殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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ビャクヤの顔を見たリンネ

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 ポルロンドの空港から飛空艇に乗ってノームの空港まできたビャクヤは、ノームに無理を言って、ニムゲイン王国行きの小型飛空艇を出すように頼んだ後、空港にある本屋で歴史書を買い漁っていた。

 それを見ていたリンネが心配する。本は基本的にどれも高額だからだ。

「いいの? 学園に戻ったらキリマルを召喚する為に、スクロール買わないとダメなんだけど? あれ、結構高いよ? ビャクヤも私も召喚士じゃないから、絶対に必要になると思うのだけど」

「大丈夫ですよッ! リンネも見ていたでしょうッ! キリマルが持っていたあのッ! 光り輝くダイアモンドをッ! ヒジリがコスモチタニウムの塊と呼んでいましたがッ! あれはッ! 間違いなくッ! 魔力の籠もった高価な宝石ッ! 我らよりも魔力の籠もった宝石を、重要視する樹族に売ららばッ! 我らは未来永劫ッ! 大金持ちですよッ!」

「あれはキリマルの物でしょ」

「キリマルのものは吾輩のものッ! 吾輩のものはッ! リンネのものッ!」

「でもきっと再召喚したら・・・」

 リンネが下顎をしゃくれさせて、低い声を出す。

「残念だったな、宝石は地獄に置いてきたぜ、クハハ!」

「キリマルの物真似、下手くそかッ! こうやるのですよッ!」

 ビャクヤは人型だった時のキリマルの顔を仮面に映し声真似をする。

「お前らにくれてやる物なんか、一個もねぇわ、ボケがぁ!」

「あ! ずるーい! 仮面に顔を映すのは物真似じゃないでしょうが! ってか、なんで人型のキリマルもしゃくれ顎してんのよ」

「だって、キリマルって割と下顎出てるじゃないですかッ! 眉なしタレ目で鼻が高くて、ちょっとしゃくれ顎」

「本人がここにいたら、鞘でビンタされてるよ、ビャクヤ・・・。それに宝石の事はあまり当てにしない方が良いと思う。当てにした時に限って、そんな~トホホ! ってオチになるから」

 そんな~と驚いてから、トホホとしょぼくれた顔をするリンネが可愛くて、ビャクヤは思わず抱きつく。

「あぁ、リンネ可愛いす過ぎッ!」

「ちょっと人前だよ!」

 好奇心旺盛なノームたちが二人を取り囲んでキュルキュル騒ぎ出したので、リンネの翻訳のペンダントが作動する。

「なになに? 魔人族とレッサーオーガの交尾が始まりそうだ、だって! 交尾って言い方は失礼でしょうが!」

「キュル!」

「じゃあなんと呼べばいいかって? そ、それは・・・。セ・・・。セックスよ」

 ノームたちはその単語を知らなかったのか、我先にタブレット端末に入力している。

 いや、言葉自体は知っているが、レッサーオーガの発音の仕方を記録しているのだ。多分、言語学者かなにかだろう。

「キュル!」

「するわけないでしょうが!」

 だいたい想像はつくが、ビャクヤはリンネにノームに何を言われたのかを訊いた。

「なんと言われましたかッ?」

「早くセックスしろって・・・」

「いやはやなんともッ! ノームという種族はッ! 何でもかんでも研究対象ッ!」

 そう言ってから、ビャクヤは自分を実験台にするつもりでいた、ヒジリの迫りくる顔を思い出して身震いをした。

「イヤッ! 吾輩の恐怖を打ち消せ!【恐怖】!」

 突然ビャクヤは、周囲に恐怖心を植え付ける幻術魔法を唱えた。

 それは目の前に浮かぶヒジリという幻が生む恐怖に対抗するための【恐怖】。

 が、恐怖を恐怖で打ち消す事はできない。普通はこんな無意味な事はしないが、ビャクヤは余程混乱していたのだろう。

 思わず唱えてしまったので、周りにいたノームたちは、布でできたコーンハットを目の辺りまで下ろして逃げ惑った。各々の心の中にある恐怖の対象に怯えているのだ。あちこちで互いにぶつかる音が聞こえる。

「確か、空港内って魔法無効化空間だよね・・・」

「ええ。吾輩にも何がどうなっているのかッ!」

 その時、ビャクヤの肩をとんとんと叩く誰かがいた。

 ビャクヤが振り向くと、仮面に誰かの指が当たってゴキュ! と変な音がなる。

「いったぁ! 人差し指を突き指したぁ! ビャクヤ殿が仮面被っているのを忘れていたわ。おふぅおふぅ!」

 振り向くと人差し指を擦るマサヨシがいた。

「マサヨシ!」

 如何なる場所にもマナを体臭のごとく発生させる豚人、いや人間族。

「そうでぃす! わたすがマサヨスです」

「もう蘇ったの?」

「最近はこちらの世界での出来事を、自分の世界で思い出せる確率が高くなってきましてな。戻ってきたら、黒竜がキリマルに倒されたと聞いて驚いたお。黒竜って悪魔よりも上位の存在なんだけど・・・。それからヒジリ氏が、君たちにお礼を言っていたんご。国民の命を救ってくれたことと、コスモチタニウムをイグナちゃんに譲ってくれた事を。あと、意固地になってすまないとも言っていたけど、なんの事?」

「ほーら! 言ったでしょ。宝石を当てにしちゃダメだって。キリマルはああ見えて義理堅いんだよ。だから自分に【特殊攻撃防壁】をかけてくれた、あの子に宝石をあげちゃったんだよ」

「いつの間にッ! それにしてもッ! ヒジリはあんな恐ろしい顔で迫ってきておいてッ! すまない程度で済まそうとはッ! アァ! やっぱり嫌いッ!」

「以前は、あんなにゴリラさんの事を崇拝していたのに、凄い変わり様。あ! そ、そうやって私のことも嫌いになるんでしょ・・・」

 リンネが頬を膨らませて拗ねている。

「かのっ! 星のオーガの名はヒジリッ! いい加減、命の恩人の名前くらい覚えましょうかッ! リンネッ! 確かに彼はゴリラのごとくッ! ゴリマッチョですがッ! ・・・それから! 吾輩の愛は本物ですッ !不変の愛ッ! 君がいる限りッ! 吾輩の愛の力と気力が折れる事はないでしょうッ!」

 ビャクヤは仮面を取るとリンネの頬にキスをした。

「前から思ってたんでつけど、ビャクヤってモザイクかかってて素顔が見えないよな。なんで? どんな顔してんの?」

 そう言ってマサヨシはビャクヤの背中から肩に触れる。

 マサヨシの特殊能力、が発動して、ビャクヤの顔のモザイクが取れた。その効果は周囲にも及ぶ。

 途端、恋人の顔を初めて見たリンネがブルブルと震えながらへたり込んだ。

「え! うそ! めっちゃ美形! ヒャッ! アッ! アッ! ダメェ! イ、イクッ! ハァ! お股が切ないよぉ! ビャクヤの子供が欲しい! ビャクヤの・・・ちょうだい! 今すぐぅ!」

 清楚な顔が淫らになり、床に股間を擦り付けるような動作をするリンネを見て、ビャクヤが慌てて仮面を付ける。

「わぁぁぁ! マサヨシの能力恐るべしッ! 仮面の呪いを凌駕するとはッ!」

 マサヨシはビャクヤの顔を見ていないのでなんともない。しかし、リンネの発情する姿を見て逆に恐ろしくなった。

(ど、どんだけ美少年なんでつか・・・。もし拙者が見ていたら、射の精が激しく空に飛び立ち、タマのキンがカラカラになって死んでいたかもしれないんご。いつぞやのブス女が言ってた銀河の美少年タクトでさえ、ビャクヤの足元に及ばないでしょうな。見なくて良かった・・・。ブヒッ!)

 イケメンに対し無条件に憎しみを抱く醜男は、ビャクヤの顔を見ていれば彼の事を嫌いになっていたかもしれない。ヒジリもイケメンだが、どちらかというと男臭く、ハンサムの類で中性的ではない。

 【恐怖】の魔法のお陰で、幸い周りにノームはおらず、無駄にリンネが恥ずかしい思いをする事はなかった。

「せ、拙者これにて、帝国に帰るでござる」

 気まずくなったマサヨシが転移石を掲げようとしたその時、妖艶な色気をまだ収められないリンネが呼び止めた。

「ま、待って、マサヨシ。あの時の・・・。サムシンを裏切って私達に味方してくれたら頬にキスをするって約束・・・守らなきゃ」

 ヨロヨロと立ち上がったその床と股間に、煌めく糸が一筋。

(めっちゃ濡れ濡れやん!)

 下手くそな関西弁でマサヨシはそう内心で呻いてたじろぐ。

 ムワッとしたフェロモンが押し寄せてきて、マサヨシの頬にしっとりとした柔らかい唇が当たった途端、ギンッ! と股間がいきり立った。

 するとマサヨシはビャクヤとリンネに対し怒りが湧く。きっとこの後二人きりになると、滅茶苦茶セックスするはずであると。

「君らはまだまだ若いのに、もう性の悦びを知りやがって! 許さんぞ! ウッ!」

 ドピュッという音と共に、栗の花の匂いを残してマサヨシは転移して消えた。
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