殺人鬼転生

藤岡 フジオ

文字の大きさ
191 / 299

全てを知った王

しおりを挟む
 ワンドリッター家の三男は、なぜ自分が無事なのか理解できずに立ち尽くしている。

「ああ! 神様! ああ!」

 落とし子トメオは、弟のステコを強く抱きしめて涙を流していた。抱き着かれたステコも困惑しながらも兄を抱きしめ返す。

「私はなぜ現世にいるのだ、兄さん。こんな事を話しても信じてくれないかもしれないが、闇の中で小さなゴブリンが何かを大声で喚いたんだ。そしたら私は生き返っていた・・・」

 こいつも頭が混乱しているな。なんだ、小さなゴブリンってよ。

「なんでステコは生き返ったんだ? アマリ」

 俺は何でも知ってそうなアマリにそう訊いてみた。

「知らない。だけど憶測ならできる。蘇生の呪いは発動して完了するまでの間に、死体がダメージを負うと生き返らなかったり、ダメージが残ったまま生き返る。だからその逆もあるとは思う」

 指を鳴らして、あれかと思い返す。

「ああ、そういやさっきイービルアイを斬った時にステコの肉片がこびり付いている壁を削ったな。俺は知らず知らずの内にステコの肉片に、蘇生の呪いをかけていたってわけか。そして呪いが付与された、蘇生不可な肉片に俺はエリクサーをかけた。部位欠損を回復する高価な薬は、ステコの肉体を修復しつつ呪いが発動して蘇生したって事か」

 俺の話を聞いていたシルビィが肩を竦める。

「なんとも人知を越えた力だ! 出鱈目にも程がある。我らが残虐なる剣士様は有能過ぎるな。ともあれ高価な薬と奇跡の力が合わさってこうなったわけだ? 幸運だったな、ステコ・ワンドリッター」

「もし、その話が本当ならばね。私は兄さんの祈りを、神が聞き届けてくれたのだと思うよ」

 ステコは兄を今一度強く抱きしめた。

「まぁどうだっていいさ。なら、お前が見たゴブリンの神様に感謝だな」

 正直、抱き合う兄弟の片割れを殺して、もう一度絶望する姿を見たいという気持ちがある。だが、ステコが生き返って、兄弟の絆が深まった事に喜ぶ自分がいるのにも驚きだ。

 俺は感情の纏まりのなさにイライラしながら、一階へのそのそと上がる。

「さぁ、馬でも盗んでアルケディア城に報告しに戻るぞ」



 
 成人して直ぐに裏側の長まで上り詰めた―――、親友の息子は闇のような黒装束を着て目の前にいる。

 常に被っている覆面のお陰で彼がどんな顔をしていたかを既に忘れており、表情を見る事が出来なくてシュラスは残念に思っていた。

(黒い装束はまるで父への皮肉のようだな、セイン)

「顔をあげい。我が親友の息子、セイン・ザステス」

 跪く裏側の長の本名をシュラスは言う。

「陛下。その名で呼ぶのはお控えください」

 ジュウゾの目が、王の背後に立つリューロックをちらりと見て視線を戻す。

 案の定、王の盾が金棒で床を軽く叩いてジュウゾを睨んだ。

「陛下が貴様をどう呼ぼうと自由だ、闇の子セイン」

「やめんか、リューロック。全くお前たちはいつもいつも反目しあってからに」

 リューロックは不満そうにして、立派に伸びる赤い口髭を扱く。

(陛下は未だに・・・、闇落ちしたあの男を親友と呼ぶのか・・・)

 グランデモニウム王国に逃亡をした父を持つジュウゾを、リューロックは信用していない。

 そもそもジュウゾの陰気で冷酷な性格が自分とは合わないし、陰でコソコソと動く裏側という名の隠密部隊を良しとはしていないからだ。

「さて、ジュウゾよ。お前の持つ情報と照らし合わせて、今回の件をどう思う?」

 全て言わずともわかるな? という顔でシュラスは非公式組織の長に、王座から見下ろすようにして訊いた。

「コノハ王子の件ですか? 陛下」

「そうだ」

「様々な勢力の思惑が絡んでおりますので・・・」

「構わん」

「しかし・・・。聞かなかった方が良かったと後悔なされます。ただ黙ってシソ様とサラサス様を処刑なされるのが、陛下の為には最善かと」

 ゴインと金属音が鳴る。リューロックが怒って金棒で床を強く叩いたのだ。

「貴様の意見など聞いてはおらん! それを決めるのは陛下だ! 質問に答えればいいのだ、裏側の長ジュウゾ!」

「ハッ」

 役職でも身分でも、自分より遥か上のリューロックにジュウゾは頭を下げて話を始めた。

「まず、キリマルの報告通りコノハ王子を貶めようとしたのは、間違いなくサラサス様とシソ様です。理由もセリスス様に第一王位継承権を与える為です。サラサス様とシソ様の子、セリスス様に・・・」

「な・・・! なに?! 今なんと申したか? ばかな! あの子はサラサスと娼婦の間にできた落とし子ではなかったのか? そう思ってワシは生まれを追及はしなかった! では、お前たち裏側は、セリススの鑑定拒否の魔法効果を掻い潜って調べたというのか?」

 シュラスはジュウゾの情報収集能力の高さに寒気が走る。弟の魔力は非凡。そうそう鑑定拒否や鑑定改ざんのような難しい呪文を破れるとは思えない。魔法に疎い裏側が、ここまで調べあげるその手腕を疑いたくなった。

 夜中に世界の英雄譚を読んで、子供のようにはしゃいでいる自分の姿も、覗き見されているのではないかと心配になってくる。

「私は最初に警告しましたよ、陛下。何も聞かないで処刑をしたほうが陛下の為だと。キリマルが証拠として送ってきた手紙と、シソ様が王子の部屋に置いた手紙は同一のものです。部下が見ておりますゆえ、間違いありませぬ。それからサラサス様が元老院と何度か接触をしておりました」

「そうか・・・」

 シュラスの顔に影が落ちる。

(我が息子の件で、家族を疑うまいと心に刻みつけたが、しかし・・・。今のワシはジュウゾとキリマルを信用しようとしている。悪魔はずる賢く残虐だが、気まぐれな神と違って、契約を必ず履行する性質を持っている。そしてジュウゾは、約束の呪いでワシに逆らえない。そもそも我が親友の子が裏切ることはない。えぇい・・・! 家族に裏切られる悔しさや悲しみを、この場にいる誰がわかろうか。闇堕ちをしたガノンですら! 最後までセインの事を心配していたというのに!)

 考え事をして黙った王に、セイン・ザステス――――ジュウゾは低い声で追加の報告をする。

「それから陛下。元老院からワンドリッター領方面に、使い魔が飛んでいくのを確認しております」

 ピクリとリューロックの太くて赤い眉が動いた。

「サラサス様は元老院に裏切られた、という事ですか? 陛下」

「そうじゃろうな。弟はセリススの後ろ盾を、元老院に頼むつもりだったんじゃろうが、奴らは元々現王家を丸ごと潰す気でおった。王子暗殺任務を妨害したのも元老院。王子殺害の証拠を得ようとワンドリッターに、依頼したのも元老院。恐らく弟と妹は元老院に丸め込まれたのだろう。馬鹿な奴らじゃ・・・。しかしソラス・ワンドリッターは今回は関わってないように思える。グランデモニウム王国との戦い出向いておるでな。となるとジナルが単独でキリマルたちの対応をしていた事になる。ワンドリッターの次男はプライドばかり高く、どこか抜けているところもあると聞く。我らが悪・・・、剣士殿は問題なくシルビィ共々帰ってくるじゃろう」

 シュラスは隈のある目でリューロックにウィンクをして、王座に深く座り直した。

 そして深くため息をついた後に両目を手で押さえて、もうなにも考えたくはないと小さく呟いた。

「今日は疲れた。全てはキリマルが帰ってきてから決めるとするかの」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

処理中です...