殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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神の正義

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 白い光の中でふと意識が途切れて、俺は闇にいる事に気が付く。

 魂が輪廻転生する為にその存在は必要不可欠で、全ての死者の記憶を蓄えていると言われている火の玉―――、記憶の太陽が照らす闇の中で、例のゴブリンがうんざり顔でこちらを見ていた。

「まーーた来た! 一体何回来る気でヤンスか! 悪魔が神域に来るたびに、あっしは楽しい地上からここに戻されるでヤンスよ!」

「知った事か。アホが。俺だってこんな糞みたいな場所に来たくねぇよ」

「糞みたいな場所とはなんですかーっ! いい加減にするでヤンスよ! 悪魔め!」

 奴は憤慨して拳を頭上でグルグル回している。その瓶底眼鏡のゴブリンを見ながら顎を掻いて俺は考える。

(それにしても、俺はなんでここにちょくちょく来るんだ? 死んだのか? いや、前に来た時も別に死んではいなかった。コズミックペンのシナリオ通りに動くと、ここに来ていたような気もする)

 Q同様、人の心を覗き見る目の前のゴブリンは「果たしてそうかな?」という顔をして何も言わない。

(しかし待てよ。今回、俺はシナリオ通りに動いていないぞ。って事はここに来る条件は、コズミックペンとは関係ねぇって事か)

「シナリオ通りに動いているかどうかなんて、一悪魔にわかるわけないでしょうが。そんな事よりも、もっと留意してほしい事があるでヤンス。禁断の魔筆の思惑に反して動くのは止めてもらいたいでヤンス」

「はぁ? 動くも何も、どうやってコズミックペンの思惑を知る事が出来る? 推測するしかねぇだろうがよ!」

 はぁ~とため息をついて、ゴブリンは中指で眼鏡の真ん中を持ち上げ位置を正した。

「流れでわかるでやんしょう。キリマルは気が付いていたはずでヤンスよ。コノハ王子を殺せば魔筆の書いた一つのシナリオは終わると。しかし、殺さなかった。人殺しの悪魔のくせに」

「うるせぇな。時には色んな事を試してみたり、出来事の詳細を知りたくなるもんだろうよ。今は好奇心旺盛な年ごろなんだわ」

「そんな十代の少年みたいな事を言って。オッサンのくせに・・・」

「オッサンじゃねぇつってんだろ。まだ二十代だ、俺は!」

 俺は思わず苛ついて腰のアマリを抜こうと思ったが、魔刀天邪鬼は眼鏡ゴブリンが警戒して、神域への出入りを禁止になっていたんだったわ。このチビゴブリンは、そんなに神殺しの刀が怖いのか。

「とにかく! コズミックノートに大きな付箋を付けるのは止めてほしいでヤンス。ただでさえ、禁断の箱庭を誰かがいたずらに作動させてしまって、世界はもうわけがわからない事になっているというのに」

「箱庭? なんだそりゃ。お前らの都合なんか知らねぇな。あ! そう言えば、お前に出会った事を憶えている遺跡守がいたぞ! どうなってんだ? 俺もここでの記憶を現世に持ち帰りてぇんだがぁ?」

「何事も例外はあるでヤンス。前世の記憶を持ったまま生まれる者がいたりするでやんしょう? その遺跡守もそういった特性があったんでヤンスよ」

 くそチビゴブリンは何かを思い出したのか、頬を赤くして鼻の下を伸ばした。

「でへへ、あの黒髪の闇樹族は、大人びた顔の割に案外可愛い性格をしてヤンしたよ。この場所を凄く怖がっていたでヤンス。あっしが優しく話しかけて落ち着かせたら、嬉しそうに自己紹介してきたでヤーンス。それから色々とどうでもいいお話をしていたら、キリマルの話も出てきたでヤンスよ。キリマルは眉毛が無くて怖いと言ってたでヤンス。や~い、眉無し垂れ目~! プ~スススス!」

 眉無しがこのゴブリンにとっての精一杯の悪口なんだろうな。俺に眉毛がないのは(実際は眉根に薄いのがある)事実だから腹は立たねぇが。それよりもオッサンと呼ばれる方がムカツクな。

「どうでもいいわ、そんな事。さっさと元居た場所に戻せ」

 ゴブリンは地団駄を踏んで激しく怒る。

「言われなくても、いつまでも神域に悪魔を居させるつもりはないでヤンスよ! 何しに来たんでヤンスか!」

「逆にこっちが聞きてぇわ! 誰が俺をここに飛ばすんだよ!」

「ふ~んだ。知ってても教えてあげないでヤンス。さっさと立ち去れ! 殺しの悪魔!」




「あの魔法は地面に着地してから事象を具現化して爆発を起こす! そうなる前に! 頼む! キリマル!」

 ハスキーなシルビィの声を聞いて、白かった視界が正常に戻る。

 白昼夢を見ていたのか、一瞬だけ気を失っていたのか、俺は我に返ってアマリで【核爆発】を迎え撃ちつつQを狙う。

「死ね! ババァ! 神速居合斬り!」

 高速の斬撃が飛ぶ。同じ斬撃を飛ばす無残一閃よりも、こちらの方が威力は高い。

「いけない! キリマル! 魔法は絶対に切れないと信じる気持ちよりも、殺意が勝っている!」

 アマリが叫んだ。確かに俺は魔法を気にするよりも、光球になったQを殺す気で必殺技を放ってしまった。刀の呪いは一度に一つだった事をすっかり忘れていたぜ。

 俺の神速居合斬りが核爆発魔法を無視して、元ババァだった光球を斬る。どうも剥き身になったQは斬れるみたいだな。

「ぎぃやああ!」

 エネルギー体を維持できなくなったのか、光球は徐々に存在が薄れ始めた。

(糞が! これが試合に勝って勝負に負けるって奴か)

 そう心の中で悔しがっていると、Qも消え際の負け惜しみを言う。

「ざ、残念だがね、あんたは何にも勝っちゃいないよ。あたしゃ死なない存在だからね。もしこの場であんたが生き残ったとしても、何度だって殺しに来るさ。本来の能力が発揮できれば、あんたなんか一瞬で消せるのだけどねぇ。生憎あたしは魔筆のルールに則ったやり方をするか、何事も無視するかしか選べないんだよ。さぁ終わりの時が来たよ。なるべく綺麗な体で死んでおくれ」

 光球が消えると同時に―――、地面についた時点で核爆発を起こす魔法の球が眼前に迫って来た。

 そしてどうでもいいタイミングでデビルアイが発動して魔法の仕組みが見える。

 球の内部ではもう既に核分裂反応を起こしている。落ちた時点で爆発を包んでいる固定化の魔法が解除され、エネルギーは一気に広がるって寸法だ。

「糞ったれが! せっかくマサヨシを連れてきても、これを消すのは無理かもしれねぇ。この魔法はマナの力を使って核爆発の仕組みを再現しているからな! リアル核爆弾と同じだ。マサヨシは自身に都合の悪い魔法を消す事はできるが、リアル核爆弾を消す芸当はねぇ」

 俺は頼りない豚人のようなマサヨシを見てから終わりを待った。

「それはどうでつかねぇ? おふっ! おふっ!」

 マサヨシはいつか見せた宇宙の帝王がするようなデスボールを指先に発生させた。実際のところ、そのデスボールはただの【衝撃の塊】という初心者が使う風魔法だ。

 半透明の黒い球はどんどんと大きくなって、落下してくる核の魔法とせめぎ合う。

「どういう事だ? マサヨシになぜそんな力がある?!」

 シルビィが驚いて余裕綽々の豚人を見た。

「なぜって・・・。拙者、神様ですしお寿司」

「いやいやいや、君はただの獣人だろう!」

 トメオもマサヨシにツッコミを入れると、当の本人は不満そうなほうれい線を顔に作った。

「とんでもねぇ、あたしゃ神様だ?」

「今時の子供にそのギャグは通じねぇぞ」

 俺は呆れながらマサヨシを見る。すると確率とは偏るもので、俺のデビルアイがマサヨシの能力を完全に見抜いた。

(こいつ、あれだ。Qが言った事を真に受けてやがんだ。自分が神であると信じ込んでいる! そもそもこいつの特性はマナを集めて、自分の都合に良いように合わせるというチート級能力。13分の1で発動するデビルアイが、奴の能力を見抜いたんだから間違いねぇ。こいつは信じれば何にだってなれるし何だってやれる。マナが現実化してくれるからな。まさしく神じゃねぇか!)

「クハハ! 流石は神様だ! このピンチ、神様にとって屁でもねぇな!」

 刀を鞘にしまって俺はマサヨシの肩に手を置いて微笑むと、眉をハの字にした尊大な豚顔がこちらを向く。

「その般若みたいな笑顔、やめてたもれ。朕は神であるぞ、馴れ馴れしいにも程がある。触れるな。下郎」

 俺の滅多に見せない笑顔が固まる。

(こんの糞豚がぁ~~~! 神様だと思い込んだ途端にこれか!)
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