殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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マサヨシは城に

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 【人探し】の魔法でマサヨシを捉え、転移した先はなんとツィガル城の門前だった。

 転移元から大した距離ではない。なのでビャクヤは大袈裟に頭を抱えて嘆く。

「なんと?! 竜の尻尾亭からツィガル城門前までッ! 歩いて十分もかからないのにッ! 吾輩は無駄に転移魔法を使ってしまったのかッ!」

「マサヨシは今、樹族国にいるんじゃなかったの? だから彼がどこにいるかを座標で捉えず、感覚だけで転移したんでしょ?」

 赤と黒のレンガを多用するツィガル帝国の建物を見飽きたリンネは、ここが緑豊かな樹族国じゃない事にがっかりして、退屈そうに金色のポニーテールの先を撫でた。

「マサヨッシュはッ! 歴史の教科書の要所要所には出てくるのですが、謎の多い人物でしてネッ! 彼に関する文献はあまりないのですよッ! だからッ! 歴史の教科書程度の知識はッ! 当てにならないって事ですなッ!」

「本当かな・・・? ビャクヤが記憶違いしているだけなんじゃないの? 間違えたから教科書のせいにしているんでしょ?」

「まぁそんなことはどうでもいいではないですかッ! さぁいざツィガル城にッ!」

「あ! 誤魔化した! でもちょっと待ってよ、ビャクヤ。お堀の跳ね橋は渡れても、その先にエリートオーガの門衛がいるのだけど・・・」

 エリートオーガは身長が3メートルもある。言うまでもなく肉体は頑強。

 更にツィガル城の騎士たち全般に言える事だが、高級装備で魔法が効き辛く、各々に胆力があり、命知らずな者も多い。

 グランデモニウム王国改め、神国ヒジランドに住む多くの傭兵達とは違う。彼の国で帝国の騎士と対等に戦えるのは砦の戦士ぐらいだろう。

「確かに厄介ですねぇ。城の中に彼がいると言う事は、既に士官として採用されているのでしょう。マサヨッシュがマサヨシならばッ! 彼は後の大軍師ですからねッ! 取り敢えず、門衛に取り次いでもらいましょうか。リンネは危ないのでここで待っていてくださいんぬッ! あ、それからッ! 堀に近づいてはいけませんよッ!」

 ビャクヤが橋を渡り始めると、淀んだ堀の中から馬が顔を出して、口に含んだ水をかけてくる。

 それは結構な水圧で、普通に受ければ体が吹き飛ばされて、堀に落ちていたかもしれない。

 しかしビャクヤは上手に、そして上品にリフレクトマントを翻して水を跳ね返した。

「おイタはいけませんよッ! ケルピー殿!」

 この魔物は城を守る為に堀に住んでおり、アポイントメントのない不審人物に水をかけて堀に落とそうとしてくるのだ。

 落ちた者が生きて浮かんでくる事は殆どない。

 ビャクヤは未来において、ケルピーとは顔見知りだ。しかし、この時代の彼はケルピーにとってはただの不審な魔人族なのだ。

 ビャクヤの事をリフレクトマントを持つだけの実力がある者と見たケルピーは、感心するように嘶いてから水の中に消えていった。

(部外者として来ると見知った城でも、結構危険なものなのですね・・・。ノーアポイントメントの客はこういう目に遭うのンかッ! くわばらくわばら!)

 少し動揺したビャクヤは、気分を変える為に小さくタップを踏んだ後、背筋を伸ばして優雅に歩き出した。

「待てーい!」

 当たり前だが、門衛のエリートオーガに大盾で止められる。

 ビャクヤはそれに怖気づく事なく胸を張って、手でシルクハットを少し浮かせた。

「ごきげんよう! 門衛のお二方! 吾輩、ビャクヤ・ウィンと申します。最近仕官したマサヨッシュ・・・。いえ、マサヨシ・サトゥに面会させて頂きたいのんんんですがッ!」

 一々くるくると踊るようにして喋る魔人族に、門衛は「またこいつか」と兜の隙間からため息を吐く。

「お前の事は知っている。以前、城からの依頼を受けた冒険者だろう。だがマサヨシ殿は皇帝顧問官ロロム様の弟子。そう易々と会えるものか」

 ノーマルオーガと違ってエリートオーガは頭が良いので、滑らかに喋ってビャクヤを門前払いしようとした。

「なんとッ! 彼はロロム・ヴャーンズ殿の弟子だったのですかッ? そんな事、歴史の教科書には書いてありませんでしたッ!」

 チョールズ・ヴャーンズのいとこであるロロム・ヴャーンズは、強力な召喚士として有名だ。彼は人生の終わり頃になると、アークデーモンを召喚できるほどの大人物になっていた。

「歴史の教科書? 何の話をしているのかは知らんが、立ち去れーぃ!」

 門衛は、高さ三メートルもあるタワーシールドを少し前に出して威圧してきた。

「では、マサヨシ殿にビャクヤ・ウィンが会いに来たとお伝えください。明日もう一度、お返事を聞きに来ますのでッ!」

「ふん、まぁいいだろう。伝えておく」

 ビャクヤは丁寧にお辞儀をするとクルリと踵を返し、また優雅に橋を渡っていく。

 今度はケルピーに邪魔をされることもなく、橋の向こうで待つ恋人のもとへと辿り着いた。

「明日マサヨシと面会できるかどうか返事が聞けます。しかし、暇ができてしまいましたね。どうします? 我が愛しのリンネッ!」

「ん~、図書館に行きたいかな」

「なぜに?」

 図書館と聞いてビャクヤの頭にノームの老婆の顔が浮かぶ。

 約束を守らなかったナビのせいで、ビャクヤにとって図書館や書庫は、嫌な思い出を連想させるものとなっていたのだ。

「ほら、私たち人間族のメイジって、ビャクヤみたいに必ずしも魔法点を加点して、強化できたりするわけじゃないじゃん? 勿論、中にはパワーレベルを上げる事のできる人間族もいるけど、基本的に感情の高まりという不安定な要素でしか魔法攻撃力を上げられないから、手数で勝負みたいなところがあるし。他に何か強くなれる手立てはないかなぁと思って」

「確かに。樹族や魔人族は魔法に有利なスキルが数々ありますが、それ以外の種族は有ったり無かったり。人間族は万能ですが、器用貧乏な者が多い印象ですね」

「でしょ? だからここ一番の決め手となる何かが欲しいなって」

「魔人族や樹族の魔法防御貫通スキルや連続魔法は、ほぼ種族固有スキルと言っていいぐらいですからねぇ・・・。う~む」

 ビャクヤは悩み、じっとリンネを見つめて、彼女の特性を思い出す。

 リンネの特性・・・。それは滅多に動じない心だ。芯が強い。

 ビャクヤはリンネに手をかざして、久しぶりに恋人を鑑定魔法で見ると、仮面に驚きの感情を表す。

「魔力は14とこれまで通り普通ですがッ! メイジなのにいつのまにか頑強さが17まで成長している! (能力値は滅多に上がらないはずなのに!)なんて恐ろしい子ッ!」

「恐ろしいって言うなー! お父さんが騎士なんだから、そういう才能があっただけでしょ!」

(この細い体のどこにそんな丈夫さがあるのかッ! 腹筋が割れているわけでもなし、おっぱいの大きさも普通。いや・・・おっぱいの大きさは関係ないですなッ! 恐らくはッ! 幼いころからッ! 騎士たちの訓練を間近に見ていて、相手から受けるダメージの逃し方をッ! 自然と会得していたのでしょう。成長と共にそれが発現したッ! そう言う事にしておきましょうかッ!)

 ビャクヤはリンネの能力に見合った道をあまり進めたくはなかったが、それしか思い浮かばなかった。

「では頑強さと思い切りの良さが必要なバトルメイジなどいかがでしょうかッ! 学園にもいたでしょう? ゼロ距離で魔法を放つメイジがッ! 頑強さが高いと魔法詠唱中断確率がぐっと低くなりますからねッ! それに魔法防御の膜は体から少し離れて覆っていますから、ゼロ距離で魔法を撃つ事で魔法防御を無効化できますんッ!」

「じゃあそうする!」

 迷いもなく道を決めたリンネに、ビャクヤは心の中で嗚呼と嘆いてよろめいた。

(もうこれからはッ! リンネをお姫様のように守れないッ! 寂しいッ! とはいえ、我らは所詮メイジなのでッ! やはりッ! 吾輩のリフレクトマントは彼女を守るのに有効デスッ!)

 ビャクヤは憂いを追い払って、フスっと鼻息を出し、それから得意げな顔をする。

 そしてリンネの手を握るとツィガル帝国図書館へと歩き始めた。



 
「おい、あの小さなオーガの横にいる使い魔を見てみろよ。なんて種族だ?」

 ツィガル帝国の図書館で俺を見るゴブリンどもがヒソヒソと煩い。

「多分だが、悪魔だな。見た事もない悪魔だ」

 ゴブリンの召喚士らしき男が、エリートサラリーマンみたいな眼鏡をクイッと上げてそう言う。

「おい、アマリ。今のゴブリンのヒソヒソ話を聞いたか? この姿は本当に人修羅が成長したものなのか? え?」

 街の外れで俺を召喚したオークをサクッと殺して、人間の姿のアマリと共にある事を調べていた。

 そう自分自身の事だ。

 悪魔図鑑の人修羅の項目を見ると、以前の俺のような姿が描かれている。普通に白目が黒く、黒目が白い人間が二刀流の構えを取っている。

「見ろ、殆ど人と同じ姿をしているじゃねぇか」

 俺はアマリの大きな胸を、本を立てる台のようにして人修羅のページを見せる。

「物質界でキリマルレベルまで成長した人修羅はいないから、その本に書いてある姿までしか人々は知らない」

「何でそんな事がわかるんだ? お前時々妙に物知りだよな? ・・・。そういや、俺と出会って間もない頃、お前は俺の事を”宇宙の理に縛られし者“とか言っていたな? あながちあれは間違いじゃねぇぞ。俺はコズミックペンに縛られているようなものだからな。最初から俺の運命を知っていたのか?」

「私は自分に触れた者の情報がある程度わかるから。キリマルは宇宙の理に縛られし者という変な二つ名が付いていた。姿の変化に関する情報もキリマルから伝わった」

(だから必殺技の時に、こいつは俺が何を出すかわかっていたのか。いや、前にもそんな話したような・・・。まぁいいか。今回はツィガル帝国だったから良かったものの、次に召喚された場所が樹族国だと、この姿は厄介だな。取り敢えず、魔法具店で変身系装備でも買っておくか・・・。きっと糞高いんだろうな。ダイアゴーレムの核でも売るか?)

 まぁ面倒なら店の者を殺して奪えばいいかなどと考えつつ、俺とアマリは図書館を出て繁華街を目指した。
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