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全てを知った王
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ワンドリッター家の三男は、なぜ自分が無事なのか理解できずに立ち尽くしている。
「ああ! 神様! ああ!」
落とし子トメオは、弟のステコを強く抱きしめて涙を流していた。抱き着かれたステコも困惑しながらも兄を抱きしめ返す。
「私はなぜ現世にいるのだ、兄さん。こんな事を話しても信じてくれないかもしれないが、闇の中で小さなゴブリンが何かを大声で喚いたんだ。そしたら私は生き返っていた・・・」
こいつも頭が混乱しているな。なんだ、小さなゴブリンってよ。
「なんでステコは生き返ったんだ? アマリ」
俺は何でも知ってそうなアマリにそう訊いてみた。
「知らない。だけど憶測ならできる。蘇生の呪いは発動して完了するまでの間に、死体がダメージを負うと生き返らなかったり、ダメージが残ったまま生き返る。だからその逆もあるとは思う」
指を鳴らして、あれかと思い返す。
「ああ、そういやさっきイービルアイを斬った時にステコの肉片がこびり付いている壁を削ったな。俺は知らず知らずの内にステコの肉片に、蘇生の呪いをかけていたってわけか。そして呪いが付与された、蘇生不可な肉片に俺はエリクサーをかけた。部位欠損を回復する高価な薬は、ステコの肉体を修復しつつ呪いが発動して蘇生したって事か」
俺の話を聞いていたシルビィが肩を竦める。
「なんとも人知を越えた力だ! 出鱈目にも程がある。我らが残虐なる剣士様は有能過ぎるな。ともあれ高価な薬と奇跡の力が合わさってこうなったわけだ? 幸運だったな、ステコ・ワンドリッター」
「もし、その話が本当ならばね。私は兄さんの祈りを、神が聞き届けてくれたのだと思うよ」
ステコは兄を今一度強く抱きしめた。
「まぁどうだっていいさ。なら、お前が見たゴブリンの神様に感謝だな」
正直、抱き合う兄弟の片割れを殺して、もう一度絶望する姿を見たいという気持ちがある。だが、ステコが生き返って、兄弟の絆が深まった事に喜ぶ自分がいるのにも驚きだ。
俺は感情の纏まりのなさにイライラしながら、一階へのそのそと上がる。
「さぁ、馬でも盗んでアルケディア城に報告しに戻るぞ」
成人して直ぐに裏側の長まで上り詰めた―――、親友の息子は闇のような黒装束を着て目の前にいる。
常に被っている覆面のお陰で彼がどんな顔をしていたかを既に忘れており、表情を見る事が出来なくてシュラスは残念に思っていた。
(黒い装束はまるで父への皮肉のようだな、セイン)
「顔をあげい。我が親友の息子、セイン・ザステス」
跪く裏側の長の本名をシュラスは言う。
「陛下。その名で呼ぶのはお控えください」
ジュウゾの目が、王の背後に立つリューロックをちらりと見て視線を戻す。
案の定、王の盾が金棒で床を軽く叩いてジュウゾを睨んだ。
「陛下が貴様をどう呼ぼうと自由だ、闇の子セイン」
「やめんか、リューロック。全くお前たちはいつもいつも反目しあってからに」
リューロックは不満そうにして、立派に伸びる赤い口髭を扱く。
(陛下は未だに・・・、闇落ちしたあの男を親友と呼ぶのか・・・)
グランデモニウム王国に逃亡をした父を持つジュウゾを、リューロックは信用していない。
そもそもジュウゾの陰気で冷酷な性格が自分とは合わないし、陰でコソコソと動く裏側という名の隠密部隊を良しとはしていないからだ。
「さて、ジュウゾよ。お前の持つ情報と照らし合わせて、今回の件をどう思う?」
全て言わずともわかるな? という顔でシュラスは非公式組織の長に、王座から見下ろすようにして訊いた。
「コノハ王子の件ですか? 陛下」
「そうだ」
「様々な勢力の思惑が絡んでおりますので・・・」
「構わん」
「しかし・・・。聞かなかった方が良かったと後悔なされます。ただ黙ってシソ様とサラサス様を処刑なされるのが、陛下の為には最善かと」
ゴインと金属音が鳴る。リューロックが怒って金棒で床を強く叩いたのだ。
「貴様の意見など聞いてはおらん! それを決めるのは陛下だ! 質問に答えればいいのだ、裏側の長ジュウゾ!」
「ハッ」
役職でも身分でも、自分より遥か上のリューロックにジュウゾは頭を下げて話を始めた。
「まず、キリマルの報告通りコノハ王子を貶めようとしたのは、間違いなくサラサス様とシソ様です。理由もセリスス様に第一王位継承権を与える為です。サラサス様とシソ様の子、セリスス様に・・・」
「な・・・! なに?! 今なんと申したか? ばかな! あの子はサラサスと娼婦の間にできた落とし子ではなかったのか? そう思ってワシは生まれを追及はしなかった! では、お前たち裏側は、セリススの鑑定拒否の魔法効果を掻い潜って調べたというのか?」
シュラスはジュウゾの情報収集能力の高さに寒気が走る。弟の魔力は非凡。そうそう鑑定拒否や鑑定改ざんのような難しい呪文を破れるとは思えない。魔法に疎い裏側が、ここまで調べあげるその手腕を疑いたくなった。
夜中に世界の英雄譚を読んで、子供のようにはしゃいでいる自分の姿も、覗き見されているのではないかと心配になってくる。
「私は最初に警告しましたよ、陛下。何も聞かないで処刑をしたほうが陛下の為だと。キリマルが証拠として送ってきた手紙と、シソ様が王子の部屋に置いた手紙は同一のものです。部下が見ておりますゆえ、間違いありませぬ。それからサラサス様が元老院と何度か接触をしておりました」
「そうか・・・」
シュラスの顔に影が落ちる。
(我が息子の件で、家族を疑うまいと心に刻みつけたが、しかし・・・。今のワシはジュウゾとキリマルを信用しようとしている。悪魔はずる賢く残虐だが、気まぐれな神と違って、契約を必ず履行する性質を持っている。そしてジュウゾは、約束の呪いでワシに逆らえない。そもそも我が親友の子が裏切ることはない。えぇい・・・! 家族に裏切られる悔しさや悲しみを、この場にいる誰がわかろうか。闇堕ちをしたガノンですら! 最後までセインの事を心配していたというのに!)
考え事をして黙った王に、セイン・ザステス――――ジュウゾは低い声で追加の報告をする。
「それから陛下。元老院からワンドリッター領方面に、使い魔が飛んでいくのを確認しております」
ピクリとリューロックの太くて赤い眉が動いた。
「サラサス様は元老院に裏切られた、という事ですか? 陛下」
「そうじゃろうな。弟はセリススの後ろ盾を、元老院に頼むつもりだったんじゃろうが、奴らは元々現王家を丸ごと潰す気でおった。王子暗殺任務を妨害したのも元老院。王子殺害の証拠を得ようとワンドリッターに、依頼したのも元老院。恐らく弟と妹は元老院に丸め込まれたのだろう。馬鹿な奴らじゃ・・・。しかしソラス・ワンドリッターは今回は関わってないように思える。グランデモニウム王国との戦い出向いておるでな。となるとジナルが単独でキリマルたちの対応をしていた事になる。ワンドリッターの次男はプライドばかり高く、どこか抜けているところもあると聞く。我らが悪・・・、剣士殿は問題なくシルビィ共々帰ってくるじゃろう」
シュラスは隈のある目でリューロックにウィンクをして、王座に深く座り直した。
そして深くため息をついた後に両目を手で押さえて、もうなにも考えたくはないと小さく呟いた。
「今日は疲れた。全てはキリマルが帰ってきてから決めるとするかの」
「ああ! 神様! ああ!」
落とし子トメオは、弟のステコを強く抱きしめて涙を流していた。抱き着かれたステコも困惑しながらも兄を抱きしめ返す。
「私はなぜ現世にいるのだ、兄さん。こんな事を話しても信じてくれないかもしれないが、闇の中で小さなゴブリンが何かを大声で喚いたんだ。そしたら私は生き返っていた・・・」
こいつも頭が混乱しているな。なんだ、小さなゴブリンってよ。
「なんでステコは生き返ったんだ? アマリ」
俺は何でも知ってそうなアマリにそう訊いてみた。
「知らない。だけど憶測ならできる。蘇生の呪いは発動して完了するまでの間に、死体がダメージを負うと生き返らなかったり、ダメージが残ったまま生き返る。だからその逆もあるとは思う」
指を鳴らして、あれかと思い返す。
「ああ、そういやさっきイービルアイを斬った時にステコの肉片がこびり付いている壁を削ったな。俺は知らず知らずの内にステコの肉片に、蘇生の呪いをかけていたってわけか。そして呪いが付与された、蘇生不可な肉片に俺はエリクサーをかけた。部位欠損を回復する高価な薬は、ステコの肉体を修復しつつ呪いが発動して蘇生したって事か」
俺の話を聞いていたシルビィが肩を竦める。
「なんとも人知を越えた力だ! 出鱈目にも程がある。我らが残虐なる剣士様は有能過ぎるな。ともあれ高価な薬と奇跡の力が合わさってこうなったわけだ? 幸運だったな、ステコ・ワンドリッター」
「もし、その話が本当ならばね。私は兄さんの祈りを、神が聞き届けてくれたのだと思うよ」
ステコは兄を今一度強く抱きしめた。
「まぁどうだっていいさ。なら、お前が見たゴブリンの神様に感謝だな」
正直、抱き合う兄弟の片割れを殺して、もう一度絶望する姿を見たいという気持ちがある。だが、ステコが生き返って、兄弟の絆が深まった事に喜ぶ自分がいるのにも驚きだ。
俺は感情の纏まりのなさにイライラしながら、一階へのそのそと上がる。
「さぁ、馬でも盗んでアルケディア城に報告しに戻るぞ」
成人して直ぐに裏側の長まで上り詰めた―――、親友の息子は闇のような黒装束を着て目の前にいる。
常に被っている覆面のお陰で彼がどんな顔をしていたかを既に忘れており、表情を見る事が出来なくてシュラスは残念に思っていた。
(黒い装束はまるで父への皮肉のようだな、セイン)
「顔をあげい。我が親友の息子、セイン・ザステス」
跪く裏側の長の本名をシュラスは言う。
「陛下。その名で呼ぶのはお控えください」
ジュウゾの目が、王の背後に立つリューロックをちらりと見て視線を戻す。
案の定、王の盾が金棒で床を軽く叩いてジュウゾを睨んだ。
「陛下が貴様をどう呼ぼうと自由だ、闇の子セイン」
「やめんか、リューロック。全くお前たちはいつもいつも反目しあってからに」
リューロックは不満そうにして、立派に伸びる赤い口髭を扱く。
(陛下は未だに・・・、闇落ちしたあの男を親友と呼ぶのか・・・)
グランデモニウム王国に逃亡をした父を持つジュウゾを、リューロックは信用していない。
そもそもジュウゾの陰気で冷酷な性格が自分とは合わないし、陰でコソコソと動く裏側という名の隠密部隊を良しとはしていないからだ。
「さて、ジュウゾよ。お前の持つ情報と照らし合わせて、今回の件をどう思う?」
全て言わずともわかるな? という顔でシュラスは非公式組織の長に、王座から見下ろすようにして訊いた。
「コノハ王子の件ですか? 陛下」
「そうだ」
「様々な勢力の思惑が絡んでおりますので・・・」
「構わん」
「しかし・・・。聞かなかった方が良かったと後悔なされます。ただ黙ってシソ様とサラサス様を処刑なされるのが、陛下の為には最善かと」
ゴインと金属音が鳴る。リューロックが怒って金棒で床を強く叩いたのだ。
「貴様の意見など聞いてはおらん! それを決めるのは陛下だ! 質問に答えればいいのだ、裏側の長ジュウゾ!」
「ハッ」
役職でも身分でも、自分より遥か上のリューロックにジュウゾは頭を下げて話を始めた。
「まず、キリマルの報告通りコノハ王子を貶めようとしたのは、間違いなくサラサス様とシソ様です。理由もセリスス様に第一王位継承権を与える為です。サラサス様とシソ様の子、セリスス様に・・・」
「な・・・! なに?! 今なんと申したか? ばかな! あの子はサラサスと娼婦の間にできた落とし子ではなかったのか? そう思ってワシは生まれを追及はしなかった! では、お前たち裏側は、セリススの鑑定拒否の魔法効果を掻い潜って調べたというのか?」
シュラスはジュウゾの情報収集能力の高さに寒気が走る。弟の魔力は非凡。そうそう鑑定拒否や鑑定改ざんのような難しい呪文を破れるとは思えない。魔法に疎い裏側が、ここまで調べあげるその手腕を疑いたくなった。
夜中に世界の英雄譚を読んで、子供のようにはしゃいでいる自分の姿も、覗き見されているのではないかと心配になってくる。
「私は最初に警告しましたよ、陛下。何も聞かないで処刑をしたほうが陛下の為だと。キリマルが証拠として送ってきた手紙と、シソ様が王子の部屋に置いた手紙は同一のものです。部下が見ておりますゆえ、間違いありませぬ。それからサラサス様が元老院と何度か接触をしておりました」
「そうか・・・」
シュラスの顔に影が落ちる。
(我が息子の件で、家族を疑うまいと心に刻みつけたが、しかし・・・。今のワシはジュウゾとキリマルを信用しようとしている。悪魔はずる賢く残虐だが、気まぐれな神と違って、契約を必ず履行する性質を持っている。そしてジュウゾは、約束の呪いでワシに逆らえない。そもそも我が親友の子が裏切ることはない。えぇい・・・! 家族に裏切られる悔しさや悲しみを、この場にいる誰がわかろうか。闇堕ちをしたガノンですら! 最後までセインの事を心配していたというのに!)
考え事をして黙った王に、セイン・ザステス――――ジュウゾは低い声で追加の報告をする。
「それから陛下。元老院からワンドリッター領方面に、使い魔が飛んでいくのを確認しております」
ピクリとリューロックの太くて赤い眉が動いた。
「サラサス様は元老院に裏切られた、という事ですか? 陛下」
「そうじゃろうな。弟はセリススの後ろ盾を、元老院に頼むつもりだったんじゃろうが、奴らは元々現王家を丸ごと潰す気でおった。王子暗殺任務を妨害したのも元老院。王子殺害の証拠を得ようとワンドリッターに、依頼したのも元老院。恐らく弟と妹は元老院に丸め込まれたのだろう。馬鹿な奴らじゃ・・・。しかしソラス・ワンドリッターは今回は関わってないように思える。グランデモニウム王国との戦い出向いておるでな。となるとジナルが単独でキリマルたちの対応をしていた事になる。ワンドリッターの次男はプライドばかり高く、どこか抜けているところもあると聞く。我らが悪・・・、剣士殿は問題なくシルビィ共々帰ってくるじゃろう」
シュラスは隈のある目でリューロックにウィンクをして、王座に深く座り直した。
そして深くため息をついた後に両目を手で押さえて、もうなにも考えたくはないと小さく呟いた。
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