料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

文字の大きさ
204 / 336

台車

しおりを挟む
 足の踏ん張り具合から、マギンは竜騎士が跳躍して襲いかかってくると予想する。

「想定内の攻撃なら問題ないよ。所詮、この世は魔法か物理攻撃かのどちらか」

 魔人族特有の青色の顔を歪ませて、暗殺者兼精霊使いのマギンは氷のゴーレムを召喚した。

「準備は出来たか?」

 竜騎士の呼びかけに一瞬躊躇った後、暗殺者は自分の影に潜った。

「お前の相手は、アイス・ゴーレムだよ。私は目的が第一でね。コレクションを取り戻すのを最優先するのさ」

「あすこには、ホーリーがいる。何をしようが貴様に勝ち目はない。では参る!」

 ドラゴンの硬い鱗を貫く魔法の槍――――ドラゴンランスの切っ先を、ゴーレムに向けたまま、凄まじいまでの脚力で距離を詰め、突進してくるライトの速さに、氷の精霊は反応しきれなかった。

「竜牙!」

 腕を振り上げたまでは良かったが、がら空きの胴体に、捻りを加えたドラゴンランスが突き刺さり、ゴーレムはそのまま砕け散った。この間、たったコンマ数秒。

 悠々と陰を伝って目標に向かおうとしていたマギンは、驚いて動きを止める。

「チッ! 誰だい? 竜のいない竜騎士は、ただの戦士と同じだと言ったのは。あの竜牙とかいう技、穿孔一突きよりも威力が上だね・・・」

 陰から現れたマギンは、バックスタブを狙い、音もなく竜騎士に襲いかかる。

 気配を察したのか、竜鎧の姿が瞬時に消える。

「魔法を使ったか?」

 その考えは、自分の真上から聞こえてくる風切り音によってかき消された。

「上か!」

 咄嗟にバックステップで、上からの突き刺し攻撃を避けたが、マギンの足先がブーツごと無くなる。

「ぎゃぁぁぁ!」

 血が吹き出す足を抱えて、マギンはのた打ち回った。追撃を恐れて、そのまま転がり離れ、回復のポーションを飲むと、欠損部分の傷が塞がっていくのを確認して、ヨロヨロと立ち上がった。

「お陰で踏ん張りがきかない足になっちまったねぇ。許さないよ」

「なにゆえ、あの幼子の目を狙う? 余程、特別な目なのか」

「私にとっちゃね! 殺した奴の体の一部は、大事なコレクションなのさ」

「気狂いめ。貴様のような邪悪は、ゲヘナの底で朽ち果てろ!」

 右手で騎竜用の長槍を逆手に持って、左手を真っ直ぐに突き出して、ライトは切っ先をマギンに向けた。その右手は筋肉で盛り上がっている。

「いいのかい? 得物を投げたりなんかして?」

 マギンは躱す気満々でそう答え、片頬を上げる。

「必中ゆえ、構わぬ」

「自惚れんじゃないよ!」



 桃色城の一室で、座禅をして何かの気配を探していたキリマルは、目を見開いて冷や汗を垂らしていた。

「あの糞ども。子孫同士で戦ってどうする! 俺様が、お前らを守ってきた意味がねぇだろうが!」

 デビルズアイでも見通せないほど、子孫の存在はランダム要素が強い。ダークという存在を発生させるには、それだけ難しいという事だ。失敗すれば、また過去に戻ってやり直し。

「これまで何度失敗してきたと思ってんだ、先祖の苦労も知らないでよぉ。どこだ。くそ! 取り敢えず、ビャクヤに報告だ」

 キリマルは二階の窓を開けると、飛び出し、屋根を伝ってナンベル孤児院に向かった。



「ナンベルさん、元気だしなよ」

 俺はそう励まして、ビャクヤに土下座をして丸まる道化師の背中を撫でた。撫でる度に芋虫のように体をくねらせるので、ふざけているように見えるが、多分こそばゆいのだと思う。

「お祖父様・・・。いえ、ナンベル殿、そこまで畏まらないでくださいッ!」

 自分の祖父が土下座をしているのが見るに耐えられないのか、ビャクヤは顔を背けてそう言うが、ナンベルさんは、一向に頭を上げようとはしない。

「殺人狂のマギン・シンベルシンに首を掻き斬られた小生は、ウィン家の恥! しかも貴方を殺そうとした小生をマントで庇いつつ、魔法の効かない、あの丸ハゲ女と善戦したビャクヤ殿に見せる顔がない!」

 やっぱりナンベルさんは、ビャクヤの事を殺そうとしてたんだ・・・。ビャクヤはナンベルさんの孫だけど、今は過去の世界に住んでいて、子孫を沢山残しているから、ウィン家の始祖でもあるんだぞ。あぁ、ややこしいタイムパラドックス。

「いいから、顔を上げてくださいッ! そのままではお話できませんからッ!」

 奇妙なポーズをシュバシュバととるビャクヤは、やはり顔をナンベルさんに向けない。

 しかし、あまりにしつこく頭を下げ続けるのも失礼だと思ったのか、ナンベルさんは返事をした。

「はい! では! お言葉に甘えさせて頂きまス!」

 ナンベルさんは、ゆっくりと道化師の化粧をした顔を上げた。だが、上げた顔にあるその目は・・・。

「し、白目!」

 ふざけてんのか、このオッサン! 

 関西人である俺は、ツッコミ役としての使命を果たそうとし、ナンベルさんの頭を叩きかけた。しかし、その手をビャクヤが掴んで止める。

「これは、ふざけているのではありませんッ! オビオ君ッ! 土下座からの白目はッ! ウィン家にとってッ! 最大限の謝罪と敬意を込めた顔なのですッ!」

「知らねーよっ!!」

 代わりにビャクヤに肩パンしといた。

 まぁ、俺のパンチはビャクヤの肩から垂れ下がったマントで、簡単に弾かれるのだけども。

 背後でスタっと軽い着地音が聞こえたと同時に、例のしわがれた声が聞こえてくる。反逆と矛盾の悪魔だ。

「おい! ビャクヤ! やべぇ事になった!」

「なんですッ? キリマルッ!」

 キリマルがこんなに焦ってる姿を、今まで見たことがないな。どうしたんだろう?

「マター家の者がニムゲイン王国から、西の大陸にやって来た!」

「なんですとッ! フラグが立ちましたかッ! ようやっと!」

「ああ! だが・・・」

「だがッ?」

「マギンと戦ってやがる!」

 マギンって確か有名な殺人鬼だろ。ヒジリの邪魔をしようとして尽く失敗し、結局シルビィさんに捕まったはず。

「なんて事ッ! 急がねばッ!」

「そうしたいのは山々なんだがよ、俺には奴らの気配しかわからん。居場所までは・・・」

 なんでだ? キリマルならデビルズアイで居場所をつかめそうだけど?

「そういやさっきから、元貴族街の方から激しい動きが感じられるぜ?」

 感性特化型の俺の耳には、丘の西側で誰かの跳躍する音や、風切り音、金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。

「本当か? オビオ! でかした! これに乗れ! 案内しろ!」

 キリマルはどこで見つけたのか、手押し台車を用意していた。

「なんで? なんで台車?」

「ご都合主義な展開になるその時、そこには不思議と台車があるもんだろ」

「彼岸島かっ!」

 二十一世紀のネタを知ってないと、意味不明だな。見ろ、サーカとかナンベルさんがキョトンとしてる。

「取り敢えず、走るからさ、ついてこいよ!」

 俺はサーカを抱くと、飛ぶように走って元貴族街に向かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊
ファンタジー
東京の夜を走り続けるタクシードライバー、清水翔。 ハンドル捌きと道の知識には自信があり、理不尽な客にも笑顔で対応できる――不器用ながらも芯の強い男だ。 そんな翔が、偶然立ち寄った銀座の宝くじ売り場で一人の女性・松田忍と出会う。 彼女との再会をきっかけに、人生は思いもよらぬ方向へ動き出した。 宝くじの大当たり、そして「夢を追う旅」という衝動。 二人は豪華にバスコンをカスタムしたキャンピングカー「ブレイザー」を相棒に、日本一周を計画する。 ――だが、最初のキャンプの日。 雷の直撃が二人を異世界へと連れ去った。 二つの月が照らす森で、翔は持ち前の度胸と行動力を武器に、忍を守りながら立ち向かう。 魔力で進化したブレイザー、忍の「鑑定スキル」、そして翔の判断力と腕力。 全てを駆使して、この未知の世界を切り開いていく。 焚き火の炎の向こうに広がるのは、戦いと冒険、そして新しい絆。 タクシードライバーから異世界の冒険者へ――翔と忍のキャンピングカー旅が、今始まる。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...