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ヤイバ・フーリー
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「こちら、サンです! とんでもないことになりました! オーガ・・・。恐らくは霧の向こう側からきたオーガメイジです! 今はキリマルの妹を慰み者にしようとした冒険者が交戦していますが・・・。冒険者では全く歯が立ちません! これは緊急事態宣言レベルの魔物災害と言えましょう! あのオーガメイジは強すぎます!」
オーガが放った氷魔法で冒険者『脳筋のお姉』の二人が凍え死にしそうなったその時、悪魔キリマルが現れてオーガの詠唱を中断させた。
それを見てサン・マウンテンフートは涙する。
「あ、悪魔キリマルが現れました! 自分の妹を襲った二人を助けています! ああ、なんという事でしょうか! 司教様を疑って申し訳ありませんでした! 彼は・・・、彼は正しく聖なる悪魔です! 自分の妹を襲った犯罪者ですら救おうとしています! なんと慈悲深い悪魔なのでしょうか! 涙が止まりません!」
しかし、この激しい戦いの最中にあっても、キリマルの妹は夢中になって本を読んでいる。
「もしかしたら、あの子は耳が聞こえていない・・・? 大変! 何とかしてあの争いの場から避難させないと!」
しかし、自分はただの家政婦。恐怖で足が竦み、動かない。
「ああ、神様! 私は無力過ぎます! どうして司教様は私なんかを、この任務にお選びになったのか!」
「僕の詠唱を止めた?」
神の子と呼ばれるヤイバ・フーリーは、どんな妨害にも動じる事のない強靭さが自慢だった。これまでに詠唱を中断させられた事など一度もない。
「なぜだ、なぜこの悪魔は、僕の詠唱を止める事ができたんだ?」
ニヤニヤと笑って、じっとりと湿った―――、陰気な垂れ目でこちらを観察する長髪の悪魔に、ヤイバは僅かながら恐怖を感じた。
(過去に戦った悪魔に比べればコイツはなんてことはない。なのになぜ恐怖を感じる? この悪魔から感じる恐怖は、圧倒的な力によるものなどではなく、不安定さからくるものだな。つまりこれは何をしでかすか解らない相手と対峙した時の恐怖だ)
「どうした? 大きいの。なんでなにもしてこねぇ? 俺ぁ、丸腰だぜ?」
軽くステップを踏んで自分の周りを回る悪魔の言葉が、理解できた事にヤイバは驚く。
(悪魔の喋る内容が解る。僕はまだ【翻訳】の魔法は使っていないぞ。という事はテレパシーみたいなものか?)
ヤイバは自分が置かれた状況が知りたくて、悪魔から目を離さずに周辺を観察し看板の文字を見る。
(独自の言語だな・・・。異世界か? いや、そんなはずはない。僕はちょくちょく、転移事故を起こすが異世界に飛んだことはないぞ。そういえば樹族や地走り族はどこだ? 野次馬には人間しかいないな。人間・・・? そういえば本で読んだことがある。世界のどこかに人間(レッサー・オーガ)だけの国があると)
「あなた! 冒険者なの?」
キリマルのお陰で凍死を回避できたマスカラが、半身を起こして意識をはっきりとさせる為に頭を振った。
「ん? ああ、俺の事か? 俺は悪魔キリマルだ。最近冒険者登録をした者だ」
「誰かの使い魔なのね? じゃあ冒険者の先輩として忠告するわ。そいつは化け物よ。さっさと逃げなさい。そこいらのダンジョンの最深部に生息する魔物や悪魔よりも遥かに強いわ!」
「ほー。そいつは面白ぇな。アマリ、刀に戻れ」
「いや。今忙しい」
「忙しいって、本を読んでるだけだろうが。さっさとしろ」
「あとで」
「かぁ~! この役立たずの糞刀が。まぁいいさ。丸腰でも戦えるところを見せてやるぜ」
キリマルはゴブリンと戦った時の自分の動きを思い出す。相手の攻撃をしっかりと見て躱し、こちらの攻撃を当てるだけだ。
「・・・」
それは大した参考にもならず、思い出す必要もなかったなとキリマルは自嘲した。
「あんときは爆発パンチやキックでなんとかなったが、今回は無理そうだな」
手練れの冒険者二人が成す術もなく倒れている現状を見ると、このオーガは遥か高みに達した存在。
格下にしか発動しなさそうな爆発パンチは、期待できないだろう。
「取り敢えず攻撃してみっか」
手刀を作って鎧の隙間を突こうとしたが、当たり前のようにオーガの手で弾かれる。
「君では無理だ」
「お? 喋れるのか?」
「どうやら悪魔キリマル君・・・、僕は君とだけなら会話ができるようだ」
(喋り方がリッドみたいだな。この手のタイプは自分が絶対的な正義であると思い込んでる糞野郎が多い。気に入らねぇ。何とかしてこいつの泣きっ面を拝みてぇもんだな)
「どこから来た?」
俺は無数の手刀を繰り出して、オーガの防御力の低そうな場所を突こうとしたが全て手で往なされる。
「僕はツィガル帝国から来た、鉄騎士団団長のヤイバ・フーリーだ」
(ツィガル・・・ツィガルっと・・・。どっかで聞いたな。そうだ! ビャクヤだ! あいつの出身国! よく覚えてたな、俺。偉い)
「へぇ。じゃあビャクヤと同郷か」
「ビャクヤ? 知らないな。という事はここは異世界じゃないんだね。それにしても僕たちが戦う理由などないと思うのだが、どうしてこの国の住人は襲ってくる?」
「そりゃあ、お前さんがオーガだからだろ。オーガ鬼ってのは恐ろしいもんだ。知らねぇけどよ。ヒヒヒ」
「この国の者は、オーガがまともな種族であるという事を知らないのか? いつの時代の人間なんだ。最早、闇側も光側もない時代だというのに。遅れた国だ」
「俺にそう言われてもな」
キリマルは自分の素早さを活かして残像を作り出して、オーガを翻弄しようとした。
「残念だが、僕は君と同じ素早いタイプの強力な悪魔と戦った経験がある。何をしようが無駄だ。それよりも情報をくれないか?」
「俺を倒したら情報をくれてやるよ」
「はぁ。どこにでもいるのだな、君のような戦闘狂は・・・」
(戦闘狂? いいや、俺は殺人狂だぜ? まじで殺す気でいくからな? キヒヒ)
オーガが放った氷魔法で冒険者『脳筋のお姉』の二人が凍え死にしそうなったその時、悪魔キリマルが現れてオーガの詠唱を中断させた。
それを見てサン・マウンテンフートは涙する。
「あ、悪魔キリマルが現れました! 自分の妹を襲った二人を助けています! ああ、なんという事でしょうか! 司教様を疑って申し訳ありませんでした! 彼は・・・、彼は正しく聖なる悪魔です! 自分の妹を襲った犯罪者ですら救おうとしています! なんと慈悲深い悪魔なのでしょうか! 涙が止まりません!」
しかし、この激しい戦いの最中にあっても、キリマルの妹は夢中になって本を読んでいる。
「もしかしたら、あの子は耳が聞こえていない・・・? 大変! 何とかしてあの争いの場から避難させないと!」
しかし、自分はただの家政婦。恐怖で足が竦み、動かない。
「ああ、神様! 私は無力過ぎます! どうして司教様は私なんかを、この任務にお選びになったのか!」
「僕の詠唱を止めた?」
神の子と呼ばれるヤイバ・フーリーは、どんな妨害にも動じる事のない強靭さが自慢だった。これまでに詠唱を中断させられた事など一度もない。
「なぜだ、なぜこの悪魔は、僕の詠唱を止める事ができたんだ?」
ニヤニヤと笑って、じっとりと湿った―――、陰気な垂れ目でこちらを観察する長髪の悪魔に、ヤイバは僅かながら恐怖を感じた。
(過去に戦った悪魔に比べればコイツはなんてことはない。なのになぜ恐怖を感じる? この悪魔から感じる恐怖は、圧倒的な力によるものなどではなく、不安定さからくるものだな。つまりこれは何をしでかすか解らない相手と対峙した時の恐怖だ)
「どうした? 大きいの。なんでなにもしてこねぇ? 俺ぁ、丸腰だぜ?」
軽くステップを踏んで自分の周りを回る悪魔の言葉が、理解できた事にヤイバは驚く。
(悪魔の喋る内容が解る。僕はまだ【翻訳】の魔法は使っていないぞ。という事はテレパシーみたいなものか?)
ヤイバは自分が置かれた状況が知りたくて、悪魔から目を離さずに周辺を観察し看板の文字を見る。
(独自の言語だな・・・。異世界か? いや、そんなはずはない。僕はちょくちょく、転移事故を起こすが異世界に飛んだことはないぞ。そういえば樹族や地走り族はどこだ? 野次馬には人間しかいないな。人間・・・? そういえば本で読んだことがある。世界のどこかに人間(レッサー・オーガ)だけの国があると)
「あなた! 冒険者なの?」
キリマルのお陰で凍死を回避できたマスカラが、半身を起こして意識をはっきりとさせる為に頭を振った。
「ん? ああ、俺の事か? 俺は悪魔キリマルだ。最近冒険者登録をした者だ」
「誰かの使い魔なのね? じゃあ冒険者の先輩として忠告するわ。そいつは化け物よ。さっさと逃げなさい。そこいらのダンジョンの最深部に生息する魔物や悪魔よりも遥かに強いわ!」
「ほー。そいつは面白ぇな。アマリ、刀に戻れ」
「いや。今忙しい」
「忙しいって、本を読んでるだけだろうが。さっさとしろ」
「あとで」
「かぁ~! この役立たずの糞刀が。まぁいいさ。丸腰でも戦えるところを見せてやるぜ」
キリマルはゴブリンと戦った時の自分の動きを思い出す。相手の攻撃をしっかりと見て躱し、こちらの攻撃を当てるだけだ。
「・・・」
それは大した参考にもならず、思い出す必要もなかったなとキリマルは自嘲した。
「あんときは爆発パンチやキックでなんとかなったが、今回は無理そうだな」
手練れの冒険者二人が成す術もなく倒れている現状を見ると、このオーガは遥か高みに達した存在。
格下にしか発動しなさそうな爆発パンチは、期待できないだろう。
「取り敢えず攻撃してみっか」
手刀を作って鎧の隙間を突こうとしたが、当たり前のようにオーガの手で弾かれる。
「君では無理だ」
「お? 喋れるのか?」
「どうやら悪魔キリマル君・・・、僕は君とだけなら会話ができるようだ」
(喋り方がリッドみたいだな。この手のタイプは自分が絶対的な正義であると思い込んでる糞野郎が多い。気に入らねぇ。何とかしてこいつの泣きっ面を拝みてぇもんだな)
「どこから来た?」
俺は無数の手刀を繰り出して、オーガの防御力の低そうな場所を突こうとしたが全て手で往なされる。
「僕はツィガル帝国から来た、鉄騎士団団長のヤイバ・フーリーだ」
(ツィガル・・・ツィガルっと・・・。どっかで聞いたな。そうだ! ビャクヤだ! あいつの出身国! よく覚えてたな、俺。偉い)
「へぇ。じゃあビャクヤと同郷か」
「ビャクヤ? 知らないな。という事はここは異世界じゃないんだね。それにしても僕たちが戦う理由などないと思うのだが、どうしてこの国の住人は襲ってくる?」
「そりゃあ、お前さんがオーガだからだろ。オーガ鬼ってのは恐ろしいもんだ。知らねぇけどよ。ヒヒヒ」
「この国の者は、オーガがまともな種族であるという事を知らないのか? いつの時代の人間なんだ。最早、闇側も光側もない時代だというのに。遅れた国だ」
「俺にそう言われてもな」
キリマルは自分の素早さを活かして残像を作り出して、オーガを翻弄しようとした。
「残念だが、僕は君と同じ素早いタイプの強力な悪魔と戦った経験がある。何をしようが無駄だ。それよりも情報をくれないか?」
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