青い空と白い雲。領主の座を退いてこの地へと来てかなり経つ。領都から離れ、王都は遥か遠く噂すら聞かぬ土地に可愛い孫娘エリーゼが第三王子との婚姻式の話は聞かぬまま今日まで来た。この見晴らしの良い部屋は客を迎えるに相応しいと応接間にした。儂の目の前に一人の客が来ておる。

「お久しゅうございます。」

ハインリッヒの下に付いていた寄子貴族の小僧が訪ねて来た。

「ああ、良く来た。エリーゼの婚姻式は滞りなく済んだのか?」

珍妙な顔になった小僧は直ぐさま青い顔になった。儂の前でどう言う了見だ?ギロリと睨んでやばガタガタ震え出す始末。これで元領主隊一番隊だとは笑わせる。

「その……エリーゼ様の事ですが……」

やっと重い口を開くかと思えば歯切れの悪い。

「はよ、言わんか!」

ちと大声で即すとピッ!と背筋を伸ばした。

「だっ……第三王子との婚姻式は行われませんでしたっ!」

「なにぃっ!あの小童めが!どういう事だ!」

「はっ!説明!説明いたしますっ!」

長々と説明されたのは小童がエリーゼと婚約破棄した事。エリーゼがその婚約破棄をあっさり受け入れ本来であれば自分の婚姻式の翌日、王宮に出向き祝いを述べに出向いた事。を聞かされた。

「なんたる……王家からの話だった筈だ……それを……我等シュバルツバルトをこのような……」

座っていた一人掛けのソファの肘枠をうっかり握り締めメキメキと音を立てておったが、何故抗う事もせずあっさりと受け入れたのか!このような侮辱を受け入れるなぞ……

「小童めが、エリーゼと婚約破棄した理由が訳の分からぬ男爵家の娘と婚姻するためだと……」

許せるものか!思い上がった王家の馬鹿者共が!心優しいエリーゼはどれ程傷付いたか!貴族令嬢が婚約破棄など、二度とまともな貴族家に嫁入り出来ぬではないか……

「しかも祝いを述べになど……ハインリッヒもフェリシア嬢も何故許したのか……」

合点のいかぬ点が多い。エリーゼが受け入れた事も、ハインリッヒも受け入れた事も……最大の謎はあのフェリシア嬢すらも受け入れた事だ。あの娘御が受け入れるなぞ考えつかん。あれはそんな生易しい娘では無い。見た目と大違いで、流石帝国宰相の娘だけあり度胸と知識教養はそこらの男なぞ蹴散らすのも容易い程だ。あのフェリシア嬢すらも特に何かしでかした訳もなく……となるとエリーゼ自身も受け入れざるをえない何かがあったのか……

「ですが閣下。悪い事ばかりでは無かったのです。」

む?悪い事ばかりではない?ほう?何があったのだと小僧は言い出すのか。
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