殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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老獪

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「ドレインスラッシュ!」

 中二病暗黒騎士は、対峙する戦士を袈裟斬りにした。

「殺す気満々じゃねぇか・・・」

 よくよく考えりゃ、暗黒剛力団のアタッカーは一撃必殺系ばっかりだ。如何に初撃で敵を殺すか、或いは瀕死にさせるか。

 一番手加減が出来るのは、もしかしたらリンネだけかもしれねぇ。

 しかし、敵も負けてはいない。

 リンネの正面にいた蛮族戦士が大盾を避けて、ダークの大鎌の懐に入り、切れ味の鈍そうな片手斧を暗黒騎士の脇腹に叩き込んだ。

 邪魔が入ったせいでダークの攻撃は、対峙していた戦士の肩を鎌の柄が叩いただけだった。

「無駄に見栄を切ってるからだ」

 肩を柄で叩かれた戦士はそう言って鼻で笑う。そして暗黒騎士のダメージ具合を確認する。全身革鎧は意外と頑丈だった。

「チッ! ダメージが入ってねぇのか! 役に立たねぇな、パルジ!」

 しかしパルジと呼ばれた蛮族戦士は、そんなはずはないという顔で返事している。

「カハッ!」

 血を吐く声からして、ダークは肋をやられたかもしれねぇな。

「あ、焦らせやがって。この暗黒騎士は無駄に強靭だからダメージが入っても、体勢を崩しやしねぇ」

 パルジは反撃を恐れて、後ろに飛び退る。攻撃して優位な立場になっても最悪を想定して用心する。冒険者の鏡だねぇ。

 そして、あちらのパーティの僧侶が回復の祈りで、歯抜けを回復している。

 うちにはヒーラーはいない。メイジにも一応【再生】の魔法はある。しかし、一時凌ぎに過ぎない回復では心許ない。

 もしダークが骨折していた場合、骨折に応じた回復をしないと再生の魔法をかけたところであまり期待はできねぇ。

 それでもリンネがダークに水系魔法の【再生】を唱える。それをまた妨害しようとして戦士たちが動くも、ビャクヤが前に出て、リフレクトマントで二人の戦士の攻撃を跳ね返した。

「チィ! メイジのくせしてどっちも硬ぇじゃねぇか!」

「同じ冒険者としてッ! 吾輩の情報はギルドに知れ渡っていると思っていましたがッ! 情報収集能力がお粗末くんッ!」

 蛮族戦士が唾を地面に吐いて憎らしげにビャクヤを睨む。

「言ってくれるじゃねぇか、ビャクヤ。お前らは数ヶ月もニムゲインにいなかったんだ。お前の自慢のマントだってその間に効力を失ってたかもしれねぇだろ。だから攻撃を仕掛けたのさ。なんだってやってみる。これが冒険者の信条よ」

「先祖代々引き継ぐこのマントの効果はッ! 永久とわに消えることはありませんぬッ!」

 ビャクヤと戦士二人がマントを挟んで睨み合ってる間に、リンネは無能(ダーク)の傷を癒やした。

 頑強さが高いだけあって、骨はやられてなかったようだ。じゃあさっきの「カハッ!」はなんだったんだ?

 そうこうしている間に、アドベンチャーズのメイジまで接近してきたぞ。

(そうか! 貫通効果の高いタッチ系の魔法をビャクヤたちにする気だな?)

「あぁぁぁ! うざい! 蝿みたいに集ってくるんじゃねぇぞ、冒険者ども! 斬・回転!」

 俺は駒のように回転しながら跳躍して、爪から発生した斬撃を周囲に飛ばす。

(死なない程度にダメージを食らってくれ、糞ども)

 が、そう願いを籠めて攻撃している自分が急に滑稽に思えて笑えてくる。

(殺人鬼の俺様が人の死を望まないだと? クハハ! なんだこの状況は!)

 加減して戦う事がこんなに難しいとは思わなかったな。

「アマリで斬ってたら殺してたかもしれねぇな、あぶねぇ」

 呪いの刀は俺の意思に反する事象を一つだけ起こす。死ぬなと願って斬れば当然相手を殺す。そもそも武器の役目とは敵を殺す為にある・・・。これまた一周して滑稽! クハハ!

 俺の攻撃でベテラン戦士以外は地面を舐める羽目となった。なんとか手加減はできたようだ。戦闘不能状態にしてある。

 アキレス腱を切ったり、体の痛点を狙って斬ったりしてな。

「楽しそうだな、キリマル」

 オッサンが離れた場所で、目を細めてフガフガとそう言う。

「ああ、楽しい。戦い(と我が子孫)こそが俺様の全て。無限にボスが湧く部屋に閉じ込められても、喜々として戦っているだろうよ」

「ボス??」

 俺はオッサンのフランベルジュを掴んだ。アマリが「浮気」と呟く。

「返すだけだ」

 それにしても良い剣だ。

 常に切れ味に気を使っているのだろう。刃こぼれが一つもねぇ。まぁ魔剣だから当然か。それを差っ引いても丁寧に研がれている。

 悪魔の目が都合よく光った。

「悪殺しの剣・・・か。敵のアライメントが悪であればあるほど切れ味が増す。カオティック・イーヴォーの俺に狙いを絞ったような剣だな」

「如何にもそうだが? ヒャハハ」

「お前、やっぱりQか?」

 あまりに用意周到。標的を俺だけに絞ったような魔剣のチョイス。

 もう白々しく知らないふりをするのはお互いに無しだ。

 しかし、歯抜け戦士は茶色いふんどしを締め直して、怪訝な目つきで俺を見ている。

「キリマルは時々意味不明な事を言う。悪魔ってのは最初から狂っているのか? それは人間の姿の時からか? フガガ」

 悪魔の目・・・。歯抜け戦士を見た時に発動してほしかったな・・・。

「おかしいな。人間ごときが、俺の攻撃を躱せるはずがねぇんだがよ」

「十数年間、ほぼ毎日。時に一人で迷宮に潜っていた俺を、舐めてもらっちゃあ困りますぜ、キリマルの旦那」

 よく迷宮の魔力に魅了されなかったな・・・。

 いや、もうされているのか? ほぼ毎日迷宮に潜るなんて狂人のやることだ。

 落ち窪んだ眼窩から見える眼光に狂気のそれは・・・。あるな。こいつあぁ、俺と同じく狂人だ。多分自覚はしてねぇだろうがよ。

「迷宮の隅に転がる仲間の死体を脇目に、戦った回数は数え切れねぇほど。こちとら死線をくぐり抜けているんでさぁな」

 それだけ有用な魔法の装備を身に着けているって事か? その割には・・・。革鎧と緩いふんどしが一枚。一応、頭に鉢金を巻いているが。

 歯抜けは腕を伸ばしている。

「剣を、返してくれるんじゃねぇのかい? キリマルの旦那」

 冒険者としては大先輩の歯抜けに、旦那と呼ばれると妙に腹が立つ。

「いや、気が変わった。取りに来い」

「はぁ? まさか! その手には乗りやせんよ、旦那ぁ! 近づいたところをバッサリって算段でしょうが、そんなやり口は何度も見てんでさぁ」

「だったら俺様がこの剣を頂くぞ?」

「3、2、1」

 歯抜け戦士が突然カウントダウンを始めた。そして歯茎の下の無から息を漏らしながら言う。

「せろ(ゼロ)!!」

「危ない! キリマル! 魔剣悪殺しは聖属性! 今すぐに手を離して!」

 アドバイスが遅いぞ、アマリ。クソが、剣を持っていた右腕が熱い・・・。

「ヒャッハッハ!」

 ペったらぺったらと裸足を鳴らして踊るベテラン戦士は陽気に笑っている。

「悪人が、真逆の属性の剣なんて持つもんじゃないですぜ!」

 はぁ? お前のほうが余程悪人だろうが。

 こんなクソ雑魚相手に、俺は右腕を失ってしまった・・・。
 
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