未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(72)

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 今日も復興に向けて人々が忙しそうにゴデの街のメイン通りを往来している。

 世界の危機を救った現人神の奇跡は、多くの人々を復活させ、邪神のナノマシンによって破壊された建物を元通りしていったが、それでも完ぺきではなかった。

 あちこちから修復作業や建て替えなどで雇われたドワーフ達がハンマーや鋸の音を響かせている。

 その様子を花壇のレンガに腰を掛けてぼんやりと見つめるゴブリンがいた。大きな丸眼鏡がずり落ちても気にせず溜息をついている。

(はぁ・・・。彼はヤンスと同じ立場になってしまったでヤンスね。今頃、ビヨンドの闇の中で世界を見守っているのでヤンスか。世界を救ってもらった上に神の仕事までやらせてしまっているでヤンスよ・・・。神の居場所であるビヨンドにヤンスが戻らなくなってから幾星霜。ヤンスは全てから逃げてヒジリさんに全てを任せてしまったような形になってしまったでヤンスね。戻ろうと思ったけど、何故かビヨンドはヤンスを拒むんでヤンスよ・・・。許してくれでヤンス。ヒジリさんが守ってくれたこの星は今日も復興の音で騒がしいでヤンスよ。平和でヤンス)

「なんだ、ヤンス!ぼんやりとして!暇ならドワーフ達でも手伝ったらどうだ?」

 スカーが急に背中を叩いたので物思いに耽っていたヤンスは咽る。

「ゲホゲホ!急になんでヤンスか!スカー!ヤンスはこう見えても忙しいでヤーンス!」

「なーに言ってんだ。お前が忙しそうに働いているとこなんてこれっぽっちも見た事がねぇぞ!お前が忙しいのはトラブルに顔を突っ込んで実況してる時だけだろ。ちったぁ、ヒジリぐらい偉業を成し遂げてみろってんだ」

 ヒジリと言う名前を出してスカーは急に寂しそうな顔をした。

 この星の意思を具現化した神であるヤンスにとってスカーの言葉と寂しそうな顔は胸に突き刺ささる棘のようであった。

 主に地走り族に運命の神として崇められるヤンスは神として何一つ成し遂げていない。邪神から星を守る力も無いし、大きな奇跡も起こせない。神としての能力は、一度訪れた場所ならば何度でも行き来できる事と尽きない寿命だけだ。

 遥か昔にアカシックレコードを覗いて滅びの未来を知ったヤンスは、全てが消える前にこの星の風景を目に焼き付けようと旅をしていた。

 無限とも思える時間の中で育んでは消えていった絆を思いだして寂しくなり、今ある絆を惜しんで泣いて、自分以上の存在に滅びの未来を変えるように強く願ったりもした。

 そして長い時と旅路の果てに気が付けば彼はいたのだ。本来どこにも存在しなかった彼は突然現れて、どの世界にも存在するようになった。

 運命の神が祈って望んだ救世主の出現をマナが叶えてくれたのだ。

「またぼんやりしてっぞ!ヤンス!見ろ!あそこで壁を直しているのは誰だと思う?ドワイト・ステインフォージの息子、ドワームだぞ!親父の鉱山を引き継いで金なら幾らでもあるのに、この街の復興を願って働いてくれてんだ。お前も何かしろ!」

「う、煩いでヤンスね!ヤンスは忙しいったら忙しいんでヤンス!」

 そう言ってヤンスは転移魔法で消えてしまった。

「んだ、あいつは。転移魔法しか使えない出来損ないのメイジのくせして。その転移魔法で資材運びとかして手伝えよ。ったくよ~」

 スカーはぶつくさと文句を言ってドワームのもとへ行き、手伝いを申し出た。




「それを私に命じるのですか?国王陛下。私とイグナがどういう仲かご存知のはずですが・・・」

 シルビィは突然の闇魔女イグナ討伐の任に、国王が乱心したのではないかと疑う。

「解っておる。本気でワシがそんな命令を出すと思うか?これを見よ」

―――闇魔女イグナを速やかに排除せよ モティ神聖国―――

「馬鹿げております!こんなもの、聖下亡き後の宗教的実権を握りたいが故の布石でしょう!聖下の功績をさも自分達の手柄のように語る最近の神聖国のやり方は酷すぎます!」

「しかしのう、宗教のことで神聖国に逆らうのは、国際的にも蛮人と見なされる。今後の他国との外交にも響いてくるんじゃ。どうしたもんかのう」

 シルビィは時々、この猫毛の小さな王が無能に思える時がある。普段は何事も卒なくこなすが自分の処理能力を超えると、途端に弱気になり他力本願になるのだ。

(陛下は宗教絡みになると途端に尻込みをする。ダーリンの事をこの国の象徴と言って宗教的主導権を握ってしまえばいいのに!)

 シルビィは小さく心の中でそう呟く。

「それにイグナを倒す事は私の実力的にも不可能です。自分がどうやって地面を舐める羽目になるかも容易に想像がつきますよ。姿を消した彼女に死角から魔法を打ち込まれて終わりでしょう」

 ここでシュラスの妄想が始まる。

 イグナ対シルビィ。シルビィは樹族の中では防御力も生命力も高く、接近戦と魔法による攻撃力も高い。が、反面機動力の無さや真正面からぶち当たる事を好んで虚を突くのが苦手な性格というデメリットも彼女にはある。それを考えて誰と組ませればイグナを倒せるか・・・。

「ジュウゾと組めば・・・」

 シルビィはとうとう怒り、テーブルを叩き割ったのでシュラスは驚いてピョーンと飛んでソファの後ろに隠れる。

「陛下!どうなされたのです?イグナが散々我が国の為に戦ってくれた事をお忘れですか?彼女は年端もいかぬ子供の時から国壊しの吸魔鬼と戦い、人知れず裏で人を殺めていたチャビンを倒し、獣人国戦でも彼女が活躍したのを!例え彼女を討伐出来たとしても、今度はサヴェリフェ家に恨みを買い、イグナを慕う者から報復を受けるでしょう!我が国のどこに!始祖の吸魔鬼ダンティラスや、死の竜巻ヘカティニス、狂気の道化師皇帝ナンベル、鉄列車リツに抗える者がいるのです!それに国民からも恩知らずの烙印を押されましょうぞ!」

 「ア~~!煩い。冗談じゃ!」

 耳を塞いで、王は現実逃避の様相を見せた。

「お前は父親に似て真っ直ぐ過ぎて困るわ!ここにリューロックがいれば、二人して小言を聞かされた事だろうの!」

 リューロックは急なぎっくり腰で治療中である。

 取り乱したシルビィは父親に似てると言われて急に自分が恥ずかしくなり、落ち着きを取り戻した。

「陛下・・・国内外に聖下とイグナの関係を発表してはどうでしょうか?」

「そんな事をすれば、自国の神学庁から反発を食らうじゃろうし、モティ神聖国からは魔女を擁護する国として叩かれる」

「イグナはただのメイジで、自ら魔女を名乗ったことはありませんが」

「しかし、闇魔法のイメージは良くない」

「彼女は光魔法にも長けております。その線で情報拡散をしましょう!それに彼女に何かあれば聖下が祟って出るかもしれませんよ?彼女は聖下の妻でもあるのですから」

「ええーい!!ではシルビィにその件を任せた。ワシはもう宗教に関わるのはうんざりじゃ。神学庁のハゲどもも、神聖国の使節団の顔も見たくないわい」

「はっ!」

 シルビィは一礼して王座の間から出ると、廊下をカツカツと歩きながら神聖国にイグナ討伐をどう思い止まらせるかを考えた。



 帝国領となったグランデモニウム王国は死者の大行進と呼ばれる魔法による人災以降、人口が激減して廃れる町や村が多い。

 その中で栄えている街があった。

 かつて北に貴族街、南に貧民街が広がっていたゴデと呼ばれる街だ。

 雪原砦の将軍ゴールキの遠い先祖であるゴデが支配していた街なのでゴデの街と呼ばれている。今ではその繋がりも忘れ去られ、誰もがただ昔からの呼び名であるゴデの街と呼ぶ。

 インフラ整備が進んで綺麗な町並みとなった―――かつての貧民街の一角に、まるでラブホテルのようなピンクのお城があった。

 その前でイグナとフランとヘカティニスとリツは沈んだ顔をして立っている。

 ヒジリが皆で一緒に住もうと言って建てた家が遂に完成したのだが、家の主はもうこの世にいない。

 大きなオーガと小さな地走り族の組み合わせに、通りを歩くゴブリン達は物珍しそうにピンクの城を指さして歩き去る。

「いつまでも暗い顔してても仕方無いわぁ。さぁ入りましょう?」

 フランが気を取り直して、いつもののんびりとした声で皆に呼びかけると、他の者はお互い顔を見合わせて頷いてから大きな扉を開いた。

 オーガでも広く感じる大きなエントランスは外観に比べてシンプルで調度品も少なく、招待されていない客や商人が座って待つソファーや椅子が置いてあるだけであった。

 その近くには生前、ゴブリンの絵師に描かせたヒジリの肖像画が飾ってある。

「このヒジリってまるでナンベルのおじちゃんが変装した時のヒジリみたい」

 イグナの言う通り、体中から闇の覇気を放つ邪悪なオーガがそこには描かれていたのだ。

「闇側の人ってダークヒーロー好きねぇ」

「まぁ綺麗事だけで世の中は回っておりませんからね。聖騎士様?」

 リツは伊達眼鏡の端をクイッと上げて、綺麗なままで生きる事を人々に望まれる聖騎士に皮肉を言う。

「あらぁ?私はまだ聖騎士見習いよぉ?」

 フランはウフフと笑う。

 リツはフランが芯から怒るところを見たことがない。ツィガル城の中庭で手合わせした時も、挑発には乗らずいつもニコニコしていた。

 それを不気味だと常々思っているがリツは口には出さなかった。

「自室でも見るか」

 ヘカティニスがそう言って二階に上がっていくのを見て、各自がそれぞれの部屋に入っていく。

 部屋を飾ることを嫌うヘカティニスとって、ヒジリが考案してくれた自室は快適なものであった。

 武器棚と鎧掛け、開放的な大きな窓。無骨なテーブルとイスとベッド。

 わぁと驚いて部屋をぐるりと見回し、机の上に置いてある彼女の大好物であるウマズラタケという美味しいキノコの文鎮を見て、霊山オゴソでの出来事を思い出す。

 ヒジリと一緒に向かった霊山オゴソで自分はワイバーンに連れ去られそうになった事があった。ワイバーンから落ちる自分をキャッチしてくれたヒジリは、そのまま崖から山の麓付近まで落下して脚の骨が粉々になるほどの骨折を負い気絶してしまった。その時、気絶したヒジリがとても心配になり大泣きしてしまった。

 ベッドをよく見ると小さな可愛い赤ん坊の人形が置いてあった。名も無き我が子の事も忘れていないという事だろう。まだ膨らんでいないお腹を擦って我が身に宿った新しい命を確認する。

(おでの旦那様が邪神と戦う数日前に注いでくれた命)

 彼は何となく自分の死を予感していたのかもしれない。

 ある夜、流産した我が子の事を思って枕を濡らす自分のもとに、彼は現れた。そして黙って自分を抱きしめて・・・。

(本物の命・・・)

 別にヤイバが偽物の命だという事ではない。偽物の人形とではなく直接自分を愛してくれた結果、芽生えた命。

 ヘカティニスはベッドに座り込むとオイオイと泣き出した。

(子供は嬉しいけど、おで寂しいよヒジリ)

 砦の戦士たちには泣き虫ヘカと自分が呼ばれているのは、昔から嫌な事があると一人で大声を上げて泣いていることを彼らは知っているからだ。

 声を上げると恥ずかしいので忍び泣きをしながら目を手で押さえてベッドに寝転ぶと、窓が突然開いた。

 初冬の冷たいはずの風は、日差しを浴びて熱を篭もらせた春の野原のように暖かった。熱はヘカティニスを包み込んで安らぎを与える。

(あだだかい。まるでヒジリに抱かれている時のように・・・。きっとヒジリが慰めに来てくれたんだ!)

 ヘカティニスは上半身を起こして、熱源を探す。体を起こして座る自分の横で光の靄のような何かが微笑んだように思える。実際微笑んだわけではないが、ヘカティニスは直感的にそう感じたのだ。

―――泣かなくていい。いつでも君の傍にいる―――

 頭にそう響いたと思うと、幸福感が押し寄せて来て涙が止まる。

 ヘカティニスが誰かに抱きしめられているような感覚に酔いしれていると別の声が頭に鳴り響いた。

―――チープなアニメのような演出ですね、マスター―――

―――うるさいぞ、ウメボシ―――

 ウメボシらしき声の茶々が入ると、抱きしめられているような感覚が無くなり気配も消えた。

「ウメドシはいつも邪魔ばっかり!」

―――ウメボシです―――

 クスクスと笑う声が聞こえてきて、やがてその声も消えた。

 皆もヒジリとウメボシを感じ取れたのか廊下が騒がしくなった。

「ヒジリがいた!」

「ええ、確かに。姿は見えませんでしたが気配はありましたわ!ヤイバも喜んでいました!」

「私、ギュってされたわぁ。ウフフ」

 皆嬉しそうな顔で喜んでいる。

「この家にはヒジリがいる!おで達の帰る場所はここでよかったんだど!」

 全員が手を取り合って喜んでいると玄関のノッカーがコンコンと鳴った。

 フランが大きな扉の片側についている地走り族用の小さな扉を開けると、そこにはシルビィとシオとヌリがいた。

「まぁ!もう招待状が届いたのかしら?いらっしゃい!」

「ハハハ、まだ届いてないよ」

 シオがバツの悪そうな顔で頭を掻いている。よちよち歩きのヌリを見てイグナは可愛いといって抱き上げた。

 どこからともなく初期のウメボシの小型版といった感じのコウメが飛んできて、警戒するようにイグナの周りを飛んだ。

「コウメは相変わらずねぇ。皆さん、中にどうぞ。私は向かいの店でお茶菓子とお茶買ってくるわねぇ」

 引っ越してきたばかりで物が無いので、フランが気を利かせて買い出しに出ようと扉を開けようとすると後ろから中性的な声が呼び止めた。

「あ、だったら俺も荷物持ちで一緒にいくよ」

 シオは急に訪問した事を悪いと思ったのかフランの荷物持ちを申し出た。




 シルビィは応接間に案内されて、まだ誰も座ったことのないフカフカのソファーに腰を下ろす。見知らぬ場所でヌリがぐずりだしたので少し揺らしてあやす。

「実はな、今日はイグナの事でやって来たのだ。これを見てくれ」

 シルビィは髪と同じ赤色のドレスの上に装着した小さめの白い胸当と服の間から手紙を取り出すとイグナに渡した。

 ヤイバを抱っこしてあやしていたイグナは座って、テーブルの上のそれを手に取ると直ぐ様読み終えて返す。

「なんて書いてあったんだ?」

 いつもの癖で窓際に立って外を警戒していたヘカティニスが手紙の内容をイグナに聞いた。

 イグナは表情も変えずに答える。

「私を討伐しろとモティ神聖国は樹族国に要請してきた」

「なんですって?陛下の妻を討伐しろとは無礼にも程がありますわ!」

 リツが憤慨しブーツで一度だけ床をカツンと鳴らし怒りを表した。

 ヘカティニスも窓際からソファーに近づいて一人がけ用のソファーにどっかと腰を下ろした。

「イグナがヒジリの嫁だって事を知らねぇのか?乗り込んで、ほ、ほ、法皇をぶっ殺してやどうか?」

「それに、イグナは帝国臣民ですわよ?現皇帝の娘のような存在でもあるのに・・・。帝国に喧嘩を売っているのかしら?」

 膝から降りてテーブルに手を置き、アーアーと言いながら膝を何度も屈伸させている息子をシルビィは支えながら答える。

「どうも、闇魔女という二つ名のイメージが先行してしまって印象が良くないようだ。そこでだ。イグナのイメージアップを図る映像を魔法水晶で撮ろうと思うのだ」

 いつの間にか帰ってきて話を聞いていたフランは顎に手を当ててう~んと唸ると、イグナを上から下まで眺めた。

 飾り気のないバサバサとした黒いショートヘアー。万年同じデザインの紺色のワンピース。黒い靴下を覆うショートブーツ。

「これじゃあ、イメージアップは無理かしらねぇ?商店街に出掛けて印象の良い衣装を買わないと・・・」

「私は服や飾りには疎いのでな。フランとシオはイグナの買い物に付き合ってやってくれ。我々はお茶の準備しておくから。遅かったら先に飲んでるぞ」

 シルビィはヌリを置いてヘカティニスと共に台所に向かった。イグナ達も出かけると部屋にはリツとヤイバとヌリとコウメだけになった。

 ヌリはまたテーブルの縁に手を置いてあーあーと言いながら膝を曲げたり伸ばしたりしている。

 何故かその動きに合わせてコウメも不愛想な顔で上下している。

 その度に可愛いおむつのお尻が上下してリツの胸をキュンとさせた。

「ヤイバも早くタッタ出来るようになるといいでちゅね~!」

 リツはそう言ってヤイバのぷっくりとした頬を少し吸った。




 フランは商店街にある服屋でイグナの服をああでもないこうでもないと唸りながら物色している。

「清楚に見せるなら白は絶対よね。これとこれかなぁ」

 フランはオーソドックスな白いローブとベールをイグナに宛てがった。

「いや、これだろ。少しは可愛い要素も必要だぜ」

 シオは割りと丈の短い薄ピンクのローブとうさ耳フード付きの白いショートマントを選んだ。

 すかさず杖が茶々を入れる。

「可愛い要素もって、可愛い要素しか無いだろそれ。お前さんの好みだろう?イグナお嬢ちゃんを道化師にするつもりか?」

「うるせぇ!ほらこれ、脚にはこのニーソックスを履くと良いぞ」

「それ履いてローブの端と靴下までの間を”絶対領域“とか言うらしいぞ。ずっと前にヒジリの旦那がブツブツ言ってたな」

「絶対領域?何か全ての攻撃を絶対受け付けないって感じの魔法っぽい名前だな」

「あれ?お前さん、ヒジリの旦那がそれを好むのを知ってて履いてたんじゃないの?絶対領域を見て、目覚めの予感がどうのこうの言ってたぜ?ヒジリの旦那」

 その話を聞いたイグナは珍しく興奮して興味深そうにシオの選んだ衣装を手にとってじっと見ていた。

「ヒジリが好んだ服なら、私着る」

 そう鼻息荒く言って店の中の試着室に向かった。

 暫く薄いカーテンの向こうで、がさごそ、ドッタンバッタンとしてから彼女は出てきた。

「ひゃっほー!やっぱり思った通り最高だな!この首元のマントを止めるモコモコの飾りが凄く可愛い!短いローブもいい感じだ!」

 シオはジャンプして自分の選んだ服に間違いがなかった事を喜ぶ。

「というか、可愛いとは無縁そうなゴデの街でよくこんな服を置いていたもんねぇ」

 フランの疑問に店主のオークが揉み手をしながらそれに答える。

「ええ、直接会った事はないのですが、数年前にここで執政官をしていた方のオーダーメイド服を参考にさせて頂きました。お陰様でこういった服を好む層が出来上がり、安定して売れております」

 聖なる光の杖が笑いだした。

「その執政官、シオお嬢ちゃんの事じゃないか。お嬢ちゃんの好みの服をお嬢ちゃんが選ぶだなんて滑稽だな!ブッシャッシャ!この手の可愛い服をどういった人が買っていくんだ?」

「帝国領になって以来、貴族制度が廃止になったので身分に拘った服を着なくていいと知ったオークのご婦人や豪商ゴブリンの娘さん達が買っていきます。稀に特殊な性癖のオーガの男性も買っていきますよ」

 シオは大きくて屈強なオーガの男がこの手の可愛い服を着ている姿を想像して青ざめる。聖なる光の杖はその横で笑いが止まらなかった。
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