殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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王の悲しみ

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 俺の簡単で適当な報告を聞いて、シュラスは興奮して顔を近づけてくる。

 一応俺は平民の剣士って事だから跪いているがよ、シュラスから激しく射出される鼻息が顔に当たってうっとおしい。

「ジ、ジナルを討ち取っただと? ステコがか?」

「ああ」

 それを聞いたシュラスは、俺の後ろで跪くワンドリッター家の三男の両肩に手を置く。

「その・・・、悪意はないのじゃがの。お主のオーラは青色。ジナルは黄色と聞いた事がある。どうやって格上のメイジを倒したのじゃ!」

 ステコは思わず下唇を噛んだ。が、感情を露骨に表に出してしまった事を悔やみ、チラリと王の盾を見る。樹族国の元帥は、真っ赤に燃える瞳で自分を睨み付けていたのですぐに表情を戻す。

「お恥ずかしながら・・・。魔力暴走で・・・」

 それを聞いた途端にシュラスが真顔になり、後ろ手を組んで静かに王座に座った。英雄譚を期待してたんだろうが、残念だったな。

「いや、どうであれ兄を討ち取るのは辛かったろう、ステコ」

「とんでもございません、陛下。積年の恨みを晴らしたような良い気分です」

「しかしのう。ワンドリッターの小鳥はどこにでもおる。いくらキリマルが脅迫スキルで、黒騎士たちの口を塞いだところで、いつかお主がジナルを殺した事がばれるじゃろうて。どうしたもんかの、リューロック」

 シュラスの言葉が終わりきる前にリューロックは即答した。

「ステコ・ワンドリッターを王国近衛兵騎士団に入団させるのがよろしいかと」

 跪いて下を向いたままのステコの目が見開く。

 ガノダやシルビィの驚く表情からして、きっと二階級特進ぐらいの出世なんだろうよ。

「ハハハ! お前の魂胆はわかっておるぞ、リューロック。娘が受けた拷問の仕返しじゃろう? 将来ワンドリッターを討つ時に、真っ先にステコを送るつもりでいるのが見え見えじゃ。寝返った同族に討たれるのは屈辱じゃからな」

 リューロックは目を閉じて、何も聞いていないという顔をする。

(だがよ、その言葉は自分にも刺さるだろうよ、王様よぉ)

 案の定、シュラスは自分の吐いた言葉がブーメランのように舞い戻ってきたのか、気分を変えるかのごとく手を叩いた。

「昼食の準備をせい。それからサラサスとシソと、セリススにも同席するように伝えるのじゃ」

 王付きの執事がお辞儀をして部屋から出て行った。

 相変わらずリューロックとシルビィは目を合わさない。

 そんな二人にやれやれという顔をして、王は王座の間から出て行った。勿論、王の盾も後に続く。

 王が出ていくのを確認してから、ガノダがスッと立ち上がってまだ跪くステコの肩を叩く。

「ふん、大出世だね、ステコ・ワンドリッター閣下」

 永沢君みたいな声でガノダはそう言うも、ステコはブルブルと震えている。

「どうした? ステコ」

 俺は鞘で震えるステコの肩を突っつく。

「嫌だ! 私は近衛兵騎士にはなりたくない! 王の盾が課す訓練は過酷な事は有名だろう? 私にそんな覚悟はないぞ!」

 父がどんな訓練をするのかを知っているシルビィは、ニヤニヤしながらステコの肩を叩いた。

「王の盾は文武両道がモットーだからな。まず魔法点を使い切るまで毎朝、メイジと組手をさせられる。それから夕方まで体力づくりの運動。半年後にはその細い体が、マッチョになっているかもな」

「クハハ! 健康的な毎日じゃねぇか。まぁどの道、お前はワンドリッター家から命を狙われ続ける。王の盾の下にいれば、それもそう簡単じゃないだろうよ。良かったな」

「城内で君を殺そうとするならば、遠隔魔法の得意なコーワゴールド家の者でもない限り無理だろうな。だがコーワゴールド家はウォール家と昔から非常に仲が良い。なのでワンドリッターに味方する事はないだろう」

 シルビィが得意げな顔でそういう。きっとウォール家の数少ない味方なんだろうさ。

 そういや、貰った資料に書いてあったな。色んな結界が張られている城内で魔法を使えば、誰がいつどこで何の魔法を使ったのかが、わかるシステムがあるらしい。

 だからステコを殺すには、城外からの遠隔魔法が必要なんだろうな。それができるならシュラスも殺されているはずだが、そうはなっていねぇ。きっとコーワゴールド家はシュラスに絶対の忠誠を誓っており、魔法は外部に漏れないようになってんだろうよ。

(さてさて、今回の件はコズミックペンはどう動くのかね)




 思ったほど広くない食卓の間で、シュラスの一族以外では、俺だけが招待されていた。シルビィ達が招待されてねぇって事は、悪魔としてここに呼んだって事だ。

 シュラスの双子の弟サラサスと妹シソは元老院に裏切られたとも知らず、いつものように上座に座る兄と取るに足らない話をしている。

 そんな弟と妹をいつも通りの笑顔で対応するシュラスを見て、俺は若干背筋が寒くなった。

「キリマルが返って来たという事は・・・」

「ああ、そうじゃ。息子は

「死んだも同然?」

 サラサスは勘が良いのか、兄の表情の微妙な変化に気が付いたようだ。

「あれは遺跡守と遺跡に引きこもってしまった。コノハは生まれつき探求者という性質を持っているからな。まぁノームみたいなもんじゃ。そして父であるワシの裏切りに、憤慨もしておるじゃろうて。王位継承権を持ったまま、死ぬる直前まで、何も決めないと言ったそうな。一度与えた継承移譲権は、ワシでも取り消せんゆえ困ったもんじゃ」

「つまりコノハ王子が遺跡の奥で死ぬ日まで、この国の王位継承権は動かないと?」

 シュラスはまだ顔を崩してはいない。優しい顔をしているままなのが不気味だねぇ。

「残念じゃがそういう事になるの。今後、式典などで王子の参列が必要な時は影武者を使う。そして不在時はこれまで通り、王子は外国へ留学中だという事にしておく。よいな?」

 もうこの話をした時点で、サラサスもシソも察したようだ。フォークとナイフを持つ手が震えている。その間でセリススが不思議そうな顔をして二人を見ていた。

「元老院はワシらの味方なぞせんぞ。あれは本家アルケディアの呪いみたいなもんじゃからの。元は傀儡王として据え置かれる予定だったとはいえ、ワシらは三人で上手く立ち回ってきた。ワシらという小魚を狙う大魚のように周囲をうろつく奴らを出し抜いて、ここまでやってきた! なのに! なぜじゃ!」

 ここでようやくシュラスは顔をくしゃくしゃにした。ボタボタと大粒の涙を流している。

「元老院やワンドリッターの策に乗れ、と言った先代のブラッド卿の言葉を憶えているか? 『三人で知恵を合わせて詐欺師を騙せ』だった」

 ソテーしたアスパラガスの上に零れる涙を見つめながら、シュラスは話を続ける。

「三人でじゃ・・・。三人・・・。しかし、これからワシは一人で奴らと立ち向かわねばならん。それがどんなに心細いか、お主らにわかるか? なぜじゃ・・・。なぜワシを裏切った!」

「・・・」

 サラサスもシソも黙ったままだ。不穏な空気にセリススは不安そうに身じろぎしている。

「セリススの今後の事は、ここでは言うまい」

 兄の言葉を聞いて、セリススは不問にするという意味を含んでいると勘違いしたサラサスが顔を上げて口を開く。

「私はシソをワンドリッターにやりたくなかった!」

「だったらそう言えば良かったのだ! ワシらはなんじゃ? 唯一の身内じゃろうが! どんな事もお互い打ち明けて、苦いものも腹に飲み込んで前に進む。そう約束したじゃろう!」

「サラサスを責めないで!」

 シソが急に立ち上がったのでセリススが驚いて叔母を見上げる。

「元老院に私たちの事を知られていたの! だからサラサスは脅されて仕方なく従ったのよ!」

「それも打ち明けてくれれば何とかなったかもしれんが、今となってはもう無理じゃ。残る手立ては一つしかない。お前たちを国外追放する。弱点を手元に置いておく事はできんのでな」

 シュラスは涙をハンカチで拭き、真っ直ぐと三人を見る。

「追放先は決めさせてやる。さぁ言え」

「では、獣人国レオンへ」

「息子を丸籠めようと思っているのなら無理だぞ、サラサス。遺跡守がコノハを守っているからな。遺跡に入り次第、魔女に殺されるだろう。それでもいいなら行け」

「そんなつもりはないよ、兄さん。レオンの南から船で海岸沿いに北上して、ノーム国を目指すさ。海岸沿いだと強い海の魔物は出ないからね」

 サラサスは机をトントンと叩いて苛つきながら答えた。

「なら今すぐに準備をしろ。港までの護衛はキリマルを付ける」

 もう一仕事とはこの事か。面倒臭ぇな。

「兄さん・・・。情けをかけてくれて・・・」

「もういい。何もいうな。黙って行け」

 二人は立ち上がると、話を飲み込めないセリススを連れて部屋から出て行った。

「家族の絆が壊れる場面を見るのは切ないねぇ・・・」

 俺は思わずそう声を漏らしてしまった。なんでこんな事を言ったのかわからない。

「ああ、そうじゃな」

 ふと視線を感じて、俺はシュラスを見返す。

 何かの光の加減か、奴の眼窩で陰が渦巻いている。

「一度裏切った者はまた裏切る。この意味がわかるな? 弟が指で机を叩く時は不満があるからだ。本人はその癖に気が付いておらんようじゃが」

 へいへい。つまり三人を殺せって事だな。身内でも絆が壊れればこうなるんだな。地球にいた時の俺は、両親と最初から絆が壊れていたから平気だったが、途中で壊れる方が砕け方も、衝撃も大きいと分かったぜ。勉強になった。

(ハ! 糞でも食ったかのような後味の悪さだぜ。ごちゃごちゃした関係に首を突っ込むよりも、ただひたすら人を殺しまくる方が気分良いな)

 俺は席から立ち上がると、護衛の準備の為、部屋の出口まで向かう。そして何となく振り返ってシュラスを見た。

 顔を両手で覆って肘を突き、一人食卓の上座に座るシュラスは微動だにしない。まるで小さな人形かなにかの置物のようだ。その王に俺は心の中で別れを告げた。

(あばよ、王様)

 多分、この仕事が終わったら俺はまたどこかに飛ばされるだろうな。何となく勘でわかる。
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