料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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さよならリュウグ

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「へ、へぇ~。これが飛空艇を操る舵なんだ? おいら、見るのは初めてだよ!」

 さして興味のない舵を見て、ピーターはノームの操縦士に驚いたふりをする。

「キュルッ!」

「なんだって?」

 早口のノームの言葉を聞き取れるのは、同じノームと、翻訳の魔法を身につけている者くらいだ。

「そろそろ離陸の時間だから、飛空艇から下りてほしいんやて」

 明らかに元気がなく、萎れた野草のような顔をするリュウグは、それでもピーターのために通訳をした。

「でも、オビオが来てないじゃん。いいのか? リュウグ」

「オビオの事や。またトラブルに頭を突っ込んどるんやないかな」

 リュウグは舷から、空港とは名ばかりの平原と駅を眺めてため息を付いた。最後の別れになるかもしれないのに、愛しい人は来ない。こんな悲しいことがあるだろうか、と心の中で嘆き悲しんだ。

「まだ諦めたら駄目だよぉ~、リュウグちゃん」

 メリィがリュウグの小さな肩を撫でて励ます。

「でも、オビオは、お人好しやから・・・」

 小さなリュウグがメリィに抱きつくと、大きな胸に顔が埋もれた。

「キュル!」

 明らかに険しい顔をしたノームの船員が近づいてくる。下船しろと言っているのは、雰囲気で誰にでもわかる。

「キュルリ!」

 リュウグがもう少し待ってくれと懇願したが、ノームは髭を引っ張りながら怒り、それを却下した。

「なんて言って怒ってるの?」

 ピーターは、リュウグに訊く。

「時間を一秒たりとも無駄にはできない、って怒ってるんや。ノームは時間に厳しいからな」

「ケチンボだなぁ。あと五分くらいは待ってくれてもいいだろうに。・・・そうだ!」

 地走り族の盗賊は、何かを思いついたと同時に、邪悪な顔を船員に向けた。

「キュル!」

 しかし、船員は怖気づかない。

「おっかしいな~。最近は、この顔にビビる奴が増えてきたと思ったのに」

「そりゃあ、無理やわ。ノームは、恐れ知らずの好奇心っていう種族特性があるからな。あんたら地走り族にもあるやろ?」

「ノームほどは無いよ」

 と会話しつつ、ピーターは邪悪の顔のまま、Aのポーズを取る。両手を頭の上で合わせて、脚を大きく開くポーズだ。

「キュルッ?」

 この地走り族は何をするつもりだ、とノームの好奇心がくすぐられた。

「ハァ~! ドスコイ! ドスコイ!」

 ピーターは、掛け声に合わせて、脚を開いたり閉じたりする。

「キュルル!?」

 ピーターの不思議な踊りの効果を確かめるべく、船員は額のゴーグルを目に装着して、周囲のあらゆる異常を調べ始めた。

「なんやそれ、ピーター・・・」

「今考えた、不思議な踊りだよ。ハァ~、ドスコイ! ドスコイ!」

 もう一度踊ると、ピーターの周囲で空間が歪む。

「キュル!」

 ノームはゴーグルに映る異常な数値に驚いて、マストに設置されている緊急警報装置のスイッチを押した。

 ――――ジリリリリ!!

 船の上でやかましく鳴る警報に合わせ、乗船券を持っていない者を排除する魔法傀儡が現れた。

 それらの傀儡は、ピーターとメリィを駅のホームまで押し出す。

「アホッ! その踊り、逆効果やないか!」

 リュウグは、そこそこ長い笹で、ホームの縁ギリギリにいるピーターの頭を叩いたその時――――。

 ――――ドカン!

 重い物を転移すると、時々空気が弾けて暴風が発生する事があるが、今まさにその状態だった。ピーターやメリィ、ホームにいた他の仲間も風で吹き飛ぶ。

「だ、誰や! 常識知らずな転移をする、阿呆は!」

 ノームの船員が警戒していたのは、この現象だったのだ。幸い飛空艇にはかすり傷一つついてはいなかった。

「リュウグ!」

 砂煙の中から現れたのは、小さなノームが恋する、大きなオーガだった。




「お兄ちゃん、遅い!」

 真っ先に怒ったのは、リュウグではなくムクだった。目が見えない代わりに、他の感覚が鋭いので、俺の気配をすぐに察したんだ。

「わりぃ! でもギリギリ間に合って良かった!」

 飛空艇は、地面から一メートルほど上に滞空している。やべぇぞ。電車で言えば、プラットフォームから発車し始めている状態だ。

「オビオ、来てくれたんや!」

 リュウグは両手で口を覆って、涙を流している。ごめんな、待たせちゃって。

「絶対に行くって言ったろ? ほら! これを手に入れた!」

 上部プロペラから吹き下ろす風に揺れるペンダントを、何とかリュウグに渡そうとするが、俺はその手を引っ込めた。

「やべ! 髪の毛を入れてなかった!」

 そう、このペンダントは手に入れただけでは効果が発揮しない。思い出したい人の毛が入ってないと駄目なんだ。

 俺は必死になって自分のくせ毛を引っ張るが、こういう時に限って抜けねぇ。なに抵抗してんだよ、頭の毛!

「オビオ、早くしろ!」

 トウスさんに急かされるも、頭が混乱して、余計に慌てふためいてしまう。

「毛根がめちゃくちゃ抵抗してる! くそ! 引っ張っても引っ張っても、一本たりとも抜けねぇ!」

「切ってやるから、頭から手をどけろ!」

 トウスさんが、剣の柄に手を置いたが、もう間に合わねぇ。飛空艇はさっきの倍は浮いている。

「オビオ! 危ないから、もうええで!」

 リュウグは真剣に俺を心配してくれているが、このペンダントを渡さないと・・・。

 これは大切な思い出の品になるペンダントなんだ!

「いやだ、諦めたくねぇ!」

 俺が冷静になろうと努めていると、不意に誰かがズボンの中に手を突っ込んできた。

 サーカだ!

「?? な、なんだ? こんな時に何をしているんだ?」

 サーカは一度、俺の竿を直に握ってからから、小さな声で「うわぁ、でかい」と呻いて離し、一気に陰毛を引き抜いた。

「いでぇぇぇ!!」

 サーカの手いっぱいに、陰毛が引き抜かれている。

「まさか、サーカ!」

 サーカは俺の手から強引にペンダントを奪うと、チャームに大量の陰毛を挟んで、リュウグに投げた。

「ハッ! お前のようなノームには、オビオの陰毛で十分だ! 受け取れ、リュウグ!」

 なんつー嫌な奴だ。別れ際の感動的なシーンで、陰毛を渡すなんて!

「あ、やっぱり届かないぞ! ペンダントが落ちる!」

 ピーターが叫んだその時、地面から竜巻が生えた。

 落下するペンダントを、竜巻の風が押し上げたのだ。ペンダントは無事リュウグの手元に届く。

 と同時に、ノームの飛空艇は急加速して、空へと一気に飛び上がった。

「やった! でも陰毛入りペンダントなんて・・・。リュウグは怒ってないかな?」

 俺は飛空艇を見上げた。リュウグは既に遥か上空にいて、今は小さな船底しか見えない。

「形はどうであれ、思い出は思い出さ」

 ウィングが、フッと笑って、服で爪を磨いていた。格好つけやがって。

「あ、ありがとうな。ウィング」

「いいさ」

「なんとも格好のつかない別れだったな」

 ニヤニヤとするサーカは、俺の服で手を拭く。ばっちいもん触ったみたいな反応はやめろ!

「お前のせいだろ、サーカ!」

「は? 寧ろ私が機転を利かした事を称賛してほしいものだな。大蛇のオビオ」

 くそ、さり気なく人のイチモツを触りやがって。

「お兄ちゃん、淋しいの?」

 他人の感情に敏感なムクが、俺のズボンの端を引っ張って、顔を見上げてきた。そんな彼女を抱っこして答える。

「ああ、勿論淋しいさ。でも出会いがあれば、別れもあるもんな。そういうもんなんだよ」

 出会った当初は俺の命を狙っていたけど、仲間になってからは、いつも俺に肯定的で、パーティのムードメーカーだったリュウグ。

「お前ならさ・・・」

 ちょっと感傷的になる俺に、ピーターが鼻の下を擦りながら話しかけてきた。

「もう料理人としても冒険者としても、十分に名前が通っているんだからさ。ノーム国の入国許可証も、簡単に貰えると思うぜ? だから、リュウグに会いたくなったら、いつでも会いに行けるさ」

 お・・・。邪悪なるピーターに励まされるとは思わなかった。

「そうだな。ありがとうな、ピーター」
 
 飛空艇の見えなくなった空を見て、俺はピーターの頭をわしわしと撫でた。
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