未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(25)

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 校庭にいた教師たちもプイタナ共々逃げ出す。教師は誰も生徒を守ろうともしない。当然である。グレーターデーモンは魔法学校の教師程度に勝てる相手ではないのだ。

「たずけて!誰か!お願い!わだじ死にたくない!」

 プイタナは割れた額から流れる血が口の中に入り、ゴボゴボと声を濁らせながら助けを求めて逃げている。

 グレーターデーモンはプイタナに追いついては指先で背中を押して転ばせて笑っている。そして時々、教師を見て【氷の槍】を放つ。しかしこれもわざと当てず、教師たちが恐怖で慄く姿を見て楽しんでいた。

「ヒジリ!皆を助けてあげてぇ!」

「いいですとも」

 どこかのゴルベーザのような返事をして、ヒジリはグレーターデーモンの頭まで飛んで行き、言う必要もない必殺技名を叫んだ。

「次元断かかと落とし!」

 全く次元を切り裂かない普通のかかと落としを繰り出すと悪魔はお辞儀するようにして地面に頭をめり込ませた。

 その隙にプイタナはヒイィと逃げ出し近くの茂みに隠れる。

 悪魔は直ぐに地面から頭を抜くと骨の有りそうなオーガを見て笑った。

 土下座するような姿勢のまま羽を動かして低く飛んで、角をヒジリに向けて突進する。

 ヒジリはオティムポと対峙した時に見せたポーズを取って突進を待ち構えた。

「真空竜巻落とし!」

 手から竜巻が発生してグレーターデーモンを包み込む。

 竜巻のエフェクトも悪魔を回転させているのもウメボシなのだが、さも自分が繰り出した技かのようにヒジリは見せている。

 ウメボシの技は強烈なGをかけ、グレーターデーモンを地面に叩きつけた。

「グモォォ!」

 人型種が単体で対峙するには強力過ぎる悪魔が、現人神の前ではインプのようにか弱く見える。

 校舎から歓声が上がり、恐怖していた生徒たちの目は興奮して輝き、現人神と悪魔の戦いに見入っている。

 グレーターデーモンは怒りに吠えて拳を地面に叩きつけて起き上がると、空中に【氷の槍】を無数に浮かせて一斉にヒジリに向けて放った。

 かつてイグナが吸魔鬼戦で使った連続魔法よりも強力なその技は生徒たちに悲鳴を上げさせる。

 が、氷の槍はヒジリの手前でかき消えて悲鳴は直ぐに歓声に変わった。

「忙しい生徒たちだな。悲鳴を上げたり喜んだりと」

「恐らくこの生き物の強力な魔法を見て悲観し、その魔法をかき消したマスターに喜んだのでしょう」

「そろそろ帰らないとヴャーンズが心配するのでさっさと終わらすか。実はウメボシがいない時に彼とした話なのだが、帝国の元貴族たちが利権を奪われてクーデターを起こしそうなのだ。どうもヴャーンズの能力に抗う術を見つけたらしい」

「楽しい休暇も今日までとは何とも寂しいものです」

「カプリコン、聞こえるか」

 ヒジリは悪魔の爪をひょいひょいと躱しながらカプリコンと通信をする。別にフォースシールドがあるので避ける必要はないのだが、そうすることで生徒がハラハラする様を見て楽しんでいる。

「目の前の攻撃してくる悪魔が見えるか?カプリコン」

「悪魔ですって?ハハハ!馬鹿な事を・・・。おっと、確かによくわからない生命体がそこに・・・」

 渋い紳士の声はドラゴンゾンビの時同様、疑いから驚きに変わった。基本的に彼はヒジリの研究対象であるこの星を探ることは出来ない。送られてくるデータも勝手に見ることは出来ないのだ。

 ヒジリから要請があれば地上を調べたりはするが、そのデータは直ぐに自分のメモリから消す約束となっているので以前の出来事を覚えてはいない。

「私が”究極の聖なる光!“と叫んでポーズを取ったらこの悪魔を消滅させてくれ。エフェクトはウメボシがやる」

「わ・・・解りました・・・」

 この人、恥ずかしくないのかな?等と密かにカプリコンは思いつつも彼に従う。

「おい!聖下が何かするぞ!」

 生徒たちは悪魔から距離をとって天に向いて、両手を腰のあたりで広げるヒジリを見て騒ぐ。

「究極の聖なる光り!究極聖光・アルティメット・ホーリーライト!」

 全部同じ意味である。同じ意味の言葉を並べただけの技名を恥ずかしげもなくヒジリは叫ぶと、天から一筋の光りが悪魔を包み込み体を徐々に光の粒子に変えていく。

 悪魔はギャアアア!と断末魔を上げるが、最後の魔力を振り絞って茂みに隠れるプイタナの命を道連れにしようと【氷の槍】を放った。

「しまった!」

 ヒジリが叫ぶも氷の槍はもうプイタナの近くまで飛んでいた。

 魔法はフォースシールドを通り抜けるのでプイタナに張っても意味は無い。消えゆく悪魔はニヤリと笑うと苦悶の表情を浮かべ、アルティメット・ホーリーライトで分解されてしまった。

 プイタナは飛んでくる魔法に恐怖して、顔を手で覆ってきゃああと叫ぶ。

 しかし、目の前が暗くなり、柔らかい感触が顔を包んだ。

「フラン!」

 ヒジリは驚いてフランを見る。校庭まで来ていたフランがプイタナを庇っていたのだ。

 槍はフランの背中を少し削った程度で直撃はせず、軌道が逸れて校舎の壁に突き刺さっていた。

「ウメボシ、直ぐに彼女達の怪我の治療を!」

「了解しました。」

 フランは背中の痛みに耐えつつ、自分に対して意地悪だったプイタナの心配をする。

「大丈夫?先輩」

「こわがった!わだし死ぬがと思ったぁ!わぁぁぁ!」

「じっとしていてください。フラン」

 ウメボシの目から出る光が二人を包むと怪我と血塗れの服は元通りになっていた。




 校長室で校長は長い髪を前に垂れさせるがまま、畏まりってヒジリに謝罪をする。胸元から下着が見えてヒジリは目を逸らす。

「すみません、聖下。聖下自らが体を張って守った生徒がこんなつまらない事で悪魔を呼び出していたなんて・・・」

 少女は泣きながらごめんなさいとひたすら謝っている。ヒジリは聖人モードで話しかけた。

「皆さんが無事で何よりです。それからどうか彼女を退学にしないでやってください。彼女は悪魔に操られていたのですから。悪魔は人の心の淀みを敏感に感じ取り、偶然を装って我々を堕落させようと虎視眈々と狙っています。彼女はその餌食なったのです」

 彼女の話によれば、悪魔の巻物はエルダーリッチの巻物同様、プイタナの前に急に現れた。この巻物さえ有れば、フランより優位に立てるかもしれない。元貴族の平民樹族であるプイタナはそう思ったのだ。

 しかし現実はそんなに甘くはなく、召喚士の素養もない彼女が巻物を使ってもグレーターデーモンを呼び出せはすれど制御は出来ない。

「聖下がそう言うのであれば我々はその意向に従います。ほらプイタナも聖下にお礼を言いなさい。」

 プイタナは細い目をグジグジと擦って涙を止め、頭を下げて礼を言う。

「ありがとうございます!聖下!」

「いいのですよ、ハッハ・・・究極の聖なる光り!究極聖光・アルティメット・ホーリーライト!」

 いきなりヒジリは険しい顔で目の前の少女に向かって分子分解の合図をカプリコンに出した。

「聖下?!」

 校長が目を見開いて、ヒジリを見つめ狂気の匂いを探るもそんな様子はない。

「騙されると思ったか!悪魔め!本物はどこだ?」

「ギャァァァ!グゲゲゲ!よく我々が一対の悪魔だと解ったな。片割れは俺だけが生き残るのが癪で魔法を撃ってきたが、ボインのお姉ちゃんが助けてくれてラッキーだったぜ。今はアンラッキーだがな!くそ!召喚した女?それなら直ぐに食ってやったわ!土の中に埋まってるぞ食いカスがな!ギャハハハ・・・うぎゃあああぁぁ!!」

 フランが身を挺して庇った相手は悪魔だったのだ。

 逃げまわったりしたのも余興の一環だったのだろう。魔法による変身ではなく体を食った相手に自分を似させる能力だったので、ウメボシがスキャンをしてプイタナの中に樹族ならざる遺伝子に気がついた。

 ウメボシはどういった経緯でこうなったのかを知りたいとヒジリに頼み、校長室まで二人共悪魔に気がついていないふりをしていたのだった。

「そんな・・・。プイタナが悪魔に・・・。なんてこと・・・」

 聖なる光りで消えゆく悪魔を見て女校長はヘナヘナと座り込む。

「校長、プイタナを復活させます。立ち会って下さい」

「え?聖下自ら?ああ・・・神の奇跡をこの目で見られるのですね!解りました」

 ヒジリが校長と部屋を出るとドアの近くでフランは立って待っていた。ヒジリを見上げると自分も一緒に行くと言った。

「死体は土の中に埋まっているそうですから、地面の上に転送しながら再構成します。グロテスクな状況を見ることはないのでフランが来ても問題は無いでしょう」

「ありがとう、ウメボシ」

 フランがウメボシの気遣いにお礼を言う。それから皆で体育館裏に向かった。スキャンをして土の中を探ると内臓以外は興味なかったのか、そこにはプイタナの綺麗な死体が埋まっていた。

「では開始します」

 暫くして光の粒子がプイタナを形作っていき、地面にスレンダーな裸が横たわっていた。

 体の一部だけからの復活や、場所を移動させながらの復活は基本的に裸での復活になる。服などの余計なデータも一緒に再構成させると蘇生失敗確率を僅かに上げるからだ。

 ヒジリが気を利かせてポケットからハンカチを出すと、裸の彼女の股間をそっと隠した。

「それは返って卑猥に感じますマスター。服は用意してありますので大丈夫です」

「そ、そうかね・・・」

 気遣いが空回りしてヒジリは恥ずかしそうにしている。

 気を失っているプイタナにウメボシが用意した白いローブを着させると、彼女は意識を取り戻す。

 校長室に連れて行き事情を聞くと、話す内容は悪魔が言ったものと同じで彼女は悪魔に心を読まれ、操られていたのだと解った。

「プイタナ!」

 校長が使い魔を使って呼んだプイタナの両親が現れた。

 泣きながら娘を抱く両親にヒジリは地球の両親を思い出した。反抗期の頃から両親を邪険に扱うようになり、誰かの研究のサポートばかりをして暮らす日々に嫌気が差して、その不満をいつも両親にぶつけていたのだ。それでもやはり親は恋しいのか、抱き合う目の前の親子を見ていると少し胸が切なくなる。

 プイタナの両親はヒジリに向いて深々と土下座した。

「校長から話は聞いております、聖下。この度はサヴェリフェ家の方にご迷惑をかけたにも関わらず、【蘇り】の魔法まで使って頂き、私は恥ずかしいやら情けないやらで聖下に顔をお向けできません。【蘇り】の魔法は非常に高価な触媒を使うと聞いております。家中のお金をかき集めて持ってきました。足りない分は一生働いて返します。どうか収め下さい」

「申し訳ない。私もタダにしたいのは山々なのですが、せめて今回は金貨三十枚は用意して頂かないと・・・。貴方の子供の命はたった金貨三枚分だったのですか?」

 意地悪な言い方をするヒジリをフランは驚いて見る。

 ヒジリやウメボシが使う魔法は触媒を必要としないと本人から聞いたことがある。そもそもマナすら使っていない。にも関わらずヒジリは触媒代を請求している。

 プイタナの両親は黙って俯き、どうしたものかと悩んでいる。

 突然、プイタナは両親の前に出ると金貨三枚を掴み、跪いてお金を差し出した。

「私が、学校辞めて働きます!だから今はこれで勘弁して下さい。お願いします聖下」

「今学校を辞めれば、待っているの生きるのがやっとの生活ですよ?どうやってお金を稼げるというのです?」

 フランには痛いほど解る。学校を中退した姉が苦労して働いてもその日の姉妹の食事代にすらならないこともあり、姉は食べないで過ごしていた時もあった。

「身を売ります!」

 とんでもない事を現人神の前で口走るプイタナに校長は額に手をやって失神しそうになっている。

「馬鹿な事言うなプイタナ!折角聖下が蘇らせてくれたその体を売るなんて神を冒涜する事になるんだぞ!すみません!聖下。私が貴族の名を取り上げられて平民になった頃から娘はひねくれてしまい世間に迷惑をかけるようになってしまって・・・」

「プイタナのお父上は何故、貴族の名を取り上げられたのですか?」

 ヒジリは興味深そうに聞く。

 プイタナの父は言うか言うまいかを戸惑っていたが、悔しそうに口を開いた。

「はい・・・。実は同僚の横領や賄賂の罪を被せられまして・・・。その同僚は今もどこかで素知らぬ顔で役人をやっていると聞きましたがそれ以上は・・・」

「どこにでもそういう悪い人がいるものですね。そういえばサヴェリフェ子爵の部下にモノ・コモノルという名の役人がいて贈収賄容疑で自宅待機させられていましたよね?フラン」

 相変わらず聖人モードで喋るヒジリはどこか滑稽で今にも吹き出しそうになるのをフランは堪えて答えた。

「ええ、冒険者ギルド長のカンデから賄賂を受け取ったとかで・・・」

 プイタナの父はその名を聞いて驚愕し、ワナワナと震えている。

「その男です・・・聖下!私に一切の罪を着せて・・・仲間たちと口裏を合わせて証拠も偽装して、私を陥れたのはその男です!」

「偶然が過ぎて恐ろしいですね。これも運命の神の引き合わせなのかもしれません。では直ぐにでもエポ村に行ってイグナに読心でコモノルを調べさせましょう。プイタナのお父上、名を聴いてよろしいですか?」

「お力添え、感謝します!私の名はマケンです。貴族名はマケン・ジキドーです」

「後日、連絡をします。恐らくジキドー家は貴族として名誉を取り戻す事でしょう」

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 樹族の家族は抱き合って大泣きしていた。

 ヒジリは三人を見て余程悔しい思いをして生きてきたのだろうなと心中を察した。




 ヒジリとフランは校長室を後にして外に出るともう下校時間が近づいていた。

 入学早々とんでもない事件が起きた学校の校庭は、親に付き添われて下校していく生徒達でいっぱいだった。

 二人は親や生徒の注目を浴びつつも門前に待機する馬車まで歩いた。フランはサヴェリフェ家専用の小さな馬車に乗ると窓を開けてヒジリに質問する。

「ヒジリィ、何でプイタナの両親にお金なんて要求したの?ヒジリ達の魔法って触媒代なんてかからないし、皇帝だからお金も持ってるでしょう?」

「もし、我々が誰でも容易に生き返らせる事が出来ると世間に広まればどうなると思う?」

 フランは想像した。自分の屋敷の前にヒジリが来るのを待ってずらっと並ぶ人々を。そして好き放題やって死んでもまた生き返る事が出来るとほくそ笑む人達の顔を。

「大変な事になるのは解ったようだな。だから私はなるべく信頼のできる知り合いしか生き返らせない」

 実際ウメボシに蘇生してもらった人達は誰一人蘇生のことを周りに喋ろうとはしない。それでもヒジリ達の行う蘇生をどこかで見ていた者のせいで噂は広まっているが。

「さぁ、屋敷に戻ろう。あまり時間がない」

 馬車に並んでヒジリはホバリングしながら走ると十分ほどでサヴェリフェ家の屋敷は見えてくる。

 目敏いコロネがすぐにヒジリを見つけた。次にイグナが出てくる。

 ヒジリはカクカクシカジカとプイタナを陥れた貴族の話をするとイグナは頷いて協力することを約束してくれた。

 コロネもフランも懐かしいエポ村に行きたいと言い出したので、丁度今、エポ村にいるタスネ以外の姉妹全員で行くことになり、両腕にフランとイグナ、コロネは肩車で移動を開始した。

 移動中、コロネはヒジリの髪を器用にツインテールにしてバイクのハンドルのように持っている。

 春の日差しが眩しいのかサングラスを一丁前に付たコロネがウメボシには堪らなく可笑しかった。

 いつかの魔法遊園地を思い出してテンションの上がった姉妹を、街道見回りの冒険者達は何事かと思って怪訝そうに見る。しかしあの頃と違ってヒジリの姿を見ると皆、跪いて祈っている。
 
 その後モノ・コモノルはタスネ立ち会いの元、イグナとヒジリに問い詰められ簡単にマケン・ジキドーを貶めた事を自白した。魔法【読心】の使えるイグナに心を読まれては嘘のつきようがないのだ。

 貴族の名誉を取り戻したジキドー家はそのままコモノルの後任として、エポ村担当の役人を務める事となり、収入も安定する事となった。毎月請求される蘇生の触媒代の支払いは大きいがそれでも平民の身分で稼ぐよりはマシである。

 入学してから初めて書くフランの日記には今日の出来事が書いてあり、グレーターデーモンを難なく倒したヒジリが相変わらずとんでもなく強い事や、プイタナは今後、良き友人になるだろうと書いてあった。
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