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手作り温泉
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エポ村より少し離れた森の奥に強力な結界で守られた屋敷があった。
その窓から外を眺める樹族の女が一人――――。
金髪を高く結い上げ、妖艶な体のラインがくっきりと解る、黒いビロードのロングドレスを纏っている。背後で傅く黒装束の小さな男に赤い瞳を向け、閉じた扇を口元に当てる。
「あの相殺の投げ壺は高かったのよ。折角国境の結界に穴を空けて、闇側の侵入を誘ったのに。邪魔されたんじゃ意味がないわ。しかも邪魔したのが闇側を裏切ったオーガだなんて・・・。何の皮肉かしら?」
女は血が通っているのかと疑いたくなる程真っ白な手で扇を広げて軽く扇ぐと、背後の小男の反応を待つ。
「かのオーガは普通のオーガとは違うようです、ご主人様。オーク兵の小隊の攻撃をものともせず、最後は使い魔のイービルアイが【魔法の矢】で後衛を全て戦闘不能にしました」
「あら、珍しいわね。オーガメイジだなんて。大方仲間から弾かれて国を裏切ったんでしょう。まぁ強いオーガが一匹いたところで私の計画には関係ないのだけれど。・・・ん~、じゃあ直ぐにでもこの計画をお願いね」
地走り族の男は恭しく書類を受け取ると、素早くドアから出て行った。
「それにしても何で私の目覚めを気づかれたのかしら? あの男爵は吸魔鬼ハンターの素質があるようには見えなかったけどねぇ。忌々しい」
そう言ってまた窓の外を眺めてギリリと奥歯を噛んで悔しがる口からは、鋭く長い犬歯が二本あった。
そして赤い瞳は目覚めてから何年も自分を閉じ込める外の結界を憎々しげに見つめるのだった。
一度タスネの家に寄ったヒジリは、タスネの妹の多さに驚く。
「子供がこんなにいるなんて素晴らしいな。ここが地球とは違うとわかっていても、なんだか嬉しいものだ。よろしく、ちびっ子達」
「今後ともよろしくおねがいします」
タスネの妹達は自己紹介をするオーガとイービルアイを見上げて驚いている。
「うわ~! おっきい!」
末っ子らしき少女が、ドラゴンの角のように結い上げた髪をピョコピョコさせて飛び跳ねた。
「でもオーガにしては小さい」
いかにも読書が好きで、知識を蓄えていそうな黒髪の少女が呟いた。
そんな可愛らしい姉妹たちを見てウメボシが優しい声で自己紹介を促す。
「素敵なお嬢さん達。自己紹介をしてもらえますか?」
「私は次女のフランでぇす。よろしくねぇヒジリとウメボシ」
次女のフランは妖艶という言葉が相応しい。金髪のふんわりしたボブが揺れる度に、ラベンダーの様な香りが周囲に舞う。青い瞳は美貌に見合うだけの自信に満ち溢れている。
「三女イグナ。よろしく」
長女タスネと同じ黒髪、黒い瞳のこの少女はマネキンの様に表情が硬い。そして愛想もない。
ヒジリはイグナを見て、なんとなくバーチャル空間の歴史博物館で見た初期のアンドロイドを思い出した。
「コロネだ! よろしくな!」
大きなドラ声が響く。すばしっこくヒジリの周りを回りながら、次女と同じ青い目が何か面白い物を持っていないか探している。
「アタシはキノコを酒場に売りに行くから、その間、ヒジリは村の中でも見てて。フラン達はヒジリを案内してあげてね」
「は~い! じゃあ行こう? ヒジリ」
フランはそう言って前を歩き出したが、直ぐ近くの河原でウメボシが何かを探知する。
「おや? 河原に熱を発する何かが埋まっています」
「気になるな。フラン、案内は後でいいかな?」
「えぇ、別に構わないけどぉ。何が埋まっているのかしら?」
「早く調べようよ!!」
コロネはフランの手を引っ張っている。
ウメボシがここですと浮かぶ真下を、ヒジリが手で五十センチ程掘ってみると真っ赤な色をした高熱の石が現れた。
耐熱性のあるグローブなので持つ事は出来るが、素手で持てば間違いなく大火傷を負う温度だ。
が、ヒジリが触れている間、何故か熱が下がっていく。
「わぁこんな大きなサラマンド石、初めて見た!」
「サラマンド石? それは何ですか?」
ウメボシは不思議そうに聞く。スキャンをして石を調べてみても何故熱を発しているのかが解らない。石自体は熱を発していないのだ。
「空気中のマナを取り込んで熱を周りに発生させる石よ。石が熱で劣化しない限りずっとこのままなの。貴族達は冬になるとこれで部屋を暖めたりしているわ」
「理屈は解りませんが、なんとも不思議な石ですね・・・」
「良い事を思いついた。これで河原温泉を作ろうじゃないか」
サラマンド石を置いてヒジリはざぶざぶと川の中に入って行き、深くなっている川辺を大きめの石で囲んで水を塞き止める。
その中にサラマンド石を放り込むと「ジュ!」と音を立てて水に沈み、やがて水温が上がりだした。
サラマンド石をそのままにしておくと、踏んで火傷をしてしまうので念入りに石で囲み、熱源が解りやすいように木の棒をそこに挿す。
湯加減を素手で調べ丁度いいと思ったのか、ヒジリは突然薄型のパワードスーツを脱ぎだす。脱ぐと言っても自立するパワードスーツの開いた背中から出るので蝉の幼虫の脱皮のようにも見える。スーツを脱ぐと鋼の様な引き締まった筋肉が露わになった。
姉妹たちは、人目の多い河原で裸になろうとしているヒジリを見てギョッとするが、下半身にはピッチリとした黒い水着の様なパンツがあったので安堵する。
「も~、ヒジリって上品なオーガだと思ったのに~」
フランが口をアヒル口にして、手を腰にやっている。こんな所でオーガに全裸になられると、誰かに通報されかねないからだ。
気がつくとやじ馬の村人達が、遠目でこちらの様子を窺っているのをイグナが気にして緊張している。
しかしヒジリは姉妹の心配など気にしてはいない。
「まだ少し温いが気持ちが良いな。フラン達もどうかね」
「わぁ楽しそうだ! 私、家に帰って水着に着替えてくる!」
コロネはそう言うと一目散に家に向かった。
フランとイグナも「一大イベントだ!」といった感じで興奮して後を追う。
土手の上にいた村人達はいつの間にか河原まで来ており、その中の年配の女性が話しかけてきた。
「お湯に浸かれるなんて貴族みたいだねぇ。私も入らせてもらっていいかねぇ?」
老婆は此方の返事を聞かずに、勝手に脱ぎ始めていた。
(まさかここで全裸になるのか・・・?)
ヒジリは途端に不安になる。そのまさかであった。萎びたデーツのような胸を見たヒジリは急いでウメボシに命ずる。
「う、ウメボシ! あのご婦人に水着を出して差し上げろ。今すぐにだ。早く!」
老婆のお尻が半分見えている。
(急げ! ウメボシ! 能力の限り急げ!)
老婆のズロースが下ろされた瞬間、ヒジリはもう駄目だと思ったが、光が彼女を包む。ウメボシに内蔵されている物質変換生成装置が作動したのだ。
「ありゃま! こりゃあ! 貴族様が着るような水着じゃないか! まぁまぁ! なんてこと! 神様のプレゼントかねぇ! ふぇふぇ!」
老女は我が身を見て驚き喜小躍りする。黄色と黒の縞模様の水着は、しっかりと全身を覆い隠している。
「助かったぞ、ウメボシ。危うくシワシワの裸体を見るところだった。それにしても、水着のセンスはイマイチだな・・・」
ウメボシが自分の色彩センスにケチを付けられたことに抗議しようとすると、土手の上からコロネのドラ声が聞こえてきた。
「ヒジリー!」
姉妹の中で一番素早いコロネは、タオルをマントの様に羽織って走って来た。
フランとイグナも村人の多さに一瞬たじろぐも、タオルを巻いた姿で走って来る。ウメボシにタオルを投げて預けると姉妹達は川にざぶんと飛び込んだ。
「何でそんなに急いで飛び込むのかね?」
「だってぇ~、この水着恥ずかしいんだものぉ~。うちはお金が無いから安い水着しか買えなかったの」
姉妹を見ると深刻な布不足かと思うよう麻で出来た灰色のビキニを着ている。
村の男たちは、川に飛び込む一瞬に見えたフランとイグナのナイスバディを見逃さなかった。
「おほ! 目の保養!」
が、彼等の彼女や妻は、男たちの耳を引っ張って焼きもちを焼く。大きな耳を引っ張られて痛がりながら村の男達は何故か三本指を立てて謝っている。
あの三本指はなんのサインなのか気になったが、ヒジリは姉妹たちに向き直る。
「安い水着は露出が多いのだな。となると貴族は全身を覆った水着を着ているのか?」
「そうよぉ~。しかも華やかな薔薇の刺繍がしてあったりして綺麗なの」
「だとしたら、ウメボシのチョイスは正解だったな」
老婆の七部袖の水着を見てヒジリは苦笑いをする。
「ウメボシはいつでも最適解を出しますよ? マスター」
不満そうな顔で浮くウメボシの横でコロネが、川辺の温泉で一息ついた。
「ふー! 温かくて気持いいー」
「ほんと天国だねぇ。ふぇふぇふぇ」
貴族のようにお湯に浸かる老婆と姉妹を見て、村人はじわりじわりと近づいて来た。
「俺にも入らせてくれよ!」
「私も!」
「あたいも!」
「おいどんも!」
「ワイも!」
村人はパニックのようになり、皆して一斉に下着になって川に飛び込んできた。
当然、皆が入った事でお湯が囲いから溢れ出て、代わりに川の冷たい水が入ってくる。
「やだ冷たい! アッ! ちょっと誰? 今、私のお尻を触ったの!」
フランがぎゅうぎゅう詰めになった河原温泉で叫ぶ。
もう完全にパニック状態だ。
ヒジリは姉妹が危険だと判断して三人を抱き上げると川岸に上がった。
ウメボシは素早く三人にタオルを渡し、姉妹はタオルを羽織るとパワードスーツを手に持ったヒジリ共々家に向かった。
「もー、何よぉ~。折角楽しかったのにぃ」
フランが頬を膨らませて不満を漏らす。
「むー・・・」
イグナも眉間にシワを寄せている。
「あいつらウンコになって川の水に流されればいいのにー! 流されればいいのにー!」
トボトボ歩きながら姉妹がそれぞれ文句を垂れた。
それとは対照的にヒジリは大笑いしている。
「ウハハハ!」
村人達の好奇心の強さや、意地でも温泉に入りたがる必死さ、そしてその時の顔が滑稽だったのだ。
規律正しい地球人の間ではほぼ遭遇しない状況だ。
「何も可笑しくないわよぉ~。何で笑ってるの? ヒジリ」
「すまない。村人たちのあの必死さときたらもう・・・。ブフフフ」
ヒジリの笑い声にコロネがつられて笑う。フランも笑い、イグナは無表情だが声だけで笑っている。
「こんなに笑うマスターは久しぶりに見たました。フラン様、イグナ様、コロネ様、一緒に感情を共有してくれた事にウメボシは感謝します」
「私達に“様”はいらないわよぉ~。呼び捨てでいいわ」
「わかりました、フラン」
姉妹とヒジリ達の間に絆の様な何かが芽生えだした事にウメボシは嬉しくなった。
地球でのヒジリは大好きだった祖父母を亡くして以来、両親とウメボシ以外の人には心を閉ざしがちだったからだ。
姉妹とたわいもない会話をして家に着くと、いつの間にか暗くなっており、ヒジリ達はこの惑星で初めての夜を迎えようとしていた。
その窓から外を眺める樹族の女が一人――――。
金髪を高く結い上げ、妖艶な体のラインがくっきりと解る、黒いビロードのロングドレスを纏っている。背後で傅く黒装束の小さな男に赤い瞳を向け、閉じた扇を口元に当てる。
「あの相殺の投げ壺は高かったのよ。折角国境の結界に穴を空けて、闇側の侵入を誘ったのに。邪魔されたんじゃ意味がないわ。しかも邪魔したのが闇側を裏切ったオーガだなんて・・・。何の皮肉かしら?」
女は血が通っているのかと疑いたくなる程真っ白な手で扇を広げて軽く扇ぐと、背後の小男の反応を待つ。
「かのオーガは普通のオーガとは違うようです、ご主人様。オーク兵の小隊の攻撃をものともせず、最後は使い魔のイービルアイが【魔法の矢】で後衛を全て戦闘不能にしました」
「あら、珍しいわね。オーガメイジだなんて。大方仲間から弾かれて国を裏切ったんでしょう。まぁ強いオーガが一匹いたところで私の計画には関係ないのだけれど。・・・ん~、じゃあ直ぐにでもこの計画をお願いね」
地走り族の男は恭しく書類を受け取ると、素早くドアから出て行った。
「それにしても何で私の目覚めを気づかれたのかしら? あの男爵は吸魔鬼ハンターの素質があるようには見えなかったけどねぇ。忌々しい」
そう言ってまた窓の外を眺めてギリリと奥歯を噛んで悔しがる口からは、鋭く長い犬歯が二本あった。
そして赤い瞳は目覚めてから何年も自分を閉じ込める外の結界を憎々しげに見つめるのだった。
一度タスネの家に寄ったヒジリは、タスネの妹の多さに驚く。
「子供がこんなにいるなんて素晴らしいな。ここが地球とは違うとわかっていても、なんだか嬉しいものだ。よろしく、ちびっ子達」
「今後ともよろしくおねがいします」
タスネの妹達は自己紹介をするオーガとイービルアイを見上げて驚いている。
「うわ~! おっきい!」
末っ子らしき少女が、ドラゴンの角のように結い上げた髪をピョコピョコさせて飛び跳ねた。
「でもオーガにしては小さい」
いかにも読書が好きで、知識を蓄えていそうな黒髪の少女が呟いた。
そんな可愛らしい姉妹たちを見てウメボシが優しい声で自己紹介を促す。
「素敵なお嬢さん達。自己紹介をしてもらえますか?」
「私は次女のフランでぇす。よろしくねぇヒジリとウメボシ」
次女のフランは妖艶という言葉が相応しい。金髪のふんわりしたボブが揺れる度に、ラベンダーの様な香りが周囲に舞う。青い瞳は美貌に見合うだけの自信に満ち溢れている。
「三女イグナ。よろしく」
長女タスネと同じ黒髪、黒い瞳のこの少女はマネキンの様に表情が硬い。そして愛想もない。
ヒジリはイグナを見て、なんとなくバーチャル空間の歴史博物館で見た初期のアンドロイドを思い出した。
「コロネだ! よろしくな!」
大きなドラ声が響く。すばしっこくヒジリの周りを回りながら、次女と同じ青い目が何か面白い物を持っていないか探している。
「アタシはキノコを酒場に売りに行くから、その間、ヒジリは村の中でも見てて。フラン達はヒジリを案内してあげてね」
「は~い! じゃあ行こう? ヒジリ」
フランはそう言って前を歩き出したが、直ぐ近くの河原でウメボシが何かを探知する。
「おや? 河原に熱を発する何かが埋まっています」
「気になるな。フラン、案内は後でいいかな?」
「えぇ、別に構わないけどぉ。何が埋まっているのかしら?」
「早く調べようよ!!」
コロネはフランの手を引っ張っている。
ウメボシがここですと浮かぶ真下を、ヒジリが手で五十センチ程掘ってみると真っ赤な色をした高熱の石が現れた。
耐熱性のあるグローブなので持つ事は出来るが、素手で持てば間違いなく大火傷を負う温度だ。
が、ヒジリが触れている間、何故か熱が下がっていく。
「わぁこんな大きなサラマンド石、初めて見た!」
「サラマンド石? それは何ですか?」
ウメボシは不思議そうに聞く。スキャンをして石を調べてみても何故熱を発しているのかが解らない。石自体は熱を発していないのだ。
「空気中のマナを取り込んで熱を周りに発生させる石よ。石が熱で劣化しない限りずっとこのままなの。貴族達は冬になるとこれで部屋を暖めたりしているわ」
「理屈は解りませんが、なんとも不思議な石ですね・・・」
「良い事を思いついた。これで河原温泉を作ろうじゃないか」
サラマンド石を置いてヒジリはざぶざぶと川の中に入って行き、深くなっている川辺を大きめの石で囲んで水を塞き止める。
その中にサラマンド石を放り込むと「ジュ!」と音を立てて水に沈み、やがて水温が上がりだした。
サラマンド石をそのままにしておくと、踏んで火傷をしてしまうので念入りに石で囲み、熱源が解りやすいように木の棒をそこに挿す。
湯加減を素手で調べ丁度いいと思ったのか、ヒジリは突然薄型のパワードスーツを脱ぎだす。脱ぐと言っても自立するパワードスーツの開いた背中から出るので蝉の幼虫の脱皮のようにも見える。スーツを脱ぐと鋼の様な引き締まった筋肉が露わになった。
姉妹たちは、人目の多い河原で裸になろうとしているヒジリを見てギョッとするが、下半身にはピッチリとした黒い水着の様なパンツがあったので安堵する。
「も~、ヒジリって上品なオーガだと思ったのに~」
フランが口をアヒル口にして、手を腰にやっている。こんな所でオーガに全裸になられると、誰かに通報されかねないからだ。
気がつくとやじ馬の村人達が、遠目でこちらの様子を窺っているのをイグナが気にして緊張している。
しかしヒジリは姉妹の心配など気にしてはいない。
「まだ少し温いが気持ちが良いな。フラン達もどうかね」
「わぁ楽しそうだ! 私、家に帰って水着に着替えてくる!」
コロネはそう言うと一目散に家に向かった。
フランとイグナも「一大イベントだ!」といった感じで興奮して後を追う。
土手の上にいた村人達はいつの間にか河原まで来ており、その中の年配の女性が話しかけてきた。
「お湯に浸かれるなんて貴族みたいだねぇ。私も入らせてもらっていいかねぇ?」
老婆は此方の返事を聞かずに、勝手に脱ぎ始めていた。
(まさかここで全裸になるのか・・・?)
ヒジリは途端に不安になる。そのまさかであった。萎びたデーツのような胸を見たヒジリは急いでウメボシに命ずる。
「う、ウメボシ! あのご婦人に水着を出して差し上げろ。今すぐにだ。早く!」
老婆のお尻が半分見えている。
(急げ! ウメボシ! 能力の限り急げ!)
老婆のズロースが下ろされた瞬間、ヒジリはもう駄目だと思ったが、光が彼女を包む。ウメボシに内蔵されている物質変換生成装置が作動したのだ。
「ありゃま! こりゃあ! 貴族様が着るような水着じゃないか! まぁまぁ! なんてこと! 神様のプレゼントかねぇ! ふぇふぇ!」
老女は我が身を見て驚き喜小躍りする。黄色と黒の縞模様の水着は、しっかりと全身を覆い隠している。
「助かったぞ、ウメボシ。危うくシワシワの裸体を見るところだった。それにしても、水着のセンスはイマイチだな・・・」
ウメボシが自分の色彩センスにケチを付けられたことに抗議しようとすると、土手の上からコロネのドラ声が聞こえてきた。
「ヒジリー!」
姉妹の中で一番素早いコロネは、タオルをマントの様に羽織って走って来た。
フランとイグナも村人の多さに一瞬たじろぐも、タオルを巻いた姿で走って来る。ウメボシにタオルを投げて預けると姉妹達は川にざぶんと飛び込んだ。
「何でそんなに急いで飛び込むのかね?」
「だってぇ~、この水着恥ずかしいんだものぉ~。うちはお金が無いから安い水着しか買えなかったの」
姉妹を見ると深刻な布不足かと思うよう麻で出来た灰色のビキニを着ている。
村の男たちは、川に飛び込む一瞬に見えたフランとイグナのナイスバディを見逃さなかった。
「おほ! 目の保養!」
が、彼等の彼女や妻は、男たちの耳を引っ張って焼きもちを焼く。大きな耳を引っ張られて痛がりながら村の男達は何故か三本指を立てて謝っている。
あの三本指はなんのサインなのか気になったが、ヒジリは姉妹たちに向き直る。
「安い水着は露出が多いのだな。となると貴族は全身を覆った水着を着ているのか?」
「そうよぉ~。しかも華やかな薔薇の刺繍がしてあったりして綺麗なの」
「だとしたら、ウメボシのチョイスは正解だったな」
老婆の七部袖の水着を見てヒジリは苦笑いをする。
「ウメボシはいつでも最適解を出しますよ? マスター」
不満そうな顔で浮くウメボシの横でコロネが、川辺の温泉で一息ついた。
「ふー! 温かくて気持いいー」
「ほんと天国だねぇ。ふぇふぇふぇ」
貴族のようにお湯に浸かる老婆と姉妹を見て、村人はじわりじわりと近づいて来た。
「俺にも入らせてくれよ!」
「私も!」
「あたいも!」
「おいどんも!」
「ワイも!」
村人はパニックのようになり、皆して一斉に下着になって川に飛び込んできた。
当然、皆が入った事でお湯が囲いから溢れ出て、代わりに川の冷たい水が入ってくる。
「やだ冷たい! アッ! ちょっと誰? 今、私のお尻を触ったの!」
フランがぎゅうぎゅう詰めになった河原温泉で叫ぶ。
もう完全にパニック状態だ。
ヒジリは姉妹が危険だと判断して三人を抱き上げると川岸に上がった。
ウメボシは素早く三人にタオルを渡し、姉妹はタオルを羽織るとパワードスーツを手に持ったヒジリ共々家に向かった。
「もー、何よぉ~。折角楽しかったのにぃ」
フランが頬を膨らませて不満を漏らす。
「むー・・・」
イグナも眉間にシワを寄せている。
「あいつらウンコになって川の水に流されればいいのにー! 流されればいいのにー!」
トボトボ歩きながら姉妹がそれぞれ文句を垂れた。
それとは対照的にヒジリは大笑いしている。
「ウハハハ!」
村人達の好奇心の強さや、意地でも温泉に入りたがる必死さ、そしてその時の顔が滑稽だったのだ。
規律正しい地球人の間ではほぼ遭遇しない状況だ。
「何も可笑しくないわよぉ~。何で笑ってるの? ヒジリ」
「すまない。村人たちのあの必死さときたらもう・・・。ブフフフ」
ヒジリの笑い声にコロネがつられて笑う。フランも笑い、イグナは無表情だが声だけで笑っている。
「こんなに笑うマスターは久しぶりに見たました。フラン様、イグナ様、コロネ様、一緒に感情を共有してくれた事にウメボシは感謝します」
「私達に“様”はいらないわよぉ~。呼び捨てでいいわ」
「わかりました、フラン」
姉妹とヒジリ達の間に絆の様な何かが芽生えだした事にウメボシは嬉しくなった。
地球でのヒジリは大好きだった祖父母を亡くして以来、両親とウメボシ以外の人には心を閉ざしがちだったからだ。
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