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裏切り
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朝日がまだ低い時間に、俺はシルビィ達と中庭の奴隷たちを見て回っている。
獣人の多くは毛皮があるので野宿をしても平気だが、夜露に濡れて震える毛のない豚人らは、朝食に渡された温かい雑穀のかゆを有難そうに食べていた。
「奴隷も大変だな。屋根のある場所で寝させてもらえないのか」
「貴族の我らとて野宿をする」
シルビィの獣人への同情をガノダが打ち消して、魔法の触媒の数を数えていた。触媒は主に高度な魔法に使う。威力やイメージを増幅させる為に、多くのメイジが持っているが、触媒を使わないでも同様の威力の魔法を発動させる者もいるので、人によって持っていたり持っていなかったりだ。ビャクヤは触媒を時々必要としていたが、リンネは触媒を必要としなかった。
メイジでもねぇのに、魔法に徐々に詳しくなっている自分を心の中で自画自賛しながら、奴隷たちに奴隷印がしっかり付いている事を確認して俺は頷く。
「よし、全員奴隷印はしっかり付いていた。これで歯向かう奴はいねえだろう」
売れるまで奴隷印を付けて従順にさせておけば、昨日のような反乱は起きなかっただろうにと思ったが、奴隷印を付けるコストを考えたら、レバシュがするわけねぇか。墨代と印付け作業だけで昨日渡したクズ宝石と全部引き換えだったしな。
「それでは道中お気を付け下さいませ」
レバシュがお辞儀をして見送る。
「世話になったな」
俺は手を小さく上げてレバシュに挨拶し、奴隷をゾロゾロと引き連れて歩きく。すると砦の門の近くで旅支度をしているトメオを見つけた。
「兄さん、行ってくるよ! 兄さんも何かの使いかい?」
ステコが荷物を整理する兄の背中に声をかける。
「ああ。・・・あ! キリマル! あんた、俺を助けてくれたんだってな! ありがとう!」
トメオが立ち上がって急に俺にハグしてきた。なんだこいつは慣れ慣れしいな。
「今日は空気が凄く乾燥している。水は小まめに飲んだ方がいいぞ。キリマルの道中に祝福を!」
そう言ってトメオはリュックを担いて門の外に出て行った。すれ違いざまに弟に意味深な目線を送っていたが、ステコは気がついたかどうか。
「なんだ? 昨日の雨で空気はまだ湿っているけどな・・・」
シルビィが不思議がる俺を見て目を細める。
「トメオはキリマルに【弓矢逸らし】の魔法をかけていったぞ・・・」
「いつの間に」
アマリが魔法を斬ろうとしなかったのは、俺が魔法を感知していなかったからだ。
「これはトメオが何かを警告しているととるべきだ!」
シルビィの表情が険しくなり、防御魔法を続けざまに詠唱を始める。
警戒しながら俺たちが門を出たその時――――。
まだスキュラと騎士のミイラがぶら下がっている門の上から声が聞こえてくる。
「奴隷は置いてってもらうよ。それとダイヤモンドもね!」
門の見張り台に、あの派手な紫のスパンコールドレスを着たレバシュが立っていた。口調も変わっている。これが奴の素顔なのか。
門の外の森にも気配が多数あるねぇ。昨日の夜に襲って来れば良かったのに。そうしなかったのは仲間を集めに行ってたってわけか。
だが残念だったな。いくら頭数を揃えても俺様には無意味だ。
「クハハ! 無残一閃!」
「ギャ!」
取り敢えず森の中に潜んでいる奴らから戦闘不能にする。
が、昔よりも威力が増しているせいか、木ごと薙ぎ払って、潜んでいたレバシュの仲間の獣人や樹族を真っ二つにしていった。
殺意をたっぷり籠めて薙ぎ払ったから、復活してももう俺を襲う気力はねぇだろう。レバシュにもそうしておくべきだった。
砦からビュビュッ! とクロスボウの矢が飛んできたが、トメオがかけてくれた魔法がそれを弾く。まぁ魔法がなくても俺には当たらねぇんだけどな。
「もう終わりか? お前らよぉ・・・。俺ら相手にやらかしちまったな? 昨日、広間で俺の実力を目の当たりにしただろう? それでも尚、死にてぇのか?」
昨日、隠し扉の向こう側で俺を見ていたであろうレバシュの部下や、呪いを恐れて砦の中で立ち往生する奴隷たちの騒めく声の中で奴隷商の女主人は笑った。
「あんたの持つダイヤモンドはそのリスクを負うだけの価値があるよ! 本当は部下に何度か盗ませようとしたんだがね。あんたは意識してか無意識なのかは知らないけど、上手く躱して盗ませてくれなかったんだよ。寝ている間もドアの向こう側まで伝わる殺気を放っているし、近寄れやしなかった」
「俺が寝ている間に能力を使わなかったって事は、能力は日に一度っきりってわけだな?」
「そうさ。まぁ知られたところで今からあんたは死ぬからどうでもいいのだけど」
急に空気が乾く。レバシュが能力を発動したのだ。だがここには俺たちの行動範囲を狭める建物はない。奴の能力の範囲から出れば済む事だ。
俺が脚を動かそうとしたその時、地面に魔法陣が現れ、光って消えた。魔法の罠が発動したのだ。
「行動阻害系のトラップだ!」
ステコが叫んだ。
確かに足が地面に張り付いたようになっているな。なるほど。レバシュはこれで俺らをここに固定して干物にするってわけか。
【火球】などの攻撃魔法が飛んできたが、全部ぶった斬る。
「お前ら俺の後ろにいて良かったな」
相変わらず、どういう仕組みで俺が魔法を斬っているのか理解できないシルビィ達は驚いている。
「出鱈目にも程があるぞ。キリマルは色々と出鱈目だ! 蘇生に・・・、魔法無効化!」
ガノダが後ろでレバシュの仲間に魔法で反撃しながらそう喚いた。
ガノダは特に魔法無効化のところで声を大きくしている。撃っても無駄だぞと、さり気なく敵に知らせているのだ。
「レバシュの能力に抗う術はあるか?」
半笑いで分厚い壁の向こう側に隠れたレバシュを、憎らしく思いながら俺はシルビィに訊いた。
「取り敢えず既に発動している【属性防御】の魔法で少しは持ちこたえられる。奴隷にレバシュを倒すよう命令してはどうだ? キリマル」
俺は門の向こう側の奴隷たちを見たが、トウバでさえ、門にぶら下がる干物を恐れて混乱している。
「駄目だ。恐怖の呪いで俺の声が聞こえてねぇようだ。ありゃあ獣人によく効く呪いなんだろうよ」
魔法や呪いは、制約があったり効果が限定的なものほど強力だ。門の呪いは獣人限定なんだろう。俺たちには何も効果もねぇ。
「おい、キリマル! まさかもう策はないのか? 何か案があるだろう? 君はリーダーなんだぞ!」
ステコが焦りだすと、恐怖はガノダにも伝染した。
「こんなところで干し肉になんてなりたくないね! 何とかしたまえよ! キリマル!」
「チッ! うるせぇなぁ・・・。お前は干し肉になっても、脂肪ばっかりで不味そうだな」
俺は革袋から水を飲みながら、何か助けになるものがないかを探る。
(駄目だ、何も思いつかねぇ。このままじゃ悪魔の干物が出来上がるぞ・・・。干物・・・? そうだ!)
「神速居合斬り!」
俺は斬撃を門にある干物二体に飛ばした。
二つのミイラは袈裟斬りにされて地面に落ちる。
「これで呪いは消えた。おい! 糞奴隷ども! レバシュを殺せ!」
しかし暫く呪いの効果が残るのか、中々奴隷たちは動き出そうとはしない。頭を抱えて震えている。
「チッ! 役立たずどもめが」
引き続きレバシュの能力が俺たちを苦しめている。穴という穴から水分が抜けていくような感覚がしてきた。
「もう水がねぇ。お前ら水の精霊でも召喚しろよ」
背後にもいる役立たずたちに、俺は期待せず指示を出してみた。
「こんな乾燥した空気の中で、呼べるわけないだろう。ここが城の堀の近くならともかく!」
どこからともなく水が落ちてきた。誰だ? 褒めてやろうか。
「お? 誰かは知らんが、やればできるじゃねぇか。って、ぐああああ!!!」
降って来たのは酸の水だった。物理的な働きをする魔法だ! 酸の水を魔法で生成して、それをぶっかけるだけの単純なものだが効果は上々! これは間違いなく敵の魔法だ! くそが!
「キリマル!」
シルビィが心配して光魔法の【再生】を俺に唱えた。が、光魔法の【再生】は樹族には効果が高いのだが、血の赤い種族には効果が薄い。
俺は姿こそ樹族だが中身は悪魔だからよ。光魔法の再生は効果がいまいちだ。だが、幸いな事に悪魔の再生能力が魔法の【再生】のように見せている。
「おい! 【酸の水】が効いたぞ!」
砦の中からレバシュの仲間の声が聞こえきた。一斉に魔法が飛んでくる。やべぇ。また【酸の水】を掛けられたら厄介だ。
焼け爛れる皮膚が臭う中、俺は次々と飛んでくる魔法を斬っていった。
どうも奴らは確率で魔法が通ると勘違いしたみたいで、自分たちの得意な魔法をバカスカ撃ってきやがる。その中には【酸の水】はなかった。ありがてぇ。
「やっぱり魔法は効かねぇじゃねぇか! 無駄に魔法点を失った! レバシュ様の能力で死ぬのを待っときゃよかったんだ!」
「全くだ!」
レバシュの部下の笑い声と共に魔法は止んだ。
そろそろ混乱から回復しただろうかと、門の向こうの奴隷たちを見ると・・・。
全員眠らされている。
「獣人は魔法に弱すぎる・・・」
俺が呟くとシルビィも呟いた。
「ゆえに魔法至上主義の樹族国では、最下層民になってしまうのだ・・・」
「そんな事を悠長に呟いている場合かね! このピンチをどう切り抜ける!? キリマル!」
ガノダが【食料創造】の魔法で自分だけ革袋に水を生成して飲んでいた。
「おい! 一人だけ狡いぞ!」
ステコが手をジタバタさせてガノダから水袋を奪おうとしたが、足が固定されているので届かない。
「【食料創造】は難しい魔法なんだぞ! かなり苦労して覚えた魔法なんだ! 私が飲むのは当然だろう!」
「投げてよこしたまえ! 代わりに空の水袋投げる。そこにまた水を入れればよかろう?」
「だめだ! 後一回しか唱えられない! 全部私が飲む!」
「君が最後まで残って、一体何になるというのかね!」
ガノダとステコが醜い争いをしている間にも、俺とシルビィは干からびていく。
「チィ! ここまでか・・・。やるじゃねぇか、レバシュ。用意周到だったお前の勝ちだな・・・。ん?」
俺は負けを認めようとしたが、門前に落ちたスキュラと騎士のミイラがない事に気が付いた。
「きゃあああ!!」
レバシュの悲鳴が砦の中から聞こえてくると同時に能力が解除されるが、魔法の罠の効果は続いているので脚は動かない。
「ぐぁあ!」
「うわぁ! スキュラだ! ミイラだったスキュラとムダンの騎士だ!」
砦の中で化け物と騎士の雄たけびが上がる。
「キュアアアアアアア!!」
「おらぁぁ!! 許さんぞ! レバシュ!」
何かが壊れる音や、魔法による破壊音が暫く続いてその内静かになった。
「クハハハ!」
俺は中で何が起きているのかを想像して笑った。ミイラでも蘇生できるとはよ!
「ま、まさか! キリマルが斬ったミイラが蘇ったのか? 中で暴れていたのは彼らなのか?」
ガノダが俺に水袋を投げてよこした。
助かるとわかった途端に水をよこしやがって、とぶつくさ言いながら俺は地面に落ちた水袋を拾ってから飲み、後ろのシルビィに渡す。
「そうだ。これも計算済みだった。(嘘だがな)おい、ガノダ。おまえんとこの騎士が出てきたぞ」
ムダン家の家来、グラウコス・カインダスがスキュラと門前に出てきたのを見たガノダが声を掛ける。
「カインダス!」
「誰だ!」
まぁそうだろうよ。カインダスがガノダに遭ったのは何十年も前だろうしな。子供の頃のガノダしか知らないだろう。
フレイルを構えながら近づいて来るカインダスと、レバシュの死体を引きずって歩くスキュラに怯えながらも、ガノダは背筋を伸ばして虚勢を張る。
「君は長い間、死んでいたのだよ。グラウコス・カインダス。私が解らないかね? ムダン家の三男、ガノダ・ムダンだ」
魔法の罠の効果が切れて足が動くようになったガノダが脚を少し開いて威張り、マントを後ろに跳ね除けて土色の鎧の胸にある鉄球の紋章を見せた。
「なんだと・・・。それで私はどれくらいの間死んでいたのですか? ガノダ様」
「30年くらいか。そこの平民の剣士の特殊能力で、お前は生き返った」
「そんなに・・・」
グラウコスはフレイルを無限鞄にしまうとガノダに跪いた。何か思いつめた顔をしてやがる。
「ガノダ様。私はここで死んだことにしてもらませんか?」
「どうしてかね?」
「それは・・・。このスキュラと恋仲になってしまったからです」
「な、なんだって?」
ガノダがひょっとこみてぇな顔をして驚いた。
まぁそんな顔になるわな。異種族間の恋は割とあると聞くが、その末路は結構悲惨なものが多い。地走り族と樹族では子供が作れないし、寿命も違う。気が変わって離婚するなんてのも当たり前だ。
では樹族とスキュラではどうなんだろうなぁ?
獣人の多くは毛皮があるので野宿をしても平気だが、夜露に濡れて震える毛のない豚人らは、朝食に渡された温かい雑穀のかゆを有難そうに食べていた。
「奴隷も大変だな。屋根のある場所で寝させてもらえないのか」
「貴族の我らとて野宿をする」
シルビィの獣人への同情をガノダが打ち消して、魔法の触媒の数を数えていた。触媒は主に高度な魔法に使う。威力やイメージを増幅させる為に、多くのメイジが持っているが、触媒を使わないでも同様の威力の魔法を発動させる者もいるので、人によって持っていたり持っていなかったりだ。ビャクヤは触媒を時々必要としていたが、リンネは触媒を必要としなかった。
メイジでもねぇのに、魔法に徐々に詳しくなっている自分を心の中で自画自賛しながら、奴隷たちに奴隷印がしっかり付いている事を確認して俺は頷く。
「よし、全員奴隷印はしっかり付いていた。これで歯向かう奴はいねえだろう」
売れるまで奴隷印を付けて従順にさせておけば、昨日のような反乱は起きなかっただろうにと思ったが、奴隷印を付けるコストを考えたら、レバシュがするわけねぇか。墨代と印付け作業だけで昨日渡したクズ宝石と全部引き換えだったしな。
「それでは道中お気を付け下さいませ」
レバシュがお辞儀をして見送る。
「世話になったな」
俺は手を小さく上げてレバシュに挨拶し、奴隷をゾロゾロと引き連れて歩きく。すると砦の門の近くで旅支度をしているトメオを見つけた。
「兄さん、行ってくるよ! 兄さんも何かの使いかい?」
ステコが荷物を整理する兄の背中に声をかける。
「ああ。・・・あ! キリマル! あんた、俺を助けてくれたんだってな! ありがとう!」
トメオが立ち上がって急に俺にハグしてきた。なんだこいつは慣れ慣れしいな。
「今日は空気が凄く乾燥している。水は小まめに飲んだ方がいいぞ。キリマルの道中に祝福を!」
そう言ってトメオはリュックを担いて門の外に出て行った。すれ違いざまに弟に意味深な目線を送っていたが、ステコは気がついたかどうか。
「なんだ? 昨日の雨で空気はまだ湿っているけどな・・・」
シルビィが不思議がる俺を見て目を細める。
「トメオはキリマルに【弓矢逸らし】の魔法をかけていったぞ・・・」
「いつの間に」
アマリが魔法を斬ろうとしなかったのは、俺が魔法を感知していなかったからだ。
「これはトメオが何かを警告しているととるべきだ!」
シルビィの表情が険しくなり、防御魔法を続けざまに詠唱を始める。
警戒しながら俺たちが門を出たその時――――。
まだスキュラと騎士のミイラがぶら下がっている門の上から声が聞こえてくる。
「奴隷は置いてってもらうよ。それとダイヤモンドもね!」
門の見張り台に、あの派手な紫のスパンコールドレスを着たレバシュが立っていた。口調も変わっている。これが奴の素顔なのか。
門の外の森にも気配が多数あるねぇ。昨日の夜に襲って来れば良かったのに。そうしなかったのは仲間を集めに行ってたってわけか。
だが残念だったな。いくら頭数を揃えても俺様には無意味だ。
「クハハ! 無残一閃!」
「ギャ!」
取り敢えず森の中に潜んでいる奴らから戦闘不能にする。
が、昔よりも威力が増しているせいか、木ごと薙ぎ払って、潜んでいたレバシュの仲間の獣人や樹族を真っ二つにしていった。
殺意をたっぷり籠めて薙ぎ払ったから、復活してももう俺を襲う気力はねぇだろう。レバシュにもそうしておくべきだった。
砦からビュビュッ! とクロスボウの矢が飛んできたが、トメオがかけてくれた魔法がそれを弾く。まぁ魔法がなくても俺には当たらねぇんだけどな。
「もう終わりか? お前らよぉ・・・。俺ら相手にやらかしちまったな? 昨日、広間で俺の実力を目の当たりにしただろう? それでも尚、死にてぇのか?」
昨日、隠し扉の向こう側で俺を見ていたであろうレバシュの部下や、呪いを恐れて砦の中で立ち往生する奴隷たちの騒めく声の中で奴隷商の女主人は笑った。
「あんたの持つダイヤモンドはそのリスクを負うだけの価値があるよ! 本当は部下に何度か盗ませようとしたんだがね。あんたは意識してか無意識なのかは知らないけど、上手く躱して盗ませてくれなかったんだよ。寝ている間もドアの向こう側まで伝わる殺気を放っているし、近寄れやしなかった」
「俺が寝ている間に能力を使わなかったって事は、能力は日に一度っきりってわけだな?」
「そうさ。まぁ知られたところで今からあんたは死ぬからどうでもいいのだけど」
急に空気が乾く。レバシュが能力を発動したのだ。だがここには俺たちの行動範囲を狭める建物はない。奴の能力の範囲から出れば済む事だ。
俺が脚を動かそうとしたその時、地面に魔法陣が現れ、光って消えた。魔法の罠が発動したのだ。
「行動阻害系のトラップだ!」
ステコが叫んだ。
確かに足が地面に張り付いたようになっているな。なるほど。レバシュはこれで俺らをここに固定して干物にするってわけか。
【火球】などの攻撃魔法が飛んできたが、全部ぶった斬る。
「お前ら俺の後ろにいて良かったな」
相変わらず、どういう仕組みで俺が魔法を斬っているのか理解できないシルビィ達は驚いている。
「出鱈目にも程があるぞ。キリマルは色々と出鱈目だ! 蘇生に・・・、魔法無効化!」
ガノダが後ろでレバシュの仲間に魔法で反撃しながらそう喚いた。
ガノダは特に魔法無効化のところで声を大きくしている。撃っても無駄だぞと、さり気なく敵に知らせているのだ。
「レバシュの能力に抗う術はあるか?」
半笑いで分厚い壁の向こう側に隠れたレバシュを、憎らしく思いながら俺はシルビィに訊いた。
「取り敢えず既に発動している【属性防御】の魔法で少しは持ちこたえられる。奴隷にレバシュを倒すよう命令してはどうだ? キリマル」
俺は門の向こう側の奴隷たちを見たが、トウバでさえ、門にぶら下がる干物を恐れて混乱している。
「駄目だ。恐怖の呪いで俺の声が聞こえてねぇようだ。ありゃあ獣人によく効く呪いなんだろうよ」
魔法や呪いは、制約があったり効果が限定的なものほど強力だ。門の呪いは獣人限定なんだろう。俺たちには何も効果もねぇ。
「おい、キリマル! まさかもう策はないのか? 何か案があるだろう? 君はリーダーなんだぞ!」
ステコが焦りだすと、恐怖はガノダにも伝染した。
「こんなところで干し肉になんてなりたくないね! 何とかしたまえよ! キリマル!」
「チッ! うるせぇなぁ・・・。お前は干し肉になっても、脂肪ばっかりで不味そうだな」
俺は革袋から水を飲みながら、何か助けになるものがないかを探る。
(駄目だ、何も思いつかねぇ。このままじゃ悪魔の干物が出来上がるぞ・・・。干物・・・? そうだ!)
「神速居合斬り!」
俺は斬撃を門にある干物二体に飛ばした。
二つのミイラは袈裟斬りにされて地面に落ちる。
「これで呪いは消えた。おい! 糞奴隷ども! レバシュを殺せ!」
しかし暫く呪いの効果が残るのか、中々奴隷たちは動き出そうとはしない。頭を抱えて震えている。
「チッ! 役立たずどもめが」
引き続きレバシュの能力が俺たちを苦しめている。穴という穴から水分が抜けていくような感覚がしてきた。
「もう水がねぇ。お前ら水の精霊でも召喚しろよ」
背後にもいる役立たずたちに、俺は期待せず指示を出してみた。
「こんな乾燥した空気の中で、呼べるわけないだろう。ここが城の堀の近くならともかく!」
どこからともなく水が落ちてきた。誰だ? 褒めてやろうか。
「お? 誰かは知らんが、やればできるじゃねぇか。って、ぐああああ!!!」
降って来たのは酸の水だった。物理的な働きをする魔法だ! 酸の水を魔法で生成して、それをぶっかけるだけの単純なものだが効果は上々! これは間違いなく敵の魔法だ! くそが!
「キリマル!」
シルビィが心配して光魔法の【再生】を俺に唱えた。が、光魔法の【再生】は樹族には効果が高いのだが、血の赤い種族には効果が薄い。
俺は姿こそ樹族だが中身は悪魔だからよ。光魔法の再生は効果がいまいちだ。だが、幸いな事に悪魔の再生能力が魔法の【再生】のように見せている。
「おい! 【酸の水】が効いたぞ!」
砦の中からレバシュの仲間の声が聞こえきた。一斉に魔法が飛んでくる。やべぇ。また【酸の水】を掛けられたら厄介だ。
焼け爛れる皮膚が臭う中、俺は次々と飛んでくる魔法を斬っていった。
どうも奴らは確率で魔法が通ると勘違いしたみたいで、自分たちの得意な魔法をバカスカ撃ってきやがる。その中には【酸の水】はなかった。ありがてぇ。
「やっぱり魔法は効かねぇじゃねぇか! 無駄に魔法点を失った! レバシュ様の能力で死ぬのを待っときゃよかったんだ!」
「全くだ!」
レバシュの部下の笑い声と共に魔法は止んだ。
そろそろ混乱から回復しただろうかと、門の向こうの奴隷たちを見ると・・・。
全員眠らされている。
「獣人は魔法に弱すぎる・・・」
俺が呟くとシルビィも呟いた。
「ゆえに魔法至上主義の樹族国では、最下層民になってしまうのだ・・・」
「そんな事を悠長に呟いている場合かね! このピンチをどう切り抜ける!? キリマル!」
ガノダが【食料創造】の魔法で自分だけ革袋に水を生成して飲んでいた。
「おい! 一人だけ狡いぞ!」
ステコが手をジタバタさせてガノダから水袋を奪おうとしたが、足が固定されているので届かない。
「【食料創造】は難しい魔法なんだぞ! かなり苦労して覚えた魔法なんだ! 私が飲むのは当然だろう!」
「投げてよこしたまえ! 代わりに空の水袋投げる。そこにまた水を入れればよかろう?」
「だめだ! 後一回しか唱えられない! 全部私が飲む!」
「君が最後まで残って、一体何になるというのかね!」
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「チィ! ここまでか・・・。やるじゃねぇか、レバシュ。用意周到だったお前の勝ちだな・・・。ん?」
俺は負けを認めようとしたが、門前に落ちたスキュラと騎士のミイラがない事に気が付いた。
「きゃあああ!!」
レバシュの悲鳴が砦の中から聞こえてくると同時に能力が解除されるが、魔法の罠の効果は続いているので脚は動かない。
「ぐぁあ!」
「うわぁ! スキュラだ! ミイラだったスキュラとムダンの騎士だ!」
砦の中で化け物と騎士の雄たけびが上がる。
「キュアアアアアアア!!」
「おらぁぁ!! 許さんぞ! レバシュ!」
何かが壊れる音や、魔法による破壊音が暫く続いてその内静かになった。
「クハハハ!」
俺は中で何が起きているのかを想像して笑った。ミイラでも蘇生できるとはよ!
「ま、まさか! キリマルが斬ったミイラが蘇ったのか? 中で暴れていたのは彼らなのか?」
ガノダが俺に水袋を投げてよこした。
助かるとわかった途端に水をよこしやがって、とぶつくさ言いながら俺は地面に落ちた水袋を拾ってから飲み、後ろのシルビィに渡す。
「そうだ。これも計算済みだった。(嘘だがな)おい、ガノダ。おまえんとこの騎士が出てきたぞ」
ムダン家の家来、グラウコス・カインダスがスキュラと門前に出てきたのを見たガノダが声を掛ける。
「カインダス!」
「誰だ!」
まぁそうだろうよ。カインダスがガノダに遭ったのは何十年も前だろうしな。子供の頃のガノダしか知らないだろう。
フレイルを構えながら近づいて来るカインダスと、レバシュの死体を引きずって歩くスキュラに怯えながらも、ガノダは背筋を伸ばして虚勢を張る。
「君は長い間、死んでいたのだよ。グラウコス・カインダス。私が解らないかね? ムダン家の三男、ガノダ・ムダンだ」
魔法の罠の効果が切れて足が動くようになったガノダが脚を少し開いて威張り、マントを後ろに跳ね除けて土色の鎧の胸にある鉄球の紋章を見せた。
「なんだと・・・。それで私はどれくらいの間死んでいたのですか? ガノダ様」
「30年くらいか。そこの平民の剣士の特殊能力で、お前は生き返った」
「そんなに・・・」
グラウコスはフレイルを無限鞄にしまうとガノダに跪いた。何か思いつめた顔をしてやがる。
「ガノダ様。私はここで死んだことにしてもらませんか?」
「どうしてかね?」
「それは・・・。このスキュラと恋仲になってしまったからです」
「な、なんだって?」
ガノダがひょっとこみてぇな顔をして驚いた。
まぁそんな顔になるわな。異種族間の恋は割とあると聞くが、その末路は結構悲惨なものが多い。地走り族と樹族では子供が作れないし、寿命も違う。気が変わって離婚するなんてのも当たり前だ。
では樹族とスキュラではどうなんだろうなぁ?
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