殺人鬼転生

藤岡 フジオ

文字の大きさ
92 / 299

マサヨシ・ザ・フリーザ

しおりを挟む
「じゃ、じゃあするから・・・。チュー・・・」

 リンネはカチューシャで、邪魔な髪を纏めて額を出すと、マサヨシの頬に唇を近づけた。

(おほぉぉぉ! キタキタ! 来ましたぞーー! 美少女のチッス! 言ってみるもんだわ~。無欲の勝利ってやつ? 頬にチッスしてもらうくらいが丁度いい思い出になるんでつよ。これ以上を望むとあれこれと、不満やらネガティブな感情やらが絡んで、いや~な気分になるんでつ。肉食系男子の人にはそれがわからんのでつ)

「や、止めときなさいよ。ボーンさん。そいつは変態よ! 私のおしっこを嬉しそうに飲んでたもの・・・」

 浮かれるマサヨシを見て、律儀に約束を守ろうとするリンネをキャスは止めた。

 しかしマサヨシも、あらぬ変態癖を勝手に追加設定されたので怒る。

「は? え? は? 嬉しそう? は? 誰が? え? 拙者が嬉しそうに君のおしっこを飲んでたって? 喜んで飲んだ証拠は? 寧ろ拙者は顔にくっさい小便ぶっかけられたので萎え~なんでつが?」

「私の黄金水は臭くないわよ! きっとタクトならワインのテイスティングみたいな感じで飲んでくれるんだからね! あんたも嬉しそうに飲んでたじゃない! そりゃあもう、ゴクゴクと!」

「は? ビキビキ! あ、このビキビキって怒りで額の血管が浮いた時の表現ね。っていうか拙者に飲尿の趣味なんてありませんがぁ?」

 ギンッ! と音がしてマサヨシの顔に向かって、集中線が書き込まれそうなぐらい彼は怒った。

「もう、そんな事どうでもいいじゃない。マサヨシは今は味方になってくれているんだし、その代わりホッペにキスをするって約束したんだから、約束は約束よ」

「リンネがキスする事なんてないわよ! ふ、ふん!仕方ないわね。じゃあ代わりに私にキスしなさいよ。マサヨシだってしたいんでしょ? 顔にそう書いてあるわよ。それにこれは友達を救うためにされるキス。だからタクトも許してくれるわ」

 ピグモンに似たキャスが、これは尊い自己犠牲だといわんばかりの態度で、リンネの身代わりを申し出た。

「どの口が言っとるんじゃ! あほが! 鼻フックの限界まで挑んで死ね! ・・・さぁ、リンネたん。熱くて濃厚なチッスを我が頬に・・・」

 マサヨシの豹変ぶりに、リンネが苦笑いしながら頬に唇を寄せたその時。

「あいつです! あの男が僕を操って悪さをさせたマサヨシという怪人です!」

 サムシンがこちらを指さして部屋の入り口に立っている。

 マサヨシは、サムシンが敵対しているはずのビャクヤやキリマルを連れて帰ってきたので、ドッキリか何かだと思った。だからふざけて返す。

「そうでぃす! 私が悪さをしたマサヨシです。この世界に満ちる全てのマナを我が物にせんが為、異世界からやってきた怪人、それが私でぃす」

 結局、仕置き部屋にいた誰もが水晶を見てない。サムシンが魔法水晶でビャクヤとキリマルを映そうとした時には、既にケルベロス戦は終わっていたのだ。

 なので上で何があったかを三人は知らない。マサヨシがふざけるのも無理はなかった。

「学園で見た感じでは内向的で、無害そうな用務員だとは思っていたのだがねッ!」

 サムシンの背後に身長百八十センチほどのビャクヤが現れた。

 踊るように部屋に入ってきたビャクヤだったが、リンネがマサヨシの頬に唇を近づけていたのを見て、肩を怒らせる。

「あっ! ああああ! あばああばばば! 主様を脅すなりッ! 操るなりしてッ! キスをさせようとしていたのかねッ! マサヨシッ! なななな、なんたる卑劣漢かッ! ぐぎっ! ぐぎぎぎぎ!」

 急に部屋が寒くなったのでキャスが震え出した。激高したビャクヤの魔力で空気が凍り始めたのだ。

「なに? なんで寒いのよぉ!」

「これは違うの、ビャクヤ! あのね・・・」

 事情を話そうとしたリンネの声をビャクヤの怒りが遮る。

「ゆるっ! ゆるしっ! 許しませんよぉッ! マサヨシッ! キィエエエエエエエエ!!」

 ビャクヤの体からマナが溢れだし、部屋の中で暴れて嵐のようになる。

(おふふゅ! これも拙者を驚かそうとしているサムシンの企てだな? 騙されませんぞぉ)

「【絶対零度】!」

「こりゃあ、あぶねぇ!」

 魔法が完了する前に、キリマルが素早く部屋に入ってリンネとキャスを担いで連れ出す。

(おっぷ! この不細工女、なんか小便くせぇ・・・)

 二人を廊下に下すと、嫉妬と怒りで身を震わせるビャクヤの肩を、キリマルが拳骨で叩いた。

「おい、ビャクヤ! お前の大事な主様が凍るところだったぞ! 気を付けろ! (点数稼ぎ)」

 基本的に攻撃魔法は味方を巻き込まない。が、意図せず周囲に効果を及ぼす魔法もある。【火球】は火が物に燃え移って火事になる事もあるし、今回の【絶対零度】は部屋の空気と床を凍らせてしまった。

「あーあ、こりゃオーバーキルだな。マサヨシが氷の柱になっちまった」

 まだ怒りを抑え込もうと必死なのか、ビャクヤは喋らない。深呼吸をして精神統一をしている。

「ねぇ、何でサムシンが当たり前のような顔してここにいるわけ? こいつが誘拐事件の首謀者なのよ?」

 キャスがリンネの背中に隠れて震える。

「違うッ! 僕はさっき正気に戻ったのだよ! この事件の真の犯人はマサヨシだっ! (死人に口なし。最後に役に立ったな、マサヨシ!)」

 サムシンがそう言って指さした氷柱に、ピキンと亀裂が走る。

 その亀裂から「オフッオフッ」と笑い声が聞こえてきた。

 ビャクヤの怒りはすっかり冷めて、驚きの表情を仮面に宿した。

「んんんん! 馬鹿なッ! あの魔法を受けて生き延びた者はいないッ! なのにッ!」

 バリンと割れて、中から中野ブロードウェイ辺りを徘徊していそうな普通のオタクっぽい男、マサヨシが現れる。

「ホッホッホ。私の洗脳から逃れるとはやるじゃないですか、ベジー・・・。サムシンさん」

(こいつ、ベジータと言おうとしたぞ。フリーザにでもなりきっているつもりか? しかし、ビャクヤの超強力な魔法をどうやって防いだ? あんなもん、まともに喰らえば百回ぐらいは、あの世に行けるぞ)

 キリマルは汗で滲む手をズボンで拭いてから、刀の柄を握っていつでも攻撃できるように身構えた。

 キリマルとは違う意味で動揺して気が気でないサムシンは、それでも洗脳されていたという芝居を止めない。

「(どうやって、魔法から逃れた! 【絶対零度】は即死とダメージの両方の効果があるのだぞ!)は、早くマサヨシを倒しちゃってください! ビャクヤ!」

 全ての罪をマサヨシに被せたい。サムシンはその事ばかりを考えてビャクヤにマサヨシへの攻撃を要請した。

「わかりもうしたッ! 任せなさいッ! ではッ! いきますよッ! 邪悪なるマサヨシッ!」

「ホッホッホ。無駄な事を。私に逆らった事を後悔させてあげますよぉ!」

 マサヨシは左手を後ろに回し、右手の人差し指の先にデスボールのような玉を作っている。

(異世界人ってのはチート能力やチートスキルを持つ割合が高そうだもんな。ゴデの街の近くで会った勇者や、俺の爆発の手はハズレっぽいな・・・。もしかしたらマサヨシってやべぇ奴なんじゃねぇのか? マサヨシのあの攻撃は何となくだが、空間ごとあらゆるものを削りそうだ)

 キリマルは透過する黒の球から目を離さずに、もう一度汗ばむ掌をズボンで拭き直した。

「【捕縛】!」

(は? 捕縛? とんでもねぇ化け物相手にその魔法はカジュアル過ぎねぇか? ビャクヤ。駄目だこりゃ)

 ビャクヤの魔法のチョイスに驚き、キリマルは念のため幾つかのスキルを発動させた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...