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冥府魔道の全国殺戮行脚は夢と消え
「キヒッ! キヒヒヒッ!」
さっきからこの調子でビャクヤは笑っている。
笑うのは良いんだが、フラフラしてねぇで早く歩けよ。処刑場までそんなに遠くはないんだ。さっさと行って騎士をぶち殺し、アトラスを生き返らせようぜ。
「全ては~♪ 主様の為に~♪ キヒヒ!」
元々頭のおかしい変態だったから、狂ってもあんま違和感ねぇな。それにしても意外とメンタルの弱い奴だった。リンネが死んだくらいでこんなになるとはな!
「ほら、処刑場が見えてきたぞ。おや? なんと! あそこに見えるは! アトラスの死体じゃないか。見ろよ、ハエがいっぱい集っているぜ? ウジ虫も湧いている。檻の中で晒されて可哀想になぁ? こりゃ騎士どもに正義の鉄槌を下さないと? ビャクヤ」
「んんんんん、その通りッ! 主様の父上をッ! このような目に遭わす鉄鎖騎士団に死をッ!」
ビャクヤがブツブツ言いながら詠唱を開始した。いつもよりも詠唱が長い。こりゃ相当の大技だぞ。処刑場にいる騎士一隊は死んだな。6人は確実に死亡。
「おい! あれを見ろ!」
ん? 騎士たちが騒がしいな? こちらの敵意に気付いたか?
いや、騎士はこっちを見ていねぇ。俺らがいる場所とは逆の方を見ている。
「うわぁ! 霧の魔物だ!」
限定的な範囲に広がる霧の向こう側から、大きくて丸い影が現れた。
ったく。なんなんだ、霧の魔物ってのはよぉ。俺の殺しの楽しみを横取りするんじゃねぇぞ。なんでこのタイミングなんだ。まるで運命の神がダイスを振って、このトラブルを作り出したみてぇじゃねぇか。
「すぐに騎士団長に報告しろ!」
「クライネ様は午後から休暇だ。詰所にはいないぞ! 今は家にいる!」
わちゃわちゃしてるなぁ。お前ら本当に戦いのプロか? こういう時は陣形とか組んで魔物と戦ったりしねぇのかよ。まぁ自警団より少しはましな程度の、田舎騎士に多くを求めちゃあいけないか。
「よし。どさくさに紛れてアトラスを生き返らせるか」
俺が処刑場に向かうと、後ずさりしてきた騎士がぶつかってきた。敵前逃亡は処罰されるんじゃなかったのか?
霧の魔物に背中を見せてないから、敵前逃亡ではないのか。
「ひぃぃ! 出た! ジャイアントスライム!」
騎士の見上げる先を俺も見る。霧を掻き割るようにして現れたのは、とにかくでけぇスライムだった。
うむ。でけぇ、ポッピングアイだ! 高さ五メートルくらいはあるか?
「ぎゃあああ!」
早速目の前の騎士が捕食されてんな。雑魚すぎんだろ。動きこそ鈍いが、捕食するスピードは速い。器用に体の一部を触手のようにして騎士を捕まえてやがる。
騎士はスライムの体内で呆気なくジュ! と音を立てて溶けた。
お、次は女騎士が捕まったか。お約束の裸は拝めるか?
いや、他の騎士同様あっという間に肉を溶かされて骨すら消えた。クハハ! ラノベや漫画のお約束を無視するなよな!
「なんか怪獣みたいでワクワクするじゃねぇか。なぁ? ビャクヤ。よし、いっちょアマリで斬ってみるか」
俺は隠遁スキルで姿を消して、スライムに神速居合斬りを放った。アマリがぼんやりしてたのか、技名を言うのが遅れたので、ワンテンポ間が空いたが、問題はない。
スライムに神速居合斬りは見事に命中したが、攻撃を受けた部分がビチャっと飛び散っただけだった。ダメージを与えた様には見えねぇな。
「ほぉ? 物理攻撃が効かないのか? じゃあ俺様の出番は無しだな。今いる騎士は全員溶かされて消えるしかねぇぜ? ヒャッハハ!」
切れるけど切れねぇ。切れねぇと思っているから、アマリの呪いの効果で切れる。しかし、それは意味を持たない。参ったな。
ビャクヤはまだ詠唱している。時々フヒフヒと笑っている。もしかしたら狂気が邪魔をして、詠唱の空回りをしているのかもしれねぇ。まぁこいつはほっといても、死ぬことはないだろうから気にしなくていいか。
「じゃあ俺ぁ、アトラスを生き返らせに行ってくるわ」
逃げる騎士や野次馬を追いかけてジャイアントスライムは、のそのそと処刑場から離れていく。
「いや~運がいい。まるでご都合主義のライトノベルのようだぜ。フハハ!」
騎士たちをぶち殺す予定だったが、まぁ後でいい。アトラスを生き返らせたなら、またひと悶着あるだろうしよ。
「さぁてと」
俺は難なく処刑場の鉄門を飛び越えて、アトラスの死体が晒されている場所までやって来る。
そして腐って横たわるアトラスのウジの湧いた胸に、アマリを突き刺して引っこ抜いた。
「うぅ~」
アマリが腐汁を早く拭いてほしそうにしているので、俺はその辺に落ちていた騎士団の旗で拭いてやった。
「蘇生まであと五分か・・・。暇だな。スライムはどうしている?」
俺は処刑場にある櫓に上って、スライムの様子を見てみた。
スライムは、素早く後退する騎士や逃げ惑う村人の脚に追いつけず、じっとしていた。あんまりこっから離れてねぇな。怠慢なデブかよ。
お? スライムは、隠遁スキルの効果が切れた俺に気が付いたようだ。
「こりゃやべぇな。おい! ビャクヤ! 俺はスライムが相手だと相性が悪いみたいだ。どうしようもできねぇ。お前の方で何とかしろ!」
しかしビャクヤは、キヒキヒと笑っているばかりだ。悪魔の力を使って耳を澄ますと、何かブツブツと言っているのが聞こえてきた。
「殺すぅ・・・。殺すよぉ! み~んな死んで消えろッ! 主様のいないこの世界に何の意味があるんだぁ? 皆、死ねばいいんだぁ! み~んなね! ・・・アトラス様とアンナ様以外」
リンネの両親は殺さないんだな。意外と根っこは狂っていねぇのかも。ってか俺は殺す予定なのかよ。ひでぇ(笑)。
「おい! スライムは、お前をターゲットにしたみたいだぞ! 近づいてきている!」
しかしビャクヤには聞こえていない。完全に自分の世界に籠っている。目の前のスライムが触手を伸ばして準備をしているのに、あの変態仮面は回避行動すらとろうとしない。
「ん? そういや俺と奴ぁ、一蓮托生なんだったわ。ボーっと見てる場合じゃねぇな!」
すっかり忘れていたが、ビャクヤが死ねば帰る世界のない俺は消滅する。俺をここに転生させた何者かは、地球や魔界を故郷とは認めてくれなかったようだ。
まぁ、俺が消滅するってのはビャクヤが言った事なので何の確証もない。ビャクヤの嘘かもしれねぇが、それを確かめるにはリスクが高過ぎる。
俺は隠遁スキルをもう一度発動すると、櫓を飛び降りてスライムに近づく。そしてすぐに伸ばした触手を斬撃を飛ばして斬った。
「こいつは頭が悪いせいか、触手を一本しか作らねぇ。斬って時間稼ぎぐらいはできるからよ、なんかやるならさっさとしろ! ビャクヤ!」
「キヒヒヒ!」
ん~? どうも魔法を撃つ気配がねぇな。やっぱり詠唱がずっと空回りしてんのか? こりゃやべぇかもしれん。
「おい! 糞ビャクヤ! この足手まといめ!」
俺は触手をまた斬って、ビャクヤを抱えて逃げようとしたが、その時。
「【神雷(しんらい)】」
―――ドドドド!! パーーーン!
耳をつんざく雷鳴で鼓膜が悲鳴を上げる。ビャクヤが魔法詠唱を終わらせやがった。
「チッ! ちゃんと詠唱していたのかよ! 耳がクソいてぇ!」
ジャイアントスライムの体を雷撃が走り、青く透過する体内で、雷球がバチバチと音を立てて発生していた。
人間が触れたら消し炭になりそうな雷球は、バチッ! と音をさせる度にスライムにダメージを与える。
かなり強力な魔法にもかかわらず、スライムの再生能力が上回っているのか、大ダメージを与えたようには見えない。それだけ霧の魔物が強力だって証拠だな。
エネルギーを放出した雷球は、一瞬輝いた後に消えてしまった。
「ダメだ、効いてねぇ! 流石は霧の向こう側から来る魔物だ」
それにしても、あれだけ長い詠唱をして、これっぽっちの攻撃か。役に立たねぇな、ビャクヤさんよぉ。
俺はもう一度ビャクヤを抱えようとしたが―――。
「【漆黒の炎】」
狂ったビャクヤから発せられた声とは思えない程、落ち着いた声だ。良い声だと一瞬思ってしまった自分に苛立つ。
ビャクヤが呪文名を言い終わると、スライムの大きな体を黒い炎をが包み込む。いつもビャクヤが使う【闇の炎】なんて比べ物にならないほど激しく燃やしている。
しかしな・・・。
レジストされたのか、燃やし尽くす事まではできなかったようだ。焼けて縮んでいた体が回復を始め、大気やら地面から水分を吸っているのか、また大きくなる。
「しぶと過ぎるだろうがよ」
スライムといえば、ゲームじゃ雑魚の代名詞だが、実際はちっこいのでも物理耐性があり、魔法や松明がなけりゃ手こずるそうな。
そういや、こっちの世界の本で読んだことがある。熟練のメイジは連続して魔法を唱えられるが、二回が限度だ。変態仮面は、もうこれ以上何も出せねぇだろ。今度こそ逃げるぞ。
「【永久凍土】! ヒヒヒ!」
は? また呪文?
呪文名を言ってみただけだろ?
が、目の前のジャイアントスライムは、地面から現れた霜柱に包み込まれると凍ってしまった。
「おいおい、俺の仕入れた知識を無駄にすんなよ」
「【奈落】」
更に凍ったスライムの下に大きな穴が開き、その青い巨体を飲み込んでいく。こいつ、四連続で魔法を唱えやがった。しかも高位の魔法っぽいやつを!
「最初から【奈落】をやっとけや!」
「ヒヒッ! 死ね! みーんな堕ちて死ね!」
皆だと? スライムしか穴に沈んでねぇけどな。この戦いで騎士と村人の数名が、命を落としたが他は無事だ。
ん? よく見るとビャクヤの仮面は目を瞑ってるぞ。つまりこれは中身も目を閉じてるってこった。
「さてはお前、自分の魔法で人が死んでいく様を見るのが怖くて、目を閉じてやがるな?」
「ギクリ!!」
はぁ・・・。やっぱこいつはドがつくほどの善人だわ。人殺しなんてできねぇ。今まで目を瞑って、適当に魔法を撃ってやがったんだ。そしたらたまたま目の前にスライムがいたと・・・。
「ヒヒヒ! 何のことかな? 死ねぃ! 皆の者! 死ねぇい!」
「もういいわ、アホが」
白けた。こいつは・・・、狂ったふりをしてただけだ。自分が狂ったと思い込むことで、リンネが死んだ悲しみを紛らわそうとしてたんだ。所詮は十七歳のクソガキよ。
向こうから生き残った騎士やら村人が、諸手を上げて喜びながら走って来る。
「やりおったな! リンネの使い魔ビャクヤ!」
警邏でもしていたのか、駐屯していた騎士とは別に、年老いた騎士二人がビャクヤの背中を叩く。
「な、馴れ馴れしく触るでないぞよッ! 我は冥府魔道に堕ちし魔人族のビャクヤ・ウィン! 迂闊に触れると死ぬるッ!」
一人称が吾輩ではなく、我になってるな。あぁ、もう間違いなく中二病だな。
「何言ってんだ? そんな事よりも! 霧の魔物から村を守ってくれて助かったゾイ!」
赤い鉄兜のちょび髭ジジイは嬉しさのあまり、ビャクヤの手にキスをしている。
「あんなデカいスライムは初めて見たわい! ちっこいのは松明で焼けば倒せるが、でかいとあんな強敵になるとは思ってもみんかった!」
髭もじゃの騎士は、段々と小さくなる奈落の穴にびびりながらも、中を覗きながら言う。
「ビャクヤがいなければ、この村は壊滅していたじゃろうな。見直したゾイ! 仮面の!」
村人たちも一斉にビャクヤを誉めそやす。
「村の英雄ビャクヤ万歳!」
「我らが命の恩人万歳!」
きょとんとして首を伸ばすビャクヤの体に、いや~な感じで覇気が戻ってきたような気がする。
「ふぇ? え、英雄ですとッ? 吾輩が? フヒヒッ! 照れくさいんぬッ!」
シルクハットを取ると、頭を掻いてビャクヤは照れていた。
「いーや、誰が何と言おうがお前さんは英雄じゃ! ワシらに何かお礼をさせてくれ!」
「お礼?! ハッ! ではッ! アトラス様の遺体をッ! 我らに返してほしいんぬ!」
「アトラスが晒し者になっているのは、我らも我慢ならんかったゾイ! 皆、クライネ様にこの事を伝えてアトラスの恩赦を頼もうじゃないか! 我らが英雄の為に! 恩返しをするんじゃゾイ!」
なんだ、この展開は。はあぁ?
「なんという幸運かねッ! 陰鬱たる風の向きが変わったようなッ! なんだか全てがッ! 上手くいきそうな気がする~♪」
ビャクヤおめぇ、仮面の目がキラキラしてんじゃねぇか! 魔道冥府に堕ちたんじゃねぇのかよ! え?
かぁ~苛つくぜ。俺はてっきり闇落ちしたお前と一緒に、全国殺戮行脚でも出来るかと思ったのによ!
さっきからこの調子でビャクヤは笑っている。
笑うのは良いんだが、フラフラしてねぇで早く歩けよ。処刑場までそんなに遠くはないんだ。さっさと行って騎士をぶち殺し、アトラスを生き返らせようぜ。
「全ては~♪ 主様の為に~♪ キヒヒ!」
元々頭のおかしい変態だったから、狂ってもあんま違和感ねぇな。それにしても意外とメンタルの弱い奴だった。リンネが死んだくらいでこんなになるとはな!
「ほら、処刑場が見えてきたぞ。おや? なんと! あそこに見えるは! アトラスの死体じゃないか。見ろよ、ハエがいっぱい集っているぜ? ウジ虫も湧いている。檻の中で晒されて可哀想になぁ? こりゃ騎士どもに正義の鉄槌を下さないと? ビャクヤ」
「んんんんん、その通りッ! 主様の父上をッ! このような目に遭わす鉄鎖騎士団に死をッ!」
ビャクヤがブツブツ言いながら詠唱を開始した。いつもよりも詠唱が長い。こりゃ相当の大技だぞ。処刑場にいる騎士一隊は死んだな。6人は確実に死亡。
「おい! あれを見ろ!」
ん? 騎士たちが騒がしいな? こちらの敵意に気付いたか?
いや、騎士はこっちを見ていねぇ。俺らがいる場所とは逆の方を見ている。
「うわぁ! 霧の魔物だ!」
限定的な範囲に広がる霧の向こう側から、大きくて丸い影が現れた。
ったく。なんなんだ、霧の魔物ってのはよぉ。俺の殺しの楽しみを横取りするんじゃねぇぞ。なんでこのタイミングなんだ。まるで運命の神がダイスを振って、このトラブルを作り出したみてぇじゃねぇか。
「すぐに騎士団長に報告しろ!」
「クライネ様は午後から休暇だ。詰所にはいないぞ! 今は家にいる!」
わちゃわちゃしてるなぁ。お前ら本当に戦いのプロか? こういう時は陣形とか組んで魔物と戦ったりしねぇのかよ。まぁ自警団より少しはましな程度の、田舎騎士に多くを求めちゃあいけないか。
「よし。どさくさに紛れてアトラスを生き返らせるか」
俺が処刑場に向かうと、後ずさりしてきた騎士がぶつかってきた。敵前逃亡は処罰されるんじゃなかったのか?
霧の魔物に背中を見せてないから、敵前逃亡ではないのか。
「ひぃぃ! 出た! ジャイアントスライム!」
騎士の見上げる先を俺も見る。霧を掻き割るようにして現れたのは、とにかくでけぇスライムだった。
うむ。でけぇ、ポッピングアイだ! 高さ五メートルくらいはあるか?
「ぎゃあああ!」
早速目の前の騎士が捕食されてんな。雑魚すぎんだろ。動きこそ鈍いが、捕食するスピードは速い。器用に体の一部を触手のようにして騎士を捕まえてやがる。
騎士はスライムの体内で呆気なくジュ! と音を立てて溶けた。
お、次は女騎士が捕まったか。お約束の裸は拝めるか?
いや、他の騎士同様あっという間に肉を溶かされて骨すら消えた。クハハ! ラノベや漫画のお約束を無視するなよな!
「なんか怪獣みたいでワクワクするじゃねぇか。なぁ? ビャクヤ。よし、いっちょアマリで斬ってみるか」
俺は隠遁スキルで姿を消して、スライムに神速居合斬りを放った。アマリがぼんやりしてたのか、技名を言うのが遅れたので、ワンテンポ間が空いたが、問題はない。
スライムに神速居合斬りは見事に命中したが、攻撃を受けた部分がビチャっと飛び散っただけだった。ダメージを与えた様には見えねぇな。
「ほぉ? 物理攻撃が効かないのか? じゃあ俺様の出番は無しだな。今いる騎士は全員溶かされて消えるしかねぇぜ? ヒャッハハ!」
切れるけど切れねぇ。切れねぇと思っているから、アマリの呪いの効果で切れる。しかし、それは意味を持たない。参ったな。
ビャクヤはまだ詠唱している。時々フヒフヒと笑っている。もしかしたら狂気が邪魔をして、詠唱の空回りをしているのかもしれねぇ。まぁこいつはほっといても、死ぬことはないだろうから気にしなくていいか。
「じゃあ俺ぁ、アトラスを生き返らせに行ってくるわ」
逃げる騎士や野次馬を追いかけてジャイアントスライムは、のそのそと処刑場から離れていく。
「いや~運がいい。まるでご都合主義のライトノベルのようだぜ。フハハ!」
騎士たちをぶち殺す予定だったが、まぁ後でいい。アトラスを生き返らせたなら、またひと悶着あるだろうしよ。
「さぁてと」
俺は難なく処刑場の鉄門を飛び越えて、アトラスの死体が晒されている場所までやって来る。
そして腐って横たわるアトラスのウジの湧いた胸に、アマリを突き刺して引っこ抜いた。
「うぅ~」
アマリが腐汁を早く拭いてほしそうにしているので、俺はその辺に落ちていた騎士団の旗で拭いてやった。
「蘇生まであと五分か・・・。暇だな。スライムはどうしている?」
俺は処刑場にある櫓に上って、スライムの様子を見てみた。
スライムは、素早く後退する騎士や逃げ惑う村人の脚に追いつけず、じっとしていた。あんまりこっから離れてねぇな。怠慢なデブかよ。
お? スライムは、隠遁スキルの効果が切れた俺に気が付いたようだ。
「こりゃやべぇな。おい! ビャクヤ! 俺はスライムが相手だと相性が悪いみたいだ。どうしようもできねぇ。お前の方で何とかしろ!」
しかしビャクヤは、キヒキヒと笑っているばかりだ。悪魔の力を使って耳を澄ますと、何かブツブツと言っているのが聞こえてきた。
「殺すぅ・・・。殺すよぉ! み~んな死んで消えろッ! 主様のいないこの世界に何の意味があるんだぁ? 皆、死ねばいいんだぁ! み~んなね! ・・・アトラス様とアンナ様以外」
リンネの両親は殺さないんだな。意外と根っこは狂っていねぇのかも。ってか俺は殺す予定なのかよ。ひでぇ(笑)。
「おい! スライムは、お前をターゲットにしたみたいだぞ! 近づいてきている!」
しかしビャクヤには聞こえていない。完全に自分の世界に籠っている。目の前のスライムが触手を伸ばして準備をしているのに、あの変態仮面は回避行動すらとろうとしない。
「ん? そういや俺と奴ぁ、一蓮托生なんだったわ。ボーっと見てる場合じゃねぇな!」
すっかり忘れていたが、ビャクヤが死ねば帰る世界のない俺は消滅する。俺をここに転生させた何者かは、地球や魔界を故郷とは認めてくれなかったようだ。
まぁ、俺が消滅するってのはビャクヤが言った事なので何の確証もない。ビャクヤの嘘かもしれねぇが、それを確かめるにはリスクが高過ぎる。
俺は隠遁スキルをもう一度発動すると、櫓を飛び降りてスライムに近づく。そしてすぐに伸ばした触手を斬撃を飛ばして斬った。
「こいつは頭が悪いせいか、触手を一本しか作らねぇ。斬って時間稼ぎぐらいはできるからよ、なんかやるならさっさとしろ! ビャクヤ!」
「キヒヒヒ!」
ん~? どうも魔法を撃つ気配がねぇな。やっぱり詠唱がずっと空回りしてんのか? こりゃやべぇかもしれん。
「おい! 糞ビャクヤ! この足手まといめ!」
俺は触手をまた斬って、ビャクヤを抱えて逃げようとしたが、その時。
「【神雷(しんらい)】」
―――ドドドド!! パーーーン!
耳をつんざく雷鳴で鼓膜が悲鳴を上げる。ビャクヤが魔法詠唱を終わらせやがった。
「チッ! ちゃんと詠唱していたのかよ! 耳がクソいてぇ!」
ジャイアントスライムの体を雷撃が走り、青く透過する体内で、雷球がバチバチと音を立てて発生していた。
人間が触れたら消し炭になりそうな雷球は、バチッ! と音をさせる度にスライムにダメージを与える。
かなり強力な魔法にもかかわらず、スライムの再生能力が上回っているのか、大ダメージを与えたようには見えない。それだけ霧の魔物が強力だって証拠だな。
エネルギーを放出した雷球は、一瞬輝いた後に消えてしまった。
「ダメだ、効いてねぇ! 流石は霧の向こう側から来る魔物だ」
それにしても、あれだけ長い詠唱をして、これっぽっちの攻撃か。役に立たねぇな、ビャクヤさんよぉ。
俺はもう一度ビャクヤを抱えようとしたが―――。
「【漆黒の炎】」
狂ったビャクヤから発せられた声とは思えない程、落ち着いた声だ。良い声だと一瞬思ってしまった自分に苛立つ。
ビャクヤが呪文名を言い終わると、スライムの大きな体を黒い炎をが包み込む。いつもビャクヤが使う【闇の炎】なんて比べ物にならないほど激しく燃やしている。
しかしな・・・。
レジストされたのか、燃やし尽くす事まではできなかったようだ。焼けて縮んでいた体が回復を始め、大気やら地面から水分を吸っているのか、また大きくなる。
「しぶと過ぎるだろうがよ」
スライムといえば、ゲームじゃ雑魚の代名詞だが、実際はちっこいのでも物理耐性があり、魔法や松明がなけりゃ手こずるそうな。
そういや、こっちの世界の本で読んだことがある。熟練のメイジは連続して魔法を唱えられるが、二回が限度だ。変態仮面は、もうこれ以上何も出せねぇだろ。今度こそ逃げるぞ。
「【永久凍土】! ヒヒヒ!」
は? また呪文?
呪文名を言ってみただけだろ?
が、目の前のジャイアントスライムは、地面から現れた霜柱に包み込まれると凍ってしまった。
「おいおい、俺の仕入れた知識を無駄にすんなよ」
「【奈落】」
更に凍ったスライムの下に大きな穴が開き、その青い巨体を飲み込んでいく。こいつ、四連続で魔法を唱えやがった。しかも高位の魔法っぽいやつを!
「最初から【奈落】をやっとけや!」
「ヒヒッ! 死ね! みーんな堕ちて死ね!」
皆だと? スライムしか穴に沈んでねぇけどな。この戦いで騎士と村人の数名が、命を落としたが他は無事だ。
ん? よく見るとビャクヤの仮面は目を瞑ってるぞ。つまりこれは中身も目を閉じてるってこった。
「さてはお前、自分の魔法で人が死んでいく様を見るのが怖くて、目を閉じてやがるな?」
「ギクリ!!」
はぁ・・・。やっぱこいつはドがつくほどの善人だわ。人殺しなんてできねぇ。今まで目を瞑って、適当に魔法を撃ってやがったんだ。そしたらたまたま目の前にスライムがいたと・・・。
「ヒヒヒ! 何のことかな? 死ねぃ! 皆の者! 死ねぇい!」
「もういいわ、アホが」
白けた。こいつは・・・、狂ったふりをしてただけだ。自分が狂ったと思い込むことで、リンネが死んだ悲しみを紛らわそうとしてたんだ。所詮は十七歳のクソガキよ。
向こうから生き残った騎士やら村人が、諸手を上げて喜びながら走って来る。
「やりおったな! リンネの使い魔ビャクヤ!」
警邏でもしていたのか、駐屯していた騎士とは別に、年老いた騎士二人がビャクヤの背中を叩く。
「な、馴れ馴れしく触るでないぞよッ! 我は冥府魔道に堕ちし魔人族のビャクヤ・ウィン! 迂闊に触れると死ぬるッ!」
一人称が吾輩ではなく、我になってるな。あぁ、もう間違いなく中二病だな。
「何言ってんだ? そんな事よりも! 霧の魔物から村を守ってくれて助かったゾイ!」
赤い鉄兜のちょび髭ジジイは嬉しさのあまり、ビャクヤの手にキスをしている。
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髭もじゃの騎士は、段々と小さくなる奈落の穴にびびりながらも、中を覗きながら言う。
「ビャクヤがいなければ、この村は壊滅していたじゃろうな。見直したゾイ! 仮面の!」
村人たちも一斉にビャクヤを誉めそやす。
「村の英雄ビャクヤ万歳!」
「我らが命の恩人万歳!」
きょとんとして首を伸ばすビャクヤの体に、いや~な感じで覇気が戻ってきたような気がする。
「ふぇ? え、英雄ですとッ? 吾輩が? フヒヒッ! 照れくさいんぬッ!」
シルクハットを取ると、頭を掻いてビャクヤは照れていた。
「いーや、誰が何と言おうがお前さんは英雄じゃ! ワシらに何かお礼をさせてくれ!」
「お礼?! ハッ! ではッ! アトラス様の遺体をッ! 我らに返してほしいんぬ!」
「アトラスが晒し者になっているのは、我らも我慢ならんかったゾイ! 皆、クライネ様にこの事を伝えてアトラスの恩赦を頼もうじゃないか! 我らが英雄の為に! 恩返しをするんじゃゾイ!」
なんだ、この展開は。はあぁ?
「なんという幸運かねッ! 陰鬱たる風の向きが変わったようなッ! なんだか全てがッ! 上手くいきそうな気がする~♪」
ビャクヤおめぇ、仮面の目がキラキラしてんじゃねぇか! 魔道冥府に堕ちたんじゃねぇのかよ! え?
かぁ~苛つくぜ。俺はてっきり闇落ちしたお前と一緒に、全国殺戮行脚でも出来るかと思ったのによ!
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※イラストはAI生成です
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階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
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英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
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異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
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