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絶望と勝利
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「ビャクヤ!」
東門を越えた場所、敵のど真ん中で悪魔と対峙したビャクヤを見てリンネは叫んだ。
(すぐにでもビャクヤを助けに行きたい!)
焦るリンネの大盾の隙間から小さなインプが突破する。が、すぐにドリャップの槍の餌食となった。
リンネがこの門前を動けば確実に敵が砦に雪崩込んでくる。そうなれば間違いなく、砦は瓦解するだろう。雑魚とはいえ、まだまだ敵の数は多いのだ。
なのでビャクヤのもとに駆け寄ることはできない。砦には戦士も多いが、防御に特化した職業はリンネだけである。
リンネは不安げに恋人を――――。いや夫と呼んでも良いビャクヤが、なぜ魔刀天邪鬼を握っているのかを疑問に思う。
かの魔刀は、前衛としては不向きなメイジが装備しても、初期の頃のキリマルと同じ威力を発揮しており、近寄る魔物は次々と斬り殺されていった。
しかも、狂気に侵されたビャクヤに殺意などない。なので当然魔物は生き返らない。
「どういうわけで、ああなったかは分からねぇが・・・。ある意味、ありがてぇな」
ドリャップがリンネの後ろから敵を突きながらそう言う。
「なんでビャクヤが・・・」
リンネは一番の災厄であるデーモンロードが、じっとして動かない事に違和感を覚えた。
「あれは・・・!」
デーモンロードの頭上で巨大な光球が輝いている。
「【核爆発】!」
「嘘だろ、嬢ちゃん! そんなもん撃たれたら俺たちは全員即死だ!」
ドリャップは急いで櫓に登って、矢の代わりに槍を番えて弓矢の弦を引き絞り悪魔を狙う。
空気を穿って回転する槍は確かに悪魔に命中したが、【弓矢逸し】の魔法の効果で無効化されてしまった。
「くそめ! これまでにない、最高の一撃だったんだぞ!」
ドリャップは悔しがる間も惜しいのか、再び下に飛び降りると武器立てから槍を取ってリンネの援護に戻る。
「なんかねぇのか、嬢ちゃん。魔法であれを止める手立ては!」
「残念だけど、神様か、アマリちゃんを持ったキリマル以外防ぎきれないわ・・・。高レベルなメイジなら威力を半減できるけど、その後にばら撒かれる強力な毒には対処できない」
垂れてくる黄色い前髪をフッと吹いて、ドリャップは瞳を一回転させた。
「ここまでか。死は誰の上にも平等に訪れるとはいえ、砦の仲間を全員巻き込むなんてぇのは嫌だな。何だかんだで仲間意識が芽生えたからな。そんな皆と一緒に死ねるなんて、ある意味、死神は優しいな。いやデーモンロードが優しいのか? あの女悪魔は全然優しそうには見えねぇがよ。まぁどのみち、戦って死ぬんだ。俺たちゃ、幸せの野行き確定だぜ」
ここにきて弱気になったオーガの泣き言をリンネは無視して、目の前の敵をシールドバッシュする。
「チッ! 死が確定するまで抗うってか。嬢ちゃんは強いな」
「・・・くれるもん」
「なんだ? 嬢ちゃん」
「きっとキリマルが来てくれるもん。ピンチになったらいつも『クハハ!』って笑って現れるんだから! 私はこれまで死ぬ事がそれほど怖くなかった。でも今はお腹にビャクヤの子がいる! だから子供の顔を見るまで死にたくない!」
アーマーメイジの兜の中から、鼻を啜る音と嗚咽が聞こえてくる。
「泣いてるのか・・・。嬢ちゃん」
空には死と毒を撒き散らす魔法が浮き、目の前には大量の魔物が押し寄せている。頼みの綱であった仮面のメイジは呪いの武器を持って狂ってしまった。
この絶望の中で生を望む声に、果たしてあのキリマルが応えてくれるだろうか? とドリャップは疲労が蓄積する重い体を動かし続けて考える。
(どこにそんな可能性があるってんだ? 砦に召喚士はいねぇ。召喚のスクロールも本もない。あるのは魔物の殺意と破滅をもたらす敵の魔法だけ)
狂ったビャクヤがデーモンロードを攻撃してくれればあるいは、と期待したが狂気の魔法使いは他の魔物を追ってどんどんと街道からそれていく。
「これっぽっちの可能性もねぇ! 運命の神ヤンスの名にかけて! 地走り族の尻穴ほうが、よっぽど未来を見通せるぜ!」
これが最後に言う冗句かもしれないとドリャップが笑っていると、前方でズンと地響きが聞こえた。
ついにリンネのスタミナが尽きたのだ。防御姿勢を取りつつも鉄騎士の紛い物のようなメイジは膝を地面に突いている。
「終わった・・・」
ドリャップは涙を一粒零した。オーガは人前で弱みを見せない事を信条としているが、死を前にして、なにもできない無力な自分が情けないのだ。
「クソがァァァ!」
リンネを襲おうとする魔物を乱れ突きで守るが、オーガも体力を使い果たして槍を杖にして項垂れてしまった。
――――抗え。
「なんだ? 頭に声が響くぞ!」
オーガは自分の頭を叩いてから、聞き覚えのある歪んだ声に今一度耳を傾ける。
――――運命と世界に抗え!
「この声は・・・!」
リンネが声の主を探して周囲を見回す。
と、同時に強力な殺意が辺りに広がって魔物の動きを止めた。
「クハハハハハ!!」
ビャクヤがさっきまでいた場所に、魔法陣が発生して光り始めると、人修羅の声が冬の乾いた空気に響き渡る。
「俺様、再誕!」
地面の魔法陣に照らされながら、スーッと悪魔キリマルが浮き上がってきた。
黒く大きな悪魔は、魔獣のような牙が並ぶ口を開けて、体中のクラックを真っ赤に光らせている。
「ひ、人修羅? ん? こ、こいつは! 反逆の悪魔! キリマル!」
自分と同じ上位悪魔にデーモンロードは冷や汗をかく。物質界で人修羅が最終形態まで成長したと魔界でも噂になっているのだ。
そしてキリマルは悪魔なのに魔界出身ではない。
デーモンロードの目で見抜けたキリマルの情報は二つだけ。
「実力値が666だと?! あり得ない! しかも自分より弱い魔人族との契約を受け入れたのか!」
「まぁその辺の事は、お前さんにゃぁ、関係ねぇ話だ。消えろ!」
キリマルがした攻撃はただの斬撃だった。派手な必殺技でもなく、分身との連撃でもなく――――。
下から上へと掻き上げる五本の爪攻撃。
「ヴェッ!」
両手を上げて魔法詠唱していた女悪魔の最期の言葉がそれだった。全身に五本の筋を残して物質界から消え去る。
が、【核爆発】の魔法は残ったままだった。
ゆっくりと降下してくる核エネルギーにキリマルは舌打ちをした。
「チィ! めんどくせぇ最後っ屁残しやがって。俺のもとに来い! アマリ!」
キリマルが喚くと、近くの茂みがカサカサと鳴り、仮面のメイジが顔を出す。
そして柄を握ったままの狂ったビャクヤを引きずるようにして、アマリがキリマルに近づいてきた。
「・・・」
それを見たキリマルはすべてを察し、体中のクラックが青くなった。
「ビャクヤ・・・。まさか、おめぇ・・・。そこまでして・・・」
オォォオオ! と吠えて人修羅はビャクヤの手からアマリを取り戻す。
アマリから開放されたビャクヤは奇妙な笑い声を上げて、街道に落ちている石を積み上げて遊び始めた。
「くふっ! くふっ! 一つ積んではリンネのため~。二つ積んではキリマルのため~。ギヒィィィィイイイ!」
せっかく積み上げた石をなぎ倒す子孫を見て、キリマルはまた吠えた。
「クソがァァァ! これじゃあ! 意味がねぇんだよぉ! クソがァァ!」
キリマルは体を捻ってアマリを構え、核の光球を睨みつけた。
「コズミック・ノートが言っていた残酷な最後とはこの事だったのか? 俺は・・・。俺はビャクヤに殺意なんて持てねぇ! だから殺しても、呪いを除いて生き返らせるなんて事はできねぇんだ! なんでこうなる! この泡の世界は前の世界よりも奇跡が起きにくいってのによぉ! 僧侶がビャクヤを絶対に治せる保証なんてどこにもねぇ。失敗すればそれっきりだ。ビャクヤは一生狂ったままだ!」
涙声でキリマルは核魔法に向かって魔刀の一撃を放つ。
「あの核爆発と放射能汚染で! 皆めちゃくちゃになりゃあいいんだ! 穿孔一突き!」
天を突く光線は【核爆発】を穿って消し去った。
魔刀天邪鬼はその名の通り、キリマルの願いの逆の奇跡を起こす。
「奇跡だ! 魔法陣から現れたキリマルが恐ろしい魔法を消したぞ!」
砦でドリャップが叫んだ。
その声が勝どきをあげるかのように聞こえた魔物たちは、慌てて森に逃げ去っていく。
「何が奇跡だ。クソが。今のはな、サカモト粒子が単純にエネルギーを持ち去っただけだ。何かを発生させたり蘇生させたりするのは、マナ粒子のお陰なんだよ。他にも色々あるが、俺は科学者じゃねぇから、説明はできねぇ。一つ言えるのはこれは奇跡じゃねぇって事だ・・・」
キリマルはビャクヤに近づくと抱きしめて声を上げる。
「アオォォォ! ダークが消えた今、ビャクヤは最後の絆だったんだぞ。俺様の唯一の子孫! 家族なんだ! 寿命の際まで! こいつには! まともでいてほしかったのに! なぜこうなる! 悪魔が家族を持っちゃいけねぇってのかよぉ!」
自分が召喚されなければ、ビャクヤはおろか砦の人間共々皆殺しになっていただろう。しかし、呪いに耐性の無い者がアマリを持って、奇跡を起こせば大きな代償を払う事になる。
神話時代の戦乱の最中、サカモト博士の研究所からアマリを持ち出し(何度か敵の手に渡り奪還を繰り返したが)、ニムゲイン島の美しい森の中で、うっかりと魔刀の柄に触れてしまったノームは、幸せの野に行く事を夢見て狂い死にしてしまった。
その結果が呪いの森の発生。
「私が憎い? キリマル」
「ああ、正直言えば憎い。だが、お前が地球で最善を尽くそうとしてくれていたのは知っていた。悪魔の本能に逆らえず混乱した俺が・・・、金剛切りで自害せずにお前を使っていれば、全ては上手くいき、ビャクヤは狂っていなかったかもしれねぇ。お前は地球では役立たずのようなふりをしていたが、本当はマナの少ない地球で無駄な事をせず、奇跡を起こせるだけのマナ粒子を溜めていたんだろ?」
「うん、自分の行動が何に繋がるかを言いたかった。でも・・・。言えば奇跡は起こらない。だから言えなかった。ごめんなさい・・・。ごめんなさい」
アマリはそれきり鍔をカタカタ鳴らす事もなく、何も言わなくなった。殻に閉じこもってしまったのだ。
「気にするな。それよりもなんか手立てはねぇか・・・」
なにか為になる情報を持っていないかと記憶を探った。
最早、神を越えた存在である自分は、神域の出来事も覚えている。
記憶の太陽に吸い込まれる直前のビャクヤの召喚に、俺は小躍りしながら喜んだもんだ。
しかし、いざ召喚されてみれば愛しい我が子孫は狂気に侵され、いつ世界の脅威になるかわからねぇ存在に成り果てていた。
この魔法の星において、思い込みの強い者や、気の触れたメイジは強い。マサヨシのようにマナを都合よく使えるようになるからだ。
本を読んだ限りだが歴史上、幾度となく現れた狂人はいつも世界に破滅をもたらそうとしていた。
「今のうちにビャクヤを・・・。ビャクヤを殺したほうが良いのか? それとも優秀な僧侶を探すべきか・・・。悪魔に協力する僧侶なんて破戒僧ぐらいしかいねぇ。だが破戒僧の奇跡は大した事ねぇしな」
俺は白む東の空を見てから、嬉しそうに石を積むビャクヤの首を刎ねるかどうか迷った。
東門を越えた場所、敵のど真ん中で悪魔と対峙したビャクヤを見てリンネは叫んだ。
(すぐにでもビャクヤを助けに行きたい!)
焦るリンネの大盾の隙間から小さなインプが突破する。が、すぐにドリャップの槍の餌食となった。
リンネがこの門前を動けば確実に敵が砦に雪崩込んでくる。そうなれば間違いなく、砦は瓦解するだろう。雑魚とはいえ、まだまだ敵の数は多いのだ。
なのでビャクヤのもとに駆け寄ることはできない。砦には戦士も多いが、防御に特化した職業はリンネだけである。
リンネは不安げに恋人を――――。いや夫と呼んでも良いビャクヤが、なぜ魔刀天邪鬼を握っているのかを疑問に思う。
かの魔刀は、前衛としては不向きなメイジが装備しても、初期の頃のキリマルと同じ威力を発揮しており、近寄る魔物は次々と斬り殺されていった。
しかも、狂気に侵されたビャクヤに殺意などない。なので当然魔物は生き返らない。
「どういうわけで、ああなったかは分からねぇが・・・。ある意味、ありがてぇな」
ドリャップがリンネの後ろから敵を突きながらそう言う。
「なんでビャクヤが・・・」
リンネは一番の災厄であるデーモンロードが、じっとして動かない事に違和感を覚えた。
「あれは・・・!」
デーモンロードの頭上で巨大な光球が輝いている。
「【核爆発】!」
「嘘だろ、嬢ちゃん! そんなもん撃たれたら俺たちは全員即死だ!」
ドリャップは急いで櫓に登って、矢の代わりに槍を番えて弓矢の弦を引き絞り悪魔を狙う。
空気を穿って回転する槍は確かに悪魔に命中したが、【弓矢逸し】の魔法の効果で無効化されてしまった。
「くそめ! これまでにない、最高の一撃だったんだぞ!」
ドリャップは悔しがる間も惜しいのか、再び下に飛び降りると武器立てから槍を取ってリンネの援護に戻る。
「なんかねぇのか、嬢ちゃん。魔法であれを止める手立ては!」
「残念だけど、神様か、アマリちゃんを持ったキリマル以外防ぎきれないわ・・・。高レベルなメイジなら威力を半減できるけど、その後にばら撒かれる強力な毒には対処できない」
垂れてくる黄色い前髪をフッと吹いて、ドリャップは瞳を一回転させた。
「ここまでか。死は誰の上にも平等に訪れるとはいえ、砦の仲間を全員巻き込むなんてぇのは嫌だな。何だかんだで仲間意識が芽生えたからな。そんな皆と一緒に死ねるなんて、ある意味、死神は優しいな。いやデーモンロードが優しいのか? あの女悪魔は全然優しそうには見えねぇがよ。まぁどのみち、戦って死ぬんだ。俺たちゃ、幸せの野行き確定だぜ」
ここにきて弱気になったオーガの泣き言をリンネは無視して、目の前の敵をシールドバッシュする。
「チッ! 死が確定するまで抗うってか。嬢ちゃんは強いな」
「・・・くれるもん」
「なんだ? 嬢ちゃん」
「きっとキリマルが来てくれるもん。ピンチになったらいつも『クハハ!』って笑って現れるんだから! 私はこれまで死ぬ事がそれほど怖くなかった。でも今はお腹にビャクヤの子がいる! だから子供の顔を見るまで死にたくない!」
アーマーメイジの兜の中から、鼻を啜る音と嗚咽が聞こえてくる。
「泣いてるのか・・・。嬢ちゃん」
空には死と毒を撒き散らす魔法が浮き、目の前には大量の魔物が押し寄せている。頼みの綱であった仮面のメイジは呪いの武器を持って狂ってしまった。
この絶望の中で生を望む声に、果たしてあのキリマルが応えてくれるだろうか? とドリャップは疲労が蓄積する重い体を動かし続けて考える。
(どこにそんな可能性があるってんだ? 砦に召喚士はいねぇ。召喚のスクロールも本もない。あるのは魔物の殺意と破滅をもたらす敵の魔法だけ)
狂ったビャクヤがデーモンロードを攻撃してくれればあるいは、と期待したが狂気の魔法使いは他の魔物を追ってどんどんと街道からそれていく。
「これっぽっちの可能性もねぇ! 運命の神ヤンスの名にかけて! 地走り族の尻穴ほうが、よっぽど未来を見通せるぜ!」
これが最後に言う冗句かもしれないとドリャップが笑っていると、前方でズンと地響きが聞こえた。
ついにリンネのスタミナが尽きたのだ。防御姿勢を取りつつも鉄騎士の紛い物のようなメイジは膝を地面に突いている。
「終わった・・・」
ドリャップは涙を一粒零した。オーガは人前で弱みを見せない事を信条としているが、死を前にして、なにもできない無力な自分が情けないのだ。
「クソがァァァ!」
リンネを襲おうとする魔物を乱れ突きで守るが、オーガも体力を使い果たして槍を杖にして項垂れてしまった。
――――抗え。
「なんだ? 頭に声が響くぞ!」
オーガは自分の頭を叩いてから、聞き覚えのある歪んだ声に今一度耳を傾ける。
――――運命と世界に抗え!
「この声は・・・!」
リンネが声の主を探して周囲を見回す。
と、同時に強力な殺意が辺りに広がって魔物の動きを止めた。
「クハハハハハ!!」
ビャクヤがさっきまでいた場所に、魔法陣が発生して光り始めると、人修羅の声が冬の乾いた空気に響き渡る。
「俺様、再誕!」
地面の魔法陣に照らされながら、スーッと悪魔キリマルが浮き上がってきた。
黒く大きな悪魔は、魔獣のような牙が並ぶ口を開けて、体中のクラックを真っ赤に光らせている。
「ひ、人修羅? ん? こ、こいつは! 反逆の悪魔! キリマル!」
自分と同じ上位悪魔にデーモンロードは冷や汗をかく。物質界で人修羅が最終形態まで成長したと魔界でも噂になっているのだ。
そしてキリマルは悪魔なのに魔界出身ではない。
デーモンロードの目で見抜けたキリマルの情報は二つだけ。
「実力値が666だと?! あり得ない! しかも自分より弱い魔人族との契約を受け入れたのか!」
「まぁその辺の事は、お前さんにゃぁ、関係ねぇ話だ。消えろ!」
キリマルがした攻撃はただの斬撃だった。派手な必殺技でもなく、分身との連撃でもなく――――。
下から上へと掻き上げる五本の爪攻撃。
「ヴェッ!」
両手を上げて魔法詠唱していた女悪魔の最期の言葉がそれだった。全身に五本の筋を残して物質界から消え去る。
が、【核爆発】の魔法は残ったままだった。
ゆっくりと降下してくる核エネルギーにキリマルは舌打ちをした。
「チィ! めんどくせぇ最後っ屁残しやがって。俺のもとに来い! アマリ!」
キリマルが喚くと、近くの茂みがカサカサと鳴り、仮面のメイジが顔を出す。
そして柄を握ったままの狂ったビャクヤを引きずるようにして、アマリがキリマルに近づいてきた。
「・・・」
それを見たキリマルはすべてを察し、体中のクラックが青くなった。
「ビャクヤ・・・。まさか、おめぇ・・・。そこまでして・・・」
オォォオオ! と吠えて人修羅はビャクヤの手からアマリを取り戻す。
アマリから開放されたビャクヤは奇妙な笑い声を上げて、街道に落ちている石を積み上げて遊び始めた。
「くふっ! くふっ! 一つ積んではリンネのため~。二つ積んではキリマルのため~。ギヒィィィィイイイ!」
せっかく積み上げた石をなぎ倒す子孫を見て、キリマルはまた吠えた。
「クソがァァァ! これじゃあ! 意味がねぇんだよぉ! クソがァァ!」
キリマルは体を捻ってアマリを構え、核の光球を睨みつけた。
「コズミック・ノートが言っていた残酷な最後とはこの事だったのか? 俺は・・・。俺はビャクヤに殺意なんて持てねぇ! だから殺しても、呪いを除いて生き返らせるなんて事はできねぇんだ! なんでこうなる! この泡の世界は前の世界よりも奇跡が起きにくいってのによぉ! 僧侶がビャクヤを絶対に治せる保証なんてどこにもねぇ。失敗すればそれっきりだ。ビャクヤは一生狂ったままだ!」
涙声でキリマルは核魔法に向かって魔刀の一撃を放つ。
「あの核爆発と放射能汚染で! 皆めちゃくちゃになりゃあいいんだ! 穿孔一突き!」
天を突く光線は【核爆発】を穿って消し去った。
魔刀天邪鬼はその名の通り、キリマルの願いの逆の奇跡を起こす。
「奇跡だ! 魔法陣から現れたキリマルが恐ろしい魔法を消したぞ!」
砦でドリャップが叫んだ。
その声が勝どきをあげるかのように聞こえた魔物たちは、慌てて森に逃げ去っていく。
「何が奇跡だ。クソが。今のはな、サカモト粒子が単純にエネルギーを持ち去っただけだ。何かを発生させたり蘇生させたりするのは、マナ粒子のお陰なんだよ。他にも色々あるが、俺は科学者じゃねぇから、説明はできねぇ。一つ言えるのはこれは奇跡じゃねぇって事だ・・・」
キリマルはビャクヤに近づくと抱きしめて声を上げる。
「アオォォォ! ダークが消えた今、ビャクヤは最後の絆だったんだぞ。俺様の唯一の子孫! 家族なんだ! 寿命の際まで! こいつには! まともでいてほしかったのに! なぜこうなる! 悪魔が家族を持っちゃいけねぇってのかよぉ!」
自分が召喚されなければ、ビャクヤはおろか砦の人間共々皆殺しになっていただろう。しかし、呪いに耐性の無い者がアマリを持って、奇跡を起こせば大きな代償を払う事になる。
神話時代の戦乱の最中、サカモト博士の研究所からアマリを持ち出し(何度か敵の手に渡り奪還を繰り返したが)、ニムゲイン島の美しい森の中で、うっかりと魔刀の柄に触れてしまったノームは、幸せの野に行く事を夢見て狂い死にしてしまった。
その結果が呪いの森の発生。
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「うん、自分の行動が何に繋がるかを言いたかった。でも・・・。言えば奇跡は起こらない。だから言えなかった。ごめんなさい・・・。ごめんなさい」
アマリはそれきり鍔をカタカタ鳴らす事もなく、何も言わなくなった。殻に閉じこもってしまったのだ。
「気にするな。それよりもなんか手立てはねぇか・・・」
なにか為になる情報を持っていないかと記憶を探った。
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記憶の太陽に吸い込まれる直前のビャクヤの召喚に、俺は小躍りしながら喜んだもんだ。
しかし、いざ召喚されてみれば愛しい我が子孫は狂気に侵され、いつ世界の脅威になるかわからねぇ存在に成り果てていた。
この魔法の星において、思い込みの強い者や、気の触れたメイジは強い。マサヨシのようにマナを都合よく使えるようになるからだ。
本を読んだ限りだが歴史上、幾度となく現れた狂人はいつも世界に破滅をもたらそうとしていた。
「今のうちにビャクヤを・・・。ビャクヤを殺したほうが良いのか? それとも優秀な僧侶を探すべきか・・・。悪魔に協力する僧侶なんて破戒僧ぐらいしかいねぇ。だが破戒僧の奇跡は大した事ねぇしな」
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