殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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ステコの策略

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 ワンドリッター家の次男は、ガノダのペニスをフォークに突き刺して、シルビィの口元に運んでくる。

「ガノダを殺したのか?」

 ぐいぐいと口に押し付けてくるソレに顔を背けて、なるべく口を開かないようにしてシルビィは訊いた。

「なに、宦官のようになっただけだ。あのデブは父親に似て中々頑固で口が堅い。戦いは苦手なのに、ここ一番で男気を見せる。流石はムダン家の者といったところか。さぁ食べろ」

「断る。残念だが、私はもっと太くて逞しいモノが好みでな。雄々しければ雄々しいほどいい。ドラゴンの首の上に、襟巻きを精一杯広げたエリマキトカゲの頭がついていると嬉しいのだが」

「君のポコチニズムなど、どうでもいいのだよ。さぁこれを食べたくなければ、洗いざらい喋るのだ。誰の命令で動いている?」

「ステコはどうした?」

 時間稼ぎをするシルビィの質問にジナルの手が止まり、顔が邪悪に歪む。

「あの一族の恥さらしか? まぁステコもワンドリッター家の者だったと言っておこう」

 それを聞いたしルビィは、赤い髪を逆立てて全身を怒りで滾らせた。そして頭の中で嘲笑うステコに罵声を浴びせた。

「あのヒョロヒョロもやしめ!」

(シュラス国王陛下はこうなる事を予想できたはずだ。なぜ彼を選んだのか・・・)

「我が弟は王子を介して繋がる友よりも、家族が大事だったという事だ。で、首謀者はブラッド家の誰なのかね? 弟はブラッド家の封蝋が付いた手紙を持っていた。残念ながら手紙の内容は消えてしまっていたがね。詳しい情報は君が知っているとステコは言っていたぞ。さぁ言え。私は仕事に戻らねばならん。後は無慈悲無感情の拷問官に君を任せてしまってもいいのだがね?」

(なに? ステコは樹族国最強の辺境伯に罪を被せたのか?)

 シルビィは内心で驚く。

(あのペテン師は・・・。ハハハ! 暗殺計画がばれた時の為に、事前にブラッド卿の封蝋付き手紙を手に入れていたのか。相手が相手だけにワンドリッターもすぐには調査はできないだろうな)

 エリート樹族で構成されるブラッド領は、霧の魔物が高頻度で現れる。そして彼らは生まれつきの使命感で強力な霧の魔物を退治し、それを誇りにしている。

 もし彼らの目が樹族国統治に向かえば、他の領主たちが一丸となってようやく太刀打ちできるかどうかである。

 そんな化け物相手にワンドリッターだけで立ち向かうのは無謀だ。時間をかけて根回しをして、ようやく情報収集に成功するかどうかだろう。

 ジナルの背後の扉が開く音が聞こえて、地下拷問室の薄暗闇に拷問官の姿が見えた。

 拷問官の【読心】に警戒しながら、シルビィは突然涙を流す。

「裏切り者のステコめ・・・。あれだけ誓ったのに・・・。わかった、もう隠すのは無意味だ。全てを話そう。私は金が欲しかったのだ。父に半ば勘当された身で支援もなく、蓄えはあっという間に底を突いた。部下に支払う給金にも苦労する日々が続き、もう嫌になったのだ! だから第二王位継承権を持つブラッド辺境伯に王子暗殺を持ちかけられた時は、正直借金地獄から救われたと思ったのだ!」

 話を聞いたジナルは拷問官に目配せをすると、拷問官は今の話がシルビィの心の中に描いたものと同じだったと答える。

 王国近衛兵騎士団独立部隊をただのお飾りだと思っているジナルは、シルビィが読心の魔法の対処法を熟知していることを知らない。

「ブラッドめ。とうとう本性を現したか。以前からあいつらはシュラス王に対し、親戚のような顔をして近づいていたからな。父上と兄上はどこだ?」

 ジナルは家長である父と長兄の居場所を拷問官に訊いたが、彼はそこまでの情報を持っていないのか、首を横に振っただけだった。

(ジナルはソラス卿の居場所を知らないだと? 家長の命ならばすぐに報告ができるような状況にしているはずだ。と言う事はこの件はジナルの単独行動か。こいつが考えの浅い坊ちゃんで助かった。いや、まだ助かってはいないが・・・)

「まぁいいさ。父上の執事に直接訊く。・・・シルビィからはまだ情報が引き出せそうだな。少しの間、快楽という褒美をやろう。その後の拷問がより酷く感じるようにな。よし、淫ら虫を放て。本人の希望に沿うよう、なるべく大きくてエラの張ったやつだ」

 そう言ってジナルは足早に階段を上がって行った。

 命令された拷問官は石の水槽から、大きなユムシのような生き物を掴み上げて床に落とす。

 淫ら虫は鎌首をもたげて周囲を探っている。そして尺取虫のように動いてゆっくりとシルビィに近づいてきた。

(くそ! 私はまだ恋もしていないというのに! こんな気持ちの悪い生き物が初めてになるのか。そんな惨めな初体験は嫌だ! キリマル! 早く来てくれ!)



「はぁ? ここから出る条件がそれだけでいいのか? ここで得た情報を墓まで持っていけと?」

 王子から渡された差出人不明の手紙を匂いつつ、俺は拍子抜けする。

「そ、そうよ。喋れば必ず殺す。ここでの記憶を消すっていう手段もあるけど」

 遺跡守はコノハ王子の背中に隠れて、俺を黒い瞳で睨んでいる。

 真ん中分けの下にある浅黒い額に、アマリをぶっ刺してやろうかと思いつつ俺は振り返った。

「だ、そうだ。お前ら」

「樹族の歴史は別に興味ねぇかな・・・。俺は奴隷がいなくなって、獣人が平和に暮らせればそれでいい」

 トウバは小指の爪先で慎重に鼻くそを穿って、脇に飛ばした。本当に興味がなさそうだな。

 俺はカナリアの炎魔法で炭化した死体から蘇ったギンジーを見る。ってかよ、炭の状態からよく生き返ったな・・・。

「遺跡守様の仰せのままに・・・」

 嘘クセェな。この猿はいつか喋りそうだが、どうでもいいか。

「なんの話でつか?」

 まぁマサヨシは、ここでの話を聞いてないから関係ねぇな。

「シルビィ達を助けに行こうと思ったが、先に王に報告しとくか。それからこの手紙は貰っておく。いいな? 王子さんよ」

「ああ、構わん」

「おい、デコ遺跡守。転移魔法は使えるか?」

「デ、デコ・・・。勿論」

「じゃあアルケディア城まで頼むわ。念のためマサヨシも連れていくか」

 こいつは中々のチート支援キャラだからな。世界を自分に都合よく捻じ曲げる能力者なんじゃねぇかと密かに思っている。

 そうでなくても魔法が効かないというのはありがてぇ。いざとなりゃこいつを盾にすりゃあいい。あと魔法無効化空間を無効にする能力も味方にメイジがいた時に助かる。

「じゃあな、お前ら。多分もう二度と会う事はねぇと思うが」

 俺がそう言うと、カナリアがさっさと立ち去れと言わんばかりに転移魔法を唱え始めた。



 アルケディア城の中庭に転移するなり、いきなり忍者モドキが襲い掛かって来た。俺は素早くアマリを抜いてマサヨシを襲う黒装束を斬り捨てる。

「俺だ、糞ったれの裏側どもが」

 まぁアルケディア城は転移侵入不可のはずだからな。裏側が襲い掛かって来るのも仕方がねぇ。どうやったか知らねぇが、あの遺跡守は結界を破って俺たちをアルケディア城まで送り届けた。

 もう一人の黒装束は斬り殺された仲間に手を添えて、影に沈もうとしたので伝える。

「シュラス王に伝えろ。キリマルが報告に戻ったと」
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