殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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逆らうキリマル

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 黒いタイツのようなパワードスーツを着る現人神は、なにかを誤解をしているのか、俺様を睨みつけている。

「ウメボシ、君の感想は?」

 主にそう問われて、宙に浮くピンクの目玉は周囲をスキャニングし、すぐに答えを出した。

「マナ粒子に包まれたうろこ状の物が散乱しており、材質等を見通す事ができません。目視で確認しましたが竜の鱗でしょう」

「竜は基本的に人を襲わない、というよりも興味を持たない。となるとこの惨状は君が原因、という可能性が高いな」

 ヒジリの眉間の皺が深くなった。その瞳には敵意や悪意は籠もっておらず、何かを見極めようとしているようにも見える。

 イグナが誤解を解こうと口を開いたが、それよりも早く俺が声を出した。

「なに睨みつけてんだぁ? あぁ?」

 とりあえず脅迫スキルでヒジリを脅してみたが、当然のように効果がない。神属性には効かねぇのか?

「私はこの世界でいうところの魔法不可視症なのでね。君が霞んでいて見え辛い。少々顔が険しくなるのは容赦してくれたまえ」

 やっぱり悪魔ってのは魔法的要素が強いってことか?

 ウメボシが更に報告をする。

「死者四十五名。うち五名は砦の戦士です。マスター、スカー様が・・・」

「死因は?」

「急性心不全です」

「マサヨシ様の下半身だけの遺体もあります、マスター。歯型が大型爬虫類のものなので、竜がここで虐殺を行ったと思われます」

「ふむ」

 仲間が死んだという報告を聞いてもヒジリは顔色一つ変えやしねぇ。

 非情の現人神は見覚えのある顔に気づいたようだ。

「やぁ、ビャクヤ君にリンネ君。これはどういう事か説明してくれるかな? それにロロム殿と鉄騎士が連絡もなく来訪している理由も」

 流石は科学者といったところか。状況をしっかりと精査するまで自分の感情や考えを出さない。

 死体がそこかしこにあって、悪魔がいる。

 普通の人間なら間違いなく、俺の仕業だと判断して問答無用で襲いかかってくるだろうよ。

「俺が竜と一緒になってお前の国民を殺した、とは考えねぇのか? 俺は悪魔だぜぇ? キヒヒ」

 悪魔化が進んで妙に歪んだ声になってしまった俺はヒジリを挑発する。

「君が人々を殺した可能性が高いとは言ったが、それは私の憶測に過ぎん。私よりもウメボシの分析のほうが正しいだろう」

 ビャクヤがプルプルと震えている。なんか怒ってるな。どうした?

「貴方という人は・・・。貴方という人はッ! 今頃、のこのこと現れてッ!」

 メイジのくせに格闘家のヒジリに殴りかかった。

 勿論、フォースシールドに跳ね返されて尻もちをつく。それでもビャクヤは語気を荒げた。

「黒竜はッ! 本来ならばッ! 貴方が倒すはずだったのですよッ!」

 その言葉にヒジリは片眉を上げて訝しむ。

「確かに助けに来るのが遅れた事は謝る。しかし、いくら私がこの国の統治者とはいえ、必ずしもヒーローのように現れて助ける保証はない」

「そうじゃないッ! 歴史上では貴方が黒竜を倒しているのですよッ! なのに貴方は現れなかったッ! 神様のくせに!」

「私は神ではない。科学者だ。ビャクヤ君は未来の出来事を知っているような口ぶりだが、どうしてかね?」

「吾輩はッ! 未来から来たからですよッ! 貴方が地球からの転移事故でこの星にやって来たようにッ! 吾輩もッ! 未来からやって来たのですッ!」

 おかしい。前に会った時にビャクヤは未来人だとヒジリに告白したはずだぞ。おそらくだが、こいつは試しているな。本物のビャクヤかどうかを。

 以前聞いた情報と違っていれば何かしらの対応を取るつもりだ。つまりは、まだ疑っているということだ。

「ほう。私はセイバーという未来から来た自由騎士を知っているが、彼はサカモト粒子を上手く使って自由に未来と過去を行き来していたがね。君はできないのか?」

 サカモト粒子? という顔をビャクヤがするので、俺はこっそりと虚無の魔法の事だと教えてやった。

「吾輩はッ! 虚無の魔法を習得していませんからッ!」

「で、君は黒竜を倒すはずだった私が、何もしなかったから怒っていると。いいかね、物事には同じ条件で何度やろうが、違う結果が出てくる場合があることを君は知るべきだ。例えば富くじの当り番号を未来で知り、過去に戻ってその番号のくじを買ったとしよう。そして未来に戻れば億万長者になると思うだろうが、そうはならない。乱数に関わる要素は、毎回その確率で結果が変わってくる。今回の件は君の言う未来と道のりが違ったが、結果は同じだった。つまりどのみち黒竜は討伐される事になっていた。乱数に相当する事案は、私か他の誰かが黒竜を討伐するかという部分。なので私に怒りをぶつけてくるのは、お門違いだといえる」

「でも貴方が戦っていれば、こんなに犠牲者はでていなかったッ! 勿論、全員を生き返らせてくれるのですよね?」

「残念ながら生き返らせる事はできない。生き返らせる為のボランティアポイントが足りていないのと、これまで人を不用意に蘇生し過ぎたせいで、植民星監視委員に睨まれているのでね。それになによりも、自然に反する」

 その言葉を聞いてビャクヤは仮面を掻きむしった。

「馬鹿な! 砦の戦士も死んでいるのですよッ? 彼らは貴方の国民を守ろうとして死んだ! 合理主義者の貴方の言葉を借りるとするならばッ! 砦の戦士たちの死は間違いなくヒジランドにとっても大損失でしょうッ! スカーさんは、砦の戦士の中でもムードメーカーだったと聞いていますッ! 相棒のベンキさんがどれだけ悲しむ事でしょうかッ! 砦の戦士ギルドもまとまりがなくなりますよ、きっと!」

「ダメなものはダメだ」

 申し訳なさそうな顔をするウメボシと対象的に、ヒジリは冷たくそう言い放った。

「キィィィィィ!!」

 ビャクヤが発狂し、闇のオーラを纏い始めた。

 こいつは何をムキになってやがんだ。俺の存在を忘れているのか? まるでヒジリに八つ当たりしている駄々っ子のようにも見える。

「おい、ビャクヤ。誰か忘れてねぇか?」

 ビャクヤの肩に手を置くと、彼から伝わっってくる闇のオーラが心地良い。が、奴はすぐにハッとなってオーラを消し、俺に抱きついてきた。

 可愛い可愛い俺の子孫の瞳には、希望と喜びに満ちていたが、俺はそれも心地が良かった。なぜなら地球では、誰も彼もが俺を拒絶して、作れなかった絆が今、腕の中にあるからだ。

 我が子孫は俺を頼っているのだ! 神であるヒジリよりも悪魔の俺を! クハハハ!

「キリマルッ! キリマル、キリキリマルッ! 」

 そう言ってビャクヤは仮面を俺の胸に擦りつけている。

 ・・・・人をきりきり舞いみたいに言うな。きりきり舞いになってテンパってたのはお前だろ。

 俺はビャクヤの黒髪を撫でてヒジリを見た。

「今一度尋ねるぜぇ? お前はここにある哀れで惨めな国民たちを、生き返らせる気はねぇって事でいいんだな?」

「そうだ。もうこれ以上、議論する気はない」

 俺は思わず爪をジャキンと出して両手を広げて笑ってしまった。ウメボシがビクリとして警戒したが気にせず笑い続ける。

「クハハハハハ! だったら俺は! 今から! お前が嫌がることをする! なにせ俺は悪魔だからなぁ!」

 俺は残像を作って素早く動くと、死体を一体ずつ丁寧に殺意を込めてアマリで突いてまわった。
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