殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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コーヒーブレイク

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 結局リンネやビャクヤはルロロの話を聞いて、涙しながら依頼を受けてしまい、俺は仕方なく目的の場所までついてきた。

「ここに可哀想な依頼主の息子の魂が囚われているのね」

 草原の中にポツンと立つ、柱だけの焼けこげた小屋。

「早く彼の魂を開放してあげましょうぞ、我が主様ッ!」

 依頼主、錬金術師のリモネの幼い息子ラリムは町はずれにある作業場で、原因不明の爆発に巻き込まれて死んでしまった。

 恐らくラリムが薬品をでたらめに混ぜたのが、原因ではないかと言われている。最初のうちはリモネも原因が悪戯なら仕方がないと一人悲しんでいたが、そのうち夢枕に息子が立つようになったという。

 今回は息子の魂を成仏させるのが目的らしい。魔刀アマリで・・・。

(成仏なんて本当にできるのか? アマリ)

 俺は心の声でそう訊ねた。

(生き返るべく体がない場合はそうなる。キリマルは今、幽霊なんてどうでもいいし、永遠に苦しんどけアホが、と思っている。だから私はその逆をやる)

(あっそ。じゃあ可哀想な幽霊ちゃんを成仏させてあげるって思ってやるぜ。そうなったら幽霊はどうなる?)

(成仏せずに消滅する)

(キヒヒ。そっちの方が良いなぁ。そうすっか)

(無理。キリマルは自分を騙すのが下手だから結果は見えている)

(・・・糞が)

「会議は終わったかねッ! キリマルッ!」

 アシュラマンの阿修羅面冷徹みたいな表情でビャクヤが俺を見ている。まーた心を読みやがったな。なんだその軽蔑する眼差しは。あ~ビャクヤをぶっ殺してぇ。

「さてッ! ここで夜まで待ちますかッ!」

 ビャクヤが頓珍漢な事を言う。

「だったら夜になってから来ればいいだろうがよ。それにさっき、早く息子の魂の開放がどうのこうの言ってたじゃねぇか。矛盾してんだろ」

「馬鹿だなッ! キリマルはッ! 夜になったら道中で幽霊に出会うかもしれないだろッ!」

 すぐにでも息子の魂を開放しよう的な発言はスルーしやがった。

「これから幽霊と会うのにか? お前もしかして幽霊が怖いんじゃねぇの?」

「怖くないッ! といえば嘘になる。正直に言いますッ! 吾輩はッ! 幽霊がッ! 怖いのだッ!」

 ビャクヤはそう言ってリンネに抱き着いた。

「この震える体をッ! 鎮めてくださいッ! んんん我が主様ッ!」

「なに堂々と抱き着いてるのよ」

 リンネはビャクヤの顔を押して体から引き離した。

「ああ、ツンデレなる我が主様からのッ! 愛の抱擁はまだまだ遠いッ!」

「で、今15時だが夜まで何して時間を潰すんだ? 俺ぁ、退屈が一番嫌いなんだがよ」

「春とはいえ、じっとしているとまだまだ寒いから、取り敢えず焚火でもしようっか」

「ではお湯を沸かしてお茶にでもしましょうッ!」

 リンネが薪を集めてきて、【発火】の魔法で簡単に火をつけてしまう。

「便利だねぇ、魔法は。(俺の放火用ライターのガスを減らさずに済んだわ)」

 ビャクヤが石で組んだかまどの上に、ミルクパンを置いた。そしてマグカップを人数分、手品のように空中から取り出した。更に革袋と目の細かな茶こしを取り出す。

「その革袋に入っているお茶は、なんて名前なんだ?」

「これは吾輩の故郷でよく飲まれているコーシーというものだよッ! 本当はお爺様と飲む予定だったのだがね、買い物の帰り道で、吾輩はお爺様を置いたまま召喚ゲートに吸い込まれてしまったのだッ!」

「なんか、ごめんねビャクヤ・・・」

 ツンデレだが甘ちゃんのリンネは、申し訳なさそうな顔でビャクヤを見ている。

「謝りなさるな、お嬢さんッ! 吾輩はリンネ様に出会えて幸せなのですからッ!」

 ビャクヤはまたリンネに抱き着いたが、今度は怒られなかった。

「でも歩けないお爺様を道端に置いてきたんでしょ? 心配じゃないの?」

「あの人は道端に置かれたぐらいでどうにかなる人ではありません。きっと逆立ちして屋敷まで帰った事でしょう」

 軽くマグカップにお湯を入れて温めて、故郷を思い出したのかビャクヤは遠い目をした。仮面の表情を見た俺が勝手にそう思っただけだがよ。俺も望郷の念にかられたわけじゃねぇけどよ、虐殺の日々が懐かしいわ。

「そんな事よりも、今はコーシーを楽しみましょうかッ!」

 コーシーって珈琲の事か。そういやコーヒーミルもあるな。

「へぇ、ビャクヤの国にも珈琲があるのか」

「コーヒー? ノンノン! コーシー! 今は亡き現人神様の妻が一人、へし折りのヘカティニス様や、砦の戦士たちがこよなく愛したコーシーですぞッ! 変な名前で呼ばないでくれたまえッ!」

「まぁどう呼ぶかなんてどうでもいいし、お前の知り合いの名前を出されても俺には解らねえよ。ほら豆を挽いてやるからミルを貸せや」

「そうかい? 悪いねッ! キリマルッ!」

 手渡されたミルに豆を入れてハンドルを握って回すと、中の刃が豆を砕いていく。その時に出るゴリゴリという音が、骨に刃先が当たった時の音に似ているから、俺はコーヒーミルを回すのが好きだ。

(ヒヒヒ。この豆のようにビャクヤも砕け散れ)

 俺は小さなビャクヤが、ミルの中で肉片になるところを想像して心の中で笑う。

 しかしビャクヤの反応はない。いつもいつも【読心】の魔法を使っているわけじゃねぇんだな。糞つまらん。

 できた珈琲粉をマグカップに乗せた茶こしに入れて、ビャクヤが注ぎ口の付いたミルクパンからお湯を注ぐ。

 すると辺りに珈琲の香ばしい匂いが漂ってきた。

「わぁ! いい香り!」

 香りはいいけどよ、初めて飲むと苦みに面食らうんじゃねぇかなぁ? クキキッ。

「コーシー初心者である主様には、ミルクと砂糖をたっぷり入れておきますんぬッ!」

 ビャクヤはまた手品のように何もないところからミルク入れを出した。それも魔法か?便利だねぇ。

 お子様舌のリンネには、カフェオレにしてしまうのが一番だろうよ。

 マグカップを手渡されたリンネは、熱い珈琲をフーフー吹いている。ビャクヤも一緒になってフーフー吹いているが、息が仮面に遮られて意味がないので、リンネに顔を押しやられてしまった。

「赤ちゃんじゃないんだから、そういうのはやめてよね」

 怒りながらも一口飲むと、リンネの顔がパァと明るくなる。

「甘くてコクがあって・・・少し苦いけど美味しいよ!」

「そうでしょうともッ! 無限鞄の奥底で忘れ去られていた貴重なコーシーをッ! ご堪能あれッ!」

「この国に珈琲がないのが残念だな。実は俺も珈琲が好きなんだわ(これを飲むと人を殺す時に、気分が高まっていい感じになるからよ)」

「まだ二回ぐらいは飲める量があるのでッ! お祝い事の時にでも飲みましょうッ! 三年生になって初めて試験の合格祝いとッ! 魔法のロングソードが良い値段で売れる事を願っての乾杯ッ!」

 そういやこいつ、どうやって珈琲飲むんだ? 仮面を外すのか?

 俺が珈琲を啜りながらビャクヤを見ていると、ビャクヤは仮面をあっさりと外した。

 そして俺は仮面を外したビャクヤを見て驚き、危うくマグカップを落としそうになった。




 超絶美形とはこの事を言うのか・・・。変態紳士の仮面の下は、キラキ以上の美しい顔があった。

 魔人族の青い肌、目の上を縦に通る白いライン。そして完璧に整った顔。

 俺は容姿を他人と比べて嫉妬した事はねぇが、今回ばかりは心の奥底で、自分の顔を恥じている事に気付いて、良い気分ではなかった。

「そんなに良い顔してんなら、仮面なんてする必要ねぇだろうがよ、ビャクヤ」

「え?」

「なにが、え? だ。俺は顔の話をしてんだよ。あ、そうそう。ビャクヤってのは、お前のことな、アホ仮面」

「え?」

 ビャクヤの綺麗な顔が困惑する。

「なぜ吾輩の顔が見えるのかね? 吾輩の顔はモザイクで隠れているはずですがッ! そうでしょう? 主様ッ!」

「うん、いつも通りのモザイクだね」

「は? 腹立たしいほどに中性的で綺麗な顔してんじゃねぇか、ビャクヤはよ」

「え? キリマルはビャクヤの顔が見えるの? そんなにイケメンなの?」

「ああ、今まで生きてきた中で一番の美貌だな。リンネもビャクヤに今のうちに唾つけとけ」

「ハハハ、でもビャクヤとは子供作れないし・・・、何よりパンツ一枚の変態さんだもん」

 リンネに辛辣な事を言われているにもかかわらず、ビャクヤの綺麗な顔が喜びに変わる。

「吾輩の顔はッ! そんなに美しいのですかッ!」

「ん? ああ。おめぇは自分の顔を見た事がねぇのかよ」

「ありますがッ! それはッ! 幼き頃の記憶に残るもののみッ!」

「じゃあ子供のころから、ずっとその骨粉でできた仮面を付けているのか?」

「ええ、吾輩はッ! ツィガル帝国皇帝の孫ゆえッ! 命を狙われる事が多かったッ! なので身を守る為にこの仮面とマントをッ! 幼き頃から身に着けているのでんすッ!」

 嘘クセェな、こいつがどっかの皇帝の孫とかよ・・・。

「この仮面はッ! 魔力の大幅な増強と多種多様な魔法を教えてくれる強力なマジックアイテムゥ! 普通は魔法書などでッ! 時間をかけて覚えなければならない魔法をッ! 戦闘職の者が必殺技を閃くが如く習得するのデスッ!」

「チートアイテムかよ」

「しかしッ! 光あれば影もありッ!その代償として吾輩はッ! 表面的な魅力を失ってしまったッ! 顔にモザイクがかかるのもそのセイ・・・。セイセイ、フォォォーーー!」

 ちょくちょく地球のサブカルを挟むんじゃねぇぞ。しかも古いギャグだしよ。誰に教えてもらったんだ。お前の話に出てくる現人神か? 現人神も地球人なのか? アマリ曰く始祖の神も地球人だって話だし、有り得るな・・・。

 どのみち、お前は性格が変だから、表面的な魅力があってもマイナス分を補いないきれねぇだろ。

「でもなぜッ! キリマルには吾輩の素顔が見えるのかッ! ・・・あぁ、そうかッ!」

「なんだ?」

「悪魔固有のスキル、見通しの目だなッ! 確か十三分の一の確率でまやかしや偽りを見通すパッシヴスキルッ!」

「なんだその微妙な確率は・・・。そういや俺の能力がどんなもんか聞いてなかったな」

「聞いたところでどうするんぬッ! 君は既に何度か戦闘をしているので成長をしているッ! 初期の能力値やスキルを吾輩が言ったところでッ! 役に立たないとは思うがねッ!」

「構わねぇから言えよ」

 ビャクヤは珈琲が冷めないうちに一気に飲み干すと、マグカップをどこかに消した。

「種族は悪魔、人修羅。これは前にも言ったね。アライメントは悪。まぁ悪魔だからねッ! 本来の適正クラスは・・・、サムライとニンジャ! 吾輩はこのクラスを知っているッ! なぜならばッ! 神様に聞いたことがあるからっ!」

 確定だな。ビャクヤのいう神様は恐らく日本人だろう。違うなら日本かぶれの外国人か? どっちにしろ地球人だ。

「力は12。前衛にしては最低だねッ! まぁ君の場合、基本の攻撃の殆どがクリティカルヒットだから関係ないけれどもッ! 体力も12ッ! 打たれ弱いッ !器用さと素早さが脅威の24! 流石は悪魔ッ! 人類では到底到達不可能な数値! 後はッ! 忘れたッ! もう一つキリマル固有のスキルがあったけど見事に忘れタンゴッ!」

 そう言ってビャクヤは相手のいないタンゴを踊った。

 死ねよ、役立たずが。

(俺様固有のスキルは多分、爆発の手だろうな。触れた相手を爆死させる。しかし発動条件がわからねぇ。これまでの傾向からして、恐らく格下の相手に発動するんじゃねぇかな。知らんけど)

「にしても退屈だな・・・」

 俺はアマリの手入れをする事にした。つっても布で適当に刃の曇りを拭くだけだ。

「ねぇ、キリマルのいた世界ってどんなところ?」

 リンネが興味深そうに話しかけてくる。

 ってそんなに大雑把に聞かれてもねぇ・・・。どう説明したもんか・・・。

「そうだな。馬のいない馬車が走っていたり、羽のある筒が飛んでたり、遠くの人間同士が意思疎通できる小さな板を持っていたり、街には高い塔がどこまでも続いていたりとそんな感じだ」

 こっちの世界に合わせて説明したが通じるか? 通じてねぇな。リンネは何一つ想像できなかったって顔をしている。

「それ全部魔法の力? だったら凄く魔法が発展しているのね!」

「いや、魔法じゃねぇ。どこの世界にも存在する力を利用しているだけだ。お前らは魔法にばかり頼っているからその力に気が付いていねぇ」

「そうなんだ? だったら魔法とその力を合わせたら、私たち最強だわ!」

 まぁそうだな。その力に気が付ければな。

 こんな感じでどうでもいい話をしている間に、日は暮れて辺りは薄暗くなってきた。

 途端に焼け焦げた小屋の周辺に、人の気配がし始める。

 静かな中で何かが動いて、空気が揺れる気配。

 気配は・・・、一つ、二つ。いやもっとだ。こりゃ十中八九、幽霊のお出ましだな。リンネとビャクヤは幽霊の出現に気が付いていないようだ。

(爆発で死んだのは子供一人だけだろうに、何でこんなに大量の霊が集まってきているんだ?)

 俺は刀の柄に手を置いて立ち上がった。

「さぁ! これから夜のパーティが始まるぜぇ? 備えろよ、お前ら」

 ちょっと中二病みたいなセリフを吐いてしまい、俺は後悔した。
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