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騙されたビャクヤ
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「騙したぁ! よくも騙してくれたなぁぁぁ!!」
怒声がリンネの制服をビリビリと震わせ、ビャクヤの振り上げられた憤怒の拳が―――、少し迷った後に柔らかそうな土を選んで振り下ろされる。
巨人が人間を叩き潰した時のように土を巻き上げると、土の中から出てきたミミズに驚き、ビャクヤは冷静になる。
「気が済んだ? ビャクヤ」
「ええ。ミミズちゃんのお陰で・・・」
ミミズを見てから、ビャクヤはリンネを見る。本当はミミズのお陰ばかりではない。
いつも自分を支えてくれるリンネのお陰でもあるのだ。
別にこの恋人は、冷静沈着な青い髪色が似合いそうなクール系キャラではない。失敗もするし、嫉妬深いし、ドジな面もある。しかしピンチになればなるほど落ち着き、何事にも動じない。
逆に自分は調子に乗れば乗るほど実力を発揮するタイプだが、ちょっとの事で心が揺らぐ。なのでリンネの落ち着いた顔を見ていると、自分が恥ずかしくなり冷静になるのだ。
「ぬふふッ! 我々は真逆ですなッ!」
「何が?」
「さて、我々はキラキ様の課した試験を失敗し、仲間であるキリマルの召喚にも失敗したわけですがッ!」
「諦めてニムゲイン王国に帰るの?」
「とんでもないッ! 吾輩がッ! 誰だかッ! ご存知ないのかッ!」
「知らないねぇ」
見知らぬ地走り族の老婆が通り過ぎながらビャクヤに答えた。鎌と野菜篭を持っているので農民だろう。
「ではッ! その遠くなった耳の中の耳垢をッ! 綺麗に取り払って聞きなさいッ! 数多ある三千世界を知恵で照らす大魔法使いッ! そぉぉのぉぉぉ名はぁぁぁぁッ! んんんんんんんんんビャクヤ・ウィン!」
ビャクヤがポーズをとっている間に、老婆は遥か道の先で小さくなっていた。
「以外に健脚ッ・・・」
「で、何か策があるのね?」
「勿論。吾輩、召喚術の本の内容を憶えておりますから。実はあの本、裏表紙の隅っこに、”もうちょっとだけ続くんじゃ“と書いてあって、続きの内容が書いてある本の題名も書いてあったのです」
「なんて題名の本なの?」
「『無駄のない召喚術』です。もう書庫で読んでます。リンネの事に殆ど使われる吾輩の記憶領域を少し使ってッ! 本の内容を頭に叩き込んでありまんもすッ!」
「ビャクヤは私の事ばかり考えているの? 嬉しいかな・・・。でもいつの間に本を読んでたの? 私やエストが書庫にあった食べ物製造装置でお菓子を出して食べていた時?」
「そうでぃすッ! 召喚術の本の上下巻はッ! 先代の召喚士たちが手探りで築き上げた知識なのですがッ! それらの中にはッ! 余計な試行錯誤も多いのですッ! そこで無駄な術式を省いて簡略化したのが、『無駄のない召喚術』なのですッ!」
「どんな内容が書いてあったの?」
「とある術式を使えば低レベルの召喚士でもマジックアイテム無しでッ! 今回の件のようなトラブルを解決できるとあったのデスッ!」
―――チッ!
どこからか聞こえてきた舌打ちにビャクヤは辺りを見回し、ソナーのような探知系魔法を即座に発動させるも気配はない。気のせいだと思ってすぐに気にするのを止めた。
「凄い! じゃあ最初からそのやり方をやっていれば良かったじゃん!」
「・・・。しかし条件がありまして・・・。キリマルをよく知っている召喚士じゃないとダメなのです・・・」
う~んとリンネは腕を組んで、キリマルを知る召喚士がいないか記憶を探った。
「キリマルは悪魔だから、死霊術師のルロロさんじゃだめだし・・・」
召喚士になる者は意外に少ないのだ。
その理由は召喚士になるために、特別難しい能力条件があるわけではないからだ。メイジの資質があるものなら誰でもなれるが、それは花形であるメイジへの道を自ら放棄してしまったと見る者もいる。
なのでスペルキャスターの中でも召喚士はなりたい職業最下位なのである。
「意外といないよね、召喚士って」
「実力値が低いうちは最弱ですからねッ! 極めれば一人で領主と喧嘩ができるとは言われていますが・・・。最初はインプを一匹だけしか召喚出来ないのでッ! パーティからも邪魔もの扱いですしお寿司ッ!」
「魔法の合わせ鏡の方が簡単だったという理由がこれね」
「そうでぃすッ! しかし心当たりがないわけではないのですッ! 吾輩、知っての通り未来人ですからッ! この時代にいる有名な召喚士を知っておりマンモスッ! ツィガル帝国の名軍師と呼ばれた男ッ! マサヨッシュ・サラトゥを探せばいいのですッ! 彼の伝記には人修羅との冒険譚が出てきますッ! もしかしたらキリマルの事かもしれませんッ!」
「そんな都合のいい話があるかしら・・・。ちょっとまって・・・。マサヨッシュ、マサヨッシ、マサヨシ・・・。もしかしてマサヨッシュってマサヨシの事じゃないの?」
「まさか! マサヨシと違って教科書で見たマサヨッシュ軍師は、シュッとした黒髪のイケメンオーガですヨ。確かに目が細いところは似ていますが・・・。禿げてはいませんしッ!」
「一応、気にはしておきましょうよ」
「そうですなッ! この時代の彼は確か・・・、樹族国を放浪していたはずッ!」
「オーガなのに?」
「伝記によれば彼はオーガと言っても背の低いオーガですからッ! 背の高い地走り族に勘違いされていた可能性もありますッ!」
「背の低いオーガ・・・。人間族なら益々マサヨシじゃん」
「そんなに言うならばッ! 取り敢えずマサヨシを探してみましょう。ロケート・パーソンぬッ!」
ビャクヤの持つワンドの先から【人探し】の魔法の光が天高く昇って空に広がっていった。
その時にビャクヤはまた誰かの声を聞いたような気がした。
―――うふふ。今日も闇が溜まった!
「お~い!」
ズドドドと音をさせて色白の豚人がキャンプに走ってくる。豚人の後ろには魔物が沢山付いてきており、闇の中でも土煙が上がっているのが見えた。
「俗に言うトレインって奴だな・・・」
「トレイン?」
どういう意味だと聞きたそうなトウバに答えずに、俺は「ハァ」とため息をついて刀を構えた。
「頭を下げろ、マサヨシ!」
「御意!」
お辞儀をするように頭を下げたマサヨシの後頭部をかすめて、広範囲の一閃が飛ぶ。
水袋を斬ったような音が闇の中からして、獣や魔物の気配が消えた。
「ふぃ~、助かりますた」
「あ~、めんどくせぇ」
お礼を言うマサヨシの横を通り過ぎて、文句を言いながらも俺は魔物たちの腿肉を、次々とナイフで切り取っていく。
こうする事で魔物たちが蘇っても移動できなくなるからだ。襲ってこなくなるどころか、そのうち適当な魔物に食われて勝手に死ぬ。腿肉は食料とする。
「こんな夜中に何の用だ、マサヨシ。フンバを守ってろって言ったろ」
俺は切り取った腿肉をトウバに投げると、トウバは爪で器用に皮を剥いで、バナナの葉の上に肉を乗せていく。
「フンバ殿は問題ないでつ。問題はワンドリッターでつよ!」
サル人のギンジーも俺に気に入られようとしているのか、枝と大きなバナナの葉でテントのような簡易燻製器を作っていた。
「ステコが裏切ったのか?」
ハァハァと息をするマサヨシに水袋を投げて、奴が水を飲んで落ち着くのを待った。
「違うやで。ソラス・ワンドリッターの命令でやってきたワンドリッターの黒騎士が、宿屋を取り囲み、シルビィたんたちに向かって、王子殺しを企みし者、出てこいや、ワーレー! と言ったんやで」
「なるほどねぇ。計画がバレたと。(変な関西弁だな)いつの話だ?」
「キリマルたちがいなくなって暫くしてからでつ」
「宿屋からここまでそんなに遠くないだろ。どうやって俺の居場所を見つけたかは知らねぇが、知らせに来るまでやたらと時間が掛かってるじゃねぇか」
「さっき見た通り、魔物に絡まれていたからでつよ」
「よく生き延びたな」
「そりゃもう必死でしたから。オフッオフッ!」
不死者だから余裕があるな。必死さが伝わってこない。
王子が入って行った洞窟の脇を流れ落ちる水で手と顔を洗いながら、俺は密かなる王命について考えた。
(極秘任務にせず、普通に王子暗殺命令を出せばいいのに、王子殺しの大義名分をねつ造した奴が、依頼者の中にいる。そうする事で何か得をする奴がいるんだな)
燻製作りの作業をしながら、マサヨシと俺の会話に聞き耳を立てるギンジーを呼んだ。
「おい、ギンジー。お前なら樹族国の内情に詳しいだろ。第二王位継承権は誰にある?」
まぁ十中八九、双子の弟かその息子だろう
「それはわかりませんな。その権限はシュラス王にないからです」
「は?」
「シュラス王にあるのは第一継承権までですよ。何も言わなければ王子が次の王になります。そして第二継承者の任命権は第一継承者にありまする」
「それだと王子が他の貴族に継承権を与えて死んだりすれば、王族ががらりと入れ替わったりするんじゃねぇのか?」
「実際シュラス王の時に変わっております。先代は生粋のアルケディア王族ですが、シュラス王はブラッド領出身で王族の遠縁。アルカディア姓は王になってから名乗っています。どちらかというとブラッド辺境伯の親戚に近いのです。だから先代の王族は不満を持って国外に移住したり、国内に残って評議会や魔法院に所属して王政批判ばかりしております」
「変な制度だな」
「まぁ、そう仕向けた人物が誰かは言うまでもありませんが」
傀儡王を置いて裏から国政を操ろうとした、ワンドリッターや評議会の一部の連中か。
「ではシュラス王の弟や、その息子に継承権は?」
「今のところ、ありません」
「継承権を確実にするには?」
俺は燻製肉を作っているマサヨシとトウバを見ながら、近くで後ろ脚を失った魔物たちが共食いを始めた呻り声を聞く。
「王子に謀反の不名誉を被せる事です、キリマル閣下。そうすれば王子は継承権と同時に、任命権を失います。それからサラサス殿はシュラス王が即位する時に、無用な混乱をなくす為に王位継承権を放棄させられておりますので、継承権はありません」
ギンジーが、「私は欲しい答えを出したでしょう?」という得意顔をしたのでイラっとする。
今わかった。俺はサルが嫌いなんだわ。人間に近いからな。
「閣下だぁ? ゴマをするな。ぶっ殺すぞ」
「ヒィ!」
「そうなってようやく、シュラスの甥に継承権が発生するのか。じゃあ今回の首謀者はシュラスの弟サラサスか。シュラスはまんまと弟に騙されたわけだ。まぁ身内の言葉だから信用するわな。きっと言葉を信用させるような証拠を幾度となく捏造して、シュラス親子の間に猜疑心を芽生えさせるよう仕向けたのだろうよ。実情は知らんが」
マサヨシが向こうで「あ!」と声を上げた。なんか思い出したらしい。
「そうそう! 伝言を忘れてますた。シルビィたん曰く、ワンドリッターの城まで助けに来てくだせぇとの事です」
「ほぉ? 俺に? わかった。まぁいいだろう」
あっさりと承諾した事にマサヨシは豚鼻を広げて驚いている。
「おや? キリマル氏、随分とシルビィたんに優しいじゃないでつか」
肘でぐいぐい押してくる、うっとおしいマサヨシを押し返した。
「うるせぇ。めんどくせぇから、明日王子に会ってからな」
俺は頭をボリボリ掻いて指先を嗅ぐ。臭い。風呂に入りてぇ。安物の腕時計のデジタル数字はまだ21となっている。夜中だと思ってたけど、それ程でもなかったな。寝直すか。
怒声がリンネの制服をビリビリと震わせ、ビャクヤの振り上げられた憤怒の拳が―――、少し迷った後に柔らかそうな土を選んで振り下ろされる。
巨人が人間を叩き潰した時のように土を巻き上げると、土の中から出てきたミミズに驚き、ビャクヤは冷静になる。
「気が済んだ? ビャクヤ」
「ええ。ミミズちゃんのお陰で・・・」
ミミズを見てから、ビャクヤはリンネを見る。本当はミミズのお陰ばかりではない。
いつも自分を支えてくれるリンネのお陰でもあるのだ。
別にこの恋人は、冷静沈着な青い髪色が似合いそうなクール系キャラではない。失敗もするし、嫉妬深いし、ドジな面もある。しかしピンチになればなるほど落ち着き、何事にも動じない。
逆に自分は調子に乗れば乗るほど実力を発揮するタイプだが、ちょっとの事で心が揺らぐ。なのでリンネの落ち着いた顔を見ていると、自分が恥ずかしくなり冷静になるのだ。
「ぬふふッ! 我々は真逆ですなッ!」
「何が?」
「さて、我々はキラキ様の課した試験を失敗し、仲間であるキリマルの召喚にも失敗したわけですがッ!」
「諦めてニムゲイン王国に帰るの?」
「とんでもないッ! 吾輩がッ! 誰だかッ! ご存知ないのかッ!」
「知らないねぇ」
見知らぬ地走り族の老婆が通り過ぎながらビャクヤに答えた。鎌と野菜篭を持っているので農民だろう。
「ではッ! その遠くなった耳の中の耳垢をッ! 綺麗に取り払って聞きなさいッ! 数多ある三千世界を知恵で照らす大魔法使いッ! そぉぉのぉぉぉ名はぁぁぁぁッ! んんんんんんんんんビャクヤ・ウィン!」
ビャクヤがポーズをとっている間に、老婆は遥か道の先で小さくなっていた。
「以外に健脚ッ・・・」
「で、何か策があるのね?」
「勿論。吾輩、召喚術の本の内容を憶えておりますから。実はあの本、裏表紙の隅っこに、”もうちょっとだけ続くんじゃ“と書いてあって、続きの内容が書いてある本の題名も書いてあったのです」
「なんて題名の本なの?」
「『無駄のない召喚術』です。もう書庫で読んでます。リンネの事に殆ど使われる吾輩の記憶領域を少し使ってッ! 本の内容を頭に叩き込んでありまんもすッ!」
「ビャクヤは私の事ばかり考えているの? 嬉しいかな・・・。でもいつの間に本を読んでたの? 私やエストが書庫にあった食べ物製造装置でお菓子を出して食べていた時?」
「そうでぃすッ! 召喚術の本の上下巻はッ! 先代の召喚士たちが手探りで築き上げた知識なのですがッ! それらの中にはッ! 余計な試行錯誤も多いのですッ! そこで無駄な術式を省いて簡略化したのが、『無駄のない召喚術』なのですッ!」
「どんな内容が書いてあったの?」
「とある術式を使えば低レベルの召喚士でもマジックアイテム無しでッ! 今回の件のようなトラブルを解決できるとあったのデスッ!」
―――チッ!
どこからか聞こえてきた舌打ちにビャクヤは辺りを見回し、ソナーのような探知系魔法を即座に発動させるも気配はない。気のせいだと思ってすぐに気にするのを止めた。
「凄い! じゃあ最初からそのやり方をやっていれば良かったじゃん!」
「・・・。しかし条件がありまして・・・。キリマルをよく知っている召喚士じゃないとダメなのです・・・」
う~んとリンネは腕を組んで、キリマルを知る召喚士がいないか記憶を探った。
「キリマルは悪魔だから、死霊術師のルロロさんじゃだめだし・・・」
召喚士になる者は意外に少ないのだ。
その理由は召喚士になるために、特別難しい能力条件があるわけではないからだ。メイジの資質があるものなら誰でもなれるが、それは花形であるメイジへの道を自ら放棄してしまったと見る者もいる。
なのでスペルキャスターの中でも召喚士はなりたい職業最下位なのである。
「意外といないよね、召喚士って」
「実力値が低いうちは最弱ですからねッ! 極めれば一人で領主と喧嘩ができるとは言われていますが・・・。最初はインプを一匹だけしか召喚出来ないのでッ! パーティからも邪魔もの扱いですしお寿司ッ!」
「魔法の合わせ鏡の方が簡単だったという理由がこれね」
「そうでぃすッ! しかし心当たりがないわけではないのですッ! 吾輩、知っての通り未来人ですからッ! この時代にいる有名な召喚士を知っておりマンモスッ! ツィガル帝国の名軍師と呼ばれた男ッ! マサヨッシュ・サラトゥを探せばいいのですッ! 彼の伝記には人修羅との冒険譚が出てきますッ! もしかしたらキリマルの事かもしれませんッ!」
「そんな都合のいい話があるかしら・・・。ちょっとまって・・・。マサヨッシュ、マサヨッシ、マサヨシ・・・。もしかしてマサヨッシュってマサヨシの事じゃないの?」
「まさか! マサヨシと違って教科書で見たマサヨッシュ軍師は、シュッとした黒髪のイケメンオーガですヨ。確かに目が細いところは似ていますが・・・。禿げてはいませんしッ!」
「一応、気にはしておきましょうよ」
「そうですなッ! この時代の彼は確か・・・、樹族国を放浪していたはずッ!」
「オーガなのに?」
「伝記によれば彼はオーガと言っても背の低いオーガですからッ! 背の高い地走り族に勘違いされていた可能性もありますッ!」
「背の低いオーガ・・・。人間族なら益々マサヨシじゃん」
「そんなに言うならばッ! 取り敢えずマサヨシを探してみましょう。ロケート・パーソンぬッ!」
ビャクヤの持つワンドの先から【人探し】の魔法の光が天高く昇って空に広がっていった。
その時にビャクヤはまた誰かの声を聞いたような気がした。
―――うふふ。今日も闇が溜まった!
「お~い!」
ズドドドと音をさせて色白の豚人がキャンプに走ってくる。豚人の後ろには魔物が沢山付いてきており、闇の中でも土煙が上がっているのが見えた。
「俗に言うトレインって奴だな・・・」
「トレイン?」
どういう意味だと聞きたそうなトウバに答えずに、俺は「ハァ」とため息をついて刀を構えた。
「頭を下げろ、マサヨシ!」
「御意!」
お辞儀をするように頭を下げたマサヨシの後頭部をかすめて、広範囲の一閃が飛ぶ。
水袋を斬ったような音が闇の中からして、獣や魔物の気配が消えた。
「ふぃ~、助かりますた」
「あ~、めんどくせぇ」
お礼を言うマサヨシの横を通り過ぎて、文句を言いながらも俺は魔物たちの腿肉を、次々とナイフで切り取っていく。
こうする事で魔物たちが蘇っても移動できなくなるからだ。襲ってこなくなるどころか、そのうち適当な魔物に食われて勝手に死ぬ。腿肉は食料とする。
「こんな夜中に何の用だ、マサヨシ。フンバを守ってろって言ったろ」
俺は切り取った腿肉をトウバに投げると、トウバは爪で器用に皮を剥いで、バナナの葉の上に肉を乗せていく。
「フンバ殿は問題ないでつ。問題はワンドリッターでつよ!」
サル人のギンジーも俺に気に入られようとしているのか、枝と大きなバナナの葉でテントのような簡易燻製器を作っていた。
「ステコが裏切ったのか?」
ハァハァと息をするマサヨシに水袋を投げて、奴が水を飲んで落ち着くのを待った。
「違うやで。ソラス・ワンドリッターの命令でやってきたワンドリッターの黒騎士が、宿屋を取り囲み、シルビィたんたちに向かって、王子殺しを企みし者、出てこいや、ワーレー! と言ったんやで」
「なるほどねぇ。計画がバレたと。(変な関西弁だな)いつの話だ?」
「キリマルたちがいなくなって暫くしてからでつ」
「宿屋からここまでそんなに遠くないだろ。どうやって俺の居場所を見つけたかは知らねぇが、知らせに来るまでやたらと時間が掛かってるじゃねぇか」
「さっき見た通り、魔物に絡まれていたからでつよ」
「よく生き延びたな」
「そりゃもう必死でしたから。オフッオフッ!」
不死者だから余裕があるな。必死さが伝わってこない。
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(極秘任務にせず、普通に王子暗殺命令を出せばいいのに、王子殺しの大義名分をねつ造した奴が、依頼者の中にいる。そうする事で何か得をする奴がいるんだな)
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「おい、ギンジー。お前なら樹族国の内情に詳しいだろ。第二王位継承権は誰にある?」
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「は?」
「シュラス王にあるのは第一継承権までですよ。何も言わなければ王子が次の王になります。そして第二継承者の任命権は第一継承者にありまする」
「それだと王子が他の貴族に継承権を与えて死んだりすれば、王族ががらりと入れ替わったりするんじゃねぇのか?」
「実際シュラス王の時に変わっております。先代は生粋のアルケディア王族ですが、シュラス王はブラッド領出身で王族の遠縁。アルカディア姓は王になってから名乗っています。どちらかというとブラッド辺境伯の親戚に近いのです。だから先代の王族は不満を持って国外に移住したり、国内に残って評議会や魔法院に所属して王政批判ばかりしております」
「変な制度だな」
「まぁ、そう仕向けた人物が誰かは言うまでもありませんが」
傀儡王を置いて裏から国政を操ろうとした、ワンドリッターや評議会の一部の連中か。
「ではシュラス王の弟や、その息子に継承権は?」
「今のところ、ありません」
「継承権を確実にするには?」
俺は燻製肉を作っているマサヨシとトウバを見ながら、近くで後ろ脚を失った魔物たちが共食いを始めた呻り声を聞く。
「王子に謀反の不名誉を被せる事です、キリマル閣下。そうすれば王子は継承権と同時に、任命権を失います。それからサラサス殿はシュラス王が即位する時に、無用な混乱をなくす為に王位継承権を放棄させられておりますので、継承権はありません」
ギンジーが、「私は欲しい答えを出したでしょう?」という得意顔をしたのでイラっとする。
今わかった。俺はサルが嫌いなんだわ。人間に近いからな。
「閣下だぁ? ゴマをするな。ぶっ殺すぞ」
「ヒィ!」
「そうなってようやく、シュラスの甥に継承権が発生するのか。じゃあ今回の首謀者はシュラスの弟サラサスか。シュラスはまんまと弟に騙されたわけだ。まぁ身内の言葉だから信用するわな。きっと言葉を信用させるような証拠を幾度となく捏造して、シュラス親子の間に猜疑心を芽生えさせるよう仕向けたのだろうよ。実情は知らんが」
マサヨシが向こうで「あ!」と声を上げた。なんか思い出したらしい。
「そうそう! 伝言を忘れてますた。シルビィたん曰く、ワンドリッターの城まで助けに来てくだせぇとの事です」
「ほぉ? 俺に? わかった。まぁいいだろう」
あっさりと承諾した事にマサヨシは豚鼻を広げて驚いている。
「おや? キリマル氏、随分とシルビィたんに優しいじゃないでつか」
肘でぐいぐい押してくる、うっとおしいマサヨシを押し返した。
「うるせぇ。めんどくせぇから、明日王子に会ってからな」
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