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ビブラスラップ
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コズミックペンは何が気に入らなかったのか。
俺は丁度、ツィガル城下町で品切れだった【完璧なる変装】だったかそんな名前の魔法が付与されたペンダントを求めて、リザードマンがウロウロする沼地の塔に来ていた。
よくわからん闇樹族の魔法使いが攻撃してきたので、正当防衛だと前置きしてからさっさと倒し、目的の者を手に入れた。が――――。
その途端、コズミックペンに飛ばされたのだ。
そうなると厄介なことが一つ。
飛ばされると持ち物が残っていたり、残ってなかったりする事がある。
召喚された先で、樹族の召喚士が何かを言っていたが、俺はそれを無視をして持ち物の確認をする。ダイヤモンドゴーレムの核とアマリはなぜか必ずある。
そして自分の手を見た。
人間の手だ。樹族の緑がかった白い手ではない。変身のペンダントを首にかけた途端、コズミックペンに飛ばされたから何に変身したのかわからなかったんだわ。
しかしペンダントは胸元にあるって事は、コズミックペンがこれを持っていても良いと判断したのかもしれねぇ。
それにしても人間の姿か。
人間だった頃の自分を、なんとなく思い出しながら装備したのが悪かったな。もう一度樹族に変身できるが、まぁいいか。
「俺はレッサーオーガなど召喚していない!」
召喚士は仲間に大声で言い訳をしている。
しかし仲間はお前の言葉なんて聞いちゃいねぇぞ。俺の顔を見て震えてやがる。クハハ!
「違う! 下がれ! トーム! そいつはレッサーオーガなんかじゃない! 悪魔だ! 人修羅だ! 目を見ろ!」
召喚士の仲間がそう警告してワンドを構える。
「白い黒目に黒い白目!? 嘘だ! 俺の力じゃ悪魔なんて召喚できねぇよ! ただ見張りのインプが欲しかっただけなのに! ぎゃあ!」
刀でトームとかいう召喚士の首を刎ねて、落ちてきた頭をキャッチすると樹族二人へと投げた。
―――ポコッ!
変な音をさせて肉片を飛び散らせて樹族の頭が爆散する。トームの仲間に大したダメージは入ってねぇな。防御魔法を常駐させているのか。
という事は今は平時じゃねぇな。どこかで戦う音が微かに聞こえる。一人で頑張ってはいるが、時間の問題だな。多対一にしてはよく耐えている。
見張りのインプを召喚しようとしたって事は、今戦っている誰かさんを捕える余裕が、こいつらに十分にあるからだろうよ。
まぁそれよりも殺しだ。俺が残りの二人の首を刎ねようとしたその時。
感知することが難しい【姿隠し】の魔法でいきなり現れたメイジが、俺の刀を魔法で弾き飛ばした。
そう。俺は意識外からの攻撃には弱い。
「ほう、召喚士は糞雑魚だったが、おめぇはやるじゃねぇか」
「ああ、ホキキという。よろしく。人修羅の」
素早く動いて、こいつらを爆死させることは簡単だ。
だが、少しは骨のあるやつを見て俺は嬉しくなった。
「クハハ! いいだろう。力を見せてもらった。で、俺は何をすればいい?」
「まず質問させてもらう。君は強力な悪魔なのに、召喚士無しでどうやって、この物質界に留まっていられるのかね?」
「贄があるからだ。俺の贄は殺しだ。どんな時代でも、どんな世界でも人を殺せる機会は、ある」
「ああ、なるほどね」
俺にじわじわと近づいてくる刀のアマリを、ホキキの仲間が迂闊にも拾って、柄を握ってしまった。
―――その途端。
「キィエエエエエエエエエエ!!!」
狂ってもう一人の仲間に斬りかかろうとしたのだ。
それをホキキが【捕縛】の魔法で動きを止めた。ほうほう、狂っていると魔法を斬ったりはできねぇんだな。
「馬鹿が。悪魔の持つ武器だぞ。迂闊に触るな。そういった類を持てるのは、ツィガルの暗黒騎士だけだ」
(へぇ。暗黒騎士とやらは呪いの武器防具が装備できるのか)
ホキキはアマリを蹴り飛ばした。
アマリを蹴られて少々苛ついたようだが、まぁこいつらにしちゃあ恐ろしい武器だから仕方ねぇか。俺も心の器がデカくなったもんだ。
「鞘を持てばいい。柄を持つから呪われるんだ」
俺は親切に教えるも、ホキキは信用していない。まぁ悪魔の言う事だからな。
人を騙し、悪事に誘い、最終的に召喚者すら殺す。それが悪魔だ。まぁ俺は回りくどい事が嫌いだから、弱い召喚者はすぐに殺すが。
「おい、木の棒で挟むようにして運んで、納屋にしまっておけ。鍵は厳重にするんだぞ」
仲間に指示を終えたホキキは、まだ疑うような目で俺を見ている。
「貴様が我らを騙す気がないという証明をしろ。まずは、村の真ん中で暴れ回っている聖騎士を取り押さえるのだ」
「素手でか?」
「人修羅という悪魔は、武器が無いとなにもできないのかね?」
「いや、武器など無くとも今すぐにお前を殺す事ができるが? なぜ殺していないと思う?」
脅迫スキルを発動させてホキキを虐めてみる。
「ぐ・・・! は、早く聖騎士を捕えてこい。絶対に殺すなよ。聖騎士を殺すと色々と厄介だからな」
ふん、殺しが得意な悪魔に対して難易度の高い命令だな。しかも相手は対アンデッド・対悪魔仕様の騎士だぞ。
俺は自分の影に沈むと争いの音がする方へと向かった。
「だから知りませんってば~」
同じ馬車に乗るマサヨシは、ビャクヤやリンネの顔を見ても何も変化がなかった。
「例えそれが俺だったとしても、同じ時間軸の俺とは限らんでそ」
一人称が”俺“。
確かにマサヨシの言う通りかもしれない。
ビャクヤの知るマサヨシの一人称は”拙者“。
「ではッ! マサヨシはッ! キリマルを知らないということになるッ! 吾輩たちが皇帝の課したこの任務に参加する意味は?」
国境騎士が死んだ時やナビに騙された時のように、心に靄がかかる。
ヴャーンズのあのニヤニヤ顔はそういう事だったのだ。マサヨシがキリマルを知っていようがいまいが、戦力として自分を投入するつもりだった。
「我がいとこに悪意はないのですよ、ビャクヤ君」
召喚士のロロムは【読心】の魔法でも使ったかのように、自分の内心に返事をしてきた。
「全ては、リツ・フーリー団長に同行すると言った、私のせいなのです」
ヴャーンズと同じ半円形の目と長い鼻のゴブリンは、申し訳なさそうな顔をする。
「チョールズは私を心配していて、少しでも戦力が欲しかったのです。そこで貴方を利用する事を考えた。帝国最強の騎士、リツ・フーリー団長を打ち負かすだけの強力なメイジである貴方の力を欲したのです」
「でしたらッ! 帝国軍を率いてッ! 闇魔女を討伐すればいいのでは? 幾ら闇魔女でも何千人もの精鋭を相手に戦うとなれば・・・」
そう言ってからビャクヤは自分の理論の欠落に気づいて口をつぐむ。
「闇魔女イグナに大勢で立ち向かえばどうなるか、それは貴方も知っているのでないかね? ビャクヤ君」
闇魔女イグナは広範囲の攻撃魔法に長けたメイジ。大勢で向かったところで犠牲が増えるだけだ。
「それでもッ! メイジキラーであるリツ殿が向かったところで、どうこうできる相手ではないと思いまんもすッ!」
「広範囲の魔法が得意なメイジだったら、狭い場所に誘い出して戦えばいいんじゃないの?」
リンネがそう言うも、そういった戦い方をビャクヤは既に考えていた。が、狭い洞窟などで広範囲魔法を使えばどうなるか。天井が崩れて敵も味方も自滅である。
単体攻撃魔法しか知らないドットメイジのリンネには、広範囲魔法のデメリットがいまいち実感できていないようだ。
「そういう状況ではッ! 彼女は【姿隠し】で逃げ去るでしょう。そして次に我らが闇魔女の姿を見た時、それは命が終わる時でんすッ!」
マサヨシが沈むビャクヤの顔を見て笑う。
「おふっおふっ! でも所詮は占い師の言った事でそ。普通信じます? 占いなんて」
「そうよ。なんで悪い方にばかり考えてるの? ビャクヤは」
リンネもマサヨシの言葉に乗っかる。
「気が合いますなぁ、リンネちゃん。よし、結婚しましせう」
「しません。ビャクヤと結婚するから」
そう言ってリンネはビャクヤの腕に抱き着いた。
するとマサヨシはどこから取り出したのか、ビブラスラップという楽器を鳴らした。
「カァァァァ!(ビブラスラップの音)リア充、死ね!」
なんでこのタイミングでその楽器を使ったのかは全く理解不明だが、リンネはマサヨシからビブラスラップを奪うと返事した。
「カァァァァ!(ビブラスラップの音)死にませーんだ」
二人のやり取りにビャクヤはなんだか可笑しくなり笑う。そして沈んでいた心に光が差すような気がした。
「おほぉ! 二人を見ていたらッ! 前途多難と思えた未来がッ! 断然明るく思えてきましたよぉ!」
俺は丁度、ツィガル城下町で品切れだった【完璧なる変装】だったかそんな名前の魔法が付与されたペンダントを求めて、リザードマンがウロウロする沼地の塔に来ていた。
よくわからん闇樹族の魔法使いが攻撃してきたので、正当防衛だと前置きしてからさっさと倒し、目的の者を手に入れた。が――――。
その途端、コズミックペンに飛ばされたのだ。
そうなると厄介なことが一つ。
飛ばされると持ち物が残っていたり、残ってなかったりする事がある。
召喚された先で、樹族の召喚士が何かを言っていたが、俺はそれを無視をして持ち物の確認をする。ダイヤモンドゴーレムの核とアマリはなぜか必ずある。
そして自分の手を見た。
人間の手だ。樹族の緑がかった白い手ではない。変身のペンダントを首にかけた途端、コズミックペンに飛ばされたから何に変身したのかわからなかったんだわ。
しかしペンダントは胸元にあるって事は、コズミックペンがこれを持っていても良いと判断したのかもしれねぇ。
それにしても人間の姿か。
人間だった頃の自分を、なんとなく思い出しながら装備したのが悪かったな。もう一度樹族に変身できるが、まぁいいか。
「俺はレッサーオーガなど召喚していない!」
召喚士は仲間に大声で言い訳をしている。
しかし仲間はお前の言葉なんて聞いちゃいねぇぞ。俺の顔を見て震えてやがる。クハハ!
「違う! 下がれ! トーム! そいつはレッサーオーガなんかじゃない! 悪魔だ! 人修羅だ! 目を見ろ!」
召喚士の仲間がそう警告してワンドを構える。
「白い黒目に黒い白目!? 嘘だ! 俺の力じゃ悪魔なんて召喚できねぇよ! ただ見張りのインプが欲しかっただけなのに! ぎゃあ!」
刀でトームとかいう召喚士の首を刎ねて、落ちてきた頭をキャッチすると樹族二人へと投げた。
―――ポコッ!
変な音をさせて肉片を飛び散らせて樹族の頭が爆散する。トームの仲間に大したダメージは入ってねぇな。防御魔法を常駐させているのか。
という事は今は平時じゃねぇな。どこかで戦う音が微かに聞こえる。一人で頑張ってはいるが、時間の問題だな。多対一にしてはよく耐えている。
見張りのインプを召喚しようとしたって事は、今戦っている誰かさんを捕える余裕が、こいつらに十分にあるからだろうよ。
まぁそれよりも殺しだ。俺が残りの二人の首を刎ねようとしたその時。
感知することが難しい【姿隠し】の魔法でいきなり現れたメイジが、俺の刀を魔法で弾き飛ばした。
そう。俺は意識外からの攻撃には弱い。
「ほう、召喚士は糞雑魚だったが、おめぇはやるじゃねぇか」
「ああ、ホキキという。よろしく。人修羅の」
素早く動いて、こいつらを爆死させることは簡単だ。
だが、少しは骨のあるやつを見て俺は嬉しくなった。
「クハハ! いいだろう。力を見せてもらった。で、俺は何をすればいい?」
「まず質問させてもらう。君は強力な悪魔なのに、召喚士無しでどうやって、この物質界に留まっていられるのかね?」
「贄があるからだ。俺の贄は殺しだ。どんな時代でも、どんな世界でも人を殺せる機会は、ある」
「ああ、なるほどね」
俺にじわじわと近づいてくる刀のアマリを、ホキキの仲間が迂闊にも拾って、柄を握ってしまった。
―――その途端。
「キィエエエエエエエエエエ!!!」
狂ってもう一人の仲間に斬りかかろうとしたのだ。
それをホキキが【捕縛】の魔法で動きを止めた。ほうほう、狂っていると魔法を斬ったりはできねぇんだな。
「馬鹿が。悪魔の持つ武器だぞ。迂闊に触るな。そういった類を持てるのは、ツィガルの暗黒騎士だけだ」
(へぇ。暗黒騎士とやらは呪いの武器防具が装備できるのか)
ホキキはアマリを蹴り飛ばした。
アマリを蹴られて少々苛ついたようだが、まぁこいつらにしちゃあ恐ろしい武器だから仕方ねぇか。俺も心の器がデカくなったもんだ。
「鞘を持てばいい。柄を持つから呪われるんだ」
俺は親切に教えるも、ホキキは信用していない。まぁ悪魔の言う事だからな。
人を騙し、悪事に誘い、最終的に召喚者すら殺す。それが悪魔だ。まぁ俺は回りくどい事が嫌いだから、弱い召喚者はすぐに殺すが。
「おい、木の棒で挟むようにして運んで、納屋にしまっておけ。鍵は厳重にするんだぞ」
仲間に指示を終えたホキキは、まだ疑うような目で俺を見ている。
「貴様が我らを騙す気がないという証明をしろ。まずは、村の真ん中で暴れ回っている聖騎士を取り押さえるのだ」
「素手でか?」
「人修羅という悪魔は、武器が無いとなにもできないのかね?」
「いや、武器など無くとも今すぐにお前を殺す事ができるが? なぜ殺していないと思う?」
脅迫スキルを発動させてホキキを虐めてみる。
「ぐ・・・! は、早く聖騎士を捕えてこい。絶対に殺すなよ。聖騎士を殺すと色々と厄介だからな」
ふん、殺しが得意な悪魔に対して難易度の高い命令だな。しかも相手は対アンデッド・対悪魔仕様の騎士だぞ。
俺は自分の影に沈むと争いの音がする方へと向かった。
「だから知りませんってば~」
同じ馬車に乗るマサヨシは、ビャクヤやリンネの顔を見ても何も変化がなかった。
「例えそれが俺だったとしても、同じ時間軸の俺とは限らんでそ」
一人称が”俺“。
確かにマサヨシの言う通りかもしれない。
ビャクヤの知るマサヨシの一人称は”拙者“。
「ではッ! マサヨシはッ! キリマルを知らないということになるッ! 吾輩たちが皇帝の課したこの任務に参加する意味は?」
国境騎士が死んだ時やナビに騙された時のように、心に靄がかかる。
ヴャーンズのあのニヤニヤ顔はそういう事だったのだ。マサヨシがキリマルを知っていようがいまいが、戦力として自分を投入するつもりだった。
「我がいとこに悪意はないのですよ、ビャクヤ君」
召喚士のロロムは【読心】の魔法でも使ったかのように、自分の内心に返事をしてきた。
「全ては、リツ・フーリー団長に同行すると言った、私のせいなのです」
ヴャーンズと同じ半円形の目と長い鼻のゴブリンは、申し訳なさそうな顔をする。
「チョールズは私を心配していて、少しでも戦力が欲しかったのです。そこで貴方を利用する事を考えた。帝国最強の騎士、リツ・フーリー団長を打ち負かすだけの強力なメイジである貴方の力を欲したのです」
「でしたらッ! 帝国軍を率いてッ! 闇魔女を討伐すればいいのでは? 幾ら闇魔女でも何千人もの精鋭を相手に戦うとなれば・・・」
そう言ってからビャクヤは自分の理論の欠落に気づいて口をつぐむ。
「闇魔女イグナに大勢で立ち向かえばどうなるか、それは貴方も知っているのでないかね? ビャクヤ君」
闇魔女イグナは広範囲の攻撃魔法に長けたメイジ。大勢で向かったところで犠牲が増えるだけだ。
「それでもッ! メイジキラーであるリツ殿が向かったところで、どうこうできる相手ではないと思いまんもすッ!」
「広範囲の魔法が得意なメイジだったら、狭い場所に誘い出して戦えばいいんじゃないの?」
リンネがそう言うも、そういった戦い方をビャクヤは既に考えていた。が、狭い洞窟などで広範囲魔法を使えばどうなるか。天井が崩れて敵も味方も自滅である。
単体攻撃魔法しか知らないドットメイジのリンネには、広範囲魔法のデメリットがいまいち実感できていないようだ。
「そういう状況ではッ! 彼女は【姿隠し】で逃げ去るでしょう。そして次に我らが闇魔女の姿を見た時、それは命が終わる時でんすッ!」
マサヨシが沈むビャクヤの顔を見て笑う。
「おふっおふっ! でも所詮は占い師の言った事でそ。普通信じます? 占いなんて」
「そうよ。なんで悪い方にばかり考えてるの? ビャクヤは」
リンネもマサヨシの言葉に乗っかる。
「気が合いますなぁ、リンネちゃん。よし、結婚しましせう」
「しません。ビャクヤと結婚するから」
そう言ってリンネはビャクヤの腕に抱き着いた。
するとマサヨシはどこから取り出したのか、ビブラスラップという楽器を鳴らした。
「カァァァァ!(ビブラスラップの音)リア充、死ね!」
なんでこのタイミングでその楽器を使ったのかは全く理解不明だが、リンネはマサヨシからビブラスラップを奪うと返事した。
「カァァァァ!(ビブラスラップの音)死にませーんだ」
二人のやり取りにビャクヤはなんだか可笑しくなり笑う。そして沈んでいた心に光が差すような気がした。
「おほぉ! 二人を見ていたらッ! 前途多難と思えた未来がッ! 断然明るく思えてきましたよぉ!」
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