45 / 299
幽霊
しおりを挟む
焚火の光が届かない闇の中で、何かが夏場のアスファルトの上に出来る陽炎のように揺らめいていた。
「え? なに? 何も見えないけど!」
リンネが不安そうに動揺する。
「主殿! 我がマントの中へ!」
やっとビャクヤも気が付いたか。幽霊を見て怯えてはいえるが、闇の中の複数の影を追って視線を向けている。
「小さな子供の霊だけじゃなかったのかねッ!」
「さっさと姿を現せ、糞が!」
中々姿を現さない幽霊に業を煮やして俺はそう喚く。
俺の言葉に呼応するように、仄明るく光る小さな子供が玄関だった場所に現れた。子供は何も言わず、膝を抱えて座り、こちらを凝視しているように見える。
「なんか言えよ」
俺は刀で肩を叩いて相手の出方を待ったが何もしてこない。
「どうする? リンネ」
「できれば、成仏の同意を得たいかも。もしかしたらこの世にやり残した事があるかもしれないし」
かぁ~! 甘ちゃんだな。さっさと魔刀アマリで成仏させればいいだろうが。
「あのね、ラリム君・・・」
リンネが震えながらも、依頼主の息子ラリムに近づこうとしたその時。
―――おおおおおおおおお!!
子供の顔が歪んで口と目に黒い虚空が広がる。
途端に周辺を飛んでいたスピリットが襲い掛かってきた。人魂は十個ほどあるだろうか?
ビャクヤがリンネをマントに包んで魔法を唱える。
「骨の髄まで燃やし尽くせ! 【闇の炎】!」
燃える人魂に、その魔法は効果があるのか?
ないな。人魂は全く影響を受けていない。ビビッて判断をミスったな? ビャクヤめ。
「た、助けてッ!! キリマルッ!」
がくがくと震えながら助けを求めるビャクヤの仮面は、目も口も情けなく垂れ下がっていた。もう美形顔は見えなくなっている。あの顔で怯えてくれりゃあ、ちょっとはやる気が出たのによ。ったく情けね大魔法使い様だな。
よし、無残一閃を放つか? いや、あれは水平に薙ぎ払う技だから空中をバラバラに飛ぶ人魂には効果は薄い。一匹ずつ潰すか。
俺は刀を鞘にしまうとビャクヤに一番近いスピリッツに、神速居合斬りを放った。
「くらえ!」
「神速居合斬り!」
例の如くアマリが必殺技を叫ぶ。なんか楽しみにしてねぇか? アマリの声に少し興奮を感じるんだがよ・・・。
真空の刃が当たって人魂は霧散した。流石は魔法が付与された刀。霊体も斬れるんだな。
しかし他の人魂の勢いは止まらない。スピリットは次々にリンネを狙って体に入り込んでいく。
「幽霊相手にリフレクトマントは・・・! やはり効果がなかったッ! ああ! 我が主様が憑りつかれる!」
マントの中から出てきた無表情のリンネは、ビャクヤを体をドンと押して離れると、少年の幽霊の近くまで駆け寄った。
そしてこちらをじっと見ている。
「お前も隣の小僧同様、じっと見てないでなんか言えよ。漫画やアニメだと幽霊に憑りつかれた奴は、勝手にペラペラと自分の境遇を喋りだすだろうが。そうする事で進行が捗るんだが?」
しかし、この世界は現実。魔法があったり、魔物がいたり幽霊がいたりするが紛れもなく現実。漫画やアニメのように物事の全てが解りやすく進むなんて事はねぇ。
突然リンネの目と口が、これ以上ないぐらい開いた。
「ギャアアアアアアア!!」
良い声だ。いつ聞いても断末魔の叫び声は心地いいな。恐らく死に際の記憶が蘇ったのだろうよ。
「イタイ! イタイ! イタイ!」
髪を振り乱して叫ぶリンネを見て、ビャクヤは頭を押さえてフラフラしながら俺にもたれかかる。
「ああ、憑りつかれてしまった・・・。主様には対幽霊用のお札を貼っていたというのにッ!」
「どうせ、インチキネクロマンサーから買ったんだろ」
「ルロロさんがインチキならそうだろうねッ! しかし彼女はそんな適当な仕事をするリッチではないよッ! 子供の霊が相手だからと、あまり強力な札はくれなかったのだッ! タダで貰ったのだから文句は言えないッ!」
「で、どうする? 俺はリンネやお前は斬れねぇぞ? お前らが状態異常になっても死んでも、俺には何もできねぇってこった」
「だからこそのッ! 守り手の君がいるのにッ!」
「守り手? 俺はどう見ても攻撃専門だろうが」
「だが、我らを守らねばッ! 君も死ぬことになるんだぞッ!」
一心同体か・・・。こいつらは俺の弱点だな、と今更ながら思う。ちったぁ足手まといにならない程度に強くなれよ、メンドクセェ。
「助けて! 痛い! そんなの入らない! 痛い!」
リンネに入り込んだ霊の叫びだろうか? やたらと痛がっている。
「やめてよ! ラリム助けて! お願い! ぐえっ!」
喉が潰れるような声と共に、リンネは立ったまま動かなくなった。
「はわわわ! 主様!」
「ラリムが他の誰かに何かをしたのか? あのラリムの霊を斬れば全て解決するんじゃねぇのか? 斬っちまうか」
神速居合斬りの構えをとったところで、リンネが夢遊病患者のように歩き出した。
「あいつどこへ行くんだ?」
黒焦げた枠だけの玄関から家の中に入り、リンネは地下室のハッチを上げると階段を下りて行く。
「しゃあねぇ、後を追うぞビャクヤ」
「ま、待ってくれたまぃ! キリマルッ!」
震える脚を叩いてビャクヤは俺について来る。ゾンビは平気だけど幽霊はダメってのはどういう事だ? どっちもアンデッドだろうがよ。
いつの間にか、俺が斬ろうとしていたラリムと思しき子供の霊は、消えていた。スピリットもだ。
幽霊がいなくなったと解った途端、ビャクヤは背筋をすっと伸ばして先を歩き出した。
「何をアゴコッド・・・、いやチンタラしているッ! 先に行くよッ! キリマル!」
ぶっ殺すぞ、おめえ。どうせ地下室で幽霊に遭遇したら、またションベン漏らしそうになるんだろうがよ!
「え? なに? 何も見えないけど!」
リンネが不安そうに動揺する。
「主殿! 我がマントの中へ!」
やっとビャクヤも気が付いたか。幽霊を見て怯えてはいえるが、闇の中の複数の影を追って視線を向けている。
「小さな子供の霊だけじゃなかったのかねッ!」
「さっさと姿を現せ、糞が!」
中々姿を現さない幽霊に業を煮やして俺はそう喚く。
俺の言葉に呼応するように、仄明るく光る小さな子供が玄関だった場所に現れた。子供は何も言わず、膝を抱えて座り、こちらを凝視しているように見える。
「なんか言えよ」
俺は刀で肩を叩いて相手の出方を待ったが何もしてこない。
「どうする? リンネ」
「できれば、成仏の同意を得たいかも。もしかしたらこの世にやり残した事があるかもしれないし」
かぁ~! 甘ちゃんだな。さっさと魔刀アマリで成仏させればいいだろうが。
「あのね、ラリム君・・・」
リンネが震えながらも、依頼主の息子ラリムに近づこうとしたその時。
―――おおおおおおおおお!!
子供の顔が歪んで口と目に黒い虚空が広がる。
途端に周辺を飛んでいたスピリットが襲い掛かってきた。人魂は十個ほどあるだろうか?
ビャクヤがリンネをマントに包んで魔法を唱える。
「骨の髄まで燃やし尽くせ! 【闇の炎】!」
燃える人魂に、その魔法は効果があるのか?
ないな。人魂は全く影響を受けていない。ビビッて判断をミスったな? ビャクヤめ。
「た、助けてッ!! キリマルッ!」
がくがくと震えながら助けを求めるビャクヤの仮面は、目も口も情けなく垂れ下がっていた。もう美形顔は見えなくなっている。あの顔で怯えてくれりゃあ、ちょっとはやる気が出たのによ。ったく情けね大魔法使い様だな。
よし、無残一閃を放つか? いや、あれは水平に薙ぎ払う技だから空中をバラバラに飛ぶ人魂には効果は薄い。一匹ずつ潰すか。
俺は刀を鞘にしまうとビャクヤに一番近いスピリッツに、神速居合斬りを放った。
「くらえ!」
「神速居合斬り!」
例の如くアマリが必殺技を叫ぶ。なんか楽しみにしてねぇか? アマリの声に少し興奮を感じるんだがよ・・・。
真空の刃が当たって人魂は霧散した。流石は魔法が付与された刀。霊体も斬れるんだな。
しかし他の人魂の勢いは止まらない。スピリットは次々にリンネを狙って体に入り込んでいく。
「幽霊相手にリフレクトマントは・・・! やはり効果がなかったッ! ああ! 我が主様が憑りつかれる!」
マントの中から出てきた無表情のリンネは、ビャクヤを体をドンと押して離れると、少年の幽霊の近くまで駆け寄った。
そしてこちらをじっと見ている。
「お前も隣の小僧同様、じっと見てないでなんか言えよ。漫画やアニメだと幽霊に憑りつかれた奴は、勝手にペラペラと自分の境遇を喋りだすだろうが。そうする事で進行が捗るんだが?」
しかし、この世界は現実。魔法があったり、魔物がいたり幽霊がいたりするが紛れもなく現実。漫画やアニメのように物事の全てが解りやすく進むなんて事はねぇ。
突然リンネの目と口が、これ以上ないぐらい開いた。
「ギャアアアアアアア!!」
良い声だ。いつ聞いても断末魔の叫び声は心地いいな。恐らく死に際の記憶が蘇ったのだろうよ。
「イタイ! イタイ! イタイ!」
髪を振り乱して叫ぶリンネを見て、ビャクヤは頭を押さえてフラフラしながら俺にもたれかかる。
「ああ、憑りつかれてしまった・・・。主様には対幽霊用のお札を貼っていたというのにッ!」
「どうせ、インチキネクロマンサーから買ったんだろ」
「ルロロさんがインチキならそうだろうねッ! しかし彼女はそんな適当な仕事をするリッチではないよッ! 子供の霊が相手だからと、あまり強力な札はくれなかったのだッ! タダで貰ったのだから文句は言えないッ!」
「で、どうする? 俺はリンネやお前は斬れねぇぞ? お前らが状態異常になっても死んでも、俺には何もできねぇってこった」
「だからこそのッ! 守り手の君がいるのにッ!」
「守り手? 俺はどう見ても攻撃専門だろうが」
「だが、我らを守らねばッ! 君も死ぬことになるんだぞッ!」
一心同体か・・・。こいつらは俺の弱点だな、と今更ながら思う。ちったぁ足手まといにならない程度に強くなれよ、メンドクセェ。
「助けて! 痛い! そんなの入らない! 痛い!」
リンネに入り込んだ霊の叫びだろうか? やたらと痛がっている。
「やめてよ! ラリム助けて! お願い! ぐえっ!」
喉が潰れるような声と共に、リンネは立ったまま動かなくなった。
「はわわわ! 主様!」
「ラリムが他の誰かに何かをしたのか? あのラリムの霊を斬れば全て解決するんじゃねぇのか? 斬っちまうか」
神速居合斬りの構えをとったところで、リンネが夢遊病患者のように歩き出した。
「あいつどこへ行くんだ?」
黒焦げた枠だけの玄関から家の中に入り、リンネは地下室のハッチを上げると階段を下りて行く。
「しゃあねぇ、後を追うぞビャクヤ」
「ま、待ってくれたまぃ! キリマルッ!」
震える脚を叩いてビャクヤは俺について来る。ゾンビは平気だけど幽霊はダメってのはどういう事だ? どっちもアンデッドだろうがよ。
いつの間にか、俺が斬ろうとしていたラリムと思しき子供の霊は、消えていた。スピリットもだ。
幽霊がいなくなったと解った途端、ビャクヤは背筋をすっと伸ばして先を歩き出した。
「何をアゴコッド・・・、いやチンタラしているッ! 先に行くよッ! キリマル!」
ぶっ殺すぞ、おめえ。どうせ地下室で幽霊に遭遇したら、またションベン漏らしそうになるんだろうがよ!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる