料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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悲しみはさほどでもなく

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 サーカの転移魔法でオライオンに帰ってきてから、俺は仲間の反応が気になってしょうがない。

 二号に思い入れのないキリマルやサーカは特に気にした様子はないが、ウィングは青ざめた顔をしているし、ピーターは珍しく無口だ。そんな二人をパンさんとムクが心配している。

 俺といえば、二号とはそこまで絡みはなかったとはいえ、やはり我が分身。彼の死が悲しくないかと言われれば悲しい。二号にも自我はあったし、何より俺を本体様と呼んで慕ってくれていたのだから。

「所詮はオビオの生んだ分身だろ。クヨクヨすんな、お前ら」

 キリマルは小指の爪で、ハンマーのような頭部の先端にある鼻をほじりながら、軽く言う。

 それに対して誰も返事はしない。正直、この空気にどう対応していいのか分からない、というのが本当のところだろうか?

 何とかして二号を生き返らせる方法はないか?

 ―――そうだ!

「なぁ、キリマル。キリマルは次元や空間を移動できるよな?」

 そこまで言った俺を見て、キリマルは鼻くそを飛ばしてきた。ちなみにキリマルは爆発の能力持ちなので、鼻くそはどこかに接した時点で爆発する。それは簡単に人を殺せるほど危険なので、俺はキリマルの鼻くそ爆弾を手でキャッチして、爆発を抑えた。

「お前の言いてぇ事は分かるが、結論から言うとやるだけ無駄だ。まず虚無の裂け目や渦に飲み込まれた時点で、体が粒子状態にまで分解されるからな。それに肉片が残ったとしても、無数にある亜空間ホールを一個ずつ探す手間を考えろ。いくら時間があっても足りねぇわ」

「腕は形を保ったまま飲み込まれたように見えた。なら少しは希望があると思うんだ。ちょっとは探してくれてもいいじゃないか」

「しぶといお前の分身だからな。暫くはナノマシンが腕の形状を保ってくれていたんだろうよ。だが、飲み込まれてから分解してしまったかもしれねぇ」

「なぁ頼むよ。探してくれよ」

「断る。諦めろ」

 ちぇ。ケチンボの悪魔め。しょっちゅう他人に「抗え」と言っておきながら、肝心な時には「諦めろ」だ。何が反逆と矛盾の悪魔だ。いや、矛盾という二つ名は伊達じゃないか。

「オビオ……」

 女の姿で泣くウィングが、俺の方へと駆けてきて抱き着いた。

「二号が死んじゃったよー」

 やっぱり愛しい二号が亡くなったのはこたえるよな。

「生まれてくる子の父親がいなくなったのは残念に思うよ」

 できれば家族三人で幸せになってほしかった。

「それなんだけど、あんなに沢山愛し合ったのに……。ゴホン。失礼。どうやら僕は妊娠してないようなんだ」

「えっ?! なんでそんな事がわかるの?」

「着床してある程度時間が経つと、お腹の中に魔力のオーラが芽生えるはずなのに、なんの反応も無いからね」

 そうか。樹族は魔力のオーラを見る事ができるんだった。

「忌み子じゃないのか?」

 サーカが冷たい目で言い放った。忌み子とは、魔力が無いまま生まれてきた子供を指す。魔力のない樹族は、基本的に差別対象となるので可哀そうなのだ。

「それはないよ。だって僕の魔力は十五あるし、オビオに至っては十六もある。忌み子が生まれる可能性は低いはずさ」

 確かにウィングの言う通り、魔力ゼロの子供が生まれる可能性は相当低いだろうな。となるとやっぱり妊娠してなかったのか。あんなに嬉しそうにお腹を撫でていたのになぁ。

 突然、キリマルがウィングのローブをたくし上げた。そして三角の布地の上(下腹部)をじっと見て頷いた。

「ん、ウィングは妊娠してねぇな」

 あ、そうだった。キリマルはある程度なんでも見通せるんだった。

「うわぁ~ん。僕の幸せの種は、虚無の向こうへと消えていったよ~!」

 幸せの種って……。その言い方だと二号を種馬としか見てなかったように聞こえるけど? 

「オビオに仕込んでもらえばいいだろ」

 こら、キリマル! 余計な事言うな。

「ダメだ。オビオの種は私の物だと決まっているからな」

 サーカが俺とウィングの間に立って、通せんぼをした。

「オビオ、今晩、僕と一緒に……」

「ダメだ!」

 俺を取り合う二人を見てキリマルが「クハハハ!」と笑う。

 他人事だと思っていい気なもんだ。

「オビオォ!」

 両手を合わせて必死になって懇願してくるウィングに、どう対処すりゃあいいんだ。

 あーもう、面倒な事になってきた。

 てか、二号への悲しみはどこいったんだよ、こいつら。時々思うんだけど、この星の住人って、死が身近過ぎて、人が亡くなってもドライなんだよな。よほど身近な人が亡くならない限り、泣いたりしない。

「敵襲ー!」

 地走り族のスカウトがそう叫びながら、樹族軍の野営地に向かって走っていった。

「来たか」

 ピーターが素早く高台を登り、敵の数を調べている。

「敵の数はざっと見て五千ってとこかな」

 そのピーター目掛けて、矢が飛んできた。当然のようにピーターは矢を避けて、高台から降りてきた。

「おおい! あいつら、前口上なしに攻撃をしかけてきたぞ」

 普通は、戦いの前に大将が名乗ったり、要求を突き付けてきたりするものだが、今回はその気はないようだ。

「つまり、戦う以外の選択肢はないからなって事か。クハハ」

「トウバさん、相当頭にきてんだろうな」

「今回も戦闘に参加しますか?」

 緊張しているのか、パンさんが頭の汗をハンカチで拭いながら聞いてきた。

「いや、参加しない。流石にこれ以上関わると、星の国のお偉いさんに目をつけられそうだからな」

「なんだ、参加しないのか。つまらん」

 あんたは人が殺し合うさまを見て楽しむだけだからいいよなぁ、キリマルさんよぉ。

「では後方で軍師よろしく、指揮でもするのか?」

「俺が?」

 サーカは時々、頓珍漢な事を言う。多分、彼女の冗談か皮肉だろう。

「戦いはワンドリッター軍とムダン軍に任せるさ」

「数ではトウバ軍を圧倒してるしね」

 ウィングの言葉に一同がうなずく。

「それでなんだけど、皆いいかな?」

「なんだ? 改まって」

 そう言ったサーカの近くを、樹族の騎士が忙しそうに門前まで走っていく。

「今回の件、俺やヒジリさんに制約が多すぎて、まともに動けないんだ。だから一縷の望みを懸けて、ラケルさんに会いに行く」

「ラケル? ヒジランドのマナの大穴に住むリザードマンだったか? 彼女になんの用があるんだ?」

「あれ? 言ってなかったっけ? サーカ。ラケルさんはレプタリアンだぞ。つまり星属性のリザードマン」

「ほう……。ふむ。彼女からドラコニアンの情報を得ようというわけか」

「そういう事。彼女の協力があれば、上手くいくんじゃないかって俺の勘が囁いてる」

「そう上手くいくかねぇ?」

 ピーターが片眉を上げ、口を尖らせて横やりを入れてくる。

「ピーターの言う通りだぜ」

 なんだよ、キリマルまで。

「ラケルは退役軍人だろ。もうドラコニアンと繋がりがないぞ。情報を引き出しても、それはババァのふんどしレベルで古いはずだ」

 ババァのふんどしって……。ってか、キリマルは人の頭の中を読んだな? 俺が懸念している事をズバリ言い当ててきた。

「だから一縷の望みなんだよ。それが夜空の頼りない星光のようなものでも、やらないよかいいだろ?」

「まぁな。しかし、未来の地球も案外融通が利かねぇもんだねぇ。今回の件、変な制約が無ければ、ヒジリやオビオが無双して終わる話なのによ」

 無双できたのかなぁ? ドラコニアンは分子分解銃くらいなら持ってそうだけど。

「とりあえず、ステコさんやムダンさんに一言挨拶してから、サーカの転移魔法で飛ぶか」

「うむ。ところで騎士達に何の食事を出したんだ?」

「ビームダガーを回避できるように、動体視力を高める百目の目玉スープを出した」

「うえぇ。百目って肉人みたいなでっぷりとした体に、目玉が沢山付いてるやつだろ?」

「うん。百目の目玉はゼリー状だからスッと飲めるはずさ」

 サーカが嫌そうな顔をして、首をすくめた。
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