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恍惚の聖騎士見習い
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リンネの魔法で眠らされたグラス王国騎士がいる道から、数ブロックほど離れたビャクヤたちは、獣人たちが屯する小さな宿屋に部屋を借りた。
樹族に変身しているビャクヤを見て、何人かの獣人は牙を見せて唸っているが、ビャクヤは気にせずに涼しい顔で流している。
「大変心苦しいのですが、姫様。我らの残り少ない資金ではここに泊るのが精いっぱいなのです。今日はこの小さな宿屋の相部屋で我慢してください」
「うむ。構わぬ」
ツンと鼻を高く上げてエストは部屋に入るなりベッドに座り、脚を上げて靴を脱がせろとビャクヤに無言で命令する。
ビャクヤは気にした様子もなく、跪くとエストのボロボロになった革のブーツを脱がせた。
「うおっぷ! 姫様、ブーツを脱いだのは何日ぶりですかな?」
「一週間ぶりだ。それがどうした」
「少々匂いが・・・。お風呂はいつ入られましたかな?」
「同じく一週間入っていない」
ツーンとすえた足の臭いに、リンネが小さな声で「消臭の魔法があればよかったのにね」と呻いてよろめいた。
「では、姫様。これから湯浴みでもしましょう。体を洗えば、この激臭から開放されッ! 気分もスッキリしますぞッ! これ、そこなもの! ・・・えぇっと。君は確か・・・リンネくん、だったね? 金ダライに水を入れてきてくれたまぃ」
「なんで私が・・・。ってか、なによ。その他人行儀な言い方」
拗ねるリンネにビャクヤはウィンクをしている。
恋人はエストとの主従ごっこを楽しんでいるのだと解り、リンネはやれやれと肩をすくめて、部屋の隅に立てかけてある行水用のタライを寝かせた。
それからワンドを取り出して、水の精霊を召喚する。
「すぐ外に井戸があって良かったね。ウンディーネがそこにいたわ」
精霊は姿を現すことなく、タライに水を満たした。
ビャクヤは何もない空間に手を突っ込んで、無限鞄からミトンを取り出すと、すぐに手にはめて、もう一度鞄の中を探る。
「確かサラマンダー石の欠片があったはず・・・」
「え? そんな貴重なもの、持ってたんだ? 使っちゃっていいの?」
「貴重ですが、使わないと意味のない石ですからねぇ。ああ、あった。あちちち! ミトンを装着していても熱い」
ビャクヤは小さなサラマンダー石を掴むとタライの中に入れる。石は水の中で真っ赤に光ってブクブクと泡を出して水をお湯に変えていった。
サラマンダー石は水をお湯に変えると綺麗に消えてしまい、ビャクヤはミトンを無限鞄にしまうと指で温度を計る。
「ふむ、丁度いいッ! では、リンネ君。彼女の体を洗ってやっておくんなましッ! バイトで貰った石鹸もまだ残っているだろうしッ! あと、ウンディーネには床に水を零さないように言っておいてくれメンスッ! ではッ!」
ビャクヤは自分の仕事はもうないとばかりに部屋から出て行こうとしたが、エストがそれを許さなかった。
「お前が私の体を洗え。ビャクヤ」
「えっ? しかしッ! 吾輩は男ですぞッ! 裸を見られるのは恥ずかしいのではッ!?」
「問題ない。貴様は召使いだからな。召使いは召使い。男でも女でもないのだから」
基本的に召使いを性の対象として見ないのが暗黙のルールで、彼らの前で裸になろうが、風呂に入ろうが問題はない。が、それは表向きの話で実際は召使いを性的な目で見る主もいる。
だが今回は彼女がそういう目でビャクヤを見ているわけではないのだ。逆にビャクヤが裸になるエストを性的な目でみてしまうかもしれない。
(ご褒美ッ! これは神がポロリと零したご褒美の雫ッ!)
ビャクヤはロリコンというわけではないが、やはりそこは性欲持て余すセブンティーン。女子の裸を見れるチャンスがあるなら、見ておきたいのだ。
「わかりまんしたッ! エスト様が気になさらないのであればッ! 洗わせていただきまんもすッ!」
ビャクヤは仮面に清々しい笑顔を作ってエストの要望を承知した。
「ちょっと! ビャクヤ! いくらなんでも女の子の体を洗うなんて・・・。エストは何歳なの?」
「十二歳だ。それがどうした」
エストは両手を挙げて厚手の服をビャクヤに脱がさせている。そしてあっという間に全裸になってしまった。
「だ、駄目だよ、ビャクヤ」
子供とはいえ自分たちと五歳しか離れておらず、エストの膨らみかけの胸と股間に僅かに生える陰毛が生々しいのでリンネはビャクヤを止めようとした。
「私が良いと言ってるのだ、レッサーオーガ」
レッサーオーガと呼ばれてリンネはカチンとくる。自分は人間族でありオーガの亜種ではないという自覚があるからだ。
「リンネよ! リンネ・ボーン。これでも貴方と同じ貴族。それなりの敬意を払ってもらえると嬉しいのだけど」
「オーガであろうが、何であろうが名声無き貴族は、平民も同然。どうせ貴様は下級貴族なのだろう?」
「ぐぅ」
平民の兵士よりも一つ上なだけの―――、辛うじて貴族である下級騎士の子リンネは、それ以上何も言えなかった。武功を上げても他人にそれを譲ってしまう我が父親は、一般的な名声こそあれど、実質的な貴族としての名声や特典は無きに等しい。
「カカカ。さて、私はリンネとの口喧嘩にも勝った。この場を仕切る権利は得たとみて良いだろう。まずは据えた匂いのする下半身を洗え、ビャクヤ」
「ハハッ! えっ!」
一度頭を下げてから、ビャクヤは仮面に驚きと興奮を交えた表情を浮かび上がらせて、エストを二度見する。
「いいのですか? 姫様。吾輩のような下郎にそこまでさせてッ!」
「はて? 下郎だと? お前の所作には一々高貴なものを感じるが? それになによりも・・・美しい」
「へ? 姫様はいつ吾輩の顔を見られたのですか?」
「お前が演説する私の前で、破廉恥な事に・・・・。そこのレッサーオーガとキスをしていた時だよ、魔人族」
ビャクヤはすぐさまエストから距離を取って退くと、リンネを守るように立った。
そして自分の祖父がするような道化師のお辞儀をする。
祖父であるナンベル・ウィンがこのお辞儀をする時は、基本的に相手を警戒して出方を見ようとする時だ。軽い挑発も含まれている。
「これはこれは、姫様。変身している吾輩を魔人族であると見抜きッ! 尚且つッ! 仮面のマイナス効果であるモザイクをも見通してしまうとはッ!」
「そう、構えるな。ここは魔人族とノームの滞在を許さぬ保守的な樹族国ではないのだ。お前がいる国は獣人の国リンクス。ビャクヤが魔人族とバレたところで何が問題だろうか?」
「そこが問題ではないのです、姫様。吾輩の素顔を見る事ができる者は、この世にそう多くはありません。真実を見通す目を持つ能力者か、たまに発動するキリマルの悪魔の目のみ。基本的に同じ力を持った者は、この世に二人と存在しません。能力者が死なない限り、神の恩恵たるその”能力“は他者に移らないからです。そして、吾輩は真実を見通す目を持つ者を知っているし、彼女は今も生きているッ!(多分)」
「同じ能力者が二人と存在しないという確証は? この不確かであやふやな魔法の星で、絶対という言葉は意味を持たないぞ?」
そう言われてビャクヤは返す言葉がなかった。確かに何でもありのこの世界で、確かな事は何一つない。幼き頃に聞いた神本人の話では、星の国――――、地球では因果律に沿った結果が現れる。
しかしこの星はそうではない。先ほども精霊とかいう存在がタライに水を満たしたではないか。そもそも精霊とはなにかすら、はっきりとしていない。
(この少女は本当に十二歳なのかッ? 一体どれだけの苦労を積み重ねればッ! このようにしっかりとした考え方になれるのかッ!!)
「ほれ、呆けてないでこちらに、もそっと来い。そして腕を差し出せ」
取り敢えずエストに悪意や敵意がないとわかったので、ビャクヤは警戒しつつも腕を出した。その腕にエストは石鹸を塗りたくると、跨いで腰を動かし始める。
「んっ・・・。お前の腕は肌のきめが細かくて、毛が無いから気持ちいい」
人前で堂々と自慰行為をする少女にビャクヤは静かに興奮したが、同時に背後のリンネの嫉妬が気になった。
ビャクヤは恋人に何か言われる前に言い訳をする。
「吾輩はッ! なにもしておりませんぬッ!」
「わかってるわよ。体を洗ってあげてるだけでしょ。そこを洗うにはヘチマだと痛いものね。タオルや手ぬぐいを用意してなかったから、ビャクヤの絹みたいな肌だと丁度いいかもね! ふん」
あからさまに怒っているが、これ以上の性的な進展はないと知っているので、リンネは我慢してくれているのだとビャクヤは思った。
そして早くエストの体を洗ってしまおうと股から腕を離すと、石鹸を手に付けて泡立てながらビャクヤは考える。
(エスト、エスト・・・。そういえばどこかで聞いた名前だッ! どこだったか・・・。ああ! そうだッ! 確かフラン様と共にモティ神聖国の法王を弾劾した聖騎士の名! まさか・・・!)
ビャクヤは動揺を隠しつつも、泡立てた石鹸でエストの体を撫でて汚れを落としていく。
(確か、若い頃に家を飛び出して以来、聖騎士になるべく修行をしていたと聞いていたが、まさかッ! 人前での自慰行為を恥ずかしい事だと気づいていないこの少女がッ! 未来のッ! 聖騎士なのかッ!? 恐らく吾輩はッ! ヒジリ様の噂を聞いて、聖騎士を志した当初の聖騎士見習いエストと遭遇してしまったのだ!)
ビャクヤは驚きの感情の他に、自分の気持ちを萎えさせる要因がある事に気が付いた。
(吾輩は歴史に深く関与しているのではないかッ?)
ビャクヤの背筋が凍る。時間を越えて歴史に関与した人物は、悲しい出来事に遭遇したり、とてつもない苦労をするからだ。
身近な存在では祖父の配下でもあった、自由騎士のヤイバ・オオガ・フーリーだ。
現人神ヒジリとツィガル帝国鉄騎士団団長、鉄壁のリツとの間に生まれた神の子。そのヤイバは過度のファザコンだったとも言われている。
彼は死ぬ運命にあった愛する父親を救おうと、虚無魔法で時空を曲げて何度も過去に飛んでいたらしい。
しかし失敗も多かったと聞く。過去に飛んだ結果、何度も父親が死ぬ場面を見る事となり、その度に心に闇を蓄積させていった。
星のオーガ(地球人)の物語は必ずと言っていいほど悲しい結末を迎えている。世界各地で歴史に名を遺す彼らは自己犠牲の末にいつも死んでしまうのだ。
リンネの国の伝承に残る星のオーガも人間族をあの島に導いた後、民を悪魔から守る為に相打ちとなって死んでしまった。
現人神ヒジリもその例外ではなかった。
サカモト神と共に消えた邪神が再びこの世に現れ、世界最強の存在であるヒジリを、人類への見せしめにするために倒そうとしたが、ヒジリとウメボシによる自爆攻撃によって倒されている。その父親を救おうとヤイバは未来からやってきて、やはり救出に失敗・・・。
(ん? そうだったかな? ヒジリ様はヤイバ様に助けられたのではなかったかッ? おかしい、最近記憶があやふやだッ! まだ老人ボケをする歳でもないのにッ! いやッ! そんな事はどうでもいいッ! 吾輩は今ッ! 歴史に深く関与しようとしているッ! もし彼女が後の聖女エストならばッ! 関わったが最後ッ! 吾輩は時代の波に飲まれてッ! ヤイバ様のようにッ! 心に闇を積み重ねてしまうかもしれないッ! 下手をすればリンネを失う可能性もあるッ! 何とかしてエストから距離を置かねばッ!)
焦るビャクヤとは裏腹に、エストはビャクヤの手の気持ち良さに恍惚の表情を浮かべていた。
樹族に変身しているビャクヤを見て、何人かの獣人は牙を見せて唸っているが、ビャクヤは気にせずに涼しい顔で流している。
「大変心苦しいのですが、姫様。我らの残り少ない資金ではここに泊るのが精いっぱいなのです。今日はこの小さな宿屋の相部屋で我慢してください」
「うむ。構わぬ」
ツンと鼻を高く上げてエストは部屋に入るなりベッドに座り、脚を上げて靴を脱がせろとビャクヤに無言で命令する。
ビャクヤは気にした様子もなく、跪くとエストのボロボロになった革のブーツを脱がせた。
「うおっぷ! 姫様、ブーツを脱いだのは何日ぶりですかな?」
「一週間ぶりだ。それがどうした」
「少々匂いが・・・。お風呂はいつ入られましたかな?」
「同じく一週間入っていない」
ツーンとすえた足の臭いに、リンネが小さな声で「消臭の魔法があればよかったのにね」と呻いてよろめいた。
「では、姫様。これから湯浴みでもしましょう。体を洗えば、この激臭から開放されッ! 気分もスッキリしますぞッ! これ、そこなもの! ・・・えぇっと。君は確か・・・リンネくん、だったね? 金ダライに水を入れてきてくれたまぃ」
「なんで私が・・・。ってか、なによ。その他人行儀な言い方」
拗ねるリンネにビャクヤはウィンクをしている。
恋人はエストとの主従ごっこを楽しんでいるのだと解り、リンネはやれやれと肩をすくめて、部屋の隅に立てかけてある行水用のタライを寝かせた。
それからワンドを取り出して、水の精霊を召喚する。
「すぐ外に井戸があって良かったね。ウンディーネがそこにいたわ」
精霊は姿を現すことなく、タライに水を満たした。
ビャクヤは何もない空間に手を突っ込んで、無限鞄からミトンを取り出すと、すぐに手にはめて、もう一度鞄の中を探る。
「確かサラマンダー石の欠片があったはず・・・」
「え? そんな貴重なもの、持ってたんだ? 使っちゃっていいの?」
「貴重ですが、使わないと意味のない石ですからねぇ。ああ、あった。あちちち! ミトンを装着していても熱い」
ビャクヤは小さなサラマンダー石を掴むとタライの中に入れる。石は水の中で真っ赤に光ってブクブクと泡を出して水をお湯に変えていった。
サラマンダー石は水をお湯に変えると綺麗に消えてしまい、ビャクヤはミトンを無限鞄にしまうと指で温度を計る。
「ふむ、丁度いいッ! では、リンネ君。彼女の体を洗ってやっておくんなましッ! バイトで貰った石鹸もまだ残っているだろうしッ! あと、ウンディーネには床に水を零さないように言っておいてくれメンスッ! ではッ!」
ビャクヤは自分の仕事はもうないとばかりに部屋から出て行こうとしたが、エストがそれを許さなかった。
「お前が私の体を洗え。ビャクヤ」
「えっ? しかしッ! 吾輩は男ですぞッ! 裸を見られるのは恥ずかしいのではッ!?」
「問題ない。貴様は召使いだからな。召使いは召使い。男でも女でもないのだから」
基本的に召使いを性の対象として見ないのが暗黙のルールで、彼らの前で裸になろうが、風呂に入ろうが問題はない。が、それは表向きの話で実際は召使いを性的な目で見る主もいる。
だが今回は彼女がそういう目でビャクヤを見ているわけではないのだ。逆にビャクヤが裸になるエストを性的な目でみてしまうかもしれない。
(ご褒美ッ! これは神がポロリと零したご褒美の雫ッ!)
ビャクヤはロリコンというわけではないが、やはりそこは性欲持て余すセブンティーン。女子の裸を見れるチャンスがあるなら、見ておきたいのだ。
「わかりまんしたッ! エスト様が気になさらないのであればッ! 洗わせていただきまんもすッ!」
ビャクヤは仮面に清々しい笑顔を作ってエストの要望を承知した。
「ちょっと! ビャクヤ! いくらなんでも女の子の体を洗うなんて・・・。エストは何歳なの?」
「十二歳だ。それがどうした」
エストは両手を挙げて厚手の服をビャクヤに脱がさせている。そしてあっという間に全裸になってしまった。
「だ、駄目だよ、ビャクヤ」
子供とはいえ自分たちと五歳しか離れておらず、エストの膨らみかけの胸と股間に僅かに生える陰毛が生々しいのでリンネはビャクヤを止めようとした。
「私が良いと言ってるのだ、レッサーオーガ」
レッサーオーガと呼ばれてリンネはカチンとくる。自分は人間族でありオーガの亜種ではないという自覚があるからだ。
「リンネよ! リンネ・ボーン。これでも貴方と同じ貴族。それなりの敬意を払ってもらえると嬉しいのだけど」
「オーガであろうが、何であろうが名声無き貴族は、平民も同然。どうせ貴様は下級貴族なのだろう?」
「ぐぅ」
平民の兵士よりも一つ上なだけの―――、辛うじて貴族である下級騎士の子リンネは、それ以上何も言えなかった。武功を上げても他人にそれを譲ってしまう我が父親は、一般的な名声こそあれど、実質的な貴族としての名声や特典は無きに等しい。
「カカカ。さて、私はリンネとの口喧嘩にも勝った。この場を仕切る権利は得たとみて良いだろう。まずは据えた匂いのする下半身を洗え、ビャクヤ」
「ハハッ! えっ!」
一度頭を下げてから、ビャクヤは仮面に驚きと興奮を交えた表情を浮かび上がらせて、エストを二度見する。
「いいのですか? 姫様。吾輩のような下郎にそこまでさせてッ!」
「はて? 下郎だと? お前の所作には一々高貴なものを感じるが? それになによりも・・・美しい」
「へ? 姫様はいつ吾輩の顔を見られたのですか?」
「お前が演説する私の前で、破廉恥な事に・・・・。そこのレッサーオーガとキスをしていた時だよ、魔人族」
ビャクヤはすぐさまエストから距離を取って退くと、リンネを守るように立った。
そして自分の祖父がするような道化師のお辞儀をする。
祖父であるナンベル・ウィンがこのお辞儀をする時は、基本的に相手を警戒して出方を見ようとする時だ。軽い挑発も含まれている。
「これはこれは、姫様。変身している吾輩を魔人族であると見抜きッ! 尚且つッ! 仮面のマイナス効果であるモザイクをも見通してしまうとはッ!」
「そう、構えるな。ここは魔人族とノームの滞在を許さぬ保守的な樹族国ではないのだ。お前がいる国は獣人の国リンクス。ビャクヤが魔人族とバレたところで何が問題だろうか?」
「そこが問題ではないのです、姫様。吾輩の素顔を見る事ができる者は、この世にそう多くはありません。真実を見通す目を持つ能力者か、たまに発動するキリマルの悪魔の目のみ。基本的に同じ力を持った者は、この世に二人と存在しません。能力者が死なない限り、神の恩恵たるその”能力“は他者に移らないからです。そして、吾輩は真実を見通す目を持つ者を知っているし、彼女は今も生きているッ!(多分)」
「同じ能力者が二人と存在しないという確証は? この不確かであやふやな魔法の星で、絶対という言葉は意味を持たないぞ?」
そう言われてビャクヤは返す言葉がなかった。確かに何でもありのこの世界で、確かな事は何一つない。幼き頃に聞いた神本人の話では、星の国――――、地球では因果律に沿った結果が現れる。
しかしこの星はそうではない。先ほども精霊とかいう存在がタライに水を満たしたではないか。そもそも精霊とはなにかすら、はっきりとしていない。
(この少女は本当に十二歳なのかッ? 一体どれだけの苦労を積み重ねればッ! このようにしっかりとした考え方になれるのかッ!!)
「ほれ、呆けてないでこちらに、もそっと来い。そして腕を差し出せ」
取り敢えずエストに悪意や敵意がないとわかったので、ビャクヤは警戒しつつも腕を出した。その腕にエストは石鹸を塗りたくると、跨いで腰を動かし始める。
「んっ・・・。お前の腕は肌のきめが細かくて、毛が無いから気持ちいい」
人前で堂々と自慰行為をする少女にビャクヤは静かに興奮したが、同時に背後のリンネの嫉妬が気になった。
ビャクヤは恋人に何か言われる前に言い訳をする。
「吾輩はッ! なにもしておりませんぬッ!」
「わかってるわよ。体を洗ってあげてるだけでしょ。そこを洗うにはヘチマだと痛いものね。タオルや手ぬぐいを用意してなかったから、ビャクヤの絹みたいな肌だと丁度いいかもね! ふん」
あからさまに怒っているが、これ以上の性的な進展はないと知っているので、リンネは我慢してくれているのだとビャクヤは思った。
そして早くエストの体を洗ってしまおうと股から腕を離すと、石鹸を手に付けて泡立てながらビャクヤは考える。
(エスト、エスト・・・。そういえばどこかで聞いた名前だッ! どこだったか・・・。ああ! そうだッ! 確かフラン様と共にモティ神聖国の法王を弾劾した聖騎士の名! まさか・・・!)
ビャクヤは動揺を隠しつつも、泡立てた石鹸でエストの体を撫でて汚れを落としていく。
(確か、若い頃に家を飛び出して以来、聖騎士になるべく修行をしていたと聞いていたが、まさかッ! 人前での自慰行為を恥ずかしい事だと気づいていないこの少女がッ! 未来のッ! 聖騎士なのかッ!? 恐らく吾輩はッ! ヒジリ様の噂を聞いて、聖騎士を志した当初の聖騎士見習いエストと遭遇してしまったのだ!)
ビャクヤは驚きの感情の他に、自分の気持ちを萎えさせる要因がある事に気が付いた。
(吾輩は歴史に深く関与しているのではないかッ?)
ビャクヤの背筋が凍る。時間を越えて歴史に関与した人物は、悲しい出来事に遭遇したり、とてつもない苦労をするからだ。
身近な存在では祖父の配下でもあった、自由騎士のヤイバ・オオガ・フーリーだ。
現人神ヒジリとツィガル帝国鉄騎士団団長、鉄壁のリツとの間に生まれた神の子。そのヤイバは過度のファザコンだったとも言われている。
彼は死ぬ運命にあった愛する父親を救おうと、虚無魔法で時空を曲げて何度も過去に飛んでいたらしい。
しかし失敗も多かったと聞く。過去に飛んだ結果、何度も父親が死ぬ場面を見る事となり、その度に心に闇を蓄積させていった。
星のオーガ(地球人)の物語は必ずと言っていいほど悲しい結末を迎えている。世界各地で歴史に名を遺す彼らは自己犠牲の末にいつも死んでしまうのだ。
リンネの国の伝承に残る星のオーガも人間族をあの島に導いた後、民を悪魔から守る為に相打ちとなって死んでしまった。
現人神ヒジリもその例外ではなかった。
サカモト神と共に消えた邪神が再びこの世に現れ、世界最強の存在であるヒジリを、人類への見せしめにするために倒そうとしたが、ヒジリとウメボシによる自爆攻撃によって倒されている。その父親を救おうとヤイバは未来からやってきて、やはり救出に失敗・・・。
(ん? そうだったかな? ヒジリ様はヤイバ様に助けられたのではなかったかッ? おかしい、最近記憶があやふやだッ! まだ老人ボケをする歳でもないのにッ! いやッ! そんな事はどうでもいいッ! 吾輩は今ッ! 歴史に深く関与しようとしているッ! もし彼女が後の聖女エストならばッ! 関わったが最後ッ! 吾輩は時代の波に飲まれてッ! ヤイバ様のようにッ! 心に闇を積み重ねてしまうかもしれないッ! 下手をすればリンネを失う可能性もあるッ! 何とかしてエストから距離を置かねばッ!)
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