殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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信仰心を失ったビャクヤ

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 ドワーフと同じくらい長生きな種族であるノームの顔に沢山の皺が寄る。

 険しく顔に皺を寄せるナビにたじろぎながらも、ビャクヤは考察する。その視線の先は老婆の手の中にある何かのスイッチだ。

(ナビさんはッ! アンデッドを召喚するのに魔法の機械を使ったッ! それなのにッ! マナが流れ動いた気配は全くないッ! 召喚士の脳みそを使ったと言っていたが、あれは恐らく嘘だろうッ! 脳みそを使ったところでマナの動きはあるッ! ノームは樹族ほどではないが、それなりに魔力がある種族だッ! なぜ召喚魔法に機械が必要なのかッ! もしこの図書館を守るのが目的なのであれば、長い寿命の間に召喚士になれたはずだ。彼女の能力が召喚術に向いていなかった? いやそれはない。言っては悪いが、召喚士はスペルキャスターの中でも、能力値をあまり必要とはしない職業ッ! ノームであれば簡単に目指せるはずだッ! それにさっきの頭の悪いオーガを転送した際にも機械を使ったッ! 魔法点を節約をしているのならばッ! 最初から魔法の得意な悪魔でも召喚すればいいはずだッ!)

 脳内で考えを早口でまくしたてる自分の声を聞きながら、ビャクヤは記憶の片隅でヒジリの教えてくれた知識が頭をもたげ始めたる。

(忌々しいッ! あんな神の知識などッ!)

 理不尽に殺され、蘇生も叶わず、死んだ後にも家族に冷たい対応をされた国境騎士の顔を思い浮かべて、ビャクヤは静かに怒った。

 しかしそんな怒りとは裏腹に、捨てた神が与えてくれる知識はどんどんと脳内で鮮明になっていく。

 ―――アルケディアには地下図書館があり、そこにはホログラムの老婆がいる。読みたい本のジャンルを言えば、すぐに本のある場所を教えてくれるのだ。なぜそんな非効率的な検索システムにしたのかは理解しかねるがね。あの地下図書館を作ったサカモト博士は変わり者だ。フフフ。

(キリマルが、いつもヒジリの声はシャアにそっくりだったと言っていたが、シャアとは一体誰だろうかッ? あの囁くような優しい声はッ! 今の自分にとってはッ! 怒りを蓄積させるだけの雑音でしかないッ!)

 垂れた瞼の奥からこちらを睨む老婆に早く返答をしなければと思いつつも、ビャクヤは記憶を掘り起こす事に必死だった。

(ほろぐらむ・・・。ホログラムとはなんだったか! 確か吾輩は尋ねたはずだ! そして説明を聞いたが当時の幼い頭では理解できなかった・・・。ただ覚えているのは、それは幻のようなものだということ・・・。仕方がないッ! 一か八かッ!)

「はい、知っています。ですがッ! 吾輩はその本を所有していませんッ! 西の大陸と東の大陸の間ッ! 暗黒大陸の北にあるッ! ニムゲイン王国にて! それを見ました!」

 ビャクヤは正直に話した。

 普段は嘘ばかりついて飄々としているが、今回は正直に本の在処を話したのでリンネは驚く。

「てっきり嘘で、ナビさんを煙に巻くのかと思ってたけど・・・」

「そうしたかったのですが、彼女には嘘が通用しないような気がしましてッ! なにせサカモト神と関わりのある方のようですしッ!」

「ああ、あんたはいい子だねぇ。お蔭で本のある場所が特定できたよぉ。大昔に、樹族が星に張り巡らせたあの忌々しい地球人避けバリアは、我らの能力を阻害するからねぇ。外からも内からもね」

 ビャクヤは老婆の話を聞いてとあることに気が付いた。

 ゴデの街で、僅かに時を操る暗殺者に狙われたヒジリは、その直前に随分と苦しそうだった。

(あれはそういう事だったのかッ! だが! 神を捨てた今となってはッ! もうどうでもいい事だッ!)

「だから本に付いている追跡コードを読み取るのも一苦労さね。でも少しの情報さえあればそれも容易になる。ありがとうよ、魔人族の坊や」

 次の瞬間、老婆の手にはニムゲイン王国の書庫にあるはずの召喚術の本があった。

「勿論、これの内容はデータにもしてあるんだよ。だがね、こういった手作りの本っていうのは、書き手の想いや念みたいなものが染み込んでいて、それらが読み手の心をより躍らせ、喜ばせ、悲しませ、怒らせたりするのさ。あたしゃにとって本は、人の感情が沢山詰まった思い出みたいなもんさね。その思い出を盗むなんてとんでもない事だぁよ! もし坊やが嘘をついていたならば! 今頃あんたは盗人の代わりに、で水と臭い粘液の塊になっていたところだよ。ヒッヒッヒ。でもあんたはそうせず正直に話した。偉いねぇ、魔人族の坊や」

「魔人族?」

 エストが不思議そうな顔をするので、ビャクヤはすかさず彼女の耳元で囁いた。

「彼女は耄碌しているのですッ! あまり気にしないようにッ! ペロッ!」

「ファッ!」

 囁きの終わりにビャクヤが悪戯で耳を舐めたのでエストは怒って、彼のマントに守られていない無防備な足を踏んだ。

「イギッ! さて、ナビさん。我々はここに来た目的を果たしてよろしいですかな?」

 足を踏まれたビャクヤは、やせ我慢をしてナビに話しかける。

「ああ、そうだね。情報をくれた報酬を支払わないとね。あんたが探している本は昇降機の近くの本棚の上から三段目にあるよ。赤い本はその棚に一つだけだからすぐに見つかるはずさ。勝手に行って好きなだけ読んでおいで」




 俺の横で、ガノダがヤスリで爪を研ぎながら石の上に座った。

「ワンドリッター領に入った途端、二回も車輪が壊れるとはね。もう予備はない。今日中にレオンの国境まで行けると思っていたが、急に暇ができてしまった。我々は実に運が良いよ。この調子だとワンドリッター城まで歩いて行って、ソラス卿に挨拶する時間がありそうだ。君も会いたいだろう? 王の盾の娘殿」

 ガノダがステコとシルビィに皮肉を言って、車輪の前で佇む御者と従者たちを見る。

 ステコはそんな彼の横で澄ました顔で石に座って、革袋から水を飲んだ。

「神に祝福されているならもっといい事が起きるぞ、ガノダ。すぐ隣はブラッド辺境伯の領地だ。しかもここは霧の魔物が頻繁に出る平野に近い。運が良ければ霧の魔物を見られるかもしれないな」

 ステコの仕返しに、ガノダの目が泳ぐ。

「止めろ、ステコ。言葉には魔が宿る。吐いた言葉が本当になるぞ! 私は昔霧の魔物を見た事があるんだ。父上の狩りのお供でな」

「何を見た?」

 俺は二人の会話に興味を持って話に加わる。

「スキュラだ」

「スキュラってのは・・・。確かタコだがイカだかの脚を持つ女の魔物だよなぁ?」

「そう、それだ」

 ガノダは顎の脂肪を震わせて真剣な顔をしたので、俺は可笑しくて笑った。

「クハハ! ありゃあお前。海の魔物だろ? 海の無い樹族国では陸に上がった魚みたいなもんじゃねぇか」

「だがスキュラは父上の家来の一人をその長い触手で掴み、人質にして影のように森に消えていった」

「ほぉ。やるな。で、騎士は餌となり、スキュラは干からびて死んだってオチか?」

「それは私にもわからない。捜索隊を出したが魔物と家来は結局行方知れず。その後スキュラを見た者もいないし被害者はその家来の騎士一人だけ」

「じゃあ俺の言ったとおりになったんだろうな。面白い話だったが、いつまでここで立ち話をしているつもりだ?」

「これは本当に君の城に行く事になりそうだな? ステコ。君の大嫌いなソラス卿に、哀れな物乞いのような顔をして、馬車の車輪を一つ下さいと泣きつきに行くか?」

「まさか」

 この坊ちゃん二人を放っておくと、永遠に皮肉合戦をしていそうだと思ったシルビィが、提案を出した。

「街道沿いに住む農家に、車輪を売ってもらおう」

「そこまで誰が行く? 従者か? 私の従者はダメだ。私の世話をする者がいなくなるからな。ガノダ。君のを頼む」

「嫌だね。恥ずかしい話だが、私は自分の尻も拭けないほど太っている。従者なしでは生きていけない」

「よく騎士になれたな。親の七光り! ムダン卿に乾杯!」

 ステコが芝居じみた動きで水の入った革袋を掲げて飲んだ。

「父を侮辱するなよ。私は君と違って父とは仲が悪くはない」

「いい加減にしろ。二人とも。誰か【軽量化】の魔法を持つ者は?」

 シルビィは魔法が使えない俺以外のスペルキャスターを見た。

 樹族国の者は獣人以外の殆どが、多かれ少なかれ何かしらの魔法を覚えている。従者がすぐに首を振り、坊ちゃん二人もゆっくりと首を横に振った。

「あんなものは運送ギルドの管理者が覚えるものだろう? 倉庫の荷物を軽くして、荷物運び人足の負担を楽にするためのものさ。騎士は覚えない」

「では馬車に従者と御者を残して、我らが歩いて行くしかないな? ガノダ」

「なぜさ! シルビィ」

 ガノダは歩くのが嫌で不満げに顎を引いたので二重顎になった。

「ここいらはまだ北から冒険者や兵士の街道見回りが頻繁に来るから危険は少ない。だが南からの街道は見回りの空白地帯があって、御者や従者に行かせるのは危険だ。ワンドリッター領は横には栄えているが縦には栄えていない。リオンよりも、隣のブラッド領やムダン領との取引が盛んだからな」

「御者に馬で行かせればいいだろ!」

 食い下がる太っちょにシルビィはピシャリと言い返した。

「街道にロープを張る山賊もいる。それに君は少し歩いて痩せたほうがいいな。きっと男前になるぞ」
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