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幽霊
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焚火の光が届かない闇の中で、何かが夏場のアスファルトの上に出来る陽炎のように揺らめいていた。
「え? なに? 何も見えないけど!」
リンネが不安そうに動揺する。
「主殿! 我がマントの中へ!」
やっとビャクヤも気が付いたか。幽霊を見て怯えてはいえるが、闇の中の複数の影を追って視線を向けている。
「小さな子供の霊だけじゃなかったのかねッ!」
「さっさと姿を現せ、糞が!」
中々姿を現さない幽霊に業を煮やして俺はそう喚く。
俺の言葉に呼応するように、仄明るく光る小さな子供が玄関だった場所に現れた。子供は何も言わず、膝を抱えて座り、こちらを凝視しているように見える。
「なんか言えよ」
俺は刀で肩を叩いて相手の出方を待ったが何もしてこない。
「どうする? リンネ」
「できれば、成仏の同意を得たいかも。もしかしたらこの世にやり残した事があるかもしれないし」
かぁ~! 甘ちゃんだな。さっさと魔刀アマリで成仏させればいいだろうが。
「あのね、ラリム君・・・」
リンネが震えながらも、依頼主の息子ラリムに近づこうとしたその時。
―――おおおおおおおおお!!
子供の顔が歪んで口と目に黒い虚空が広がる。
途端に周辺を飛んでいたスピリットが襲い掛かってきた。人魂は十個ほどあるだろうか?
ビャクヤがリンネをマントに包んで魔法を唱える。
「骨の髄まで燃やし尽くせ! 【闇の炎】!」
燃える人魂に、その魔法は効果があるのか?
ないな。人魂は全く影響を受けていない。ビビッて判断をミスったな? ビャクヤめ。
「た、助けてッ!! キリマルッ!」
がくがくと震えながら助けを求めるビャクヤの仮面は、目も口も情けなく垂れ下がっていた。もう美形顔は見えなくなっている。あの顔で怯えてくれりゃあ、ちょっとはやる気が出たのによ。ったく情けね大魔法使い様だな。
よし、無残一閃を放つか? いや、あれは水平に薙ぎ払う技だから空中をバラバラに飛ぶ人魂には効果は薄い。一匹ずつ潰すか。
俺は刀を鞘にしまうとビャクヤに一番近いスピリッツに、神速居合斬りを放った。
「くらえ!」
「神速居合斬り!」
例の如くアマリが必殺技を叫ぶ。なんか楽しみにしてねぇか? アマリの声に少し興奮を感じるんだがよ・・・。
真空の刃が当たって人魂は霧散した。流石は魔法が付与された刀。霊体も斬れるんだな。
しかし他の人魂の勢いは止まらない。スピリットは次々にリンネを狙って体に入り込んでいく。
「幽霊相手にリフレクトマントは・・・! やはり効果がなかったッ! ああ! 我が主様が憑りつかれる!」
マントの中から出てきた無表情のリンネは、ビャクヤを体をドンと押して離れると、少年の幽霊の近くまで駆け寄った。
そしてこちらをじっと見ている。
「お前も隣の小僧同様、じっと見てないでなんか言えよ。漫画やアニメだと幽霊に憑りつかれた奴は、勝手にペラペラと自分の境遇を喋りだすだろうが。そうする事で進行が捗るんだが?」
しかし、この世界は現実。魔法があったり、魔物がいたり幽霊がいたりするが紛れもなく現実。漫画やアニメのように物事の全てが解りやすく進むなんて事はねぇ。
突然リンネの目と口が、これ以上ないぐらい開いた。
「ギャアアアアアアア!!」
良い声だ。いつ聞いても断末魔の叫び声は心地いいな。恐らく死に際の記憶が蘇ったのだろうよ。
「イタイ! イタイ! イタイ!」
髪を振り乱して叫ぶリンネを見て、ビャクヤは頭を押さえてフラフラしながら俺にもたれかかる。
「ああ、憑りつかれてしまった・・・。主様には対幽霊用のお札を貼っていたというのにッ!」
「どうせ、インチキネクロマンサーから買ったんだろ」
「ルロロさんがインチキならそうだろうねッ! しかし彼女はそんな適当な仕事をするリッチではないよッ! 子供の霊が相手だからと、あまり強力な札はくれなかったのだッ! タダで貰ったのだから文句は言えないッ!」
「で、どうする? 俺はリンネやお前は斬れねぇぞ? お前らが状態異常になっても死んでも、俺には何もできねぇってこった」
「だからこそのッ! 守り手の君がいるのにッ!」
「守り手? 俺はどう見ても攻撃専門だろうが」
「だが、我らを守らねばッ! 君も死ぬことになるんだぞッ!」
一心同体か・・・。こいつらは俺の弱点だな、と今更ながら思う。ちったぁ足手まといにならない程度に強くなれよ、メンドクセェ。
「助けて! 痛い! そんなの入らない! 痛い!」
リンネに入り込んだ霊の叫びだろうか? やたらと痛がっている。
「やめてよ! ラリム助けて! お願い! ぐえっ!」
喉が潰れるような声と共に、リンネは立ったまま動かなくなった。
「はわわわ! 主様!」
「ラリムが他の誰かに何かをしたのか? あのラリムの霊を斬れば全て解決するんじゃねぇのか? 斬っちまうか」
神速居合斬りの構えをとったところで、リンネが夢遊病患者のように歩き出した。
「あいつどこへ行くんだ?」
黒焦げた枠だけの玄関から家の中に入り、リンネは地下室のハッチを上げると階段を下りて行く。
「しゃあねぇ、後を追うぞビャクヤ」
「ま、待ってくれたまぃ! キリマルッ!」
震える脚を叩いてビャクヤは俺について来る。ゾンビは平気だけど幽霊はダメってのはどういう事だ? どっちもアンデッドだろうがよ。
いつの間にか、俺が斬ろうとしていたラリムと思しき子供の霊は、消えていた。スピリットもだ。
幽霊がいなくなったと解った途端、ビャクヤは背筋をすっと伸ばして先を歩き出した。
「何をアゴコッド・・・、いやチンタラしているッ! 先に行くよッ! キリマル!」
ぶっ殺すぞ、おめえ。どうせ地下室で幽霊に遭遇したら、またションベン漏らしそうになるんだろうがよ!
「え? なに? 何も見えないけど!」
リンネが不安そうに動揺する。
「主殿! 我がマントの中へ!」
やっとビャクヤも気が付いたか。幽霊を見て怯えてはいえるが、闇の中の複数の影を追って視線を向けている。
「小さな子供の霊だけじゃなかったのかねッ!」
「さっさと姿を現せ、糞が!」
中々姿を現さない幽霊に業を煮やして俺はそう喚く。
俺の言葉に呼応するように、仄明るく光る小さな子供が玄関だった場所に現れた。子供は何も言わず、膝を抱えて座り、こちらを凝視しているように見える。
「なんか言えよ」
俺は刀で肩を叩いて相手の出方を待ったが何もしてこない。
「どうする? リンネ」
「できれば、成仏の同意を得たいかも。もしかしたらこの世にやり残した事があるかもしれないし」
かぁ~! 甘ちゃんだな。さっさと魔刀アマリで成仏させればいいだろうが。
「あのね、ラリム君・・・」
リンネが震えながらも、依頼主の息子ラリムに近づこうとしたその時。
―――おおおおおおおおお!!
子供の顔が歪んで口と目に黒い虚空が広がる。
途端に周辺を飛んでいたスピリットが襲い掛かってきた。人魂は十個ほどあるだろうか?
ビャクヤがリンネをマントに包んで魔法を唱える。
「骨の髄まで燃やし尽くせ! 【闇の炎】!」
燃える人魂に、その魔法は効果があるのか?
ないな。人魂は全く影響を受けていない。ビビッて判断をミスったな? ビャクヤめ。
「た、助けてッ!! キリマルッ!」
がくがくと震えながら助けを求めるビャクヤの仮面は、目も口も情けなく垂れ下がっていた。もう美形顔は見えなくなっている。あの顔で怯えてくれりゃあ、ちょっとはやる気が出たのによ。ったく情けね大魔法使い様だな。
よし、無残一閃を放つか? いや、あれは水平に薙ぎ払う技だから空中をバラバラに飛ぶ人魂には効果は薄い。一匹ずつ潰すか。
俺は刀を鞘にしまうとビャクヤに一番近いスピリッツに、神速居合斬りを放った。
「くらえ!」
「神速居合斬り!」
例の如くアマリが必殺技を叫ぶ。なんか楽しみにしてねぇか? アマリの声に少し興奮を感じるんだがよ・・・。
真空の刃が当たって人魂は霧散した。流石は魔法が付与された刀。霊体も斬れるんだな。
しかし他の人魂の勢いは止まらない。スピリットは次々にリンネを狙って体に入り込んでいく。
「幽霊相手にリフレクトマントは・・・! やはり効果がなかったッ! ああ! 我が主様が憑りつかれる!」
マントの中から出てきた無表情のリンネは、ビャクヤを体をドンと押して離れると、少年の幽霊の近くまで駆け寄った。
そしてこちらをじっと見ている。
「お前も隣の小僧同様、じっと見てないでなんか言えよ。漫画やアニメだと幽霊に憑りつかれた奴は、勝手にペラペラと自分の境遇を喋りだすだろうが。そうする事で進行が捗るんだが?」
しかし、この世界は現実。魔法があったり、魔物がいたり幽霊がいたりするが紛れもなく現実。漫画やアニメのように物事の全てが解りやすく進むなんて事はねぇ。
突然リンネの目と口が、これ以上ないぐらい開いた。
「ギャアアアアアアア!!」
良い声だ。いつ聞いても断末魔の叫び声は心地いいな。恐らく死に際の記憶が蘇ったのだろうよ。
「イタイ! イタイ! イタイ!」
髪を振り乱して叫ぶリンネを見て、ビャクヤは頭を押さえてフラフラしながら俺にもたれかかる。
「ああ、憑りつかれてしまった・・・。主様には対幽霊用のお札を貼っていたというのにッ!」
「どうせ、インチキネクロマンサーから買ったんだろ」
「ルロロさんがインチキならそうだろうねッ! しかし彼女はそんな適当な仕事をするリッチではないよッ! 子供の霊が相手だからと、あまり強力な札はくれなかったのだッ! タダで貰ったのだから文句は言えないッ!」
「で、どうする? 俺はリンネやお前は斬れねぇぞ? お前らが状態異常になっても死んでも、俺には何もできねぇってこった」
「だからこそのッ! 守り手の君がいるのにッ!」
「守り手? 俺はどう見ても攻撃専門だろうが」
「だが、我らを守らねばッ! 君も死ぬことになるんだぞッ!」
一心同体か・・・。こいつらは俺の弱点だな、と今更ながら思う。ちったぁ足手まといにならない程度に強くなれよ、メンドクセェ。
「助けて! 痛い! そんなの入らない! 痛い!」
リンネに入り込んだ霊の叫びだろうか? やたらと痛がっている。
「やめてよ! ラリム助けて! お願い! ぐえっ!」
喉が潰れるような声と共に、リンネは立ったまま動かなくなった。
「はわわわ! 主様!」
「ラリムが他の誰かに何かをしたのか? あのラリムの霊を斬れば全て解決するんじゃねぇのか? 斬っちまうか」
神速居合斬りの構えをとったところで、リンネが夢遊病患者のように歩き出した。
「あいつどこへ行くんだ?」
黒焦げた枠だけの玄関から家の中に入り、リンネは地下室のハッチを上げると階段を下りて行く。
「しゃあねぇ、後を追うぞビャクヤ」
「ま、待ってくれたまぃ! キリマルッ!」
震える脚を叩いてビャクヤは俺について来る。ゾンビは平気だけど幽霊はダメってのはどういう事だ? どっちもアンデッドだろうがよ。
いつの間にか、俺が斬ろうとしていたラリムと思しき子供の霊は、消えていた。スピリットもだ。
幽霊がいなくなったと解った途端、ビャクヤは背筋をすっと伸ばして先を歩き出した。
「何をアゴコッド・・・、いやチンタラしているッ! 先に行くよッ! キリマル!」
ぶっ殺すぞ、おめえ。どうせ地下室で幽霊に遭遇したら、またションベン漏らしそうになるんだろうがよ!
応援ありがとうございます!
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