料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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竜騎士の夫婦

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 ベッドの上で半身を起こすホクベルの妻ハナは、義弟ナンベルの子ルビが、自分のお腹を擦る姿を愛おしそうに見つめていた。

「これ、何が入っているの?」

 あどけない質問に、ハナは笑う。

「赤ちゃんが入っているの。オウベルはもうすぐ、お兄ちゃんになるのよ」

 魔人族でありながら、傭兵をしていたハナは、無骨な手でハナの頭を撫でる。

「赤ちゃん、もうすぐ生まれる?」

「まだ先かな? オーガと違ってね、魔人族は赤ちゃんがお腹の中にいる時間が長いの」

「ふーん」

「そういえば、最近顔を見ないけど、お母さんはどうしているの?」

 義妹ルブ、つまりルビの母親が近頃、顔を見せに来ない。彼女の住まいである孤児院からこの家までは、そこまで離れていないので、いつも話し相手になってくれていたのだが、最近はそれがピタリとなくなった。

「お母さんは、ヒジリ様の所で働いているよ。今日も午後から、ヒジリ様とウメボシ様とステインフォージのおじいちゃんと鉱山を見に行くんだって」

「えっ! そうなんだ? そんな話、全然してくれなかったから、気が付かなかったわ」

「ハナ叔母さんには、秘密だって言ってた」

 それを聞いて、ハナは口を押さえて笑う。

「言っちゃったら、秘密じゃなくなるじゃないの」

「あー! そうだった! お母さんには言わないでね!」

「赤ちゃんが生まれた時の、お祝いの為に働いているのかしら? そんなのいいのに・・・」

 そう呟いていると、部屋のドアがノックされた。

「我らニムゲイン王国竜騎士団一番隊隊長ライト・マターと!」

「副隊長ホーリー・マターが押し通る!」

 毎回部屋に入る度に仰々しく名乗られるので、ハナは少し辟易していた。

「普通に入って頂戴。押し通られては困るわ」

「御意」

「御意」

 竜を模した防具を着るニムゲイン王国の竜騎士二人が、言われた通りドアを開けて入ってくる。

 昨夜、急に現れた二人に一晩泊めて欲しいと頼まれて、今に至るのである。

「わぁ! ありがとう! ホーリーさん!」

 ライトの妻であるホーリーが、朝ごはんをプレートに乗せて持ってきてくれたのだ。

「貴殿の口に合うかどうか。拙者、料理は不得手ゆえ」

 傭兵として世界中を転戦していたハナは、ニムゲイン王国の事を知っていた。最後に傭兵として戦った暗黒大陸の北側にある未知の島国。

 彼の国は周辺の海は渦が巻いており近づけず、空からも乱気流で侵入不可。時々、ノームの飛空船が乱気流を突破して、王国に立ち寄るくらいだ。

「あら、美味しい!」

 ただの野菜スープなのに、濃厚な味がする。ハナは不思議でならなかった。

「本当!」

 ルビはスープを気に入り、木の椀を抱え込むようにして食べている。

「クックック」

 ライトの竜のフルヘルムから不穏な笑い声が漏れてきて、ハナは訝しむ。

「なに? その笑い方! まさかスープに毒でも?」

「否! 我らは異世界人の末裔であり、国としての歴史も古い。故に料理のというものを熟知しているのであーる」

 だったら変な笑い方をしないでよ、とハナは思う。

「この粉を一振りすれば、なんでも美味しくなるのである!」

 分厚く、高級そうな瓶の中に塩のような粉が入っている。それを見せつけてライトはまた「クックック」と笑った。

「その辺の草でも、かしら?」

「うむ」

「うんこでも? ウフフフ!」

 ルビは幼児が言いそうな下品な事を言って笑っている。

「それは試したことはないが、一考の価値有り」

「ありません」

 即座に否定して、ハナはサンドイッチに齧りついた。ふわふわの白パンに、まろやかなコクと酸味のソース、ジューシーなベーコンとシャキシャキのレタスが、口の中を幸せにする。

「これも美味しい! もしかしたら、今ヒジランドに来ている、バトルコック団のオビオといい勝負するんじゃないかしら? 貴方達!」

 ハナもルビも貪るように食べている様を見て、ライトもホーリーもフルヘルムを震わせて笑って喜んでいる。

「一泊の恩は返せただろうか?」

 ホーリーの言葉に、ハナは大笑いした。

「アハハ! 返し過ぎよ! こんなに美味しい料理は初めてだもの! 正直、昨晩訪ねてきた貴方達を見た時は、変な人が来たと思ったけど、今は泊めて良かったと思っているわ。そうだ! 貴方達、どうせ宿屋に泊まるお金も無いのでしょう? だったら、暫くここに住みなさいよ! 部屋は余っているし」

 そう言われた二人は顔を見合わせて、頷いた。そしてライトが口を開く。

「有難き言葉。その言葉に甘えさせてもらおう。ハナ殿の言う通り、なにぶん先立つものが無いゆえ。これも我らが始祖の王のお導き。感謝せねば」

「じゃあ、私達はこれからは同居人ね。いい加減、ヘルムを取って顔を見せてくれる?」

「御意」

「御意」

 二人が竜を模したヘルムを取って脇に抱えた。

「あら、オーガなのね。いえ、確か貴方達って確か・・・。人間族って言うのよね? 暗黒大陸で聞いたことがあるわ。ライトさんは私達と同じで綺麗な黒髪、ホーリーさんは眩しい金色の髪。素敵ね」

「左様。我らは人間族。西の大陸では、レッサーオーガと呼ばれて、良い気はしなかったが」

「でもどうして、ゴデの街まで流れ着いたの?」

「我らは、国の周辺を飛竜に乗って警らをしていたのだが、迂闊にも乱気流に巻き込まれてしまってな。天高く巻き上げられて、なんとか着地したのが、この地だったというわけである」

「飛竜はどうなったの?」

 ハナの質問に、二人は俯いてしまった。

「限界まで飛んだせいで、力尽きてしまった。墓を作ってやりたかったが、あっという間にスライムに溶かされてしまってな」

「そう。残念ね。でも飛竜なら時々、霊山オゴソの上を飛んでいるわよ。それを飼いならしてみてはどうかしら?」

「ふむ。時間はかかるが、それが一番であるな。それまでよろしくお願いしまする、ハナ殿」

「よろしくね!」

 竜騎士二人が深々とお辞儀をすると、胸元から何かが床に落ちて、カッカッカと音を立てる。

「おっと、飴が落ちてしまったようだ。警ら中に、口寂しくなったら舐めていたものだが・・・」

 落ちた飴は見つからない。

「おじちゃん、私が飴を見つけたら貰っていい?」

「まぁ、ルビったら・・・」

 ハナがルビの厚かましさに困っていると、ホーリーが「クックック」と笑った。夫婦して同じ笑い方である。

「良かろう。包み紙に包まれているゆえ、床に落ちても十分に食べられる。ニムゲイン王国の飴は凄く美味しいぞ。堪能するが良い」

 ホーリーにそう言われて、ルビは暫く床を見回した後、ベッドの下を除いた。すると白い包み紙が見える。

「見つけた!」

 と同時に、幽霊のような不気味な女の声が、ベッドの下から聞こえてきた。

「み~つけたっ!」

 ベッドの下の暗がりには、白い幾何学模様を光らせる青い顔が、目玉をギョロリとさせてルビを見つめている。

「うわぁぁん! ベッドの下に、お化けがいるよ!」

 ズリッズリッと這い出てきた女は、「キャハハ!」と笑って立ち上がると、丸坊主の頭をひと撫でした。

「こんな所にいたなんてねぇ。その目玉、よく覚えているよ。私のコレクションだったからねぇ! マギン・コレクションは何一つ欠けちゃいけないんだ」

「セイッ!」

 咄嗟に、ライトが女の頭を掴んで、窓から投げ捨てる。

 ガラスで血まみれになったマギンは、庭に体を打ちつけてバウンドしながら塀にぶつかって止まった。

「くそ・・・。なんて怪力だい・・・」

 マギンが痛みで動けない間、家の玄関からライト・マターが出てきて名乗る。

「我はニムゲイン王国竜騎士団一番隊隊長、ライト・マターであーる! 貴様からは邪悪な気配しか感じぬ。今ここに! 始祖の王ビャクヤ・ウィンに誓って! ハナ殿とルビを守ろう! ホーリーには二人の守護を命ずる」

「御意!」

 ホーリーは窓際でドラゴンランスを縦に構えて、仁王立ちして答えた。

「ふん、竜騎士かい。珍しいジョブだねぇ。でも、聞いたことがあるよ。あんたらは竜がいなければ、並みの戦士程度でしかないってね。さてさて、私に勝てるのかなぁ~?」

 基本的に騎竜戦用の長く丈夫な槍の柄を短めに持ったライトは、左右に振り回して、切っ先をマギンに向けた。

「ならば試してみるがよい」

 マギンは片頬を上げて笑う。

「ふん、私にトラウマを植え付けてきたシルビィやその隊員でなければ、なんだっていいさ。お前らをさっさと殺して、ルビの目玉を抉ったら、次はその母親の骨を頂くよ。あ、ついでにハナの腹もかっさばいて、お腹の子を孤児院の門飾りにしてやろうかねぇ」

「下劣なり。貴様の存在は、我が認めぬ、死ぬがよい」

 ライトの太ももがメキメキと音を立てて膨張し始めた。

「何をするつもりかは知らないけど、その間に私は精霊を召喚させてもらうよ!」
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