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神速居合い斬り
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光の糸はゾンビが歩いてきた道筋を指しており、ここ数日間、ウロウロしまくった元村人の軌跡が、絡み合う毛糸のようにごちゃごちゃしていた。
「チッ! こりゃ埒が明かねぇな・・・。しゃあねぇ。ゾンビの残りを一匹だけにするか」
俺は刀を抜くと、大根でも切るかのようにゾンビどもの首を次々に刎ねた。
「反応が薄いからつまんねぇな」
―――神速居合斬り!
退屈な頭に浮かんだ言葉はそれだった。なぜその技名が浮かんだのかは知らないが、今、俺がしているのがそれだ。目にも見えない速さで刀を抜いてゾンビを斬り、また刀を鞘に戻す。遠くにいる奴にも真空の刃が飛んでいき首を綺麗に刎ねる。
「傍から見れば、ゾンビの首が勝手に落ちてるように見えてんだろうなぁ」
隠遁というスキルも発動させているので、村人には俺が見えない。いくらゾンビ化したとはいえ、元村人を容赦なく斬る姿を見せるのは、反感を買って不味いだろうからな。
本当はそんな事を気にせず、村人全員を殺したいところだがよ・・・。
「あんまり抜き差ししないで。イヤラシイ」
何度も鞘から出たり入ったりをさせられているアマリが文句を言う。
「うるせぇ。そういう技なんだから仕方ねぇだろ。なんならお前に抜き差ししてやろうか!」
「・・・イイケド。まだ心の準備ができていない」
「やらねぇよ! アホが!」
それにしても俺は一体何者なんだろうねぇ・・・。ビャクヤは人修羅とか言っていたが、使えるスキルやら技がなんか侍か忍者っぽいな。
最初は敵に触れて爆発を起こしていただけだが、今は居合抜きや隠遁術から回避力を高める術やらを知っている。なぜそんな力を、いつ身に着けたのかと問われても答えられない。それは床を這いずり回っていた赤子が、ある日突然立ち上がり、それが当然だと思うようになるのと似ている。
そういやビャクヤは初期の俺を鑑定魔法で見た事があるとか言ってたな。後で詳しく教えてもらうか。今はアマリが魔法を自動的に拒絶するから鑑定魔法を受けるのは無理だが。
俺が相手の魔法を認識をしていなければ魔法は通る。つまりは不意打ちでビャクヤに【知識の欲】をかけてもらえばいいのだが、あれはかなり接近しないと鑑定はできないらしいのでほぼ無理だろう。
唯一まともに食らった魔法は、竜騎兵騎士団隊長が勝負の最中に恋人を救おうとして放った【火球】だ。今も背中の火傷が痛むぜ。
「よし、こんなもんでいいか」
まだ村のどこかをウロウロしているゾンビがいるかもしれねぇが、粗方一掃したと思う。ゾンビを一体だけにしたので、当然糸は一本だけになった、。
俺は唯一斬らなかった幼女ゾンビから伸びる糸を辿っていく。
「なんだぁ? 糸はさっきいた広間に続いているじゃねぇか。糸を一つにするまでゴチャゴチャしてて解らなかったがよ、広間にいた村人が犯人か? ったくよぉ。間抜けな事させてくれやがって」
犯人を細切れにするところを想像しながら、広間に向かうと何やら騒がしい。
「んんん! 待ちたまへッ! これは何かの間違いだ! 誤解でんすッ! アターーー!」
リフレクトマントでリンネを守るビャクヤの仮面に、村人が投げる石が当たった。
「うるせぇ! どう見てもお前の自作自演が失敗したんだ! この詐欺師仮面め!」
「そうだ! そうだ! お前はなんか最初から胡散臭かったんだよ!」
おほーっ! なんかおもろい事になってんね。光の糸はリフレクトマントの中にいるリンネに繋がっている。
「私は初めてこの村に来たのに! なんでーっ?!」
泣きそうな顔してんなぁ、リンネ。イイヨイイヨー。
俺はわざとチャキッ! と大きな音をさせて刀を抜く。
「いけないなぁ~? 大主様ぁ? 俺もまさかあんたが犯人とは思わなかったよ。おい! 皆! こいつをどうしたらいい?」
「殺せー!」
俺は片耳に手を添えて首を傾げる。
「んー? まだノリの悪い奴がいるな? 声が小さいぞ? この女をどうしたらいいー?」
「コ・ロ・セ!」
脳内に聖飢魔Ⅱのジャック・ザ・リッパーが流れる。
「そういうわけだ、リンネ。死んでもらうぜ? キヒヒヒ!」
俺は腰を屈めて、もう一度刀を鞘にしまった。
「神速居合斬り!」
空気を切り裂いて進み、リンネを狙う真空の刃はビャクヤによって当然のように弾かれる。さもありなん。俺は契約上、主であるビャクヤやリンネには攻撃が通じないようになっている。
「なにをしている、キリマルッ! 今はふざけている場合じゃないだろうッ! この状況を早くなんとかしたまえッ! イデー!」
また仮面に石が飛ぶ。仮面が守ってくれているのだから痛くはねぇだろうが。
おふざけはこの辺にして二人を助けてやるか。点数稼ぎだ。
「まぁ待てや! クソ村人ども!」
そう言いかけた時、目に見えない何かが、俺の大事な黒いコートを切り裂いた。
「なんだぁ?」
俺は何の前触れもなく唐突に切り裂かれたコートのあちこちを見る。
・・・すげぇ腹が立つんだがよ。
この世界に来た時は長シャツとズボンだけで寒かったから、放火用にいつも持っている百円ライターを魔法具店に売って金を作ったんだわ。
で、その金でコートを買った。そしたらよぉ、すぐに背中に【火球】を食らって台無しになった。んで、また百円ライター売って、コートを買ったんだわ。同じ黒いコートな。
百円ライターは銀貨一枚(一万円の価値)で売れるからいいけどよ、あと一個しかねぇんだぞ! 火起こし用に持っておきたいってのに・・・。
「糞がぁ! 俺のコートをズタボロにしやがって! 誰だ! 出て来い!」
まぁこんな芸当は常人には無理だがな。攻撃してきた奴は村人じゃねぇ。
俺は周囲に目を凝らすと、何もない場所から滲み出るようにしてクドウが現れた。黒装束に着替えている。いよいよ忍者みたいになってきたな?
「この場を収めるには、お前たちが死ぬしかないど」
お前の事を戦闘向きじゃねぇとか言ったが、撤回するわ。
その殺意に満ちた眼光。人を殺す気満々だな。いいぜぇ? 受けて立つ。
「まさかお前が黒幕か? いや・・・、違うな・・・。誰に頼まれた? エリーか?」
俺はクドウの冷たく光る目に動揺がないかを確かめた。・・・ブレは無し!
「ってー事は、お前はご主人様の差し金ってわけでもねぇな? 良い意味でも悪い意味でも、自分の感情に素直そうなエリーなら、ビャクヤが直ぐに心の底を見破っただろうしな。さぁ依頼主を言えよ。そしたら楽に殺してやる」
「・・・」
まぁそうだわな。暗殺者が依頼主の名を言うわけはないか・・・。
「ゾンビに殺されたお前ごときが! 果~たして俺様に勝てるかなぁ? (ヒャッハー! 手足を斬って達磨にしてやるぜ! 地獄の苦しみを味わうんだな!)」
俺は腰を屈めて神速居合斬りの構えをとった。
「チッ! こりゃ埒が明かねぇな・・・。しゃあねぇ。ゾンビの残りを一匹だけにするか」
俺は刀を抜くと、大根でも切るかのようにゾンビどもの首を次々に刎ねた。
「反応が薄いからつまんねぇな」
―――神速居合斬り!
退屈な頭に浮かんだ言葉はそれだった。なぜその技名が浮かんだのかは知らないが、今、俺がしているのがそれだ。目にも見えない速さで刀を抜いてゾンビを斬り、また刀を鞘に戻す。遠くにいる奴にも真空の刃が飛んでいき首を綺麗に刎ねる。
「傍から見れば、ゾンビの首が勝手に落ちてるように見えてんだろうなぁ」
隠遁というスキルも発動させているので、村人には俺が見えない。いくらゾンビ化したとはいえ、元村人を容赦なく斬る姿を見せるのは、反感を買って不味いだろうからな。
本当はそんな事を気にせず、村人全員を殺したいところだがよ・・・。
「あんまり抜き差ししないで。イヤラシイ」
何度も鞘から出たり入ったりをさせられているアマリが文句を言う。
「うるせぇ。そういう技なんだから仕方ねぇだろ。なんならお前に抜き差ししてやろうか!」
「・・・イイケド。まだ心の準備ができていない」
「やらねぇよ! アホが!」
それにしても俺は一体何者なんだろうねぇ・・・。ビャクヤは人修羅とか言っていたが、使えるスキルやら技がなんか侍か忍者っぽいな。
最初は敵に触れて爆発を起こしていただけだが、今は居合抜きや隠遁術から回避力を高める術やらを知っている。なぜそんな力を、いつ身に着けたのかと問われても答えられない。それは床を這いずり回っていた赤子が、ある日突然立ち上がり、それが当然だと思うようになるのと似ている。
そういやビャクヤは初期の俺を鑑定魔法で見た事があるとか言ってたな。後で詳しく教えてもらうか。今はアマリが魔法を自動的に拒絶するから鑑定魔法を受けるのは無理だが。
俺が相手の魔法を認識をしていなければ魔法は通る。つまりは不意打ちでビャクヤに【知識の欲】をかけてもらえばいいのだが、あれはかなり接近しないと鑑定はできないらしいのでほぼ無理だろう。
唯一まともに食らった魔法は、竜騎兵騎士団隊長が勝負の最中に恋人を救おうとして放った【火球】だ。今も背中の火傷が痛むぜ。
「よし、こんなもんでいいか」
まだ村のどこかをウロウロしているゾンビがいるかもしれねぇが、粗方一掃したと思う。ゾンビを一体だけにしたので、当然糸は一本だけになった、。
俺は唯一斬らなかった幼女ゾンビから伸びる糸を辿っていく。
「なんだぁ? 糸はさっきいた広間に続いているじゃねぇか。糸を一つにするまでゴチャゴチャしてて解らなかったがよ、広間にいた村人が犯人か? ったくよぉ。間抜けな事させてくれやがって」
犯人を細切れにするところを想像しながら、広間に向かうと何やら騒がしい。
「んんん! 待ちたまへッ! これは何かの間違いだ! 誤解でんすッ! アターーー!」
リフレクトマントでリンネを守るビャクヤの仮面に、村人が投げる石が当たった。
「うるせぇ! どう見てもお前の自作自演が失敗したんだ! この詐欺師仮面め!」
「そうだ! そうだ! お前はなんか最初から胡散臭かったんだよ!」
おほーっ! なんかおもろい事になってんね。光の糸はリフレクトマントの中にいるリンネに繋がっている。
「私は初めてこの村に来たのに! なんでーっ?!」
泣きそうな顔してんなぁ、リンネ。イイヨイイヨー。
俺はわざとチャキッ! と大きな音をさせて刀を抜く。
「いけないなぁ~? 大主様ぁ? 俺もまさかあんたが犯人とは思わなかったよ。おい! 皆! こいつをどうしたらいい?」
「殺せー!」
俺は片耳に手を添えて首を傾げる。
「んー? まだノリの悪い奴がいるな? 声が小さいぞ? この女をどうしたらいいー?」
「コ・ロ・セ!」
脳内に聖飢魔Ⅱのジャック・ザ・リッパーが流れる。
「そういうわけだ、リンネ。死んでもらうぜ? キヒヒヒ!」
俺は腰を屈めて、もう一度刀を鞘にしまった。
「神速居合斬り!」
空気を切り裂いて進み、リンネを狙う真空の刃はビャクヤによって当然のように弾かれる。さもありなん。俺は契約上、主であるビャクヤやリンネには攻撃が通じないようになっている。
「なにをしている、キリマルッ! 今はふざけている場合じゃないだろうッ! この状況を早くなんとかしたまえッ! イデー!」
また仮面に石が飛ぶ。仮面が守ってくれているのだから痛くはねぇだろうが。
おふざけはこの辺にして二人を助けてやるか。点数稼ぎだ。
「まぁ待てや! クソ村人ども!」
そう言いかけた時、目に見えない何かが、俺の大事な黒いコートを切り裂いた。
「なんだぁ?」
俺は何の前触れもなく唐突に切り裂かれたコートのあちこちを見る。
・・・すげぇ腹が立つんだがよ。
この世界に来た時は長シャツとズボンだけで寒かったから、放火用にいつも持っている百円ライターを魔法具店に売って金を作ったんだわ。
で、その金でコートを買った。そしたらよぉ、すぐに背中に【火球】を食らって台無しになった。んで、また百円ライター売って、コートを買ったんだわ。同じ黒いコートな。
百円ライターは銀貨一枚(一万円の価値)で売れるからいいけどよ、あと一個しかねぇんだぞ! 火起こし用に持っておきたいってのに・・・。
「糞がぁ! 俺のコートをズタボロにしやがって! 誰だ! 出て来い!」
まぁこんな芸当は常人には無理だがな。攻撃してきた奴は村人じゃねぇ。
俺は周囲に目を凝らすと、何もない場所から滲み出るようにしてクドウが現れた。黒装束に着替えている。いよいよ忍者みたいになってきたな?
「この場を収めるには、お前たちが死ぬしかないど」
お前の事を戦闘向きじゃねぇとか言ったが、撤回するわ。
その殺意に満ちた眼光。人を殺す気満々だな。いいぜぇ? 受けて立つ。
「まさかお前が黒幕か? いや・・・、違うな・・・。誰に頼まれた? エリーか?」
俺はクドウの冷たく光る目に動揺がないかを確かめた。・・・ブレは無し!
「ってー事は、お前はご主人様の差し金ってわけでもねぇな? 良い意味でも悪い意味でも、自分の感情に素直そうなエリーなら、ビャクヤが直ぐに心の底を見破っただろうしな。さぁ依頼主を言えよ。そしたら楽に殺してやる」
「・・・」
まぁそうだわな。暗殺者が依頼主の名を言うわけはないか・・・。
「ゾンビに殺されたお前ごときが! 果~たして俺様に勝てるかなぁ? (ヒャッハー! 手足を斬って達磨にしてやるぜ! 地獄の苦しみを味わうんだな!)」
俺は腰を屈めて神速居合斬りの構えをとった。
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