176 / 299
包囲
しおりを挟む
「悪いがマサヨシ。これでキリマルを探して、我らの事を知らせてくれないか?」
宿屋の二階の窓から外の騎士たちを窺うシルビィから、コンパスを手渡されたマサヨシは不思議そうにコンパスを見ると、矢印がとある方向に向いていた。
「いつの間にキリマルに追跡系アイテムを付けたのでつか?」
「今はそんなことを言っている暇はない。チッ! 囲まれたか・・・」
「なんと知らせますんご?」
「ワンドリッターに捕まったと言ってくれ。計画がどこかで漏れ出た」
「シルビィたんが酔って、うっかり漏らした情報でつか?」
「それよりももっと深い情報だ。頼むのは恥ずかしいのだが・・・。ワンドリッターの城まで助けに来てくれとキリマルに頼んでくれ。私はまだ死にたくないのでな」
「(あの非情なる殺人鬼が助けに来てくれるのかな・・・)わかり申した!」
そう言うとマサヨシは裏口から出た。
宿屋を囲む騎士たちの狙いは、一介の豚人などではないので、魔法の眼鏡で変装がないかを確認した後に目線を窓からのぞくシルビィに戻した。
「王子殺しを企む罪人どもめ! さっさと出てこい! 大人しく出てくれば死ぬ事はないぞ!」
ワンドリッターの黒騎士が宿屋前で馬の上から叫んだ。それにシルビィも窓の隙間から少しだけ顔を出して応じる。
「私は王の盾の娘、シルビィ・ウォールだ。何の証拠があって私を罪人と呼ぶのか!」
「名のある貴族なら知っているはずだ! ワンドリッターに隠し事はできないと! 我らの小鳥はどこにでもいる!」
味方のステコを疑ったが、彼が裏切ったならこの場にはいないはずだ。味方を装っている可能性もあるが、少なくとも彼と彼の父親は仲が悪い事で有名なのだ。
シルビィは事あるごとに、ステコがソラスに殺されそうになっていたのを知っている。
ワンドリッター家主催のパーティで、一族としての力を示せとソラスに言われたステコは、魔法生物であるブロブとの戦いをけしかけられた事があった。
しかし、ステコは「まずは子に見本を!」と言ってお道化て笑いを取り有耶無耶にした。この手の敵は魔法レジスト率が高く、戦士職が魔法生物の核を壊さないと倒せないからだ。
つまりメイジの天敵なので、魔法に秀でたソラスでも苦戦するのは必至だ。
それでもステコが戦いや決闘から逃れられない場合もある。そういった時はその場で金の力を使って誰かを雇う。
勿論、代理決闘は認められているので、誰も文句は言わない。少なくともステコの為に代理決闘を請け負ってもいいと思わせるだけの人望が彼にはあったのだ。
そして戦いに勝利するたびに彼が言うのは「貴族の力は魔法の力だけにあらず。賢く優雅に下々の者を魅了し統治することです、父上」だった。
そういう状況を何度か見たシルビィは、ステコの事を胆力こそないがピンチを切り抜ける能力が十分にあると評価している。
その後も彼は、持ち前の社交性を武器にし、頭の良さで時折父に恥をかかせて、貴族としての人生の苦難を何度か切り抜けてきた。
しかしとうとう年貢の納め時がくる。ソラスの命令で、黒騎士の一人であったステコは、シュラス国王に差し出す人質騎士団に入団させられてしまったのだ。
表向きは王国騎士団という名誉ある騎士だが、グランデモニウム王国との戦争で傭兵の次に前線に出される。つまり毎年死の危険が付き纏うのだ。人質といっても扱いは軽い。死ねば次の人質をシュラス国王は要求するだけだ。
「何か策はあるか、ステコ」
シルビィは怯えて窓から顔すら出そうとしないステコに、この状況を切り抜ける策を訊いた。
「状況は?」
「ワンドリッターの黒騎士が宿屋を包囲している。あと何回か警告をしたら突入してくるだろう」
「透明化か変装で脱出するのはどうだ?」
「まずマジックアイテムで見つかるだろうな。何人かが軽度の【変装】を見破る眼鏡をしている」
「だろうね。こちらの罪の証拠を聞いても提示しないという事は、黒騎士たちは何も聞かされていない。ただ父上の命令に従って、私たちを捕まえに来ただけだから交渉しても意味はない。しかしながら、ここはワンドリッター領ではないのだよ。外国だ。領地以外での逮捕権があるのは君の部隊だけだぞ、シルビィ」
「そんなもの有名無実だ。その空っぽの権限を使ってワンドリッターの騎士を逮捕しろと?」
「そうだ。要するに戦えってことさ。一応権限はあるのだから、黒騎士を公務執行妨害で逮捕するという大義は立つ。私は君の実力をよく知っている。他の騎士と違って、君は接近戦も得意だ。樹族の騎士なんて名ばかりのメイジだからね。一度魔法を放てば、再詠唱に時間が掛かる。その間に君が何人、接近戦で黒騎士を戦闘不能にできるかで、私たちの運命は決まる。おい、ガノダ」
ステコは額の冷や汗を手の甲で拭いながら、ムダン家の食いしん坊の名を呼ぶ。
「何かね」
声こそ冷静だが、ガノダも目が泳いでいた。
「魔法点はどれだけ残ってる? 幻術系だけでいい、教えてくれたまえ」
「地獄のヘルキャットなら三回作れる」
「つまり【幻】の魔法は三回か。ちょっとは魔法点を増やす修行をしたまえよ、ガノダ。・・・地獄のヘルキャット。名前に地獄が二回も入っているぞ」
「どうでもいいだろ、そんなこと」
「まずは私が幻術で黒騎士の目をひく。その後に地獄のヘルキャットで黒騎士を混乱させろ」
「因みに君は後何回、幻術系の魔法点が残っている? ステコ」
ガノダの質問にステコは歯を見せて笑った。
「君と同じく後三回だ。シルビィ、窓の外を覗くな」
ステコの指示を不思議に思いながらも、シルビィは頭を下げた。
ガノダに軽く小突かれてステコが魔法を唱えると、宿屋の玄関から誰かが両手を挙げて出ていく。
「君は後でシルビィに殴られる覚悟をした方がいいね、ステコ」
「どういう事だ? ガノダ」
勿論、シルビィは窓の外を見るなと言われているので、外の状況をガノダに聞く。
「ネグリジェ姿の君が、玄関で降参のポーズをとっている。幻の君は胸も腰も大きいし随分とメスの顔をしてるね。黒騎士たちは驚きつつも、下品な笑い声を上げている。君らしくない魔法だな、ステコ」
鼻に皺を寄せるシルビィの視線をこめかみ辺りで感じ取りながら、ステコはガノダに目配せして頷いた。
「は?」
ビャクヤは転移先がアルケディアの中央にある噴水前である事に驚いている。
待ち合わせ場所によく使われる噴水前で急に転移してきた樹族とレッサーオーガに、周りの人々が弾き飛ばされて文句を言っているが、ビャクヤはまだ放心したままだ。
「おい! 転移するなら転移部屋(転移用の駅みたいなもの)を使えよ! 人の多い場所に直接転移してくるなんてマナー違反どころか、大事故の原因だろうが! 君ィ!」
弾き飛ばされた樹族のメイジが、ローブに付いた砂を払いながら抗議する。
「す、すみませんッ! 転移を失敗してしまって! 皆さん、お騒がせして申し訳ありませんでしたッ!」
ビャクヤがシルクハットを取って深々とお辞儀をすると、誰も文句を言わなくなった。
寧ろ人々は感心している。樹族は滅多に謝らないからだ。ビャクヤは素直な人物だという印象を周りに与えたのだ。
うんうんと満足気に頷く人々の、礼儀正しい樹族に対する感心と関心は消えて、普段通りの待ち合わせ場所に戻る。
「転移魔法、失敗したの?」
リンネが心配そうにビャクヤの手に触れて見つめている。
「わ、吾輩とて転移魔法の失敗はありまんすッ! しかしッ! 今回の失敗は何かおかしい気がしますんごッ!」
「どういうこと?」
「無理やり弾かれたと言いますかッ! 転移魔法無効化結界に飛び込んだ時の感覚に似ていますッ!」
「それって・・・。ナビさんが私たちを意図的に弾いているという事?」
「その可能性もありますッ! 吾輩はッ! 昨日ッ! 確かに朝の10時に行くと約束しましたしッ!」
「ほら、ナビさんってお婆さんだし、物忘れしちゃったのかも」
「書庫の司書がそれでは困りますなッ!」
「じゃあ地下墓地の方から行ってみようよ。書庫の扉の前だったら多分転移をしても弾かれないと思うわ」
「確かに。しかしここで転移するのは気が引けますので、路地裏に行きましょう」
「うん」
ビャクヤとリンネは誰もいない路地裏に向かうと、転移魔法で地下墓地まで飛んだ。そして目の前の壁を見て驚く。
「おかしい! 確かにここに大きな扉があったはずなのに! サーチ・シークレットドア!」
ビャクヤは【探索】の魔法を唱えた。しかし、何も変化はない。
指揮棒を振るように大袈裟に手を動かして、ビャクヤは拳を握ると壁をコンコンと叩いた。
「ノックノック! 全世界に二千万人もの女子高生ファンがいる偉大なる魔法使い、ビャクヤ・ウィンがやって来ましたよ、ナビ司書殿! 意地悪しないで中に入れてくださ~いッ!」
しかし返事はない。
「場所を間違えたかなッ?」
首を捻るビャクヤの耳に、突然気味の悪いレイスが現れて囁いた。
「お前は・・・裏切られたのさ・・・。あの老婆に・・・裏切られた・・・。ヒッヒッヒ! あたいは書庫で聞いたんだ・・・。あの老婆、二つのマジックアイテムの内、一つは予備にするって言ってたよぉ! あれはあんたの物だったんだろう? でもノームが自分の物にしちまったぁ! 業突く張りババァなのさ! イヒヒヒヒヒ!」
冷気が言葉と共に耳を伝って、ビャクヤの全身を凍らせる。
「ひぇぇぇ!!」
ビャクヤは一瞬白目をむいて失神しそうになるも、リンネの腰に手を回し、転移魔法を唱えて地下墓地から逃げ飛んだ。
宿屋の二階の窓から外の騎士たちを窺うシルビィから、コンパスを手渡されたマサヨシは不思議そうにコンパスを見ると、矢印がとある方向に向いていた。
「いつの間にキリマルに追跡系アイテムを付けたのでつか?」
「今はそんなことを言っている暇はない。チッ! 囲まれたか・・・」
「なんと知らせますんご?」
「ワンドリッターに捕まったと言ってくれ。計画がどこかで漏れ出た」
「シルビィたんが酔って、うっかり漏らした情報でつか?」
「それよりももっと深い情報だ。頼むのは恥ずかしいのだが・・・。ワンドリッターの城まで助けに来てくれとキリマルに頼んでくれ。私はまだ死にたくないのでな」
「(あの非情なる殺人鬼が助けに来てくれるのかな・・・)わかり申した!」
そう言うとマサヨシは裏口から出た。
宿屋を囲む騎士たちの狙いは、一介の豚人などではないので、魔法の眼鏡で変装がないかを確認した後に目線を窓からのぞくシルビィに戻した。
「王子殺しを企む罪人どもめ! さっさと出てこい! 大人しく出てくれば死ぬ事はないぞ!」
ワンドリッターの黒騎士が宿屋前で馬の上から叫んだ。それにシルビィも窓の隙間から少しだけ顔を出して応じる。
「私は王の盾の娘、シルビィ・ウォールだ。何の証拠があって私を罪人と呼ぶのか!」
「名のある貴族なら知っているはずだ! ワンドリッターに隠し事はできないと! 我らの小鳥はどこにでもいる!」
味方のステコを疑ったが、彼が裏切ったならこの場にはいないはずだ。味方を装っている可能性もあるが、少なくとも彼と彼の父親は仲が悪い事で有名なのだ。
シルビィは事あるごとに、ステコがソラスに殺されそうになっていたのを知っている。
ワンドリッター家主催のパーティで、一族としての力を示せとソラスに言われたステコは、魔法生物であるブロブとの戦いをけしかけられた事があった。
しかし、ステコは「まずは子に見本を!」と言ってお道化て笑いを取り有耶無耶にした。この手の敵は魔法レジスト率が高く、戦士職が魔法生物の核を壊さないと倒せないからだ。
つまりメイジの天敵なので、魔法に秀でたソラスでも苦戦するのは必至だ。
それでもステコが戦いや決闘から逃れられない場合もある。そういった時はその場で金の力を使って誰かを雇う。
勿論、代理決闘は認められているので、誰も文句は言わない。少なくともステコの為に代理決闘を請け負ってもいいと思わせるだけの人望が彼にはあったのだ。
そして戦いに勝利するたびに彼が言うのは「貴族の力は魔法の力だけにあらず。賢く優雅に下々の者を魅了し統治することです、父上」だった。
そういう状況を何度か見たシルビィは、ステコの事を胆力こそないがピンチを切り抜ける能力が十分にあると評価している。
その後も彼は、持ち前の社交性を武器にし、頭の良さで時折父に恥をかかせて、貴族としての人生の苦難を何度か切り抜けてきた。
しかしとうとう年貢の納め時がくる。ソラスの命令で、黒騎士の一人であったステコは、シュラス国王に差し出す人質騎士団に入団させられてしまったのだ。
表向きは王国騎士団という名誉ある騎士だが、グランデモニウム王国との戦争で傭兵の次に前線に出される。つまり毎年死の危険が付き纏うのだ。人質といっても扱いは軽い。死ねば次の人質をシュラス国王は要求するだけだ。
「何か策はあるか、ステコ」
シルビィは怯えて窓から顔すら出そうとしないステコに、この状況を切り抜ける策を訊いた。
「状況は?」
「ワンドリッターの黒騎士が宿屋を包囲している。あと何回か警告をしたら突入してくるだろう」
「透明化か変装で脱出するのはどうだ?」
「まずマジックアイテムで見つかるだろうな。何人かが軽度の【変装】を見破る眼鏡をしている」
「だろうね。こちらの罪の証拠を聞いても提示しないという事は、黒騎士たちは何も聞かされていない。ただ父上の命令に従って、私たちを捕まえに来ただけだから交渉しても意味はない。しかしながら、ここはワンドリッター領ではないのだよ。外国だ。領地以外での逮捕権があるのは君の部隊だけだぞ、シルビィ」
「そんなもの有名無実だ。その空っぽの権限を使ってワンドリッターの騎士を逮捕しろと?」
「そうだ。要するに戦えってことさ。一応権限はあるのだから、黒騎士を公務執行妨害で逮捕するという大義は立つ。私は君の実力をよく知っている。他の騎士と違って、君は接近戦も得意だ。樹族の騎士なんて名ばかりのメイジだからね。一度魔法を放てば、再詠唱に時間が掛かる。その間に君が何人、接近戦で黒騎士を戦闘不能にできるかで、私たちの運命は決まる。おい、ガノダ」
ステコは額の冷や汗を手の甲で拭いながら、ムダン家の食いしん坊の名を呼ぶ。
「何かね」
声こそ冷静だが、ガノダも目が泳いでいた。
「魔法点はどれだけ残ってる? 幻術系だけでいい、教えてくれたまえ」
「地獄のヘルキャットなら三回作れる」
「つまり【幻】の魔法は三回か。ちょっとは魔法点を増やす修行をしたまえよ、ガノダ。・・・地獄のヘルキャット。名前に地獄が二回も入っているぞ」
「どうでもいいだろ、そんなこと」
「まずは私が幻術で黒騎士の目をひく。その後に地獄のヘルキャットで黒騎士を混乱させろ」
「因みに君は後何回、幻術系の魔法点が残っている? ステコ」
ガノダの質問にステコは歯を見せて笑った。
「君と同じく後三回だ。シルビィ、窓の外を覗くな」
ステコの指示を不思議に思いながらも、シルビィは頭を下げた。
ガノダに軽く小突かれてステコが魔法を唱えると、宿屋の玄関から誰かが両手を挙げて出ていく。
「君は後でシルビィに殴られる覚悟をした方がいいね、ステコ」
「どういう事だ? ガノダ」
勿論、シルビィは窓の外を見るなと言われているので、外の状況をガノダに聞く。
「ネグリジェ姿の君が、玄関で降参のポーズをとっている。幻の君は胸も腰も大きいし随分とメスの顔をしてるね。黒騎士たちは驚きつつも、下品な笑い声を上げている。君らしくない魔法だな、ステコ」
鼻に皺を寄せるシルビィの視線をこめかみ辺りで感じ取りながら、ステコはガノダに目配せして頷いた。
「は?」
ビャクヤは転移先がアルケディアの中央にある噴水前である事に驚いている。
待ち合わせ場所によく使われる噴水前で急に転移してきた樹族とレッサーオーガに、周りの人々が弾き飛ばされて文句を言っているが、ビャクヤはまだ放心したままだ。
「おい! 転移するなら転移部屋(転移用の駅みたいなもの)を使えよ! 人の多い場所に直接転移してくるなんてマナー違反どころか、大事故の原因だろうが! 君ィ!」
弾き飛ばされた樹族のメイジが、ローブに付いた砂を払いながら抗議する。
「す、すみませんッ! 転移を失敗してしまって! 皆さん、お騒がせして申し訳ありませんでしたッ!」
ビャクヤがシルクハットを取って深々とお辞儀をすると、誰も文句を言わなくなった。
寧ろ人々は感心している。樹族は滅多に謝らないからだ。ビャクヤは素直な人物だという印象を周りに与えたのだ。
うんうんと満足気に頷く人々の、礼儀正しい樹族に対する感心と関心は消えて、普段通りの待ち合わせ場所に戻る。
「転移魔法、失敗したの?」
リンネが心配そうにビャクヤの手に触れて見つめている。
「わ、吾輩とて転移魔法の失敗はありまんすッ! しかしッ! 今回の失敗は何かおかしい気がしますんごッ!」
「どういうこと?」
「無理やり弾かれたと言いますかッ! 転移魔法無効化結界に飛び込んだ時の感覚に似ていますッ!」
「それって・・・。ナビさんが私たちを意図的に弾いているという事?」
「その可能性もありますッ! 吾輩はッ! 昨日ッ! 確かに朝の10時に行くと約束しましたしッ!」
「ほら、ナビさんってお婆さんだし、物忘れしちゃったのかも」
「書庫の司書がそれでは困りますなッ!」
「じゃあ地下墓地の方から行ってみようよ。書庫の扉の前だったら多分転移をしても弾かれないと思うわ」
「確かに。しかしここで転移するのは気が引けますので、路地裏に行きましょう」
「うん」
ビャクヤとリンネは誰もいない路地裏に向かうと、転移魔法で地下墓地まで飛んだ。そして目の前の壁を見て驚く。
「おかしい! 確かにここに大きな扉があったはずなのに! サーチ・シークレットドア!」
ビャクヤは【探索】の魔法を唱えた。しかし、何も変化はない。
指揮棒を振るように大袈裟に手を動かして、ビャクヤは拳を握ると壁をコンコンと叩いた。
「ノックノック! 全世界に二千万人もの女子高生ファンがいる偉大なる魔法使い、ビャクヤ・ウィンがやって来ましたよ、ナビ司書殿! 意地悪しないで中に入れてくださ~いッ!」
しかし返事はない。
「場所を間違えたかなッ?」
首を捻るビャクヤの耳に、突然気味の悪いレイスが現れて囁いた。
「お前は・・・裏切られたのさ・・・。あの老婆に・・・裏切られた・・・。ヒッヒッヒ! あたいは書庫で聞いたんだ・・・。あの老婆、二つのマジックアイテムの内、一つは予備にするって言ってたよぉ! あれはあんたの物だったんだろう? でもノームが自分の物にしちまったぁ! 業突く張りババァなのさ! イヒヒヒヒヒ!」
冷気が言葉と共に耳を伝って、ビャクヤの全身を凍らせる。
「ひぇぇぇ!!」
ビャクヤは一瞬白目をむいて失神しそうになるも、リンネの腰に手を回し、転移魔法を唱えて地下墓地から逃げ飛んだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
27
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる