殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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消えたノート

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 驚いてゲップを吐くキリマルに対して、コズミックノートは特に反応もせず次の質問を待っている。

 カナとミドリのその後まで教えるというサービスをしたのだ。もうこれ以上は無いといった態度でノートは静かに羽ばたいて浮く。

「キリマルに家族がいたなんて驚きだな。っと、次は俺か」

 最後の質問者であるブラックは鼻の頭を掻いて恥ずかしそうにした。

「へへへ。俺はもう願いが叶ったからよ、ここまで俺たちをサポートしてくれたキリマルに感謝を籠めて、質問の権利を譲るわ。確か自分が何者か知りたがっていたよな?」

 それを聞いた他のパーティーメンバーが、粋な事をするブラックの肩を笑顔でバシバシと叩いていた。

「お前だけ良い子ちゃんすんなよ、らしくもないぞ! ガハハ!」

 イエローが背中を叩くと、トトっとよろけてブラックは振り向いて笑顔で返す。

「俺はよ、ダイヤを売った金で没落した自分の一族の再建を目指すんだ。その夢に近づけたのも、全てはキリマルのお陰。キリマルがいなけりゃ俺たちは、とっくのとうに全滅していたかもしれねぇ。でもそうはならなかった。いきなり虹色の閃光の前に現れた、この悪魔は俺を蘇らせて、更にひねくれて腐った心に光と希望をもたらしてくれたんだ。感謝の気持ちしかねぇよ!」

「やめろ、気持ち悪い。褒めるな。俺は憎まれ口をたたかれる方が性に合っているんだよ。まぁでも、お前が権利をくれるというならよ。俺は遠慮せず貰うぜ?」

「ああ! ぜひ受け取ってくれ! コズミックノートさんよ! 俺はキリマルに質問の権利を譲るがいいよな?」

「問題ない」

「だそうだ、キリマル! さぁ! ばーんと質問しちゃってくれ」

「ではそうさせてもらうぜ。おい、コズミックノート。俺はどうしてこの世界に生まれた? 誰が生んだ?」

 そう質問した途端に、無限にページがあるのかと思えるほどコズミックノートは激しくページをめくり始めた。

 そして虹色の閃光の姿がまるで、波にさらわれて波濤の彼方に消えるかの如く、遠く離れて小さくなっていった。

 世界は暗くなってコズミックノートは俺と向き合っている。他の連中はどこいった?

 闇の中でくっきりと浮かび上がるコズミックノートは、ページをめくるのを止めると、ハァとため息をついた。

「全ての元凶はアヌンナキにあり。アヌンナキが悪戯に生みし我が半身は、今も遠い宇宙のどこかで身を隠して物語を紡いでいる。宇宙を紡ぎし、あれの名はコズミックペン。かの魔法のペンが書いた内容は全て、我が身に浮き上がり、この世界を形作る」

 突然わけのわからない事を喋り始めたコズミックノートを見て、俺は奴が狂ったのかと思いアマリと金剛切りを構える。

「なんだ? バグっちまったか?」

「そうではない。少し取り乱しただけだ・・・。まさかその質問が、物語の主人公の一人からされるとは思わなかったのでな」

「物語の主人公? 何の事だ」

「先ほども言ったように、この世界は我が半身が作り出している。やつは我やQ、アヌンナキから逃げて思うがままに、自由に、今も世界の物語を書きなぐっている」

「は? じゃあ俺たちはコズミックペンの生み出す、妄想だとでもいうのか?」

「さよう。それは汝やこの宇宙に限らず。数多ある世界のいくつかは何者かが作り出した妄想や、箱庭の中。そもそも宇宙自体、誰かの体の中にある無数の小さな世界。その中に生きる人々の中にも宇宙はある。箱の中に箱が無限にあるようなものだ。そしてこの宇宙は、その仕組みを理解したウンモが作りだしたシミュレート世界。そこに生まれたアヌンナキ星人は、宇宙を生み出したウンモの持つ知識に追いつこうとし、我と半身を生み出した。アヌンナキは宇宙を作り出す前に、まず既にある宇宙を新たに作り変えようとしたのだ」

「これまたスケールのデカい話になってきたな。この世界には物語の主人公が何人かいるのか?」

「悪いが時間が無くなってきた・・・。奴の邪魔をしている事を気付かれた」

 徐々にコズミックノートの羽ばたきが遅くなっている。

「邪魔? おめぇは、今すぐにでも消えそうな雰囲気だな。最後に教えてくれ、俺は何のために生まれた?」

「汝が生まれた理由は・・・、あるにはあるがいずれ分かる。それはコズミックペンの思いつきともいえるだろう・・・。お前はページの上の虫のような存在・・・。それから・・・」

 やはりコズミックノートは融通の利く性格をしている。まだ何かを話してくれるようだ。奴は疲れたような声で俺の名を呼んだ。

「キリマル・・・」

「なんだ?」

「汝の進む道は他の特異点たちよりも暗く悲惨である。そして汝はどの特異点たちよりも、物語の根幹に関わっており、その双肩に全ての運命を押し付けられる」

「なんでそんな事を教える?」

「これは・・・、無責任なアヌンナキとコズミックペンに対する、少しばかりの反抗だ。物語の主人公に抽象的な未来を教えるという嫌がらせ。・・・聞け、キリマル。汝が心の底で愛おしく思っている美しき子孫は、いずれQの目に留まる。あの美貌はQを、街灯の羽虫の如く引き寄せるのだ。もし汝が愛する子孫を失いたくないというのであれば・・・」

 そこで暗かった世界に光が戻ってくる。コズミックノートが、表示限界を超えたゲーム画面のキャラクターのように点滅し始めた。

「おい! ゴラァ! 最後まで言え! 気になるだろうがよ! Qとはなんだ! 何者だ!」 

 俺の呼びかけと同時に、遠くから小さな豆粒のような虹色の閃光のメンバーが、急速に近づき大きくなる。
 
 現実世界に戻ってきたのだ。いや、もしかしたら意識だけがどこかに行っていたのだろうか? だが向こうの世界ではアマリも金剛切りも俺の手の中にあった。

 という事は俺は最後の質問をしている間、どこか別の場所にコズミックノートと共にいたのだろう。それがどこかは知らねぇがよ。

「ど、どうした? キリマル。急に刀を構えてからはずっと黙って・・・」

 ブラックが二刀流の構えのまま固まっている俺に、恐る恐る声をかけてきた。

「・・・」

 俺はブラックをチラリと見てから刀を鞘にしまい、また考えに耽る。

 美しき子孫とはビャクヤの事だ。ではビャクヤに魅了されるQとは女か? いや、ビャクヤは男も魅了する。

 くそ、Qとはナニモンだ・・・。きっと悪魔よりもろくでもねぇ存在なんだろうがよ・・・。

「あれ? コズミックノートが消えた! いないぞ! まだキリマルの質問がまだ終わってねぇのに!」

 ドン太郎がコズミックノートのあった場所でキョロキョロとしている。そりゃいねぇだろうな。奴は随分とサービスして質問に答えてくれた。

 俺の背筋に冷たい汗が流れ落ちる。

 ビャクヤがミドリの子孫だったことは正直驚きだがよ、それ以上に俺が宇宙の大きな渦の流れに、既に飲み込まれている事が気に入らねぇ。

 正直言うと、あのノートが実は大法螺吹きの、いんちきインテリジェンスアイテムである事を願っている。

 俺はただ人を殺し、その悲鳴を聞いて喜びに打ち震えながら生きていたいだけなんだわ・・・。めんどくせぇ事には関わりたくねぇな。
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