殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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街道での戦い

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 ひぃふぅ言いながら歩くガノダに振り返ってから俺は前方を指さした。

「ダイエットがてらの散歩は正解だったなぁ? ふとっちょ騎士様。騎士の典範に書いてある内容を実行する時がきましたぜ?」

 馬車の車輪を近くの農家で売ってもらおうと進んでいると、街道の先で獣人に囲まれている馬車とカーゴを見つけたのだ。

 汗を拭って嫌な顔をするムダン卿の息子に顎で行けと指図してから、俺はシルビィを見た。

「勿論、あの哀れな奴隷商人を助けるんだよな? 王の盾の娘殿」

「ああ。例えそれが、奴隷を良しとしないシュラス王の偉大なる啓蒙を聞き入れない愚か者でもな」

「シルビィ様は慈悲深き騎士のようで。だが啓蒙止まりで法整備をしていないのなら、奴隷商人を責める事はできませんな?」

 俺は貴族みたいな口調でふざけてそう言ったが、シルビィは真に受けて沈んだ顔をする。

「確かにな。味方の少ない我が王にはもっと同志が必要だ・・・」

「そいつ(ヒジリ)が現れるのまであと四十年かかる」

「?」

「なんでもない。ほら、行け。豚人の騎士とナナフシの騎士」

 躊躇して中々助けに行こうとしないステコとガノダの尻を鞘で叩いてから、俺とシルビィは奴隷商人の馬車に真っ直ぐ向かった。




「ええい、アホな獣人たちめ! お前たちの驚異的な身体能力も、魔法の前では無意味だ!」

 余裕の態度を見せる奴隷商人たちは【火球】や【切り裂きの風】で威嚇して獣人たちを翻弄する。

 攻撃魔法が脅しであるうちに獣人たちは接近を試みたが、目に見えない【物理障壁】に触れてしまい手を火傷し、【暴風】で後ろへ飛ばされてしまった。それでも獣人たちは諦めようとはしない。

「今日はやけにしつこいな。追いはぎなら魔法を見せれば逃げていくのに。お前らもしかして・・・」

 木の上から猫人が跳躍し、頭上を覆っていない【物理障壁】を飛び越えて、三人いる奴隷商人の一人の顔を引っかいた。

「うわぁ!」

 悲鳴と共に【物理障壁】の魔法が解け、攻撃を受けた奴隷商人は馬車から落ちた。

 猫人は魔法の反撃を受ける前に、素早く奴隷の乗るカーゴから離れて茂みに消える。

「どうだ? 獣人の爪は痛かろう? 一人は戦闘不能だな! 早く僧侶の祈りで癒さないと一生目が開かなくなるぞ! さぁ! 諦めて奴隷を置いていけ!」

「チィ! 【物理防壁】!」

 フードを目深に被った痩せた奴隷商人がワンドを振ると、半円形のバリアが馬車とカーゴごと包んだ。

「【物理防壁】は【物理障壁】と違って、魔法の壁に触れてもお前らは一切ダメージを負わないが、防御範囲が広く、その粗末な剣や、泥にまみれた汚い爪が我らに届くことはない」

「俺たち獣人解放同盟はしつこいぞ? その魔法効果が消え、お前たちの魔法点が費えるまで、いつまでも待ってやるさ」

 獅子人が持久戦をする覚悟を見せたその時、夕闇の街道から女騎士が現れる。

「やはり獣人解放同盟だったか・・・。お前はリーダーのトウバか?」

 シルビィが馬車に近づいて、威嚇するようにメイスを一回転させて獅子人を睨んでいる。

 睨まれた獅子人は彼女の質問には一切答えなかった。

「チッ! 街道見回りか? ここまでくるとはな・・・。ん? その盾の紋章は・・・」

 獅子人は予定が狂ったと思ったのか、少し焦っているように見えた。

「手出しは無用だ! 騎士! こいつらは俺がやる!」

 奴隷商が怒声を上げる。仲間をやられた事で怒り心頭のようだ。

「そうか。では手出しはしない。獣人解放同盟が、お前らの腹を爪で引き裂くまで黙って見ていよう」

 メイスを腰に戻すと木に寄りかかって、戦いを静観する事に決めたシルビィを見て、俺は笑う。

「クハハ! 中々意地が悪いな、シルビィ。じゃあ俺もそうするか」

「その言葉を信じていいのか? ウォール家の騎士!」

 獅子人はシルビィの中盾に付いている、盾と壁の紋章を見てすぐにウォール家の者だと認識したようだ。それから横にいる俺を見て、鼻に皺を寄せて牙を見せている。

(んだぁ? その顔は。その顔のまま頭を切り落として、剥製にして飾ってやろうか?)

「騎士の典範にかけて! 私は手出ししない!」

 ほう? だが俺はそんな典範には従っていねぇからよぉ、我慢ができなくなったら攻撃するけどな。

「よし! 誇り高き騎士と私は約束したぞ! さぁこい! 奴隷商人!」

「言われるまでもない。喰らえ! 【睡眠】!」

 特に派手なエフェクトがないせいか、ワンドを振った奴隷商人が間抜けに見える。

 奇妙な間が空いた後、六人いた獣人の半分が冗談のように地面に倒れて眠った。魔法の効果範囲内にいたカーゴの中の奴隷たちも全員眠ってしまっている。

「くそったれめ! 魔力の高いメイジが一人いるな。皆、眠り耐性の指輪を付けているのに」

 獅子人は必要以上に慌てているように見える。獣人どもはなんか企んでやがるな。

「ハ! 獣人は実に魔法に弱いな! だからいつまでたっても下層民なんだ。魔法もろくすっぽ使えない。使える奴がいても初心者レベルだ」

 いい気になっているな、奴隷商人は。お前の目の前にいた犬人はどこにいった? 眠りの魔法に三人が耐えたはずだろう? 今は獅子人と猫人の二人しかいないぞ?

「俺は今から石を投げるぞ? 奴隷商人! さっさと【弓矢逸らし】でも唱えるのだな! あれは自分自身にしかかけられないのだろう? 二人で詠唱したらどうだ?」

「その手に乗るかよ! 詠唱させて隙を作るつもりだな? お前が石を投げるよりも早く、俺は魔法を発動させることができるのだぞ! しかもこちらはメイジ二人だ。隙を与える間もなく交互に魔法を唱えるられる。このようにな!」

 ドーンドーンと音がして、咄嗟に猫人を庇った獅子人の背中に火球が当たった。

「ぐあぁぁ!」

「な? ハッハッハ!」

 奴隷商人は勝ち誇っているが、獅子人はしっかりとレジストしていて、火傷は大したことない。魔法抵抗を高めるマジックアイテムでも持ってんだろうよ。

 突然、ブンと音がして魔法防壁が消えた。

 隠れていた犬人が、大木槌で可能な限り素早く、力任せに魔法防壁を攻撃したのだ。魔法防壁は幾らかダメージを軽減すると消えてしまう。防御力を上げる魔法はまた別にある。なんだったかな、鉄の皮膚とかそんな名前だった思うが。

 魔法防壁が消えた途端に、獅子人と猫人があっという間に奴隷商人の懐まで入って、ワンドを壊してしまった。

「あ~。これは勝負あったな。助けねぇのか? シルビィ」

「奴隷商人の腹が引き裂かれるまで、私は動かないと誓った」

「無慈悲な騎士様ですなぁ」

「さっきキリマルは私の事を慈悲深き騎士と言ったぞ」

「【閃光】!」

 前触れもなく光魔法がカーゴの上で眩く光る。

「誰だ、空気を読まねぇアホは。この勝負、獣人側の勝ちだろ」

 魔法を放ったのはステコとガノダだ。光に照らされて高揚した二人の顔が闇の森に浮かんで見える。街道を真っ直ぐ歩いて来ずに、警戒しながら街道脇を来やがったな?

 ニコニコと笑う坊ちゃん二人が、暫く敵の視力を奪う光魔法【閃光】を使って、夜目の利く獣人たちの視界を奪ったのだ。

「やったぞ!」

 なにが「やったぞ!」なのかはわからないが、奴隷商人たちも目を光に焼かれたようだぞ。まぁ獣人よりは早く回復するだろうが今は無力だ。

「で? 早く獣人たちを捕えたらどうだ?」

 俺はステコとガノダの活躍を待った。しかし二人は顔を見合わせた後、ステコが肩を竦めた。

「もう・・・。ない。補助魔法と強化魔法に、魔法点を使い過ぎたからだ・・・」

 どんだけ怖がりなんだ。

「じゃあどうするんだ? あ?」

「サー・キリマル・何某が、獣人をなんとかしてくれるはず!」

 ガノダが両手を合わせて、祈るようにして俺を見ている。

「俺は騎士じゃねぇ。お前の皮肉はつまらないから駄目だ。金をくれればやる。幾ら出す?」

「君はチームリーダーだろ。タダでやりたまえよ!」

 ステコが野次を飛ばした。

「仕方ねぇな」

 俺たちの会話を聞いていた獅子人が目を押さえてよろめきながら叫ぶ。

「なんだ? やるのか?樹族の臭いがしない背の高い樹族よ! お前の声は聞こえているぞ! 音と気配だけでお前のいる場所を見つけて、喉を食い破ってやる!」

「おお怖い! だがな、吐いた唾は飲み込めねぇぞ? お前は俺様を挑発してしまった! 喧嘩を売ったんだ。俺は買うからな」

「殺すなよ、残虐なるキリマル! 獣人解放同盟の奴らは人質にするのだ! そいつらは獣人国リオンから来ている!」

 うるせぇな、シルビィは。指図するなよ。

「俺は殺しが専門だ。生かすやり方は難しい。やってもいいが、幾ら出す?」

「一人につき、銀貨一枚だ」

「安いがまぁいいだろう」

 そういや俺はでっかいダイアモンド持っているから、金なんて恵んでもらう必要なんてなかったんだわ。忘れてたな。

「おうおう! かかってこいや! 残虐なるキリマルとやら! 目が見えなくてもお前ぐらい殺せる!」

「そうかよ」

 俺は念のためスキルで気配を消して、獣人たちに近づいた。用心を忘れ、慢心すると失敗を招くからな。

「イッ!」

「ぎゃ!」

「ぶぇ!」

 三人の背後に忍び寄り、鞘で頭を叩いて脳震盪を起こさせると、俺は荷台にあったロープを坊ちゃん騎士二人に放り投げた。

「ほら縛れ。お前らに獣人解放同盟を捕まえたという名誉を譲ってやる」

「いいのかね!」

「後で取り消すとか言わないでくれたまえよ!」

 二人は目を輝かせながら獣人たちを縛っていく。しかし視界の戻った奴隷商人が喚いた。

「手出し無用だといっただろうが! それに誰だ! 俺達にまで【閃光】の魔法を食らわせた奴は! ぶっ殺してやる!」

 どことなくステコに似た痩せて背の高い樹族が、フードを下して憤慨した。

 その男の顔を見てステコは暫く驚いて動きを止めていたが、直ぐに意地の悪い貴族の顔になった。

「これはこれは、ワンドリッター家の汚点。一族から追放されたトメオ兄さんじゃないですか!」
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