殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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頬当ての価値

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「頬当てだけ貰う」

 俺が侍大将の兜を受け取らなかったので、レッド率いるパーティ”虹色の閃光“は途端に色めき立った。虹色って割に色も足りていないし、虹の色じゃないやつもいるけどな。

「って事は、それ以外は売って金に換えてもいいってことか?」

「ああ、構わねぇぜ。正直、これ以上素早く動けるようになっても、脳が情報処理をしきれねぇ気がするしな。それに今でも十分素早いし、敵の攻撃は殆ど当たらねぇしよ。俺以外に装備できるやつがいねぇなら、金に換えて山分けだ」

「やったーい! じゃあ、早速ボアタックル商店に売ってくるぜ!」

 レッドは会計係のアオを連れて冒険者ギルドを出ると、侍大将から剥ぎ取った装備や持ち物の入った袋をガチャガチャと煩く鳴らして、下取りをしてくれる店へと向かった。

 で、特にやることのなくなった俺たちは、ギルドの酒場で飯を食うことにした。

「ほんと、キリマル様様だなぁ? イエロー」

 ブラックは相変わらずわけのわからん茶を飲みながら、イエローに話しかける。

「ああ。しかもだ! 俺たちは英雄レベルの侍大将を倒している。明日起きたらとんでもねぇ事になってんぞ。ガハハ!」

「とんでもねぇこと?」

 俺は焼いた兎のもも肉を齧りながら、酒をあおるイエローに訊いた。

「今日の戦闘で俺たちはかなりの経験を積んだ事になる。あの戦いはとてつもない修行になったって事さ。だから寝て起きる頃には、その経験が体に染みついているんだ。知ってるか? 夢ってのは寝ている間に、その日あったことを復習しているらしいぜ」

「へぇ」

 俺はさっき五分程うたた寝をしていたので腕の張りやらを確かめてみたが、特に強くなった気はしねぇ。

「うたた寝程度じゃだめか」

 確かにあの侍の動きは勉強になった。

 鍔迫り合いから逃げる時に、追い打ちを受けないように刀で上手く相手の武器を逸らして、体勢を崩すやり方やフェイントの使い方、攻撃を見極めてから放つカウンターやら・・・。

「あいつが俺たちを雑魚扱いしてくれたお陰で勝てた。が、勝ちは勝ちだ」

 ギャーギャー騒いで料理の取り合いをしているイエローとブラックの横で、そう独り言ちていると、モモが離れた場所で誰かと喋っているのを見つけた。

 いや、話し合いというよりは一方的にたかられている。俺は煩い酒場でモモの声だけに集中して悪魔の耳を澄ませた。

「この程度の金では、足りないなぁ? 解ってるだろ? お前のせいで弟は死んだんだ。あいつは冒険者に向いてなかったし、あの迷宮探索が終わったら田舎に帰す予定だったんだのによぉ・・・。お前の回復が遅かったせいで・・・」

「ふぇぇ・・・。もうすぐお金がたくさん手に入るから、それまで待ってぇ・・」

 モモはあそこで何をしているのだ、という俺の視線に気が付いたのか、ブラックとイエローが黙ってパンや肉を頬張り始めた。

「お前ら、なんか知ってんのか?」

「ん? ああ、まぁな・・・」

「冒険者にはよくある事さな、ガハ・・・」

 どうも歯切れが悪い。

「まぁ想像はつくぜ? モモは前のパーティでヒーラーをしていたが、回復が間に合わなくて、あいつの弟を殺したってとこだろう?」

「おまえ、よくあんな遠くの会話・・・、しかもこの騒がしいギルドの酒場で聞き取れたな?」

 ブラックは細い目を見開いて俺を見ている。

「デビルイヤーは地獄耳ってもんよ」

「イエローも言ってたが、冒険者にはよくある事さ。俺たちみたいな――――、ならず者一歩手前のしがらみってのは厄介でね。パーティを抜けた奴からもああやって、金をせびる奴がいるんだわ」

「お前らが助けてやればいいだろ。ええ?」

 二人は黙って咀嚼を続けている。

「あのタカリ野郎は期待のルーキーと呼ばれていて、モモが抜けた後にメキメキと強くなったパーティ、”臭い牙“の一人。戦いを挑んでも負けは見えている」

 そういやウッドペックもいたんだったわ。影が薄いから隣に座っているのに気が付かなかったぜ。相変わらず陰気な喋り方だ。

「んなもん、やってみねぇとわからねぇだろ。お前ら屁垂れ過ぎるぞ」

 俺の責めにブラックは堪らなくなったのか、お茶を一気に飲み干してドンと湯飲みをテーブルに置いた。

「そりゃあ俺だって男らしくモモを助けてやりてぇけどよ、あれはあいつの問題なんだ。皆、何かしら問題を抱えて生きている。個人の問題に、部外者の俺らがズカズカと介入なんてすれば余計に事が大きくなるだろうぜ」

「そんなもんかねぇ? 仲間なのに薄情だなぁ? あの四角い顔の男も冒険者として成長してるなら、モモから金をせびらずとも、迷宮の稼ぎで弟に立派な墓ぐらい作ってやれるだろうによ。いけないなぁ、あんなタカリみたいな事をして」

 俺は大義を作る為にそう言った。

 誰がどこでどのように俺の行動をジャッジしているのかは知らないが、俺は大義を得ないと人殺しができねぇ。次、制約を破ればどうなるかわからない。

「悪魔らしくない事言うねぇ、キリマルは。あの臭い牙のメンバーは”臭い骨団“っていうクランに所属しててな。上納金が必要なんだわ。有名クランの上納金は高ぇ。毎回ダンジョンで儲けても、持ち金が殆ど無くなる。だからあいつらは他人を脅して金を得て、装備の修理やグレードアップをしてんだ。あいつらも生きるのに必死なんだよ」

 それは上納金を収めるだけのメリットがあるのか?

 まぁ大義作りは十分。・・・だがもう一押ししておくか。

「だったら尚更! お前ら、しっかりと後始末してやるから、モモを助けてこい! 仲間だろうが!」

「無茶言うなって。俺たちの実力値は2だぞ? あいつは6ある。三倍の差があるのに勝てるかよ! それに今日はもうへとへとだ!」

「おいおい、忘れたか?」

 俺は大仰に両腕でWの字を作って、無い眉毛の眉根を最大限まで寄せる。

「お前らは実力値30の侍と渡り合ったんだぞ? 例え相手が手加減をして舐めプしてたとしても、イエローは立派に足止めできただろ。ブラックだって貫通はしなかったものの、侍に攻撃をヒットさせた。ウッドペックだって即死してもおかしくない侍の攻撃を紙一重で躱しただろう。もっと自分に自信を持ったらどうだ?」

 俺は煽りに煽ってこいつらに発破をかけるも、やはり屁垂れどもの腰は重い。

「仕方ねぇな。これを使え」

 俺は侍大将の黒い頬当てをブラックの前に置いた。

「魔法に関する本に書いてあったんだけどよ、【知識の欲】ってのは、入手経緯や装備者の履歴もわかるのだろう?  だったらこれで十分に脅せるじゃねぇか。なにも殴り合いの喧嘩しろって言ってるわけじゃねぇんだ。さぁ行け」

 それを聞いたブラックの目が輝いた。

「なるほど! その手があったか! でも最悪の場合、お前の名前出していいか? キリマル」

「ああ、構わねぇさ」

 ブラックは嬉しそうに頬当てを掴むと、モモのいる場所まで走る。イエローとウッドペックもその後に続いた。

「おい! 待ちやがれ! クサイダマ!」

 あのモモをいびってる奴の名か? クサダマってのは。あぁ、そうだった。ここの冒険者は皆本名を名乗りたがらないんだったな。

「なんだ? ああ、お前は確か・・・。万年最下位の、名前だけ立派な虹色の閃光のブラック・ロックさんじゃないですか」

「どうとでも言え。もうこれ以上、モモに金をせびるのは止めといたほうがいいと思うんだがなぁ?」

「なんでだ? こいつのせいで弟は死んだんだぞ? 死ぬまで金をせびって何が悪い?」

「お前の弟が死んだのは弱かったからだろうが。いつ死ぬかわからねぇ職業なのを覚悟のうえで、ここにいる奴らは皆冒険者になってんだ。だったらいつまでも弟の死にグダグダ言うのは女々しくねぇか? なぁ? 皆!」

 酒を飲んでいた冒険者たちが一斉にブラックを見る。

 ブラックが何か面白い事を始めたと思ったのか、冒険者の殆どがブラックに加勢しだした。

「そうだぜ! ブラック・ロックの言う通りだ! 俺たちはいつも死ぬ覚悟でクエストをこなしてんだ。死んだの、ゴブリンにレイプされたのってのは日常茶飯事! いつまでもグジグジとみっともねぇぞ、クサイダマ」

「やかましい! お前らには関係ねぇ話だろうが!」

「おお、怖い!」

 ヤジを飛ばした冒険者が肩を竦めて笑い、この後をブラックに任せて黙った。

「で、なんでフランソワーズ・・・。いやモモに金をせびっちゃあいけねぇんだ? あ?」

 クサイダマは四角い顔の鼻に皺を寄せて、威嚇するようにブラックを睨む。しかし、ブラックは全く動じずに言い返した。

「そりゃあお前、明日には立場が逆転するからよ」

「あ?」

「明日にはお前は格下になるつってんだよ」

「あ?」

 田舎ヤンキーのようにクサイダマは顔をブラックに近づける。

「これ、なんだと思うよ?」

 ブラックはニヤニヤしながら、侍大将の頬当てをクサイダマの顔に押し付けた。

「あ? 侍大将の頬当てだろ? 下級の侍や足軽はそれを付けていないからな。拾ったんだな? それを慰謝料にするから勘弁してくださいってか?」

「違う。こりゃあ戦利品。ちゃんと侍大将を倒して得たんだわ」

「は? 実力値2のお前らが勝てるわけないだろ。そもそもお前らが潜れる浅い階層に出てくるわけねぇっつーの」

「ところがどっこい! 地下四階で遭遇した」

「ぶっしゃっしゃ! 聞いたか? 地下四階で侍大将に遭遇だってよ! 嘘つきだなぁ、ブラック・ロックさんはよぉ!」

 さっき味方をしてくれた冒険者が、手のひらを返して野次を飛ばす。

「おいおい! 嘘をつくとは見苦しいぞ、ブラック・ロック!」

「嘘じゃねぇんだな~、これが」

 ブラックの余裕の態度が崩れないので冒険者たちが騒めく。

「お前、どう思う? ローチとかラットを倒して、こないだようやく実力値が2になった虹色の閃光だぞ?」

「地下四階で侍大将に遭遇するってなると、それはもう霧の向こうから来た魔物だろう? だったら尚更勝ち目がねぇじゃねぇか。霧の魔物の殆どが、レアモンスター並みの強さだぞ?」

「どっちに賭ける? 俺は敢えてブラック・ロックに銀貨一枚賭けるぜ?」

「おい、誰か胴元やれ」

「俺はクサイダマに金貨一枚だ!」

「まじか! 金貨一枚も! じゃあ俺は金貨二枚をブラック・ロックに!」

「うぉ! 金貨二枚だと?」

 冒険者ギルドの酒場が一気に騒がしくなる。今日の一大イベントってところか。

「ここまでの騒ぎにしたんだ。引っ込みがつかなくなったぞ、弟よ。勝てる見込みはあるんだな?」

 突然、音もなく現れた黒ローブのメイジが冷たい顔でブラックを見つめている。

「兄貴・・・。ああ、勿論さ!」

「いいだろう、では今回は力を貸してやる。金貨一枚で鑑定してやろう」

「助かる」

 黒ローブのメイジはフードを下すと、長い白髪を見せて冒険者に向いた。

「皆聞け! 勝負のつけ方は実に簡単。この頬当てを鑑定するだけでいい。この中でアイテムの詳細が解るのは私と司祭のシャイナだけだ。私はブラックロックの兄なので庇ったと言われる可能性もある。なので公平を期すためにも二人で鑑定をして、一斉に鑑定結果を発表する。どうだろうか?」

「ああ、それで構わねぇ! やってくれ!」

 勝手に鑑定をさせられる羽目になった司祭の女は、不満そうな顔で立ち上がると、ブラックのいる場所までやって来た。

「高位の鑑定ですから銀貨二枚は貰いますからね! ぷんぷん!」

「あ、ああ・・・。(安ッ!)」

 ブラックは司祭に銀貨を渡すと、白ローブの司祭はにっこりと笑った。

「寄付に感謝します! では!」

 ブラックの兄と司祭のシャイナは、黒光りする頬当てに手をかざした。二人の手が赤く光って鑑定魔法を発動させている。

 暫く酒場がシーンと静かになり、鑑定結果を皆が見守る。

 クサイダマはブラックが嘘をついていると完全に思い込んでいるので、余裕の表情を見せて腕を組んでいる。

 まぁ結果は見えているから、クサイダマの余裕は間抜けとしか言いようがねぇんだけどよ。

 ブラックもまた、自分がした経験は嘘ではないので余裕の態度だ。

「結果ハッピョォォォーーー!」

 良いタイミングで吟遊詩人がお道化て、リュートをジャラ~ンと鳴らしたので酒場に笑いが起きた。浜田か!

 冒険者たちはひとしきり笑うとまた静かになる。

 殆どの者が小遣い稼ぎにクサイダマに賭けているが、ブラックロックに大金を賭けた者の顔には、脂汗が滲んでいるな。賭けに負ければ中レベル級クエスト一回分の報酬が飛ぶからだ。

 金貨二枚っていやぁ、ニムゲインだと二十万円くらいの価値があったからなぁ。こっちではどうだ?

 ゴクリと誰かが喉を鳴らした後、黒ローブのメイジとシャイナは口を開いた。
 
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