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禁断の箱庭と融合する前の世界(45)
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ヒジリがミト湖に着いた頃、風は強くなり雨が降り出していた。
雨風に叩きつけられながら穴の空いた地面を暫く見つめている。そういえば十年以上も行動を共にしたウメボシに、これまであまり労いの言葉や優しく言葉をかけた事がなかったなと今更ながら思う。
傍にいて当然、自分に仕えて当然という気持ちで接し、彼女もそれを是としていた。
「すまないウメボシ。復活後は無制限に甘やかせてやるぞ」
悔恨の交じる表情で、闇の中に辛うじて見える灰色の空を見つめ呟いた。
「それにしても地球で何があったかは知らないが、サジタリウスが来るまでに遮蔽装置を見つけ解除したいものだ。万全な状態でウメボシを復活させたいからな」
ポケットから装置を取り出してから自分の愚かさに気がついた。
「ハハハ!馬鹿だな私は!どうやってこの装置にマナを供給するというのだ!」
雨粒が口の中に入るのもお構い無しで大口を開けて笑っていると、背後で空気の揺れ動く気配がした。
ヒジリは直ぐに頭のカチューシャ型暗視スコープを下ろすと気配のする方を見る。
「良かったら、私がマナを注ぎましょうか?」
スコープには声と同時に空間から突如現れた魔人族の女が映っていた。
風に吹かれて乱れる髪を手で押さえているが魔法のお陰か雨を弾いて濡れてはいない。
「君は確か・・・ドワイトの知り合いの・・・」
「総督府でも何度かすれ違っております。ルーチです」
「どうやって私を見つけたのかね?私は姿を隠していたはずだぞ?」
「ヒジリ様は気配を消すのが苦手なようでしたので・・・。私は・・その・・怪しい賊が街に下見に来て、アジトに帰るのかと思って後をつけてきました。そうしたら、ヒジリ様が現れたので驚きました」
「そういえば、私の適性は格闘家だったな。隠遁の術には長けていないのかもしれない。では、君にマナの供給をお願いしても良いかね?」
「お任せ下さい」
ルーチが装置にマナを流し込むと、地鳴りのような音が辺りを包む。彼女は不安そうに周りを見るが変化はない。
しかし、ヒジリは湖をじっと見ていた。ルーチもヒジリの視線の先を追って見てみると、音もなく水面が割れて道が出来ており、さして遠くない湖の中で途切れていた。
「モーゼの十戒のようだな。さて、一度酒場に戻るべきか中の様子を見に行くべきか」
これまでの装置は数回マナを充填すると使えなくなってしまっている。この装置がこれから何回も使えるとも限らない。
ウメボシがいない今、道が閉じてしまえば水中で呼吸する事のできるヘルメットもない。あれはウメボシの持つデータの中に保管しているからだ。亜空間ポケットには入れていない。
最初は装置に依る変化を確認できれば良いなとは思っていたが、考えが変わった。湖を割る道を見て探究心が湧いてきたのだ。
「君は街に戻っていいぞ。その装置は君が持っていてくれ。もし、明日の夜までに私がオーガの酒場に戻っていなければ、リツ・フーリーという名のオーガに連絡してくれ」
「解りました。少し胸騒ぎがします。どうかお気をつけて、ヒジリ様」
「うむ」
ヒジリは心配をするルーチに別れを告げ、夜の湖へと消えていった。
湖底はヌルヌルとした藻で覆われている岩や石だらけかと思いきや、砂地で歩き易い。左右に壁のように立つ湖の水がいつ覆いかぶさってくるか判らないのでヒジリはヘルメスブーツで素早く進む。
五分としないうちにマヤ文明の遺跡のような、階段の有るピラミッドが見えてきた。
「遺跡守りがいない事を願う」
そう独り言ちて、大きな石扉を力いっぱい押すと、扉は思いの外軽く簡単に開いた。簡単に、と言ってもパワードスーツが無ければ苦労していたことだろう。
中は外観の古めかしいい如何にも遺跡といった感じとは真逆で、白く光る壁で覆われている。どことなく魔法院にも似ている。
これといった飾りや石像もなく、ただ通路と小部屋の扉が延々とある。適当に近くの小部屋に入ると、地球で見覚えのある古い機材が置かれているのを見つけた。
「これは・・・ここ百年以内の地球の物ばかりだ。凡そこの場所に似つかわしくない代物だな。だが機器の劣化具合は遺跡と違和感がない。どういうことだ?」
机の上の記憶媒体チップを見つける。その近くにあったホログラムプレイヤーに入れて作動するか確かめてみると問題なく動いた。
「ダンティラスがいた遺跡のノームの動画みたいな内容じゃ無ければいいが・・・」
薄くて小さい四角の端末から、地球人と思しき人物のホログラムが空中に投射されて浮かぶ。
「どこかで見たことがある人物だな・・・。思い出した!ハイヤット・ダイクタ・サカモト博士だ!」
ヒジリは急いで椅子に腰掛け、このサカモト粒子を発見した人物が何を言うのか待った。
昔はアフロであったろう黒髪がサイドだけに残っている博士は片足を上げ、戯けるようにして手を振り、お尻を此方に向けて屁をこいた。
「テスト、テスト。フハーッ!」
半笑いでそう言ってホログラム映像は一旦切れる。
「まぁ偉大な人物ほど変人が多いと聞く。モーツァルトも下ネタが大好きだったらしいしな」
ヒジリは呆れながらも次の映像を待つ。
「誰かがこれを見ている頃には私はもうこのこの星はおろか、下手すりゃこの世におらんかもしれん。ワシの名前はハイヤット・ダイクタ・サカモト。時の流れに逆らって旅をし、この星に辿り着いた男。地球ではとある粒子を発見して少しは名の通っている科学者だと自負している。私はこの星で新たな特性を持つ粒子を発見した。おっと、その前にワシのこの星に至るまでの経緯を説明しとかんとな。まぁ昔のSF漫画とかでよくあるパターンじゃな。宇宙船でワープをしたら、どういう理由かは判らんがこの宙域に到着してこの地球にそっくりな星を見つけ宇宙船の故障で不時着した。ロマンチックに言えば星の呼ばれたのかも知れんのぅ。ヒョヒョ!」
ひょうきんな老人だなと思いつつも、”時の流れに逆らって“という言葉が引っかかる。
「太陽を挟んで地球とは真逆にあるこの星に降り立ってまず驚いたのが、植物から進化した知的生命体が存在していた事だ。今まで何故この星が発見されなかったのか不思議に思ったワシは、早速地球にデータを送ったのじゃが返事は無かった。なぜなら一万年も昔の世界じゃったからじゃ。太陽の年齢を調べた時にはそりゃもう驚いたよ。ワープをしたら何故か不可能と言われた時間移動が偶然にも出来たのじゃから」
「計器や機材の劣化具合もこれで納得いった」
ヒジリは映像を止め旧式のデュプリケーターに「マシュマロ入りコーヒー」と頼むと、機械は機能しており、取り出し口にはマグカップに入ったマシュマロとコーヒーが出てきた。
少し啜ってまた映像の続きを見る。
「森の中で原始的な生活をしていた樹族と呼ばれる、この星唯一の知的生命体とコンタクトをとり、一緒に生活するようになった。そこで気がついたのが彼らが魔法と呼ばれる非科学的とも思える力を駆使して、火を起こしたり水を発生させていたりした事じゃ。ワシはピーンときたね。ここにはサカモト粒子の逆の作用を持つ粒子があるのではないかと。彼らがマナと呼ぶ力の源はこの星に何処にでも溢れている。このマナとは人の強い想いに反応して集まり、願いや想いを現実化する、まさに魔法とも呼べる粒子じゃ。残念な事にワシには魔法は使えなかったし、その影響を受けることもなかった。私は彼らのように何かを強く願う力が弱く、上手いこと粒子が集まって来ないのじゃ」
ヒジリは黙ってコーヒーを飲み、自分の身の上に起きた出来事と照らし合わせて、魔法が効かないのは地球人の特性なのかもしれないなと考えた。地球人は皆裕福な暮らしをしており、何かを強く欲したり願ったりすることはまず無い。
「地球にもこの粒子は存在すると思われるが、この星ほど多くは無い。我々も極稀に強い願いを願う事がある。強烈な感情と未練を残しながら死んでいく場合などがそれじゃ。それでも集まったマナ粒子は僅かで、精々残留思念を残して分散していく程度じゃな。昔であればそれは幽霊だと思われていた現象じゃ。死を克服した我々にはもう死による恐怖もあまり無い。感情が大きく爆発した時のような”強い想い“を樹族達はいとも簡単に日常的に使う。そこに粒子が反応して集まり、別次元の対となる粒子からエネルギーを運んで来て事象を生み出す。拡散時にエネルギーを根こそぎ奪って別宇宙に消えるサカモト粒子とは真逆じゃの。もしかしたらマナ粒子の対の粒子とはサカモト粒子かも知れんが、ここにある機材ではその検証はしっかりとはできなかった。が、仕組みを深く知ることは出来んかったが、色んな物に応用する事はできた。ナノマシンにマナの特性を理解させるとマナ粒子を抵抗なく受け入れて魔法が使えるようになるんじゃ。しかし何故かマナを帯びたナノマシンを体に移植すると効果は消え、ブツブツ・・・」
サカモト博士は夢中になって話している内に、年老いた顔が脂ぎってきた。
大きな鼻の脂を一旦拭き取る。
「そういえば博士はデザインドとして生まれて来なかったのか」
個性的な顔を見てそう思う。当たり前だが地球には自然交配主義者もいるのだ。実際に出会った事はないが・・・。
「まぁ簡単に言えば、マナ粒子とは強い想いの力じゃな。そうなれと想えばそうなるし、その想いに抗えばそうはならない。まぁ言葉で言うほど簡単なものではないが・・・。ちょっと疲れてきたな。デザインドならこの程度のお喋りで疲れる事はないのだろうが・・・。おい、ウィスプ!オーガ後期型とビコノカミタイプの研究は上手くいっとるか?クロスケはどこいった!あの怠け者め!・・・おっと録画を消し忘れておったわい」
ウィスプと呼ばれた青いドローン型アンドロイドはウメボシそっくりだったが、昔はこのタイプのアンドロイドが宇宙船に備えつけられるのが一般的だったので特に驚きはしなかった。
「まさか、大昔にこの星に地球人が着ていたとはな・・・。もう少し、情報を探るか」
部屋の中を一通り探ったが生物研究のデータばかりでこの星に関わる目ぼしい物は見つからず部屋を出た。
部屋を出て別の部屋に入ろうとすると狭い通路の奥から誰かが後ろ手を組んでやってきた。
「やぁやぁ。久しぶりだねヒジリ君」
見知らぬ若い樹族の男性が白いローブの衣擦れの音をさせながら片手を上げて挨拶してくる。
「はて?君は誰かね?私を知っているのか?」
ヒジリは警戒していつでも動けるようにした。
嫌な予感しかしないな、と樹族の男を見て思うのは当然だろう。彼の笑顔は実に嘘臭く、笑ったまま固まった蝋人形のようだ。この胡散臭さはどこかで見覚えがある。
「君にはここに来て欲しくなかったんじゃがのぅ」
若葉のような緑の髪に普通の樹族よりも深い緑の肌。顔立ちや服のセンスが今の樹族よりもかなり古臭く見える。原始の樹族とはこんな感じだったのだろうかとヒジリは勝手に想像する。
「何故かね?ここは私にも関わりがある場所だが」
「ほぉ?やはり。君は星のオーガなのだね?道理で賢いと思ったよ。フォフォ。で、ここの秘密を知ってどうする?」
「無論、この星を覆う【姿隠し】を消させてもらう」
「それは困るな。遮蔽装置を止めればヒジリ君のような高次の存在が大挙してやってくるのではないかな?それは我々樹族の、―――いや、この星の滅亡を意味する」
「私がいる限り大挙して地球人がやって来ることは無いし、来たところで滅亡する事も無いと思うが。何故そこまで隠そうとする?」
濃い緑色の樹族は言うかどうか迷っていたが、「まぁ先は無いからの・・・」と呟いて話しだした。その呟きは誰の事を言ったのかは判らない。
「大昔、我々はたった一人の星のオーガに戦いを挑んだ。サカモトという名の神だ。彼は次々と魔物や亜人を作り出して我々を苦しめたが最期は自ら作ったノームの寝返りによってこの星からいなくなった。一説によれば我らの神に滅ぼされたともある。真相はわからんが、とにかくこの星から消えた」
「そもそも何故、樹族がサカモト氏に挑んだのか判らんな。チャビン殿」
樹族は片方の眉を上げて「ほぉ?」と驚く。
「口調でばれたかのう?【転生】の魔法の代償は高かったわい。これまで積み上げた魔法の練度を全てあの闇魔女に持っていかれたのでな。普通は新しい体に引き継げるんじゃがのぅ。フォフォ。神に挑んだ理由?ここを見て判らんかね?」
両手を上げて周りを見ろと言わんばかりにぐるりと見まわす。それから何かが見えるのか、動きを止めてこめかみを摩りだした。
「見えてきた・・・。この体が時折見せる古い記憶では、たった一人のオーガが科学という強力な力で我らを支配したとある。サカモト神が現れる前はエルダードラゴンが我らを支配していた。しかし我らはドラゴンの支配に打ち勝ち、彼らを世界の隅へと追いやった。だからサカモト神の支配にも抗ったのだそうだ」
「ほう?古い映像を見た限りではサカモト博士はそこまで酷い支配をしていたようには見えない。寧ろ勝手に樹族同士が分裂してその煽りをサカモト博士が受けたような印象がある。まぁ詳細までは知らんがね」
「今の樹族は昔の樹族と姿が微妙に違う。私こそオリジナルの樹族なのだよ。つまり我らは一度絶滅させられている。見たわけではないがサカモト博士の報復か何かだろう。それでも酷い支配じゃなかったとヒジリ君は言えるのかね?」
「どの道、お互い情報が少ない。何を語っても想像の域を出ないだろう」
ヒジリの指摘は尤もだったのでチャビンは反論できず、無視して保管カプセルの近くまで歩く。
「それにしても自分が死ぬ前に、ここに保管されていたオリジナル樹族を使い魔が発見してくれていなければ、今頃ワシは魔法院で闇魔女に殺されたまま、二度と現世には戻ってこれなかったじゃろうて。転生後、このよく判らん機械から出るのは一苦労したわぃ。フォフォ」
昔の樹族に魂を移したチャビンは若返った体の拳で、保管カプセルの分厚い強化ガラスをコンコンと叩いた。するとまた古い記憶が蘇ったのか、こめかみを摩りだした。
「最初のうちは神の恩恵は素晴らしく思えた。我々に従順な労働階級の種族を与え、今ある貴族の地位も神であるサカモトのお陰じゃ。ドワーフは肉体労働、魔人族は管理職や知識に携わる仕事、地走り族や獣人は召使や愛玩用に。神はゴブリンやオーク、自分に似せたオーガ達を作って稀に霧の向こう側からやってくる強力な化物に備えた。長い間、安寧の日々は続いたが、いつか子供にも反抗期が来るものじゃ。子供はいつまでも子供のままではない。多くの物語に出てくる神の末路のように、サカモト神もまた世界を追われる定めだったんじゃ。彼は老いても、また若返って蘇ってきた。永遠に高位の存在に居座られるのは我々の成長にもよろしく無いのでな」
「その記憶はどこまで信用できるのやら」
当たり前だが科学者でもあるヒジリは証言だけでは信用しない。
チャビンはコンコンと自分の頭を指先で叩いている。
「まぁこの頭の中の知識や記憶が本物かどうか直ぐに解るじゃろうて。さて、お喋りもここまでじゃ」
ヒジリはいよいよか、と身構えてチャビンが動きを見せる前に間合いを詰める。チャビンは狭い通路を一目散に逃げ出した。
「弱小メイジであるワシはお前さんとは相性がとことん悪い。逃げさせてもらおうかの。フォフォ」
逃げる床には魔法の罠が沢山仕掛けられており、それを仕掛けたチャビンには発動しなかった。
ヒジリは魔法陣の中に入らないように気をつけ、魔法陣の淵を踏みつけて魔法効果を消滅させながら走った。
奥の大広間まで来ると彼は急いで中央に置いてあった鉄傀儡に乗り込む。
「力に対抗できるのもまた力。ヒジリ君は自分の能力を大きく超える者の力押しには苦戦すると見た。黒竜の時のように。使い魔のイービルアイやカプリコンとかいう何かがいて君はようやく一人前なんじゃろう?」
「ふん、ずっとコソコソと観察していたのかね?いやらしい老人だな」
「フォフォ。いやらしく弱点を探り、そこを攻めるのは力のない者の常套手段。故に君の可愛いイービルアイをクラーケンを使って殺してやったのじゃ」
その言葉を聞いてヒジリの心に怒りの濁流が心臓に押し寄せ鼓動が早くなる。
「どうせ直ぐに復活するかと思ったが・・・僥倖な事に彼女は未だ復活していない。どうやら彼女を復活させることが君には出来ないようじゃな。子供達を懸命に守るイービルアイを叩いてから君を叩くつもりが、ワシの操るクラーケンは逆に呆気無く倒されてしまった。君が雷を纏っている事をすっかり忘れていたのは計算違いじゃった。時々間抜けなんじゃ、ワシは。フォッフォッフォ」
チャビンの笑い声と共に戦車がロボットになったかのような見た目の鉄傀儡はパンチを繰り出してきた。
ヒジリはそれを受け流しコクピット辺りを狙って殴った。鉄傀儡の装甲は電撃を防いでくれたが装甲はベコッとひしゃげてしまった。
コックピットの中でチャビンは少し焦る。
「思いの外柔らかいの、この傀儡は。しかも今の一撃で機体を動かすマナの半分を持って行かれたわぃ。これは不味いのう。フォフォ」
そうとは思えない呑気な声が鉄傀儡のスピーカーから聞こえてくる。
「一気に勝負をつけさせてもらうぞ。現人神殿」
怒りに満ちた表情で何も言わなくなったヒジリに向けて、機体前面の6つの孔からビームダガーが射出された。
それは追尾ミサイルのようにヒジリに襲いかかる。
ビームダガーのミサイルを踊るように避けて足や手の甲で柄の部分を次々と破壊していく。
ビームダガーを全て破壊した所にレーザービームが地面を削りながら飛んで来た。
側転で避け、転がるように接近して、またチャビンの鉄傀儡の胸部を殴った。
内側に押された装甲がチャビンの脚を挟んむと彼は激痛で顔を歪ませて、歯を食いしばりながらコクピットの計器を見た。マナの残量がゼロだ。
ヒジリのたった二発のパンチで鉄傀儡のエネルギーがゼロになり弱気になったのか、チャビンはスピーカーを通して許しを乞うている。
「ギヒィ!脚が・・・!頼む、殺さないでくれ!知りたい情報は何でも教える!」
ヒジリは次の一発を繰り出すべきかどうか手を止めていると、鉄傀儡から狂った笑いが聞こえてくる。
「フヒヒヒヒ!なんてな!茶番はここまでじゃ」
笑い声を聞いて容赦なく殴ろうとしたヒジリの手は徐々にゆっくりとなる。
「この部屋はこの体があった保存室。一緒に眠ろうぞ、ヒジリ君。永遠に動かぬ時間の中でな。君とその使い魔さえ何とかすれば、この星の不安要素はほぼ無くなるじゃろうて。次に目覚めるのは一年後かはたまた一万年後か。適当に装置を触ったのでワシにも判らん、おやすみじゃヒジリ君。あぁ・・・これで少しは樹族に安寧が訪れてくれればよいが・・・」
チャビンの声は徐々に回転数を遅くしたテープレコーダーのような声になり、電撃グローブが機体にコツンと触れたところで二人の時間は動かなくなった。
そしてヒジリのこれまでの冒険の終演を表すが如く、辺りに闇という名の幕が落ち、志半ばで彼の物語に静寂が訪れた。
雨風に叩きつけられながら穴の空いた地面を暫く見つめている。そういえば十年以上も行動を共にしたウメボシに、これまであまり労いの言葉や優しく言葉をかけた事がなかったなと今更ながら思う。
傍にいて当然、自分に仕えて当然という気持ちで接し、彼女もそれを是としていた。
「すまないウメボシ。復活後は無制限に甘やかせてやるぞ」
悔恨の交じる表情で、闇の中に辛うじて見える灰色の空を見つめ呟いた。
「それにしても地球で何があったかは知らないが、サジタリウスが来るまでに遮蔽装置を見つけ解除したいものだ。万全な状態でウメボシを復活させたいからな」
ポケットから装置を取り出してから自分の愚かさに気がついた。
「ハハハ!馬鹿だな私は!どうやってこの装置にマナを供給するというのだ!」
雨粒が口の中に入るのもお構い無しで大口を開けて笑っていると、背後で空気の揺れ動く気配がした。
ヒジリは直ぐに頭のカチューシャ型暗視スコープを下ろすと気配のする方を見る。
「良かったら、私がマナを注ぎましょうか?」
スコープには声と同時に空間から突如現れた魔人族の女が映っていた。
風に吹かれて乱れる髪を手で押さえているが魔法のお陰か雨を弾いて濡れてはいない。
「君は確か・・・ドワイトの知り合いの・・・」
「総督府でも何度かすれ違っております。ルーチです」
「どうやって私を見つけたのかね?私は姿を隠していたはずだぞ?」
「ヒジリ様は気配を消すのが苦手なようでしたので・・・。私は・・その・・怪しい賊が街に下見に来て、アジトに帰るのかと思って後をつけてきました。そうしたら、ヒジリ様が現れたので驚きました」
「そういえば、私の適性は格闘家だったな。隠遁の術には長けていないのかもしれない。では、君にマナの供給をお願いしても良いかね?」
「お任せ下さい」
ルーチが装置にマナを流し込むと、地鳴りのような音が辺りを包む。彼女は不安そうに周りを見るが変化はない。
しかし、ヒジリは湖をじっと見ていた。ルーチもヒジリの視線の先を追って見てみると、音もなく水面が割れて道が出来ており、さして遠くない湖の中で途切れていた。
「モーゼの十戒のようだな。さて、一度酒場に戻るべきか中の様子を見に行くべきか」
これまでの装置は数回マナを充填すると使えなくなってしまっている。この装置がこれから何回も使えるとも限らない。
ウメボシがいない今、道が閉じてしまえば水中で呼吸する事のできるヘルメットもない。あれはウメボシの持つデータの中に保管しているからだ。亜空間ポケットには入れていない。
最初は装置に依る変化を確認できれば良いなとは思っていたが、考えが変わった。湖を割る道を見て探究心が湧いてきたのだ。
「君は街に戻っていいぞ。その装置は君が持っていてくれ。もし、明日の夜までに私がオーガの酒場に戻っていなければ、リツ・フーリーという名のオーガに連絡してくれ」
「解りました。少し胸騒ぎがします。どうかお気をつけて、ヒジリ様」
「うむ」
ヒジリは心配をするルーチに別れを告げ、夜の湖へと消えていった。
湖底はヌルヌルとした藻で覆われている岩や石だらけかと思いきや、砂地で歩き易い。左右に壁のように立つ湖の水がいつ覆いかぶさってくるか判らないのでヒジリはヘルメスブーツで素早く進む。
五分としないうちにマヤ文明の遺跡のような、階段の有るピラミッドが見えてきた。
「遺跡守りがいない事を願う」
そう独り言ちて、大きな石扉を力いっぱい押すと、扉は思いの外軽く簡単に開いた。簡単に、と言ってもパワードスーツが無ければ苦労していたことだろう。
中は外観の古めかしいい如何にも遺跡といった感じとは真逆で、白く光る壁で覆われている。どことなく魔法院にも似ている。
これといった飾りや石像もなく、ただ通路と小部屋の扉が延々とある。適当に近くの小部屋に入ると、地球で見覚えのある古い機材が置かれているのを見つけた。
「これは・・・ここ百年以内の地球の物ばかりだ。凡そこの場所に似つかわしくない代物だな。だが機器の劣化具合は遺跡と違和感がない。どういうことだ?」
机の上の記憶媒体チップを見つける。その近くにあったホログラムプレイヤーに入れて作動するか確かめてみると問題なく動いた。
「ダンティラスがいた遺跡のノームの動画みたいな内容じゃ無ければいいが・・・」
薄くて小さい四角の端末から、地球人と思しき人物のホログラムが空中に投射されて浮かぶ。
「どこかで見たことがある人物だな・・・。思い出した!ハイヤット・ダイクタ・サカモト博士だ!」
ヒジリは急いで椅子に腰掛け、このサカモト粒子を発見した人物が何を言うのか待った。
昔はアフロであったろう黒髪がサイドだけに残っている博士は片足を上げ、戯けるようにして手を振り、お尻を此方に向けて屁をこいた。
「テスト、テスト。フハーッ!」
半笑いでそう言ってホログラム映像は一旦切れる。
「まぁ偉大な人物ほど変人が多いと聞く。モーツァルトも下ネタが大好きだったらしいしな」
ヒジリは呆れながらも次の映像を待つ。
「誰かがこれを見ている頃には私はもうこのこの星はおろか、下手すりゃこの世におらんかもしれん。ワシの名前はハイヤット・ダイクタ・サカモト。時の流れに逆らって旅をし、この星に辿り着いた男。地球ではとある粒子を発見して少しは名の通っている科学者だと自負している。私はこの星で新たな特性を持つ粒子を発見した。おっと、その前にワシのこの星に至るまでの経緯を説明しとかんとな。まぁ昔のSF漫画とかでよくあるパターンじゃな。宇宙船でワープをしたら、どういう理由かは判らんがこの宙域に到着してこの地球にそっくりな星を見つけ宇宙船の故障で不時着した。ロマンチックに言えば星の呼ばれたのかも知れんのぅ。ヒョヒョ!」
ひょうきんな老人だなと思いつつも、”時の流れに逆らって“という言葉が引っかかる。
「太陽を挟んで地球とは真逆にあるこの星に降り立ってまず驚いたのが、植物から進化した知的生命体が存在していた事だ。今まで何故この星が発見されなかったのか不思議に思ったワシは、早速地球にデータを送ったのじゃが返事は無かった。なぜなら一万年も昔の世界じゃったからじゃ。太陽の年齢を調べた時にはそりゃもう驚いたよ。ワープをしたら何故か不可能と言われた時間移動が偶然にも出来たのじゃから」
「計器や機材の劣化具合もこれで納得いった」
ヒジリは映像を止め旧式のデュプリケーターに「マシュマロ入りコーヒー」と頼むと、機械は機能しており、取り出し口にはマグカップに入ったマシュマロとコーヒーが出てきた。
少し啜ってまた映像の続きを見る。
「森の中で原始的な生活をしていた樹族と呼ばれる、この星唯一の知的生命体とコンタクトをとり、一緒に生活するようになった。そこで気がついたのが彼らが魔法と呼ばれる非科学的とも思える力を駆使して、火を起こしたり水を発生させていたりした事じゃ。ワシはピーンときたね。ここにはサカモト粒子の逆の作用を持つ粒子があるのではないかと。彼らがマナと呼ぶ力の源はこの星に何処にでも溢れている。このマナとは人の強い想いに反応して集まり、願いや想いを現実化する、まさに魔法とも呼べる粒子じゃ。残念な事にワシには魔法は使えなかったし、その影響を受けることもなかった。私は彼らのように何かを強く願う力が弱く、上手いこと粒子が集まって来ないのじゃ」
ヒジリは黙ってコーヒーを飲み、自分の身の上に起きた出来事と照らし合わせて、魔法が効かないのは地球人の特性なのかもしれないなと考えた。地球人は皆裕福な暮らしをしており、何かを強く欲したり願ったりすることはまず無い。
「地球にもこの粒子は存在すると思われるが、この星ほど多くは無い。我々も極稀に強い願いを願う事がある。強烈な感情と未練を残しながら死んでいく場合などがそれじゃ。それでも集まったマナ粒子は僅かで、精々残留思念を残して分散していく程度じゃな。昔であればそれは幽霊だと思われていた現象じゃ。死を克服した我々にはもう死による恐怖もあまり無い。感情が大きく爆発した時のような”強い想い“を樹族達はいとも簡単に日常的に使う。そこに粒子が反応して集まり、別次元の対となる粒子からエネルギーを運んで来て事象を生み出す。拡散時にエネルギーを根こそぎ奪って別宇宙に消えるサカモト粒子とは真逆じゃの。もしかしたらマナ粒子の対の粒子とはサカモト粒子かも知れんが、ここにある機材ではその検証はしっかりとはできなかった。が、仕組みを深く知ることは出来んかったが、色んな物に応用する事はできた。ナノマシンにマナの特性を理解させるとマナ粒子を抵抗なく受け入れて魔法が使えるようになるんじゃ。しかし何故かマナを帯びたナノマシンを体に移植すると効果は消え、ブツブツ・・・」
サカモト博士は夢中になって話している内に、年老いた顔が脂ぎってきた。
大きな鼻の脂を一旦拭き取る。
「そういえば博士はデザインドとして生まれて来なかったのか」
個性的な顔を見てそう思う。当たり前だが地球には自然交配主義者もいるのだ。実際に出会った事はないが・・・。
「まぁ簡単に言えば、マナ粒子とは強い想いの力じゃな。そうなれと想えばそうなるし、その想いに抗えばそうはならない。まぁ言葉で言うほど簡単なものではないが・・・。ちょっと疲れてきたな。デザインドならこの程度のお喋りで疲れる事はないのだろうが・・・。おい、ウィスプ!オーガ後期型とビコノカミタイプの研究は上手くいっとるか?クロスケはどこいった!あの怠け者め!・・・おっと録画を消し忘れておったわい」
ウィスプと呼ばれた青いドローン型アンドロイドはウメボシそっくりだったが、昔はこのタイプのアンドロイドが宇宙船に備えつけられるのが一般的だったので特に驚きはしなかった。
「まさか、大昔にこの星に地球人が着ていたとはな・・・。もう少し、情報を探るか」
部屋の中を一通り探ったが生物研究のデータばかりでこの星に関わる目ぼしい物は見つからず部屋を出た。
部屋を出て別の部屋に入ろうとすると狭い通路の奥から誰かが後ろ手を組んでやってきた。
「やぁやぁ。久しぶりだねヒジリ君」
見知らぬ若い樹族の男性が白いローブの衣擦れの音をさせながら片手を上げて挨拶してくる。
「はて?君は誰かね?私を知っているのか?」
ヒジリは警戒していつでも動けるようにした。
嫌な予感しかしないな、と樹族の男を見て思うのは当然だろう。彼の笑顔は実に嘘臭く、笑ったまま固まった蝋人形のようだ。この胡散臭さはどこかで見覚えがある。
「君にはここに来て欲しくなかったんじゃがのぅ」
若葉のような緑の髪に普通の樹族よりも深い緑の肌。顔立ちや服のセンスが今の樹族よりもかなり古臭く見える。原始の樹族とはこんな感じだったのだろうかとヒジリは勝手に想像する。
「何故かね?ここは私にも関わりがある場所だが」
「ほぉ?やはり。君は星のオーガなのだね?道理で賢いと思ったよ。フォフォ。で、ここの秘密を知ってどうする?」
「無論、この星を覆う【姿隠し】を消させてもらう」
「それは困るな。遮蔽装置を止めればヒジリ君のような高次の存在が大挙してやってくるのではないかな?それは我々樹族の、―――いや、この星の滅亡を意味する」
「私がいる限り大挙して地球人がやって来ることは無いし、来たところで滅亡する事も無いと思うが。何故そこまで隠そうとする?」
濃い緑色の樹族は言うかどうか迷っていたが、「まぁ先は無いからの・・・」と呟いて話しだした。その呟きは誰の事を言ったのかは判らない。
「大昔、我々はたった一人の星のオーガに戦いを挑んだ。サカモトという名の神だ。彼は次々と魔物や亜人を作り出して我々を苦しめたが最期は自ら作ったノームの寝返りによってこの星からいなくなった。一説によれば我らの神に滅ぼされたともある。真相はわからんが、とにかくこの星から消えた」
「そもそも何故、樹族がサカモト氏に挑んだのか判らんな。チャビン殿」
樹族は片方の眉を上げて「ほぉ?」と驚く。
「口調でばれたかのう?【転生】の魔法の代償は高かったわい。これまで積み上げた魔法の練度を全てあの闇魔女に持っていかれたのでな。普通は新しい体に引き継げるんじゃがのぅ。フォフォ。神に挑んだ理由?ここを見て判らんかね?」
両手を上げて周りを見ろと言わんばかりにぐるりと見まわす。それから何かが見えるのか、動きを止めてこめかみを摩りだした。
「見えてきた・・・。この体が時折見せる古い記憶では、たった一人のオーガが科学という強力な力で我らを支配したとある。サカモト神が現れる前はエルダードラゴンが我らを支配していた。しかし我らはドラゴンの支配に打ち勝ち、彼らを世界の隅へと追いやった。だからサカモト神の支配にも抗ったのだそうだ」
「ほう?古い映像を見た限りではサカモト博士はそこまで酷い支配をしていたようには見えない。寧ろ勝手に樹族同士が分裂してその煽りをサカモト博士が受けたような印象がある。まぁ詳細までは知らんがね」
「今の樹族は昔の樹族と姿が微妙に違う。私こそオリジナルの樹族なのだよ。つまり我らは一度絶滅させられている。見たわけではないがサカモト博士の報復か何かだろう。それでも酷い支配じゃなかったとヒジリ君は言えるのかね?」
「どの道、お互い情報が少ない。何を語っても想像の域を出ないだろう」
ヒジリの指摘は尤もだったのでチャビンは反論できず、無視して保管カプセルの近くまで歩く。
「それにしても自分が死ぬ前に、ここに保管されていたオリジナル樹族を使い魔が発見してくれていなければ、今頃ワシは魔法院で闇魔女に殺されたまま、二度と現世には戻ってこれなかったじゃろうて。転生後、このよく判らん機械から出るのは一苦労したわぃ。フォフォ」
昔の樹族に魂を移したチャビンは若返った体の拳で、保管カプセルの分厚い強化ガラスをコンコンと叩いた。するとまた古い記憶が蘇ったのか、こめかみを摩りだした。
「最初のうちは神の恩恵は素晴らしく思えた。我々に従順な労働階級の種族を与え、今ある貴族の地位も神であるサカモトのお陰じゃ。ドワーフは肉体労働、魔人族は管理職や知識に携わる仕事、地走り族や獣人は召使や愛玩用に。神はゴブリンやオーク、自分に似せたオーガ達を作って稀に霧の向こう側からやってくる強力な化物に備えた。長い間、安寧の日々は続いたが、いつか子供にも反抗期が来るものじゃ。子供はいつまでも子供のままではない。多くの物語に出てくる神の末路のように、サカモト神もまた世界を追われる定めだったんじゃ。彼は老いても、また若返って蘇ってきた。永遠に高位の存在に居座られるのは我々の成長にもよろしく無いのでな」
「その記憶はどこまで信用できるのやら」
当たり前だが科学者でもあるヒジリは証言だけでは信用しない。
チャビンはコンコンと自分の頭を指先で叩いている。
「まぁこの頭の中の知識や記憶が本物かどうか直ぐに解るじゃろうて。さて、お喋りもここまでじゃ」
ヒジリはいよいよか、と身構えてチャビンが動きを見せる前に間合いを詰める。チャビンは狭い通路を一目散に逃げ出した。
「弱小メイジであるワシはお前さんとは相性がとことん悪い。逃げさせてもらおうかの。フォフォ」
逃げる床には魔法の罠が沢山仕掛けられており、それを仕掛けたチャビンには発動しなかった。
ヒジリは魔法陣の中に入らないように気をつけ、魔法陣の淵を踏みつけて魔法効果を消滅させながら走った。
奥の大広間まで来ると彼は急いで中央に置いてあった鉄傀儡に乗り込む。
「力に対抗できるのもまた力。ヒジリ君は自分の能力を大きく超える者の力押しには苦戦すると見た。黒竜の時のように。使い魔のイービルアイやカプリコンとかいう何かがいて君はようやく一人前なんじゃろう?」
「ふん、ずっとコソコソと観察していたのかね?いやらしい老人だな」
「フォフォ。いやらしく弱点を探り、そこを攻めるのは力のない者の常套手段。故に君の可愛いイービルアイをクラーケンを使って殺してやったのじゃ」
その言葉を聞いてヒジリの心に怒りの濁流が心臓に押し寄せ鼓動が早くなる。
「どうせ直ぐに復活するかと思ったが・・・僥倖な事に彼女は未だ復活していない。どうやら彼女を復活させることが君には出来ないようじゃな。子供達を懸命に守るイービルアイを叩いてから君を叩くつもりが、ワシの操るクラーケンは逆に呆気無く倒されてしまった。君が雷を纏っている事をすっかり忘れていたのは計算違いじゃった。時々間抜けなんじゃ、ワシは。フォッフォッフォ」
チャビンの笑い声と共に戦車がロボットになったかのような見た目の鉄傀儡はパンチを繰り出してきた。
ヒジリはそれを受け流しコクピット辺りを狙って殴った。鉄傀儡の装甲は電撃を防いでくれたが装甲はベコッとひしゃげてしまった。
コックピットの中でチャビンは少し焦る。
「思いの外柔らかいの、この傀儡は。しかも今の一撃で機体を動かすマナの半分を持って行かれたわぃ。これは不味いのう。フォフォ」
そうとは思えない呑気な声が鉄傀儡のスピーカーから聞こえてくる。
「一気に勝負をつけさせてもらうぞ。現人神殿」
怒りに満ちた表情で何も言わなくなったヒジリに向けて、機体前面の6つの孔からビームダガーが射出された。
それは追尾ミサイルのようにヒジリに襲いかかる。
ビームダガーのミサイルを踊るように避けて足や手の甲で柄の部分を次々と破壊していく。
ビームダガーを全て破壊した所にレーザービームが地面を削りながら飛んで来た。
側転で避け、転がるように接近して、またチャビンの鉄傀儡の胸部を殴った。
内側に押された装甲がチャビンの脚を挟んむと彼は激痛で顔を歪ませて、歯を食いしばりながらコクピットの計器を見た。マナの残量がゼロだ。
ヒジリのたった二発のパンチで鉄傀儡のエネルギーがゼロになり弱気になったのか、チャビンはスピーカーを通して許しを乞うている。
「ギヒィ!脚が・・・!頼む、殺さないでくれ!知りたい情報は何でも教える!」
ヒジリは次の一発を繰り出すべきかどうか手を止めていると、鉄傀儡から狂った笑いが聞こえてくる。
「フヒヒヒヒ!なんてな!茶番はここまでじゃ」
笑い声を聞いて容赦なく殴ろうとしたヒジリの手は徐々にゆっくりとなる。
「この部屋はこの体があった保存室。一緒に眠ろうぞ、ヒジリ君。永遠に動かぬ時間の中でな。君とその使い魔さえ何とかすれば、この星の不安要素はほぼ無くなるじゃろうて。次に目覚めるのは一年後かはたまた一万年後か。適当に装置を触ったのでワシにも判らん、おやすみじゃヒジリ君。あぁ・・・これで少しは樹族に安寧が訪れてくれればよいが・・・」
チャビンの声は徐々に回転数を遅くしたテープレコーダーのような声になり、電撃グローブが機体にコツンと触れたところで二人の時間は動かなくなった。
そしてヒジリのこれまでの冒険の終演を表すが如く、辺りに闇という名の幕が落ち、志半ばで彼の物語に静寂が訪れた。
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