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壁のステコ
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下向きだった目から、高出力のフォトンビーム的なものが、一度床を削って俺に狙いを向ける。
「なんだ?」
当然、俺はその不安定な攻撃を避ける。
「恐ろしい! こんなに強力な【魔法の矢】は見た事がない!」
驚き役のようになっているトメオが、ウメボシのビームを見てそう叫んだ。
「おい! ウメボシ!」
俺は奴の名を呼ぶ。ピンク色をした丸い装甲にその酸っぱそうな名前。余程のアホじゃない限り、忘れないだろうよ。
本来の時代で、今頃はゴデの街の酒場でヒジリの横でふわふわと浮いているはずだろうアンドロイドは、俺が呼んでも反応がない。
「意識がないのか? 動きもおかしい」
もう一度飛んでくる太いビームを回避して、俺は瞬歩で間合いを詰めるとウメボシを斬ろうとした。
しかし、ウメボシの周りに八角形の集合体のようなシールドが現れる。
(ちぃ! 微かにこのシールドを破壊できると思っている自分がいる。それにウメボシへの殺意が強ぇ! 魔刀アマリの呪いは一度に一つ! 迷いがあると駄目だ)
俺は刀を振るのを躊躇い、後ろに飛び退く。刀の斬撃が弾かれるとわかっているなら、そうするしかない。
小さな滝つぼに巻き込まれたゴミが浮いたり沈んだりするように、空中で揺れ浮かぶウメボシの焦点が合ってないような気がする。
「この展開、俺が中学生の頃に読んでいたファンタジー小説『暗黒ソード』の最後みてぇだな。最後に主人公が裏切って、科学の前に魔法の世界がひれ伏すってぇのは後味が悪かった。俺の殺意は科学を前にして、跪くってぇのか?」
はっきりと言おう。俺は魔法信者だ。科学の結晶であるウメボシにひれ伏すのは腹が立つ。
魔法はいいぞぉ。人を殺すとか・・・、他には・・・人を殺すとか。とにかく人を殺すとかできる。殺す以外思いつかねぇ。
攻撃性の高い魔法は憧れるし、人を破壊するのは楽しそうだ。
俺も成長とともに、それなりに魔法が使えるようにはなったらしいが、アマリ曰く魔法を習得しないほうがいいらしい。
なぜなら魔法は万能ではなく、それを身をもって体験してしまうと、魔法は絶対だという思い込みがなくなり、斬れなくなるからだそうだ。
憧れていたアイドルにいざ会って、話をしてみたらとんでもねぇゲス野郎だったみたいな感じか? 夢は夢のまま素敵に終わらせるのが良いって事だな。
「マサヨシを狙え! キリマル! 奴がイービルアイを召喚した!」
意外と非情な事を言うのだなァ、シルビィは。益々惚れそうだ。
どうやらシルビィもトメオも、マサヨシが何者かに憑依されているってのは気が付いているみたいだな。
何のエネルギーで作ったシールドなのかはわからねぇが―――、半透明の青い障壁を透過してウメボシが見える。
「科学の前に魔法は無力か・・・。気に入らねぇ」
俺はいつの間にか十メートルほどの高さに浮いているマサヨシに刀を構えようと思ったが、悔しいので穿孔一突きの構えをウメボシに向ける。
「まぁ弾かれるだろうがよ・・・。あの青いシールドに引っかき傷ぐらいは作ってみたい」
向こうもエネルギーを瞳に集め始めた。粒子の光が、彼女の虹色の瞳に吸い込まれていく。
「キリマル! 無駄だ! 回避に専念しろ! あのイービルアイのオーラは赤黒い! 魔力がとても高いという事だ! 魔法を受ければ即死だぞ!」
「は?」
待て待て、シルビィ。
ウメボシはアンドロイドだぞ。魔力なんてあるわけねぇだろうが。
―――ゴォォォ!
俺の身長百九十センチと同じくらい、幅のある太いビームが轟音を上げて発射された。
集約されたエネルギーの束が俺に届くまで、コンマ何秒の世界だ。
(やはり穿孔一突きだと間に合わねぇか)
溜め時間を必要とするこの刺突攻撃は、分厚い鎧も貫くが使い勝手が悪い。
俺の悪魔の目に、ゆっくりと迫って来るように映るビームを回避して、ダメ元でウメボシに水平の一太刀を浴びせる。
―――ビシャァ!!
半透明の青いシールドはなんの抵抗もなく刀を通し、硬そうに見えた柔らかい装甲を切り裂いた。
俺の気合の籠った攻撃が強過ぎたのか、衝撃波が拷問部屋にある血のこびりついた壁を穿つ。
あまりの手応えのなさに一瞬思考が停止しかけたが、俺は続けて構える。
地下室の崩れた天井の更に上(つまり一階の天井付近)に浮くマサヨシに向かって神速居合斬りを放った。
ザンと音がしてマサヨシの首が刎ね飛ぶ。これまた呆気ない。戦闘向きの体ではないとQは言っていたが、ここまで無抵抗だとは思わなかった。
マサヨシに対する憐みや後悔はねぇ。こいつは一旦元の世界に戻った後、こっちの世界にて蘇るらしいからな。糞チーターだ。
首のない体のどこから声を出しているのかわからねぇが、まだ空中に浮くQは悔しそうに喚いた。
「肉体があるってのはある意味、足枷のようだね! 人の脳では創造にも限界があるよ。そしてコズミックペンの制約にも強く縛られる。例えそれが理の外の者でもね。物語に介入するには、物語の最低限のルールに従わないといけないのさ。ウメボシとやらを作り出そうとしたのだけど、この世界のルールに沿ったイービルアイが生まれただけだったよ」
つまりQはウメボシを召喚したわけではなく、マサヨシの記憶を元にウメボシとよく似た魔物を作り出しただけだった。
となると俺は魔力の高いイービルアイを相手に、勝手にビビッて攻撃を躊躇ったりしていたわけか・・・。くっそ恥ずかしわ。
「・・・」
自分の肝の小ささを恥じていると、首から血をピュピュっと噴き出す肥満体は、ゆっくりと地下室の床に降りてきた。
「コズミックノートが私の事をなんと言ったかは知らないけど、私はこの世界を愛している! 色んな命に溢れるこの世界を絶対に消したくはない! だからずっとコズミックペンの仕事を阻もうとしているのだけど、あいつは絶対見つからない領域で、今も狂ったように物語を書き殴っているのだ。そして、新たな特異点が現れる度に、真っ黒になったページに、似たようなお話が上書きされていくのさ。そうすると、この美しい世界に矛盾が現れ、徐々に物語が壊れていく。コズミックペンの狂気で、私の美しいビャクヤも世界に巻き込まれて壊れていくのさ。だからあの子だけでも、私の世界に連れて行こうと思ったのに・・・」
「なんだ、まだいたのか。早く死ね。いつまで自分語りをしているつもりだ」
俺が腰を捻りながら欠伸をすると、Qは首の無い体で地団駄を踏む。
「せっかちだね、キリマルは! ん・・・あぁ! 今わかったよ。あんたが何者か。そうだ! あんたはきっと! あれだよ! あれ!」
そう言って豚みたいな体が地面にドシャリと倒れた。
なんだ? 嫌がらせか? 最後まで言わずに、事切れやがって。
「私は何を見たのだろうか?」
そう言ってシルビィを俺は見る。
不思議がる王の盾の娘に、軽々しく「世界の理に関わる一つを見た!」などと言えるわけもなく・・・。
「さぁな。神を気取るアホの遊戯に付き合わされただけなんだろうさ」
俺もシルビィの顔を何気なく見る。そういやずっと片目を閉じたままだな、こいつ。気になる・・・。
「ところで片目はどうした?」
「拷問官に潰されたのだ」
シルビィの片目がもう一人の、裸だった女に向く。あの女は拷問官か。
俺がアマリの柄を握って拷問官に向こうとすると、シルビィが俺の腕に手を置いた。
「しかし、あの女の拷問官が私の目を潰したかどうかはわからない」
この女騎士様は公正であらせられる。証拠がないと罰を与えようとはしない。
俺は内心でニヤリと笑うと、色々な緊張から解放されてホッとしているシルビィに、例の白い小瓶を渡した。
「一口飲め」
「ん? こ、これは! エリクサーじゃないか! こんな高価な物、飲んでもいいのか?」
エリクサーってあれだよな。ゲームの終盤とかに出てきて、結局勿体ないからつって、最後まで使わない貴重な薬。
「ほぉ~。そんな良いモノなのか。まぁいいから飲め」
「だが・・・」
「貰い物だから気にするな」
戸惑いながらもシルビィが一口飲むと潰された左目が再生し、爪から出ていた血も止まる。
「どうだ?」
「ああ、お蔭で全快だ。感謝する!」
「そうか、そうか。クハハハ!」
「何だ? 何がそんなに嬉しい?」
「さぁな」
お前が飲んだのは親の愛だ、シルビィ。お前が越えようとしている父親のな。親子の絆、家族の絆ってのは良いもんだねぇ? ええ?
「まさか! キリマル・・・。貴様、エリクサーに変な物を入れたのではないだろうな? 液体の色は白・・・。さては!」
シルビィの顔と長い耳が赤くなる。さっきまで裸で堂々と歩いていたような女が、なんでそんな事で顔を赤くするんだか。
「おいおい、俺がそんな変態じみた事をすると思うか? ところでガノダはどうした?」
俺はあの太っちょ貴族の姿を探す。
「・・・。多分どこかに幽閉されている」
それを聞いて俺は蘇生し、意識の戻った黒騎士の太腿を蹴る。
「おい! ガノダ・ムダンをここに連れてこい!」
普段は平民に恐れられて避けられている存在だろう黒騎士は、慌てて飛び起きた。
「ひぃぃ! 今すぐに!」
黒騎士が連れてきたガノダの姿を見て、俺は笑いを堪えられなかった。
「クハハ! おめぇ、なんでオムツなんかしてんだ?」
「拷問でアレを切られたのだよ・・・。もし僧侶の施す奇跡に失敗すれば、私のイチモツは一生このままだ」
部位欠損を回復できるチャンスは一回だけなのか。道理で眼帯をしている奴がいたりするわけだ。
ガノダは覇気なくそう言って落ち込むと、シルビィが急に慌てだす。なんで慌ててんだ?
「い、生きているだけでも神に感謝せねばな、ガノダ。キリマル、彼にもエリクサーを分けてやってくれないか?」
「いいぜェ」
俺は笑いつつも、ガノダの股間の赤い染みを見ながらエリクサーを渡した。
「キリマルの精液入りだが、我慢して飲むのだ。ガノダ」
シルビィが真面目な顔でそう言うので、ガノダの額と眉間に皺が寄り、その懐疑に満ちた目を俺に向ける。
「入ってねぇつってんだろうが!」
俺の言葉を信じたのか、ガノダは渋い顔をしたままエリクサーを一口飲んだ。
するとなんと!
もりもりとガノダの股間が膨らむ!・・・なんて事はねぇが、デブッチョはイチモツが戻ってきて嬉しいのだろうよ。
「あぁ! 私の! 大事な陰なる茎と頭が戻ってきた!」
なんだそのビャクヤみたいな言い回しは。
「ほら! 見てくれ! 私の聖なる亀が戻ってきた!」
ガノダはテンションが上がり過ぎて頭がおかしくなっているのか、オムツを脱いで、小さなソレを俺たちに見せてくる。
「粗末なモノを見せるんじゃねぇ!」
俺がアマリの柄に手をかけて、「戻ったチンコを切るぞ」ガノダを脅すと、アマリが小さな声で「そんな粗末ななもの、斬りたくない」と言ったので自然とシルビィやガノダから笑いが漏れる。
その笑いの中にトメオの姿がねぇ。奴は弟が爆死した場所で跪いて祈りを捧げていた。
俺は魔力暴走の跡である爆心地に来て、トメオの横に立つ。
「これはステコの分だ。転移してくる前は、怪我で死にかけているかもしれねぇ、頓珍漢トリオに使わせる予定だったんだがよ、そうなる前にステコが死んだのは残念だったな」
俺は祈るトメオの横で残ったエリクサーを、肉片がこびり付く壁に撒いた。いけ好かないヒョロヒョロの顔を思い浮かべるも、そこまで思い入れはねぇ。
トメオはまだ祈っており静寂と沈黙が続く。
「・・・」
「いつまでも弟の為に祈ってられねぇぞ。そろそろこの場を去る準備をするんだな。その内、城外の黒騎士どもも戻ってくるだろうからよ。外から返って来た黒騎士は、生き返った黒騎士みたいに俺に怯えたりはしねぇから、もう一戦する事になるぞ。まぁそれでも構わねぇが」
「わかっているさ」
トメオはそれでも祈っている。
(俺も絆を結んだ者の死を見るとこうなるのかね・・・)
絆や優しさは自分を弱くするんじゃねぇかという不安と、いつから俺はこんなに人の死を気にするようになったんだ? という苛立ちが湧き上がる。しかしなんとかそれを抑えて、トメオが祈り終えるのを待つ。
別に待つ必要なんてねぇんだがよ。何となくボンヤリしていると、いつかどこかで聞いた例の声が頭に響いた。
―――ヤンス!!
相変わらず、痰が絡まったような甲高い声で腹が立つぜ。
奇妙な幻聴を頭から追い出そうとすると、トメオが急に声を上げた。
「わぁぁ!」
その声を聞き、新たなる敵襲に備えて周囲を警戒したが、感知できるのは怯えた黒騎士だけだ。
「急に大声を出すな、くそが」
自分だけ周りを警戒した事が恥ずかしくなる。
と同時に悪魔の感覚が―――、拷問部屋の壁に差す陰から現れる何者かの気配を察知した。
トメオが先にその気配に気が付いたのは癪だな。
陰から出てきたその何者かを見て、俺の垂れ目は大きく広がる。
そこにいたのは、爆死して肉片となったはずのステコだったからだ。
「なんだ?」
当然、俺はその不安定な攻撃を避ける。
「恐ろしい! こんなに強力な【魔法の矢】は見た事がない!」
驚き役のようになっているトメオが、ウメボシのビームを見てそう叫んだ。
「おい! ウメボシ!」
俺は奴の名を呼ぶ。ピンク色をした丸い装甲にその酸っぱそうな名前。余程のアホじゃない限り、忘れないだろうよ。
本来の時代で、今頃はゴデの街の酒場でヒジリの横でふわふわと浮いているはずだろうアンドロイドは、俺が呼んでも反応がない。
「意識がないのか? 動きもおかしい」
もう一度飛んでくる太いビームを回避して、俺は瞬歩で間合いを詰めるとウメボシを斬ろうとした。
しかし、ウメボシの周りに八角形の集合体のようなシールドが現れる。
(ちぃ! 微かにこのシールドを破壊できると思っている自分がいる。それにウメボシへの殺意が強ぇ! 魔刀アマリの呪いは一度に一つ! 迷いがあると駄目だ)
俺は刀を振るのを躊躇い、後ろに飛び退く。刀の斬撃が弾かれるとわかっているなら、そうするしかない。
小さな滝つぼに巻き込まれたゴミが浮いたり沈んだりするように、空中で揺れ浮かぶウメボシの焦点が合ってないような気がする。
「この展開、俺が中学生の頃に読んでいたファンタジー小説『暗黒ソード』の最後みてぇだな。最後に主人公が裏切って、科学の前に魔法の世界がひれ伏すってぇのは後味が悪かった。俺の殺意は科学を前にして、跪くってぇのか?」
はっきりと言おう。俺は魔法信者だ。科学の結晶であるウメボシにひれ伏すのは腹が立つ。
魔法はいいぞぉ。人を殺すとか・・・、他には・・・人を殺すとか。とにかく人を殺すとかできる。殺す以外思いつかねぇ。
攻撃性の高い魔法は憧れるし、人を破壊するのは楽しそうだ。
俺も成長とともに、それなりに魔法が使えるようにはなったらしいが、アマリ曰く魔法を習得しないほうがいいらしい。
なぜなら魔法は万能ではなく、それを身をもって体験してしまうと、魔法は絶対だという思い込みがなくなり、斬れなくなるからだそうだ。
憧れていたアイドルにいざ会って、話をしてみたらとんでもねぇゲス野郎だったみたいな感じか? 夢は夢のまま素敵に終わらせるのが良いって事だな。
「マサヨシを狙え! キリマル! 奴がイービルアイを召喚した!」
意外と非情な事を言うのだなァ、シルビィは。益々惚れそうだ。
どうやらシルビィもトメオも、マサヨシが何者かに憑依されているってのは気が付いているみたいだな。
何のエネルギーで作ったシールドなのかはわからねぇが―――、半透明の青い障壁を透過してウメボシが見える。
「科学の前に魔法は無力か・・・。気に入らねぇ」
俺はいつの間にか十メートルほどの高さに浮いているマサヨシに刀を構えようと思ったが、悔しいので穿孔一突きの構えをウメボシに向ける。
「まぁ弾かれるだろうがよ・・・。あの青いシールドに引っかき傷ぐらいは作ってみたい」
向こうもエネルギーを瞳に集め始めた。粒子の光が、彼女の虹色の瞳に吸い込まれていく。
「キリマル! 無駄だ! 回避に専念しろ! あのイービルアイのオーラは赤黒い! 魔力がとても高いという事だ! 魔法を受ければ即死だぞ!」
「は?」
待て待て、シルビィ。
ウメボシはアンドロイドだぞ。魔力なんてあるわけねぇだろうが。
―――ゴォォォ!
俺の身長百九十センチと同じくらい、幅のある太いビームが轟音を上げて発射された。
集約されたエネルギーの束が俺に届くまで、コンマ何秒の世界だ。
(やはり穿孔一突きだと間に合わねぇか)
溜め時間を必要とするこの刺突攻撃は、分厚い鎧も貫くが使い勝手が悪い。
俺の悪魔の目に、ゆっくりと迫って来るように映るビームを回避して、ダメ元でウメボシに水平の一太刀を浴びせる。
―――ビシャァ!!
半透明の青いシールドはなんの抵抗もなく刀を通し、硬そうに見えた柔らかい装甲を切り裂いた。
俺の気合の籠った攻撃が強過ぎたのか、衝撃波が拷問部屋にある血のこびりついた壁を穿つ。
あまりの手応えのなさに一瞬思考が停止しかけたが、俺は続けて構える。
地下室の崩れた天井の更に上(つまり一階の天井付近)に浮くマサヨシに向かって神速居合斬りを放った。
ザンと音がしてマサヨシの首が刎ね飛ぶ。これまた呆気ない。戦闘向きの体ではないとQは言っていたが、ここまで無抵抗だとは思わなかった。
マサヨシに対する憐みや後悔はねぇ。こいつは一旦元の世界に戻った後、こっちの世界にて蘇るらしいからな。糞チーターだ。
首のない体のどこから声を出しているのかわからねぇが、まだ空中に浮くQは悔しそうに喚いた。
「肉体があるってのはある意味、足枷のようだね! 人の脳では創造にも限界があるよ。そしてコズミックペンの制約にも強く縛られる。例えそれが理の外の者でもね。物語に介入するには、物語の最低限のルールに従わないといけないのさ。ウメボシとやらを作り出そうとしたのだけど、この世界のルールに沿ったイービルアイが生まれただけだったよ」
つまりQはウメボシを召喚したわけではなく、マサヨシの記憶を元にウメボシとよく似た魔物を作り出しただけだった。
となると俺は魔力の高いイービルアイを相手に、勝手にビビッて攻撃を躊躇ったりしていたわけか・・・。くっそ恥ずかしわ。
「・・・」
自分の肝の小ささを恥じていると、首から血をピュピュっと噴き出す肥満体は、ゆっくりと地下室の床に降りてきた。
「コズミックノートが私の事をなんと言ったかは知らないけど、私はこの世界を愛している! 色んな命に溢れるこの世界を絶対に消したくはない! だからずっとコズミックペンの仕事を阻もうとしているのだけど、あいつは絶対見つからない領域で、今も狂ったように物語を書き殴っているのだ。そして、新たな特異点が現れる度に、真っ黒になったページに、似たようなお話が上書きされていくのさ。そうすると、この美しい世界に矛盾が現れ、徐々に物語が壊れていく。コズミックペンの狂気で、私の美しいビャクヤも世界に巻き込まれて壊れていくのさ。だからあの子だけでも、私の世界に連れて行こうと思ったのに・・・」
「なんだ、まだいたのか。早く死ね。いつまで自分語りをしているつもりだ」
俺が腰を捻りながら欠伸をすると、Qは首の無い体で地団駄を踏む。
「せっかちだね、キリマルは! ん・・・あぁ! 今わかったよ。あんたが何者か。そうだ! あんたはきっと! あれだよ! あれ!」
そう言って豚みたいな体が地面にドシャリと倒れた。
なんだ? 嫌がらせか? 最後まで言わずに、事切れやがって。
「私は何を見たのだろうか?」
そう言ってシルビィを俺は見る。
不思議がる王の盾の娘に、軽々しく「世界の理に関わる一つを見た!」などと言えるわけもなく・・・。
「さぁな。神を気取るアホの遊戯に付き合わされただけなんだろうさ」
俺もシルビィの顔を何気なく見る。そういやずっと片目を閉じたままだな、こいつ。気になる・・・。
「ところで片目はどうした?」
「拷問官に潰されたのだ」
シルビィの片目がもう一人の、裸だった女に向く。あの女は拷問官か。
俺がアマリの柄を握って拷問官に向こうとすると、シルビィが俺の腕に手を置いた。
「しかし、あの女の拷問官が私の目を潰したかどうかはわからない」
この女騎士様は公正であらせられる。証拠がないと罰を与えようとはしない。
俺は内心でニヤリと笑うと、色々な緊張から解放されてホッとしているシルビィに、例の白い小瓶を渡した。
「一口飲め」
「ん? こ、これは! エリクサーじゃないか! こんな高価な物、飲んでもいいのか?」
エリクサーってあれだよな。ゲームの終盤とかに出てきて、結局勿体ないからつって、最後まで使わない貴重な薬。
「ほぉ~。そんな良いモノなのか。まぁいいから飲め」
「だが・・・」
「貰い物だから気にするな」
戸惑いながらもシルビィが一口飲むと潰された左目が再生し、爪から出ていた血も止まる。
「どうだ?」
「ああ、お蔭で全快だ。感謝する!」
「そうか、そうか。クハハハ!」
「何だ? 何がそんなに嬉しい?」
「さぁな」
お前が飲んだのは親の愛だ、シルビィ。お前が越えようとしている父親のな。親子の絆、家族の絆ってのは良いもんだねぇ? ええ?
「まさか! キリマル・・・。貴様、エリクサーに変な物を入れたのではないだろうな? 液体の色は白・・・。さては!」
シルビィの顔と長い耳が赤くなる。さっきまで裸で堂々と歩いていたような女が、なんでそんな事で顔を赤くするんだか。
「おいおい、俺がそんな変態じみた事をすると思うか? ところでガノダはどうした?」
俺はあの太っちょ貴族の姿を探す。
「・・・。多分どこかに幽閉されている」
それを聞いて俺は蘇生し、意識の戻った黒騎士の太腿を蹴る。
「おい! ガノダ・ムダンをここに連れてこい!」
普段は平民に恐れられて避けられている存在だろう黒騎士は、慌てて飛び起きた。
「ひぃぃ! 今すぐに!」
黒騎士が連れてきたガノダの姿を見て、俺は笑いを堪えられなかった。
「クハハ! おめぇ、なんでオムツなんかしてんだ?」
「拷問でアレを切られたのだよ・・・。もし僧侶の施す奇跡に失敗すれば、私のイチモツは一生このままだ」
部位欠損を回復できるチャンスは一回だけなのか。道理で眼帯をしている奴がいたりするわけだ。
ガノダは覇気なくそう言って落ち込むと、シルビィが急に慌てだす。なんで慌ててんだ?
「い、生きているだけでも神に感謝せねばな、ガノダ。キリマル、彼にもエリクサーを分けてやってくれないか?」
「いいぜェ」
俺は笑いつつも、ガノダの股間の赤い染みを見ながらエリクサーを渡した。
「キリマルの精液入りだが、我慢して飲むのだ。ガノダ」
シルビィが真面目な顔でそう言うので、ガノダの額と眉間に皺が寄り、その懐疑に満ちた目を俺に向ける。
「入ってねぇつってんだろうが!」
俺の言葉を信じたのか、ガノダは渋い顔をしたままエリクサーを一口飲んだ。
するとなんと!
もりもりとガノダの股間が膨らむ!・・・なんて事はねぇが、デブッチョはイチモツが戻ってきて嬉しいのだろうよ。
「あぁ! 私の! 大事な陰なる茎と頭が戻ってきた!」
なんだそのビャクヤみたいな言い回しは。
「ほら! 見てくれ! 私の聖なる亀が戻ってきた!」
ガノダはテンションが上がり過ぎて頭がおかしくなっているのか、オムツを脱いで、小さなソレを俺たちに見せてくる。
「粗末なモノを見せるんじゃねぇ!」
俺がアマリの柄に手をかけて、「戻ったチンコを切るぞ」ガノダを脅すと、アマリが小さな声で「そんな粗末ななもの、斬りたくない」と言ったので自然とシルビィやガノダから笑いが漏れる。
その笑いの中にトメオの姿がねぇ。奴は弟が爆死した場所で跪いて祈りを捧げていた。
俺は魔力暴走の跡である爆心地に来て、トメオの横に立つ。
「これはステコの分だ。転移してくる前は、怪我で死にかけているかもしれねぇ、頓珍漢トリオに使わせる予定だったんだがよ、そうなる前にステコが死んだのは残念だったな」
俺は祈るトメオの横で残ったエリクサーを、肉片がこびり付く壁に撒いた。いけ好かないヒョロヒョロの顔を思い浮かべるも、そこまで思い入れはねぇ。
トメオはまだ祈っており静寂と沈黙が続く。
「・・・」
「いつまでも弟の為に祈ってられねぇぞ。そろそろこの場を去る準備をするんだな。その内、城外の黒騎士どもも戻ってくるだろうからよ。外から返って来た黒騎士は、生き返った黒騎士みたいに俺に怯えたりはしねぇから、もう一戦する事になるぞ。まぁそれでも構わねぇが」
「わかっているさ」
トメオはそれでも祈っている。
(俺も絆を結んだ者の死を見るとこうなるのかね・・・)
絆や優しさは自分を弱くするんじゃねぇかという不安と、いつから俺はこんなに人の死を気にするようになったんだ? という苛立ちが湧き上がる。しかしなんとかそれを抑えて、トメオが祈り終えるのを待つ。
別に待つ必要なんてねぇんだがよ。何となくボンヤリしていると、いつかどこかで聞いた例の声が頭に響いた。
―――ヤンス!!
相変わらず、痰が絡まったような甲高い声で腹が立つぜ。
奇妙な幻聴を頭から追い出そうとすると、トメオが急に声を上げた。
「わぁぁ!」
その声を聞き、新たなる敵襲に備えて周囲を警戒したが、感知できるのは怯えた黒騎士だけだ。
「急に大声を出すな、くそが」
自分だけ周りを警戒した事が恥ずかしくなる。
と同時に悪魔の感覚が―――、拷問部屋の壁に差す陰から現れる何者かの気配を察知した。
トメオが先にその気配に気が付いたのは癪だな。
陰から出てきたその何者かを見て、俺の垂れ目は大きく広がる。
そこにいたのは、爆死して肉片となったはずのステコだったからだ。
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