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しょんべん溜まりのエリー
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どこに体重を置いてきたのか、巨体が重力を無視して跳躍する。
苦無によく似た暗器で戦うクドウは、必死になってゾンビの敵意を我が身に集めようとしていた。
太い脚から繰り出される蹴りで、ゾンビを吹き飛ばして墓石に叩きつけ、ゾンビの顔面にパンチを当てて殴り、振り切った腕を戻して、手に握る暗器を敵のこめかみに突き刺した。
倒れたゾンビの腐った脚を掴むと、ジャイアントスイングのようにぶんぶんと回して敵を跳ね飛ばす。とにかく派手に目立つようにと。
「おではここだ! ここだど!」
【物理防壁】の中で泣きそうな顔をしているエリーから、少しでも敵を引き離そうと叫んだ。
(お嬢様は絶対守らねぇと!)
「アァ・・・」
「オオオ」
ゾンビから発せられる声は低く静かだが、大勢の死に際の恨み言を一斉に聞いたような恐怖が生者に沸き起こる。
小さな村と言っても百人は住んでいただろうか? その半数が一気に自分たちに襲い掛かってきたのだ。
クドウもエリーも村の物を盗んだ覚えはない。
夜中までの捜索に疲れて、墓地の東屋で寝袋を出して、寝る準備をしていただけだ。
村人の家で寝て、うっかりと何かを手に取ってしまわないようにと思って野宿をしたのに。
「こい! ゾンビども! おでに噛みつけ! お返しに拳をくれてやるど!」
物陰からクドウの戦いを見ていたキリマルは、彼のちょんまげの広がった毛先がプルプルと震えているのを見てニヤニヤしていた。
(あいつ、怯えてやがる。多分戦闘向きの性格じゃねぇんだな。それにしてもあの巨体で忍者みたいな動きをするとは思わなかったな。中々良い動きじゃねぇか)
視線を墓地の真ん中にある東屋に向けると、結界のようなものを張ってゾンビの攻撃から身を守るエリーが見えた。
(防戦一方で魔法を詠唱する時間もねぇってか。あの豪華な剣で刺したところで、ゾンビ達には効いてねぇな。魔法の剣じゃねぇのかよ)
蹴り飛ばしても殴り倒しても、喉を切り裂こうが心臓を突こうが、ゾンビ達は幾度も起き上がってクドウを襲う。エリーのところにいたゾンビも、大男をターゲットにし始めた。それでも数体がエリーの【物理防壁】を攻撃している。
「は、早くこの状況を何とかしなさい、クドウ! 詠唱時間すら稼げないの?」
焦っているのかエリーの声は時々裏返っている。
「わがってます! わがってますが・・・、おだはそろそろ体力が・・・」
(あいつら大して準備もせずにやってきたのか? 舐めプレイするにも程があるだろう)
「いでぇ!」
遂にゾンビの噛みつき攻撃がクドウの動きを止めた。
顎の筋肉が腐っているにもかかわらず咬合力は、生前以上ではないかと思えるほどで、クドウの腕の肉を服の上から引きちぎった。
仲間が攻撃を受けたにもかかわらず、エリーは自分の事で精一杯なのか声すらかけない。
「もっと叫んで私からゾンビを引き離しなさいよ! 防御している間は詠唱できないでしょうが! 馬鹿クドウ!」
しかし返事はない。
腕を噛まれたのを機にクドウは、次々とゾンビ達に噛まれて、最後は喉を食い破られて絶命していたからだ。
「あ~あ。クドウも案外、呆気なかったな。まぁ誰しも死ぬときはこんなもんか。次はエリーか?」
ゾンビは次にエリーを狙ってゆっくりと東屋に歩み寄る。
墓地に一つしかない粗末な魔法街灯が照らすクドウの巨体は噛み跡が無数にあり、空いた赤い穴から血を垂れ流していた。
「こいつは死なすのが惜しいな。忍者みたいな技や動きは面白かったしよ。生き返らせて忍者の技でも教えてもらうか」
どんな時でも、どんな状態だろうが、どんな相手だろうが、決して殺意を捨て去る事の出来ないキリマルは、魔刀天邪鬼改めアマリで、クドウの心臓を突き刺した。
次に自分を攻撃してこないゾンビの間を縫って、キリマルは東屋に近づく。
ゾンビ達がエリーの白い肌を噛み千切ろうと、魔法の壁を必死に引っ掻いている。爪が剥がれて指の骨がむき出しになっていてもお構いなしだ。
「よう、嬢ちゃん。何してんだ?」
「貴方・・・! か弱い女性がこんな目に遭ってるのよ! 早く助けなさいよ!」
俺はニヤニヤしながら東屋の柵に腰かけた。
「そんな義理も義務もねぇんだが? 俺ァ、お前のせいで碌な目に遭ってねぇんだわ。センズリ・・・いやグリ・ズリーもお前がけしかけたんだろ? 我が大主様はお前のせいでレイプされそうになったしよ。その辺の事をどう思っている?」
俺はのんびりとコートの内ポケットから小さな爪ヤスリを出して、爪を磨き始めた。こっちの世界は碌な爪切りがねぇから爪が尖っていけねぇ。
「し、知らないわよ! そんな事!」
「へぇ~・・・」
俺はエリーを見る事なく爪を研ぎ続けた。その間にもゾンビは魔法の壁を攻撃している。
「ところでその壁は、いつまで持つんだ?」
「うるさいわね! クドウ! どこにいるの! 早くゾンビを追い払いなさいよ!」
「あの大男なら死んだぞ。ほら」
俺は魔法街灯が円錐に照らす、クドウの死体を指さした。
よしよし、まだまだ生き返る兆候はねぇな。それに生き返ったところで皆が皆、すぐに目覚めるわけでもねぇ。
「あの役立たず! 誰のお陰で学園に通えたと思ってるの! 貧乏人の下男の倅のくせに! 勝手に死んじゃうなんて!」
「ひでぇ言い草だなぁ? 最後までお嬢様を助けようとゾンビの群れを引き付けていたのに。お前がモタモタしてっから死んだんだぞ。ええ? さっさと魔法でゾンビを焼き払っていれば、クドウも死なずに済んだのになぁ?」
「うるさいわね! だったら貴方が詠唱時間を稼ぎなさいよ! 今すぐゾンビを焼き払って見せるから!」
「だからな? 俺にはそんな義理はねぇんだわ。ほら、魔法の壁にひびが入っているぞ?」
「ひぃぃ!」
あぁ、たまんねぇ。勃起しそう。
人が死を前にして恐怖で顔を引きつらせる様がたまんねぇんだわ。脂汗、震え、緊張からくる筋肉の硬直、精神的ストレスからくる吐き気。
有りがちな表現だけどよぉ、線香花火が消える少し前の一瞬の輝きは、俺の心を躍らせるんだわ。
「お願い! 助けて! 何でも言う事を聞きますから! お願い!」
ついに心が折れたか。ヒャハハ。無様だねぇ。青い顔しちゃって。
「お願いしますだろ?」
「お願いします!」
「でもなぁ・・・。後で裏切られたりしないかなぁ? お前は陰でコソコソやるのが好きだしさぁ?」
「裏切りませんから! そもそも私がやったのはリンネが売女だって、噂を広めただけだし!」
「ああ? まだそんな事言うのか? じゃあグリの件はどうなんだ?」
「ほんとに知らない! 知らないんです!」
―――ジョロロロ!
「うわぁ! 漏らしやがったな! ションベンが俺の足元に流れてきたぞ!」
「ごめんなさいぃ・・・。ごめんなさぃ」
エリーは色んな場所から水分を出している。涙と鼻水とションベン。
なんかこれをお題に小説でも書けねぇかな? なろうにでも投稿したら案外・・・、ウケるわけもねぇか。ヒャハハ!
「しゃあねぇな。じゃあよ。お前は生き延びたら、俺のメス豚奴隷になるんだぞ? いいな?」
「なりますから! なりますから早くぅ・・・、助けてぇ・・・!」
もう魔法の壁はボロボロだ。半透明の殻のあちこちに穴が開いている。
「違うだろ、返事はブヒブヒだ。ほら言え、メス豚」
「ぶ・・・ぶひぶひ・・・。ブヒィィィーーー!」
魔法の壁が崩れて消えた。と同時に恐怖でエリーは嘔吐する。汚いねぇなぁ・・・、ほんと。
俺はすっとアマリを一振りする。
「無残一閃」
言いたくなかった必殺技名を、アマリが言う。
「アニメでもそうだけど、なんで技名を一々言わないと駄目なんだ?」
「技名を言わないと技は発動しない。そういう仕組みになっている」
「お前が言っても発動するのかよ! ってかよく俺の出したい技がわかったな」
「お互い愛し合っているから、解って当然」
なんだこいつ・・・。メンヘラ女きめぇ・・・。
すっと広範囲に青い光が走ったかと思うと、ゾンビたちの首が跳ね飛んだ。ついでにエリーの首も。フヒヒ!
「便利だねぇ。必殺技。なぜか自然と使えちゃうんだよなぁ。ほんとここは楽しい世界だわ」
俺は転がるエリーの首を拾うと、ションベン溜まりの中で寝転ぶ胴体の近くに置いた。
苦無によく似た暗器で戦うクドウは、必死になってゾンビの敵意を我が身に集めようとしていた。
太い脚から繰り出される蹴りで、ゾンビを吹き飛ばして墓石に叩きつけ、ゾンビの顔面にパンチを当てて殴り、振り切った腕を戻して、手に握る暗器を敵のこめかみに突き刺した。
倒れたゾンビの腐った脚を掴むと、ジャイアントスイングのようにぶんぶんと回して敵を跳ね飛ばす。とにかく派手に目立つようにと。
「おではここだ! ここだど!」
【物理防壁】の中で泣きそうな顔をしているエリーから、少しでも敵を引き離そうと叫んだ。
(お嬢様は絶対守らねぇと!)
「アァ・・・」
「オオオ」
ゾンビから発せられる声は低く静かだが、大勢の死に際の恨み言を一斉に聞いたような恐怖が生者に沸き起こる。
小さな村と言っても百人は住んでいただろうか? その半数が一気に自分たちに襲い掛かってきたのだ。
クドウもエリーも村の物を盗んだ覚えはない。
夜中までの捜索に疲れて、墓地の東屋で寝袋を出して、寝る準備をしていただけだ。
村人の家で寝て、うっかりと何かを手に取ってしまわないようにと思って野宿をしたのに。
「こい! ゾンビども! おでに噛みつけ! お返しに拳をくれてやるど!」
物陰からクドウの戦いを見ていたキリマルは、彼のちょんまげの広がった毛先がプルプルと震えているのを見てニヤニヤしていた。
(あいつ、怯えてやがる。多分戦闘向きの性格じゃねぇんだな。それにしてもあの巨体で忍者みたいな動きをするとは思わなかったな。中々良い動きじゃねぇか)
視線を墓地の真ん中にある東屋に向けると、結界のようなものを張ってゾンビの攻撃から身を守るエリーが見えた。
(防戦一方で魔法を詠唱する時間もねぇってか。あの豪華な剣で刺したところで、ゾンビ達には効いてねぇな。魔法の剣じゃねぇのかよ)
蹴り飛ばしても殴り倒しても、喉を切り裂こうが心臓を突こうが、ゾンビ達は幾度も起き上がってクドウを襲う。エリーのところにいたゾンビも、大男をターゲットにし始めた。それでも数体がエリーの【物理防壁】を攻撃している。
「は、早くこの状況を何とかしなさい、クドウ! 詠唱時間すら稼げないの?」
焦っているのかエリーの声は時々裏返っている。
「わがってます! わがってますが・・・、おだはそろそろ体力が・・・」
(あいつら大して準備もせずにやってきたのか? 舐めプレイするにも程があるだろう)
「いでぇ!」
遂にゾンビの噛みつき攻撃がクドウの動きを止めた。
顎の筋肉が腐っているにもかかわらず咬合力は、生前以上ではないかと思えるほどで、クドウの腕の肉を服の上から引きちぎった。
仲間が攻撃を受けたにもかかわらず、エリーは自分の事で精一杯なのか声すらかけない。
「もっと叫んで私からゾンビを引き離しなさいよ! 防御している間は詠唱できないでしょうが! 馬鹿クドウ!」
しかし返事はない。
腕を噛まれたのを機にクドウは、次々とゾンビ達に噛まれて、最後は喉を食い破られて絶命していたからだ。
「あ~あ。クドウも案外、呆気なかったな。まぁ誰しも死ぬときはこんなもんか。次はエリーか?」
ゾンビは次にエリーを狙ってゆっくりと東屋に歩み寄る。
墓地に一つしかない粗末な魔法街灯が照らすクドウの巨体は噛み跡が無数にあり、空いた赤い穴から血を垂れ流していた。
「こいつは死なすのが惜しいな。忍者みたいな技や動きは面白かったしよ。生き返らせて忍者の技でも教えてもらうか」
どんな時でも、どんな状態だろうが、どんな相手だろうが、決して殺意を捨て去る事の出来ないキリマルは、魔刀天邪鬼改めアマリで、クドウの心臓を突き刺した。
次に自分を攻撃してこないゾンビの間を縫って、キリマルは東屋に近づく。
ゾンビ達がエリーの白い肌を噛み千切ろうと、魔法の壁を必死に引っ掻いている。爪が剥がれて指の骨がむき出しになっていてもお構いなしだ。
「よう、嬢ちゃん。何してんだ?」
「貴方・・・! か弱い女性がこんな目に遭ってるのよ! 早く助けなさいよ!」
俺はニヤニヤしながら東屋の柵に腰かけた。
「そんな義理も義務もねぇんだが? 俺ァ、お前のせいで碌な目に遭ってねぇんだわ。センズリ・・・いやグリ・ズリーもお前がけしかけたんだろ? 我が大主様はお前のせいでレイプされそうになったしよ。その辺の事をどう思っている?」
俺はのんびりとコートの内ポケットから小さな爪ヤスリを出して、爪を磨き始めた。こっちの世界は碌な爪切りがねぇから爪が尖っていけねぇ。
「し、知らないわよ! そんな事!」
「へぇ~・・・」
俺はエリーを見る事なく爪を研ぎ続けた。その間にもゾンビは魔法の壁を攻撃している。
「ところでその壁は、いつまで持つんだ?」
「うるさいわね! クドウ! どこにいるの! 早くゾンビを追い払いなさいよ!」
「あの大男なら死んだぞ。ほら」
俺は魔法街灯が円錐に照らす、クドウの死体を指さした。
よしよし、まだまだ生き返る兆候はねぇな。それに生き返ったところで皆が皆、すぐに目覚めるわけでもねぇ。
「あの役立たず! 誰のお陰で学園に通えたと思ってるの! 貧乏人の下男の倅のくせに! 勝手に死んじゃうなんて!」
「ひでぇ言い草だなぁ? 最後までお嬢様を助けようとゾンビの群れを引き付けていたのに。お前がモタモタしてっから死んだんだぞ。ええ? さっさと魔法でゾンビを焼き払っていれば、クドウも死なずに済んだのになぁ?」
「うるさいわね! だったら貴方が詠唱時間を稼ぎなさいよ! 今すぐゾンビを焼き払って見せるから!」
「だからな? 俺にはそんな義理はねぇんだわ。ほら、魔法の壁にひびが入っているぞ?」
「ひぃぃ!」
あぁ、たまんねぇ。勃起しそう。
人が死を前にして恐怖で顔を引きつらせる様がたまんねぇんだわ。脂汗、震え、緊張からくる筋肉の硬直、精神的ストレスからくる吐き気。
有りがちな表現だけどよぉ、線香花火が消える少し前の一瞬の輝きは、俺の心を躍らせるんだわ。
「お願い! 助けて! 何でも言う事を聞きますから! お願い!」
ついに心が折れたか。ヒャハハ。無様だねぇ。青い顔しちゃって。
「お願いしますだろ?」
「お願いします!」
「でもなぁ・・・。後で裏切られたりしないかなぁ? お前は陰でコソコソやるのが好きだしさぁ?」
「裏切りませんから! そもそも私がやったのはリンネが売女だって、噂を広めただけだし!」
「ああ? まだそんな事言うのか? じゃあグリの件はどうなんだ?」
「ほんとに知らない! 知らないんです!」
―――ジョロロロ!
「うわぁ! 漏らしやがったな! ションベンが俺の足元に流れてきたぞ!」
「ごめんなさいぃ・・・。ごめんなさぃ」
エリーは色んな場所から水分を出している。涙と鼻水とションベン。
なんかこれをお題に小説でも書けねぇかな? なろうにでも投稿したら案外・・・、ウケるわけもねぇか。ヒャハハ!
「しゃあねぇな。じゃあよ。お前は生き延びたら、俺のメス豚奴隷になるんだぞ? いいな?」
「なりますから! なりますから早くぅ・・・、助けてぇ・・・!」
もう魔法の壁はボロボロだ。半透明の殻のあちこちに穴が開いている。
「違うだろ、返事はブヒブヒだ。ほら言え、メス豚」
「ぶ・・・ぶひぶひ・・・。ブヒィィィーーー!」
魔法の壁が崩れて消えた。と同時に恐怖でエリーは嘔吐する。汚いねぇなぁ・・・、ほんと。
俺はすっとアマリを一振りする。
「無残一閃」
言いたくなかった必殺技名を、アマリが言う。
「アニメでもそうだけど、なんで技名を一々言わないと駄目なんだ?」
「技名を言わないと技は発動しない。そういう仕組みになっている」
「お前が言っても発動するのかよ! ってかよく俺の出したい技がわかったな」
「お互い愛し合っているから、解って当然」
なんだこいつ・・・。メンヘラ女きめぇ・・・。
すっと広範囲に青い光が走ったかと思うと、ゾンビたちの首が跳ね飛んだ。ついでにエリーの首も。フヒヒ!
「便利だねぇ。必殺技。なぜか自然と使えちゃうんだよなぁ。ほんとここは楽しい世界だわ」
俺は転がるエリーの首を拾うと、ションベン溜まりの中で寝転ぶ胴体の近くに置いた。
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