料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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弱き存在

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 転移した先で、真っ先に俺が見た光景を表せる漢字は二文字。驚愕。

 目を見開く俺の瞳に映るのは、二号が空間の裂け目に飲み込まれそうになっている姿だった。

 胸には大矢が突き刺さっているが、心臓を直撃しなかったのか、二号は意識を保ったまま踏ん張っている。

「あれは虚無魔法だ!」

 サーカが指を差した先で、二号は口から血を吐きつつも、腰の縄を切ろうと必死だ。

 縄が二号の影につながっているということは、影の中にピーターがいるのだ。

「ありゃ、助からねぇな」

 一緒に来たキリマルが、心配する様子もなくそう言った。

「無責任に言ってくれるなよ、キリマル! 二号とピーターを何とかして助けないと!」

 俺の怒りを気にせず、キリマルは長い爪で顎を掻きながら、何かを思い出しているようだ。

「そうそう。虚無の裂け目に、魔法形成前の素玉を投げつければ助かるかもしれねぇなぁ。裂け目は一定数の質量を吸い込むと閉じる。だがどういうわけか、なんか物を投げ入れるよりも、マナの方が効果が高いんだわ」

 素玉? ああ、魔法をイメージする時に発生するマナの塊のことか。

「サーカ、ウィング! 頼む!」

 二人はうなずくと、素玉を素早く生成し、二号に向かって投げ始めた。

 素玉は二号を通り越して、虚無の裂け目に吸い込まれていく。

 早く、早く裂け目よ、閉じてくれ!

 俺の願いは虚しく心の中で反響した。ピンチに駆けつけるのが遅すぎたんだ。

「ダメだ! 二号の背中が裂け目に飲み込まれて、分解されてる!」

 二人を助けようと足を一歩前に踏み出したその時、けん制するかのように矢が足元に刺さった。

「ここが敵陣の真っただ中なのを忘れるなよ」

 そう言った炎色の毛をした獅子人の挙動がおかしい。俺と二号を交互に見て困惑している。

「オビオが二人……だと?!」

 確かにそう聞こえた。

 まぁ戸惑うのも無理ないか。二号はタンサル将軍を乗っ取った俺のナノマシンだからな。

 その俺の半身が死にそうになってんだ。今は救出に集中すべし!

 扇形の範囲で物を吸い込む裂け目の安全地帯を目指して俺は走った。

 当然、森から矢が飛んできて、俺の背中に幾本も刺さるが、そんなの気にしてらんねぇ。

「ギャッ!」

 森から複数の声が聞こえてくる。

 その後に、ドサッと人が地面に落ちる音も聞こえた。

 走りながら、ちらりと後ろを見ると、ムクがどや顔で何かを操っていた。

「オビオお兄ちゃん! もう弓矢を気にしなくていいよ! 麻痺毛虫でアーチャーを麻痺させたから!」

 ここ最近、ムクの活躍が凄い。虫から魔物まで操れる彼女の技は便利だ。隠れた狙撃手まで倒してしまうのだからな。

 よし、これで毎回、矢の刺さる痛みにビクビクしなくて済むぞ。

「グググ」

 二号がうめいている声が聞こえた。背中が徐々に消えていくたびに、周辺の土や草を吸収し、肉体に変換して再生している。

 安全地帯である裂け目の横から俺は叫んだ。

「腕を伸ばせ、二号!」

「させるか!」

 獅子人がショートソードで斬りかかってきた。

「避けろ! オビオ!!」

 珍しく焦った声で、キリマルが叫んだ。こういう時の彼の忠告は聞いておくべきだ。

 俺は二号を助けるのを中止して、寸でのところで小剣を避けた。

「そいつぁ、虚無の小剣だ。日に一回虚無の裂け目を発生させる事ができる。だが、力はそれだけじゃねぇ。斬った相手の傷の大きさだけ、虚無を発生させる。大きく斬られるとそれだけ、虚無に吸い込まれやすくなるって寸法だ!」

 えぇぇぇ!! そんなチート武器ありかよ! 致命傷を与えなくても相手を殺せるじゃないか!

「なぁ、あんたトウスさんの奥さんだろ?」

 対峙する獅子人に俺は聞いてみた。

「だったら、なんだと言うのだ」

「もう、こんな事やめてくれよ!」

「は? 今は戦時中だぞ? 何を生ぬるい事を言っているのか!」

 ブンと軽い音をさせて振り下ろされる虚無の小剣を回避し、俺は今一度説得を試みる。

「トウスさんだって、こんな戦い望んじゃいないって。スルターンの片腕になったのも、きっとこの戦争を終わらせる為なんだよ!」

「だったら、今頃、お前らと行動を共にしていたはずだろう。だがそうはなっていない。それに私や義父上はギンガーに生き返らせてもらった恩がある。さらにここで築き上げた仲間との絆もある。そう簡単に寝返るわけにはいかんのだ」

 くそ、義理堅い性格してんなぁ。

「せめて俺の仲間を助けさせてくれ!」

 無茶苦茶な要求をしているのはわかっている。でも、こうしている間にも二号は虚無の向こう側へと消えようとしているのだ。

「お前はタンサル軍を壊滅させた。なのに、こちらがお前を助ける義理などあるはずもなかろう!」

 ―――ブチッ!

 縄の千切れる音がした。

「本体様に栄光あれー!」

「ああ!」

 二号が虚無に吸い込まれてしまった。

 いや、まだだ! まだ腕だけが出ている。

「腕さえあれば、再生できる!」

 自分が吸い込まれるのを覚悟で、俺は二号の腕に手を伸ばそうとしたが、虚無の裂け目はそれすら飲み込み、静かに閉じてしまった。

「―――!! んのヤロウー!!」

 二号を失った俺は、ヤケクソになって獅子人に掴みかかろうとしたが、後ろからピーターの声がした。

「落ち着け、オビオ! サーカが転移魔法を唱えているぞ。早く魔方陣に急げ! フレアの相手はするな!」

 ええい! ここまでか。

 サーカの描く光の魔方陣まで、俺とピーターは走った。

 当然、敵も簡単に逃がしてはくれない。残っているフレア軍の兵士が追い掛かって来る。

「【睡眠】!」

 素玉を投げて、マナを消費したウィングだったが、おそらく最後の一回であろう魔法を使って、獣人兵を幾人か眠らせた。

「お兄ちゃん、早く!」

 ムクの必死な声が聞こえてくる。

「【転移】!」

 転移魔法発動直前に、ギリギリ魔方陣に滑り込んだ俺たちは、歪む視界の向こうからこちらを睨むフレアの顔を見ながら転移した。



 虹色に光る空間で、小さな黒いスライムのような存在は思う。

 食料はないか。

 もう一度、亜空間の向こうへ顔を出せば、食べ物があるかもしれない。

 あれはうまかった。

 もう一度、美味しい食べ物が食べたい。

 だがそれは同じ場所に繋がるならばの話だ。

 とにかく、外を覗いてみよう。

 おや? 何か流れてくる。

 腕だ。

 誰の腕だろうか。

 食料にはならないな。要らない。

 でも待てよ。

 これも肉には違いないじゃないか。

 弱い弱い今の僕は、少しでも力が必要なんだ。

 贅沢を言える身分じゃない。

 あれを食べよう。ぱくり。

 むしゃむしゃ。

 美味しくないな。

 でも栄養になる。

 少しでも強くならなければ。

 強くなって強くなって……、あれ?

 強くなってどうするんだっけ?

 なんだったか。

 そうだ、原初の契約を思い出せ。

 ああ、思い出した。奴らを一掃するんだった。

 もぐもぐ。

 この腕は妙に舌にくる。

 とてもヒリヒリするんだ。

 くちゃくちゃ。

 なんだか体がおかしい。

 体が痛い。

 体は痛いが、すこぶる気分がよくなってきた。

 でも何かが僕の意識を乗っ取ろうとしている。

 同化しようとしているのか?

 だったら負けないぞ。

 融合は僕のほうが得意だ。

 負けるものか。負けるものか。
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