202 / 299
闇ビャクヤ
しおりを挟む
上位竜種による【死の雲】。黒竜を中心にして、まるでホコリタケが菌糸を飛ばすかのごとく雲は拡散する。
人型種の唱えるそれとは違い、桁外れの成功率を誇る死の雲が、周囲の者を次々と襲う。
野次馬に来ていたゴブリンやオークは、雲に包まれた瞬間に絶命して倒れていった。
生命力の高い者や魔力の高い者が、辛うじてレジスト出来る黒竜の魔法は、土の地面に死体の敷石を作り出していた。
「リンネ!」
ロロムたちと共に死の魔法の範囲外にいたビャクヤは、黒竜に近かったリンネを心配して走り出す。
(リンネはメイジなのに頑強さや生命力が高いッ! 魔力値は普通だがこの二つがあれば十分にレジストできるはずッ!)
つまり二段階でレジストできるのだ。体力が高いだけ、魔力が高いだけの者だと、一回だけしか抵抗できない。まぁそのどちらかが普通より高ければこの死の雲は耐えられる確率が高い。
では、そんなに恐れる魔法ではないではないかと思うかもしれないが、特別な者はそうそういないのである。
雲が晴れると同時に、人影が見えた。
魔剣へし折りを盾にしてミスリル銀のフルプレートが、日光を鈍く反射させる女傭兵ヘカティニス。
大盾を構えてじっと除き穴から黒竜の様子を観察する、慎重な帝国鉄騎士団団長リツ・フーリー。
闇魔女イグナも問題なくレジストしている。
残念なことに、この場に十人程いた砦の戦士たちの半分は逝ってしまった。高い体力を以てしても運が悪いとこうなる。
そして・・・。
晴れゆく死の雲の中に立つ人間の影。ショートボブをいつの頃からか伸ばし始めて、今はポニーテールになったビャクヤの恋人。
膝を突いて項垂れるナンベルを庇うようにして立つリンネは、まるで騎士のようだった。
それを見た途端にビャクヤの背中に悪寒が走る。知識が豊富だからこそ、真っ先に思い浮かぶネガティブな思考。
「まさか・・・ッ! 何もこんな時に発現しなくてもッ!」
騎士の父親とスペルキャスターの母親の間に生まれたリンネはメイジの道を歩んだ。
しかし時として誰もが、自分とは真逆のクラスのスキルを引き継ぐ事がある。
親からのスキル遺伝。恩恵になることもあれば、足枷になることもある。バトルメイジを志した彼女に発現したスキルは―――、庇う、だった。
庇護した相手が受ける全てを引き受ける騎士のスキル“庇う”は、死の雲からナンベルを守るために発動したようにビャクヤには見えた。
物理攻撃の場合はなぜか自分の防御力で引き受けるが、魔法となると別だ。つまりリンネはナンベルのレジスト率で庇った事になる。
死を免れる確率は一体どれほどのものだろうか? 恐らくは・・・。
「自分の勘などあてになるものかッ!」
ビャクヤは嫌な予感を振り払ってリンネの肩を掴むと同時に、僅かに苛立ちを募らせながら横目で祖父の生存を確認する。
ナンベルは死に際の黒竜が放った負のオーラのような何かを浴びてしまったのか、地面に膝を突いた体勢から動こうとはしない。憔悴しきっているようにも見える。
(祖父は元々生産職向きの人だッ! 家族を殺された復讐のために、強引に戦闘職に切り替えたのでッ! 魔人族としては中途半端な能力値なのだッ!)
滅多に変わらない能力値をどうやって変えたのかは結局、ナンベルは話してくれなかった。祖父の変人染みた行動はそれらの代償なのかもしれない。
(なにはともあれッ! お祖父様が無事で良かったッ! おっと! それよりも我が愛しの恋人が、気がかりだッ!)
「リンネ!」
学園の制服とマント越しに熱を感じる。しかし彼女は微動だにしない。顔の前で手をクロスさせたままだ。
「もう戦いは終わりました。黒竜は死にましたよ。リンネのスキルのお陰でお祖父様は助かりました。感謝します・・・。?!」
触れているリンネの肩からどんどんと熱が逃げていくのがわかる。
(嫌だッ。認めたくないッ!)
「わが同胞の君」
地面を見つめたままだったナンベルだったが、項垂れた頭を上げてこちらに奇妙なメイクの顔を向けた。
(言うなッ!)
「彼女は君の愛しい人だったのですか?」
「勿論ッ!」
「なんと言えばいいか・・・。雲に抗えない小生が死を覚悟したその時、彼女が騎士のスキルを発動するのを見ました。なぜに彼女が赤の他人である小生を助けようとしたのかはわかりませんが・・・」
(リンネは貴方を吾輩の祖父だと知っているから守ったのですよッ! 命を使ってまで!)
ビャクヤの仮面の下から涙がポタポタと零れ落ち、雫が地面で王冠を作った。彼の体には負の感情に集る精霊が集まっていた。怒り、悲しみ、絶望、悔恨。
周囲に広がる負のオーラ。
しかしそれは闇堕ちの途中であるビャクヤのものではない。
死んだと思っていた黒竜が動いて四足でしっかりと立ち上がり、長い顔を天に向けて笑っていた。
「ハハハ! 生贄の癒やし、大成功! おっと!」
誰かが動く気配を感じた黒竜は、足を踏ん張って背中の羽根を動かした。
「おまえっ! 胸糞悪いど!」
飛びかかってくるヘカティニスの、鈍器のような魔剣を黒竜は飛んで躱し、近くにあった巨石の上に移った。
それからご馳走である死体の山を見て、蛇のような舌をチロチロと出し入れしている。死体の数に満足すると巨石の下で自分を狙ってウロウロするヘカティニスを見た。
「いやぁ~。危なかった。まさかこんなところで神シリーズを持つ者と出会うとはね。咄嗟にスキルを発動させて【死の雲】を唱えた僕は偉い」
人のようにニィと笑う黒竜は、喋りながら喉をゴロゴロと鳴らしている。ブレスを吐く準備をしているのだ。
――――が。
「あああああああああああああああ!!!! リンネが逝ってしまったッ! 闇がッ! 闇が深まるッ!」
突然発狂したビャクヤに周囲は驚く。黒竜と戦って死者が出ないわけがないからだ。
精神があまりに脆弱な仮面のメイジを見て、黒竜ですら驚き、笑いとブレスの予備動作を止める。
周りの事など目に入らないビャクヤはシルクハットを地面に叩きつけ、黒髪を掻きむしり叫んだ。
「まただッ! またリンネが死んだッ! ここにはッ! キリマルがッ! いないというのにッ!」
驚く皆の中でほくそ笑む者が一人。
それはエストに憑依したQだった。
(いける! ビャクヤの絶望が大きく溜まっていくのがわかる! 思いの外、この時が来るのは早かったな! あと少しだ! もっと現実逃避をしろ! この世界から逃げて、リンネのいる世界へ行きたいと願え! そうすれば異世界への霧が発生すること間違いなし! あとは霧が発生した瞬間、ビャクヤを掴んで自分の作った世界に引きずり込むだけだ!)
「吾輩はッ! 善なる行いを良しとして生きてきたッ! 人を助けッ! 慈悲の心も携えていたッ! なのにッ! 神はッ! 吾輩にッ! 試練ばかりを課すッ! 国境騎士の時もッ! リンネの時もッ! 神はッ! 願いに応じてくれなかったッ! 黒竜を倒すはずだったヒジリもこの場にはいないッ! 神などッ! 善などッ! もう糞食らえだッ!」
闇堕ちというのは樹族にだけ起こる現象ではない。樹族は見た目が変わるのでわかり易いというだけなのだ。
ビャクヤの体から闇色の湯気のようなオーラが立ち昇る。
それを見たナンベルが、腰のポーチからスタミナポーションを出して飲むと立ち上がった。
「闇に堕ちた先輩としてアドバイスをしますが、そこから軌道を修正するのは容易ではないですよ、我が同胞。引き返すのです」
死んだ者を贄にして蘇生や回復をする黒竜の生贄の癒やしは、近くにいた者の体力も奪う。
スタミナポーションを飲んだ程度では大して回復はしないが、それでも恋人を失った仮面のメイジを慰めようと、ナンベルは気力を振り絞って歩きだした。
が、それをビャクヤは睨みつけて止めた。
「来るなッ! リンネの命と引き換えにこの世にいる気分はどうですかッ! お祖父様!」
頭を抱えて闇の霞の中から、目だけを光らせてこちらを見る仮面の魔人族に、ナンベルは優しく声をかける。
「(彼はなぜ小生をお祖父様と呼ぶのか?)勿論、悲しいですし、君の恋人には感謝の気持ちしかありません」
「嘘だッ! 自分が助かって当たり前だと思っているのでしょうッ!」
「嘘ではありません。しかし今、自分が助かっているのはそういう運命だったと、心の内で囁く薄情な自分がいるのも事実です。小生は善人ではないのでね。とはいえ、大事な人を失う気持ちはとてもわかりますヨ」
攻撃の届かない場所で、黒竜は楽しそうに二人のやり取りを見ている。
時折、イグナが黒竜に魔法を仕掛けるが、彼は簡単にレジストしてしまう。イグナの魔法攻撃を気にもせず、闇堕ちするビャクヤを見て目を細めていた。さぁ早く此方側へ来いと。
少し離れた場所でマサヨシがロロムに言う。
「師匠はさっきから動く様子がないけど、帝国はこの件に介入しないということでつか?」
「ええ。既にリツが介入してしまっていますが、これは国際法違反です。彼女は後ほどチョールズから処罰を下されるでしょう」
「本当は助けたいんでそ? 師匠」
「勿論。できれば、この国の責任者であるヒジリ殿から許可が欲しいのですが・・・」
リツのような団長の立場であれば、まだ言い訳が通じる部分はある。大盾が偶然飛んでいって黒竜の前に落ちたから、取りに行ったら襲われて、自衛行動に出たという苦しい言い訳でも情状酌量の余地はある。
しかし、ツィガル皇帝の顧問である自分が、他国の戦闘に参加すればどうなるか。
いらぬ誤解を招く可能性もある。黒竜をけしかけたのは帝国で、それを誤魔化すために、帝国の高官が自作自演をして戦ったのだと言いがかりをつけられるかもしれない。
だが、ヒジリはそんな穿った見方をしないだろうとロロムは思う。しかし、彼の後ろにいる樹族たちはどうだろうか?
自分が下手な事をすれば、全ての責任が命の恩人であるヒジリへと向かうのは必至だ。
「そういえば、俺は士官として正式採用されたんご?」
「ん・・・? 幾らマサヨシ君が私の弟子とはいえ、チョールズでもそう簡単に採用するなんて事はできないよ。立場的には仮採用といったところだね。待ちなさい、マサヨヨシ君。まさか・・・」
マサヨシはビャクヤたちの方へと向かって歩き始める。呼び止めるロロムに片手を上げて閉じたチョキを作って傾けた。
「俺、まだ仮採用なんで。帝国は関係ありませんズリ」
人型種の唱えるそれとは違い、桁外れの成功率を誇る死の雲が、周囲の者を次々と襲う。
野次馬に来ていたゴブリンやオークは、雲に包まれた瞬間に絶命して倒れていった。
生命力の高い者や魔力の高い者が、辛うじてレジスト出来る黒竜の魔法は、土の地面に死体の敷石を作り出していた。
「リンネ!」
ロロムたちと共に死の魔法の範囲外にいたビャクヤは、黒竜に近かったリンネを心配して走り出す。
(リンネはメイジなのに頑強さや生命力が高いッ! 魔力値は普通だがこの二つがあれば十分にレジストできるはずッ!)
つまり二段階でレジストできるのだ。体力が高いだけ、魔力が高いだけの者だと、一回だけしか抵抗できない。まぁそのどちらかが普通より高ければこの死の雲は耐えられる確率が高い。
では、そんなに恐れる魔法ではないではないかと思うかもしれないが、特別な者はそうそういないのである。
雲が晴れると同時に、人影が見えた。
魔剣へし折りを盾にしてミスリル銀のフルプレートが、日光を鈍く反射させる女傭兵ヘカティニス。
大盾を構えてじっと除き穴から黒竜の様子を観察する、慎重な帝国鉄騎士団団長リツ・フーリー。
闇魔女イグナも問題なくレジストしている。
残念なことに、この場に十人程いた砦の戦士たちの半分は逝ってしまった。高い体力を以てしても運が悪いとこうなる。
そして・・・。
晴れゆく死の雲の中に立つ人間の影。ショートボブをいつの頃からか伸ばし始めて、今はポニーテールになったビャクヤの恋人。
膝を突いて項垂れるナンベルを庇うようにして立つリンネは、まるで騎士のようだった。
それを見た途端にビャクヤの背中に悪寒が走る。知識が豊富だからこそ、真っ先に思い浮かぶネガティブな思考。
「まさか・・・ッ! 何もこんな時に発現しなくてもッ!」
騎士の父親とスペルキャスターの母親の間に生まれたリンネはメイジの道を歩んだ。
しかし時として誰もが、自分とは真逆のクラスのスキルを引き継ぐ事がある。
親からのスキル遺伝。恩恵になることもあれば、足枷になることもある。バトルメイジを志した彼女に発現したスキルは―――、庇う、だった。
庇護した相手が受ける全てを引き受ける騎士のスキル“庇う”は、死の雲からナンベルを守るために発動したようにビャクヤには見えた。
物理攻撃の場合はなぜか自分の防御力で引き受けるが、魔法となると別だ。つまりリンネはナンベルのレジスト率で庇った事になる。
死を免れる確率は一体どれほどのものだろうか? 恐らくは・・・。
「自分の勘などあてになるものかッ!」
ビャクヤは嫌な予感を振り払ってリンネの肩を掴むと同時に、僅かに苛立ちを募らせながら横目で祖父の生存を確認する。
ナンベルは死に際の黒竜が放った負のオーラのような何かを浴びてしまったのか、地面に膝を突いた体勢から動こうとはしない。憔悴しきっているようにも見える。
(祖父は元々生産職向きの人だッ! 家族を殺された復讐のために、強引に戦闘職に切り替えたのでッ! 魔人族としては中途半端な能力値なのだッ!)
滅多に変わらない能力値をどうやって変えたのかは結局、ナンベルは話してくれなかった。祖父の変人染みた行動はそれらの代償なのかもしれない。
(なにはともあれッ! お祖父様が無事で良かったッ! おっと! それよりも我が愛しの恋人が、気がかりだッ!)
「リンネ!」
学園の制服とマント越しに熱を感じる。しかし彼女は微動だにしない。顔の前で手をクロスさせたままだ。
「もう戦いは終わりました。黒竜は死にましたよ。リンネのスキルのお陰でお祖父様は助かりました。感謝します・・・。?!」
触れているリンネの肩からどんどんと熱が逃げていくのがわかる。
(嫌だッ。認めたくないッ!)
「わが同胞の君」
地面を見つめたままだったナンベルだったが、項垂れた頭を上げてこちらに奇妙なメイクの顔を向けた。
(言うなッ!)
「彼女は君の愛しい人だったのですか?」
「勿論ッ!」
「なんと言えばいいか・・・。雲に抗えない小生が死を覚悟したその時、彼女が騎士のスキルを発動するのを見ました。なぜに彼女が赤の他人である小生を助けようとしたのかはわかりませんが・・・」
(リンネは貴方を吾輩の祖父だと知っているから守ったのですよッ! 命を使ってまで!)
ビャクヤの仮面の下から涙がポタポタと零れ落ち、雫が地面で王冠を作った。彼の体には負の感情に集る精霊が集まっていた。怒り、悲しみ、絶望、悔恨。
周囲に広がる負のオーラ。
しかしそれは闇堕ちの途中であるビャクヤのものではない。
死んだと思っていた黒竜が動いて四足でしっかりと立ち上がり、長い顔を天に向けて笑っていた。
「ハハハ! 生贄の癒やし、大成功! おっと!」
誰かが動く気配を感じた黒竜は、足を踏ん張って背中の羽根を動かした。
「おまえっ! 胸糞悪いど!」
飛びかかってくるヘカティニスの、鈍器のような魔剣を黒竜は飛んで躱し、近くにあった巨石の上に移った。
それからご馳走である死体の山を見て、蛇のような舌をチロチロと出し入れしている。死体の数に満足すると巨石の下で自分を狙ってウロウロするヘカティニスを見た。
「いやぁ~。危なかった。まさかこんなところで神シリーズを持つ者と出会うとはね。咄嗟にスキルを発動させて【死の雲】を唱えた僕は偉い」
人のようにニィと笑う黒竜は、喋りながら喉をゴロゴロと鳴らしている。ブレスを吐く準備をしているのだ。
――――が。
「あああああああああああああああ!!!! リンネが逝ってしまったッ! 闇がッ! 闇が深まるッ!」
突然発狂したビャクヤに周囲は驚く。黒竜と戦って死者が出ないわけがないからだ。
精神があまりに脆弱な仮面のメイジを見て、黒竜ですら驚き、笑いとブレスの予備動作を止める。
周りの事など目に入らないビャクヤはシルクハットを地面に叩きつけ、黒髪を掻きむしり叫んだ。
「まただッ! またリンネが死んだッ! ここにはッ! キリマルがッ! いないというのにッ!」
驚く皆の中でほくそ笑む者が一人。
それはエストに憑依したQだった。
(いける! ビャクヤの絶望が大きく溜まっていくのがわかる! 思いの外、この時が来るのは早かったな! あと少しだ! もっと現実逃避をしろ! この世界から逃げて、リンネのいる世界へ行きたいと願え! そうすれば異世界への霧が発生すること間違いなし! あとは霧が発生した瞬間、ビャクヤを掴んで自分の作った世界に引きずり込むだけだ!)
「吾輩はッ! 善なる行いを良しとして生きてきたッ! 人を助けッ! 慈悲の心も携えていたッ! なのにッ! 神はッ! 吾輩にッ! 試練ばかりを課すッ! 国境騎士の時もッ! リンネの時もッ! 神はッ! 願いに応じてくれなかったッ! 黒竜を倒すはずだったヒジリもこの場にはいないッ! 神などッ! 善などッ! もう糞食らえだッ!」
闇堕ちというのは樹族にだけ起こる現象ではない。樹族は見た目が変わるのでわかり易いというだけなのだ。
ビャクヤの体から闇色の湯気のようなオーラが立ち昇る。
それを見たナンベルが、腰のポーチからスタミナポーションを出して飲むと立ち上がった。
「闇に堕ちた先輩としてアドバイスをしますが、そこから軌道を修正するのは容易ではないですよ、我が同胞。引き返すのです」
死んだ者を贄にして蘇生や回復をする黒竜の生贄の癒やしは、近くにいた者の体力も奪う。
スタミナポーションを飲んだ程度では大して回復はしないが、それでも恋人を失った仮面のメイジを慰めようと、ナンベルは気力を振り絞って歩きだした。
が、それをビャクヤは睨みつけて止めた。
「来るなッ! リンネの命と引き換えにこの世にいる気分はどうですかッ! お祖父様!」
頭を抱えて闇の霞の中から、目だけを光らせてこちらを見る仮面の魔人族に、ナンベルは優しく声をかける。
「(彼はなぜ小生をお祖父様と呼ぶのか?)勿論、悲しいですし、君の恋人には感謝の気持ちしかありません」
「嘘だッ! 自分が助かって当たり前だと思っているのでしょうッ!」
「嘘ではありません。しかし今、自分が助かっているのはそういう運命だったと、心の内で囁く薄情な自分がいるのも事実です。小生は善人ではないのでね。とはいえ、大事な人を失う気持ちはとてもわかりますヨ」
攻撃の届かない場所で、黒竜は楽しそうに二人のやり取りを見ている。
時折、イグナが黒竜に魔法を仕掛けるが、彼は簡単にレジストしてしまう。イグナの魔法攻撃を気にもせず、闇堕ちするビャクヤを見て目を細めていた。さぁ早く此方側へ来いと。
少し離れた場所でマサヨシがロロムに言う。
「師匠はさっきから動く様子がないけど、帝国はこの件に介入しないということでつか?」
「ええ。既にリツが介入してしまっていますが、これは国際法違反です。彼女は後ほどチョールズから処罰を下されるでしょう」
「本当は助けたいんでそ? 師匠」
「勿論。できれば、この国の責任者であるヒジリ殿から許可が欲しいのですが・・・」
リツのような団長の立場であれば、まだ言い訳が通じる部分はある。大盾が偶然飛んでいって黒竜の前に落ちたから、取りに行ったら襲われて、自衛行動に出たという苦しい言い訳でも情状酌量の余地はある。
しかし、ツィガル皇帝の顧問である自分が、他国の戦闘に参加すればどうなるか。
いらぬ誤解を招く可能性もある。黒竜をけしかけたのは帝国で、それを誤魔化すために、帝国の高官が自作自演をして戦ったのだと言いがかりをつけられるかもしれない。
だが、ヒジリはそんな穿った見方をしないだろうとロロムは思う。しかし、彼の後ろにいる樹族たちはどうだろうか?
自分が下手な事をすれば、全ての責任が命の恩人であるヒジリへと向かうのは必至だ。
「そういえば、俺は士官として正式採用されたんご?」
「ん・・・? 幾らマサヨシ君が私の弟子とはいえ、チョールズでもそう簡単に採用するなんて事はできないよ。立場的には仮採用といったところだね。待ちなさい、マサヨヨシ君。まさか・・・」
マサヨシはビャクヤたちの方へと向かって歩き始める。呼び止めるロロムに片手を上げて閉じたチョキを作って傾けた。
「俺、まだ仮採用なんで。帝国は関係ありませんズリ」
0
あなたにおすすめの小説
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる