殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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希望は闇の中

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 闇堕ち化してしまえばどうなるか。実はハッキリした事はわかっていないが、格段に能力が上がるのは確かだ。

 生産職であった自分がそうだったのだから、そうに違いないとナンベルは思う。

(しかし、その後が大変なのですヨ。小生は常に狂気に苛まれました。ヒー君(※ナンベルの付けたヒジリのあだ名)と出会ってから随分とマシにはなりましたが、これまでの治療に使った魔法や薬の副作用から逃れる事はできませんでした。時々起こる悪寒、吐き気、一時的な記憶喪失、虚言癖・・・)

 仮面のメイジが闇堕ちをすれば、もしかしたらあの黒竜を倒せるだけの力を得られるかもしれない。

(彼は魔人族の中でも間違いなく五本の指に入るアークメイジでしょう)

 魔法耐性の高い竜の鱗を一枚とはいえ凍らせて脆くさせたのだから。それはつまり魔法貫通能力が高いということだ。

 無名の実力者ということは隠遁者か、とナンベルは推測する。

(不謹慎ではありますが、彼に闇堕ちしてもらう以外に、皆が助かる方法はないですネ。唯一の対抗手段であるヘカちゃんは接近戦しかできないので、手の届かない所にいる黒竜を地上に引きずり下ろす方法がない今、あのメイジだけが命綱。ヒー君とウメボシちゃんは今、ドワイト・ステインフォージと共に鉱山の鉱物調査に出向いています。いつもなら、イグナちゃんの危機を遠くからでも感知して、すぐに転移してくるのですが。おかしい・・・)

 徐々に身に纏う闇が大きくなるビャクヤを、高い岩の上から見て笑う竜は、何かの余興でも見ているような余裕の態度だ。

「さぁ早く早く! 闇堕ちした魔人族は、きっと美味しいに違いない!」

(仮面のメイジが闇堕ち化すれば、黒竜にとって間違いなく脅威となるのに、それでも余裕を見せている。あの腹立たしい羽つきトカゲは、まだなにか秘策を持っていると考えた方がいいのでしょうカ)

 ナンベルが冷や汗をかきながら思考し、誰もが打つ手がなくて停滞する空気の中を、豚人がとことこと歩いてやって来た。

「何しに来たのです? マサヨシ君。いつものようにチェスをするには、少々場が剣呑としてますガ」

 あちこちに情報網を持つナンベルは、この男が最近になって帝国に士官した事を知っている。グランデモニウム王国改めヒジランドの敵となった男。

「おふっ! おふっ! ちょっと思い出した事がありまして」

 時々、ヒジリが彼の事をスヌー○ーと呼ぶ事をナンベルは思い出した。

 そのス○ーピーとかいう生き物に似ているらしいマサヨシは、負のオーラを放つビャクヤの肩をさも当然のように触れる。

「あっ!」

 勿論、誰もが驚く。黒竜も、だ。細めていた目を見開き、首をもたげた。

 闇堕ち途中の者に触ればどうなるかは、どの国の戒め話にも出てくる程の有名な禁忌である。

 なぜなら、触った者も闇に飲み込まれるのだ。ゆえにその現場に居合わせる何者も、闇堕ちする者を止められるのは言葉のみ。それ以外は殺すしかない。

「拙者、まだリンネちゃんにしっかりと、キスをしてもらっていないでござるよ、ビャクヤ殿」

 その言葉を聞いてビャクヤの肩がピクリと動く。と同時に負のオーラが一気に小さくなり始めた。

 その様子を見て上がる声が二つ。

「余計な事を!」

 Qと黒竜だったが、誰もこの二人の言葉の意味がわかるわけもなく、無視をして成り行きを見守った。

 ビャクヤは頭を抱えるのを止めて、希望に満ちた目でマサヨシを見ている。

 ――――どんな場所でも大量のマナを発生させる男。

 それはある意味、ヒジリとは真逆の存在だ。ヒジリは触れたもののマナを減衰、あるいは消滅させてしまう。

 しかもこの男は自分にとって都合のいい魔法は受け入れ、その逆は受け入れないというチート能力まで持つ。

「思い出してくれたのですねッ! マサヨシ!」

「うん。ビャクヤ殿が苦悩している姿を見ていたら、母親に仕事を探しに行けって言われている時の自分と重なって・・・・。そのショックで思い出したみたいでござる。ニンニン」

 なんとも嫌な思い出され方である、とビャクヤは内心で思いつつスッと立ち上がった。

「キリマルを・・・。キリマルを召喚してくれますッ?」

「いいですとも!(ゴルベーザ風に)」

 豚人によく間違えられる人間族のマサヨシは胸を叩いて自慢顔をする。

「フン! つまらないね!」

 そう言って黒竜が右手の爪先をヘカティニスに向けて【停止】の魔法を唱える。時計の針が回るエフェクトが現れて、時空魔法がヘカティニスの動きを完全に封じてしまった。

 すぐさま一度見覚えの能力を持つイグナから同じく【停止】の魔法を黒竜は受けるが、やはりレジストしてしまった。人型種と竜の差はこれ程までに大きいのだ。

 黒竜は高い岩から飛び降りるとドスンと地面に着地して、退屈そうに欠伸をしながら近づいてきた。

「君たち、なんであの神シリーズを持つ女戦士を殺さないのかって思っているんでしょ? 僕は以前、この地域を支配していた闇竜である叔母さんに聞いたことがあるんだ。大昔に人間が事象を曲げる神殺しの武器を三つ作ったってね。その中には呪われた武器もあるってさ。僕はあの神シリーズで一度は叩き殺されたけど、呪いは受けなかった。ということは、持ち主を殺した場合に武器と共に呪いが移るんじゃないかと考えたわけさ」

「となると、その呪いは持ち主を阿呆にする呪いですねぇ。キュッキュー!」

 ナンベルはなんとか時間稼ぎをして、ヘカティニスの魔法効果が切れるのを待つ作戦にでた。

「なにせ、彼女はろくに喋れませんから! おで、おまえ、ぶち殺す!」

 ナンベルは道化師らしく、ふざけてタップを踏みながらヘカティニスの口調を真似た。

「へぇ! それは恐ろしい! もしそうなら、僕は魔法の殆どを忘れてしまっていただろう! ところで、そこの豚人はどうやって魔人族の闇堕ち化を防いだんだい? そしてなぜ豚人は闇堕ちしていない?」

「誰が豚人でつか! 人間でつよ! 人間!」

 昔の漫才師のようにマサヨシは人差し指を上げて、黒竜にツッコミを入れている。

「人間か・・・。僕はこの世界で生まれたから人間を見たことないんだよね。確か、この世界にも異世界から来た人間が住む国があるらしいのだけど。美味しいのかな? 人間族って」

 黒竜が不自然に笑った。眉根と口角を異様に高く上げて。

 次の瞬間、シュリッ! と奇妙な音がしてマサヨシの頭がなくなっていた。

 ボリッ、ボリッと黒竜の口から咀嚼音が聞こえ、牙の間から血が滴っている。

「うん、美味しい!」

「ああああぁああああああああ!!!」

 ビャクヤの唯一の希望が今、絶たれたのだ。

 救いの光を見てから絶望の底に叩きつけられてしまったビャクヤは嘔吐する。

「ぶぇっ」

 真っ先にマサヨシをリフレクトマントで守るべきだったという後悔が押し寄せる。

 ビシャリと仮面の下から黄色い胃液を零して、立ったまま絶命しているリンネを見た。

「ご、ごめんなさい・・・。リンネ・・・。もう吾輩はダメだ・・・。なにも出来ない・・・。ショックで頭が回らないのです・・・。君が支えてくれないと吾輩はこんなに脆いんだ。お願いだ、キリマル。リンネを助けて・・・。リンネを助けてよぉ! キリマルゥ!!」

 子供のように泣くビャクヤは蹲ると再び体に闇を纏い始めた。
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