未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(24)

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 この星にも桜があり、春になれば短い間だけ華やかに咲いて散っていく。しかし、日本人ほど桜に関心を持つものはおらず、入学式を終えた生徒たちは桜などは見ずにクラス分けの掲示板を食い入るように見ていた。

 顔を赤くして落ち着かず、横目でちらちらと自分を見てくる男子達に囲まれて、フランも同じく掲示板を見ていた。

 そこへ一人の女子が只ならぬ雰囲気で話しかけてくる。

「ちょっと顔貸しな!」

 何もかもを斜め上に釣り上げたような鋭い顔のスケバンのリーダー・プイタナは、入学式で学校中の男子をざわつかせた目の前の新入生の事が気に入らないのだ。

 樹族でもない地走り族がここまで美しくて妖艶であって良いわけがない。

 プイタナ以外にも嫉妬を顔に滲ませた女子生徒は、この豊満な胸と大きな腰を持つ地走り族を囲んでいる。背の低い地走り族の中でもこの美少女は例外で樹族と目線が変わらない。

「なんですかぁ?先輩方~?」

 万人が通う一般的な中等魔法学校は下は農民の子から上は子爵の子までいる。故に品行が良くない者も多数いる。

「いいから校舎裏まで来な!」

 改めて目の前の新入生の甘い顔や豊満な胸を細い目の隙間から見て、プイタナは自分に無い物ばかりだと心の中で腹を立てた。

 丁度その時、若い男性教師が近くを通りかかった。此方には気がついていない。

「先生~!先輩方が凄んできて、私怖いんですけどぉ~!」

 樹族の教師が声のする方を向くと肩に付くか付かないのふんわりとしたショートボブを弾ませ、嗅いだことも無い良い匂いをさせながら女生徒は自分の腕にしがみついて見上げて来た。大きな胸が腕に当たる。自分の顔がニヤけていくのが自身でも解った。彼女の潤んだ瞳から何とか視線を逸らして、群れる不良どもを睨む。

「またお前らか!あまり問題起こしてると中学生でも退学だぞ!人生の落伍者になりたくなかったら大人しくしてろ!」

 プイタナ達は舌打ちしてその場を去っていった。

「先生、助けてくれてありがとうございますぅ」

「はは!何の何の。ボキはねぇ教師として当たり前の事をしただけですヨ!」

 グイグイ胸を押し付けてくる女生徒を抱きしめたくなる衝動を抑え、歯を食いしばって何とか引き離して彼女の名を聞く。

「入学おめでとう、ようこそクロス中等魔法学校へ!君、名前は?」

「フラン・サヴェリフェです。宜しくお願いします、先生」

「あ、君が英雄子爵の妹の・・・。入学式早々厄介な奴らに絡まれたが、君なら問題ないか・・・。その名を聞けば彼女達も黙ると思うし。教室は解るね?」

「はい。」

 それじゃあ、と言って男性教師は内股の前かがみで立ち去って行った。

 フランは図太い性格のせいか、もう先程の出来事は忘れて教室へ歩き出した。

 教室は緊張した生徒が静かに座っており、フランは静かに教室の後ろ側から入ると適当な席に着席した。

 暫くして担任が自己紹介を終え、生徒たちの自己紹介の時間が始まった。

 自己紹介をすると貴族かそうでないかは直ぐに解る。貴族には苗字があるからだ。フランの自己紹介の時は当然どよめきが起きた。

 姉は英雄子爵と呼ばれ、現人神のオーガを従え、妹のイグナはその現人神を亡き者にしようと謀った魔法院の最強メイジであるチャビン老師を倒している。吟遊詩人の歌で何度も聞いた伝説とも言える話だ。

「姉や妹は有名だけど私は普通なのでぇ、気軽に声をかけてね?」

 自分の事を普通だと言ったのは、魅力以外の能力の事である。

 特に誘惑をしていないのに男子生徒の鼻息を荒くさせているフランはやはり普通ではない。

 多感な時期の男子生徒にとってフランの豊満な胸と劣情を誘う腰、甘い顔は目の毒であった。

 女生徒は興奮を隠しきれていない男子を見て馬鹿ねぇと軽蔑している。

 入学初日は生徒の今後の方向性を教師が【知識の欲】で探る。フランはなんと、聖騎士、ドルイド、吟遊詩人が適正職業であった。

 教師は魔法が失敗したのかと首を捻った。聖騎士の適性は教師の魔法程度で知ることができないからだ。しかし、もう一度【知識の欲】で調べてみたがフランには確かに聖騎士の適性があった。

 教師は驚いた顔をするのは威厳が無いと思ったのか、静かに彼女の三つの適性を教える。

 誰かを守るような性格ではないが、フランは聖騎士が良いと考えた。聖騎士は宗教的権限を持つ騎士で宗教に関する事には口出しができる。誰にも仕える事は無く、我が身一つで世界を渡り歩いて善行を為し、神の啓示を求めながら一生を修行に費やすのだ。

 聖騎士の特徴は鉄壁の防御と、光魔法と祈りの奇跡。

 如何にも神のしもべのような能力を持つが故に人々から好意的に扱われ色々と支援も受ける事が多い。

 それに神なら既に現人神のヒジリがいる。ヒジリに啓示を求めれば良いのだ。ヒジリから適当な言葉を聞いて、適当に庭で戦闘訓練をしていても毎月法王庁からお金が貰える。

 動機は不純ではあるが、フランは聖騎士を目指すと教師に伝えた。教師はメモを取り、次の生徒に【知識の欲】を唱えている。

「サヴェリフェさん、聖騎士目指すなんて素敵~!」

 直ぐに貴族の女生徒たちが集まってくる。集まってきた三人は、タスネの部下の子供であった。タスネ同様、名ばかり貴族の役人の子供達だ。

「うん、まぁね~。最近はヒジリ・・・聖下と行動を共にしないことが多くて姉妹の中で前衛に立つのがお姉ちゃんの使役するモンスターしかいないのよねぇ。私も前衛に立てば妹の詠唱時間を稼げるしバランスが良いかなって思ったの。それに聖下の騎士になるなんて光栄な事じゃない?」

 不順な動機を勿論言うわけがない。それらしいことを言ってお茶を濁す。実際は誰にも縛られず聖騎士と言うだけでチヤホヤされたいが為に選んだのである。

「素敵~!私なんて地図書きよ!地図書き!酷いでしょ?」

 一人の女生徒は自分のマイナー過ぎる職業適性に嘆いた。

「あら、まだ未踏の地が多いから大丈夫よ。私なんてメイジ系最弱の召喚士よ」

 もう一人が慰めてから、自分の方が酷いと言い張った。

「あら、そのうち強い幻獣やら悪魔を呼べるから良いじゃない。私になんて錬金術士よ。掃いて捨てるほどいるのに・・・」

 皆自分の目指す未来に胸を弾ませワイワイと喋っている内に休み時間が来た。

「見つけたぞ!ビッチ!」

 廊下から荒々しい声がする。今朝のキツネ目女が怖い顔をして立っていた。更にその場で大声を上げてフランを威嚇しだした。

「てめぇ!今朝はよくも先公にチクってくれたな!ボッコボコにしてやんよ!」

 仲間を引き連れてドカドカとプイタナが教室内に入ってくる。

「待ちなよ、先輩」

 学年章を見てキツネ目女が先輩だと知り、クラスメートのブルドックに良く似た犬人のジャイが立ちはだかった。

「後輩虐めたぁ、関心しねぇなぁ。それにあんた、平民だろ?平民が貴族に手を出したらどうなるか解ってやってんのか?彼女は英雄子爵様の妹だぞ?」

 不良グループに衝撃が走る。英雄子爵の妹がまさかこんな普通の学校に来ているとは夢にも思わなかったからだ。プイタナの取り巻きはお互い不安げに顔を見合わせている。

「プイタナ、やめとこうよ。貴族相手は分が悪いよ。それにただの貴族じゃないよ。妹は魔法院の老師を倒した闇魔女、聖下はツィガル帝国の皇帝でもあるし。子爵様は力のある貴族とも繋がりが深いって聞くし。相手にするには分が悪過ぎるってもんじゃないよ!」

「チッ!」

 普通の貴族の子であれば、チクチクと執拗に脅し金を巻き上げる事が出来るが、この美少女地走り族の貴族の家は異常だと思えるほど権力が集中している。もし本気を出せば自分達を闇に葬るのは造作も無い事だろう。

 冷や汗が脇の下を湿らせ、若干震える脚を悟られないようにプイタナは踵を返し教室から出て行った。

「ありがとうぉ~!ジャイ君~!今朝あの人達にいきなり絡まれて困っていたのよ。助かったわぁ~!」

 フランは犬人の薄いビロードのような茶色い毛皮の腕に飛びつき、顎や頬を撫でている。

 ジャイは犬のようにハッハと息をして喜んでいる。

(あの糞犬野郎~!ポイント稼ぎやがって~!)

(俺も何かやってフランちゃんに良いとこ見せたい!)

 教室にいた犬人、猫人、地走り族、樹族の男子が得意げな顔のジャイを睨む。

 誰もがフランの特別な騎士ナイトになりたがっているのだ。それはフランが魅力的なのもあるが、他にも理由があった。

 貴族の娘に気に入られた下男が騎士になるサクセス・ストーリーを吟遊詩人がよく歌っているからだ。男子はそういう話に憧れて、騎士気取りで棒きれを密かに振り回しているものである。

 そんな男子を見て三毛の猫人、ミューは茶々を入れる。

「おやおや?君たち英雄子爵の妹君のナイトになりたがっているのかメオゥ?だったら止めといたほうが良いメォウよ。よしんばナイトになれたとして、彼女の近くには絶対無敵のヒジリ聖下と最強の闇魔女がいるんだニョ?そんな中で力不足の君たちがナイトを気取るのは恥ずかしい限りだメォウ。ニャフフフ!」

 歯に衣を着せぬその言動に男子たちは一斉にショックを受ける。確かにそうだった。この貧弱な腕、中途半端な魔力、足らない知性でどうやってサヴェリフェ家の輝いていられるのか。

 教室の男子がどんよりする中、女生徒たちはどこか胸がスッとしてその様子を内心ほくそ笑みながら見ている。高望みせず諦めて私達を見るべきね、と。

 お昼休みになるとフランは鞄をゴソゴソと探って顔が青くなった。お弁当を忘れたのだ。

「やだぁ・・・。どうしよう・・・。お弁当、家に置いてきちゃった・・・」

「えっ!大変!私の分、分けてあげようか?」

「でも悪いわぁ・・・」

 フランを囲んでいた貴族の女生徒達は自分の弁当を見せる。その時であった。誰かが校庭を指差して声を上げる。

「オーガだ!オーガがいきなり校庭に現れたぞ!」

 生徒たちは一斉に窓際に寄って、何事かと校庭を見る。

 校舎から腕まくりをして出てきた教師たちがオーガを警戒してワンドを構えて走っていったが、何かに気づき、全員が一斉にジャンピング土下座をして祈りだしたのだ。

「あれ、聖下じゃね?」

 生徒達はフランを見る。

 フランはとことこと歩いて、人垣の間から校庭を見て驚く。

 ヒジリが教師たちに祈られて困った表情でそこに立っていたのだ。

「こっちよ~!ヒジリ~!・・・じゃなくて聖下」

「マスター、二階の右から三番目の窓にフランがおります」

「よし」

 ヒジリはヘルメスブーツで浮くとお弁当を見せながら、爽やかな笑顔でフランの前までやってきた。

 フランは嫌な予感がする。言わないでよ?絶対言わないでよ?と心に祈りながらヒジリを見る。

「忘れ物だ、フラン。ほら、君の大好きなオティムポ弁当だ」

(言ったーーー!!それを言ってほしくなかったのにぃ!!)

 教室がシーンとする。

 オチン○・・・だと?!どういうことだ?何かの特別な料理なのか?聖下がそんな卑猥な物をフランに持ってきたのか?有り得ない、何かの聞き間違いだろう。

 変な妄想と現実が交錯する男子生徒たち。顔を真っ赤にする女生徒たち。

「あのね、オティムポってね・・・・」

 分厚くてセクシーな唇からオティムポという言葉が発せられ男子生徒は前かがみになる。

「もう!そうじゃなくてぇ!」

 ウメボシはこの色に目覚めて間もない馬鹿な男子生徒達を冷ややかに見下して説明をする。

「オティムポとは主に絶望平野などの、人が入ってこない地域に生息する偶蹄目牛科の巨大な一角の哺乳類の事です。肉は癖がなくジューシーで柔らかいのが特徴で、光側では滅多に手に入らない貴重なお肉と言っていいでしょう」

 しかしウメボシの説明が終わる頃には、女生徒たちが窓から身を乗り出してヒジリに祝福をくれと手を出して騒ぎだした。

 そして押されたミューが身を乗り出し過ぎて窓から落下した。

 猫人なのである程度の高さなら普通に着地して怪我をしない。が、直ぐにヒジリがミューの手を掴みお姫様抱っこで抱きかかえる。

「大丈夫かね?」

「ふぁぁい!」

 ミューのハート目はハンサムの顔を捕らえて離さない。

 猫好きのヒジリは三毛のミューの頬やおデコに頬ずりをする。ミューは目を細めてそれを受け入れた。

 他の女生徒たちが羨ましそうにその様子を指を咥えて見ている。

「可愛いな、猫人というものは」

「マスターは地球で猫画像ばかり集めてましたものね」

「ではフラン、弁当を確かに渡したぞ」

 ミューを抱きながらお弁当箱を渡す。

「お弁当持ってきてくれて嬉しいけどぉ、何でヒジリ・・・聖下が来るのよぉ。パニックになってるじゃない、学校が」

 ヒジリが困惑するフランの視線を追いかけると、校舎のあちこちの窓から身を乗り出した生徒達や、職員室から出てきて校庭から現人神に祈りだす教師達が見える。

 ヒジリはしまったと感じ慌てて教室の窓辺に中々離れようとしないミューを置いて去ろうとしたその時!

―――ドーーン!―――

 体育館裏から音と共に広範囲に粉塵が舞う。

 そこからプイタナが血塗れになって走ってきた。必死の形相で何者から逃げている。

 体育館の一部が壊れ、もくもくと舞い上がる粉塵の中から現れたのは身長三メートルはありそうなグレーターデーモンであった。
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