未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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タスネの不安

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 タスネ達は食事を終えると、風呂に入る為に屋敷へ向かって歩く。屋敷までは歩いて三分ほどだ。

 残されたヒジリは誰に向かって言っているのかは解らないがくるりと振り向き、「残念だがお色気シーンはないぞ!」と宣言した。

 すると途端にヒジリの顔以外は、暗闇に包まれて「テレレレレ、チャンチャン」とどこからか音楽が流れた。

 最終的にヒジリを囲っていた円は小さくなって、周囲は完全なる闇に包まれる。

 ウメボシが、二十世紀のアニメが大好きな主に気を利かせての演出だったのだが、巡回中の守衛に見つかり、

「警備上、支障をきたすので無暗に魔法を使わないで下さい。真っ暗なのは困ります!」と注意されて二人して謝る羽目となった。




「あーー! またフランの胸が大きくなってる!」

 広い浴室で椅子に座って体を洗いながら、タスネは隣の妹の胸を見て喚く。そこには十二歳とは思えない魅惑の果実がたわわに実っていた。

「お姉ちゃんだって十分大きいじゃない。うちは巨乳の家系なんだし、何でそこまで気にするのぉ?」

「何でって、まだ子供なのにそこまで大きくなる必要ないでしょうが! お姉ちゃんはフランが変な男の人に絡まれたりしないか不安なの!」

「そもそも胸が大きくなるのなんて、自分じゃどうしようもないでしょ。イグナだってまだ十歳なのに、もう騎士様ぐらいはあるじゃないのぉ。イグナの事も心配してあげたらぁ?」

 イグナはさっと胸を隠す。着やせするのか服を着ている時には目立たなかった胸が、裸になると見事に自己主張している。

 少し離れた場所で仁王立ちでメイドに体を洗ってもらっていた泡だらけのシルビィが、姉妹の会話を聞いてピクっと反応する。

(あの姉妹の中で胸がないのは八歳のコロネだけじゃないか。私だってそんなに胸は小さくはないぞ、それでも十歳のイグナと同じ胸の大きさだと・・・? 化け乳姉妹め!)

 そう妬むシルビィも、憤怒のという二つ名さえなければ、男が放っておかない類の美女である。胸も腰も大きく、子を産んで育むには申し分ない体つきだ。

 姉妹は水浴びはしても、お湯につかる習慣がなかったので、大きな浴槽に浸かる気持ちよさに驚く。

「ふぁぁぁぁ! んぎもぢぃぃ! ヒジリと入った川のお風呂も良かったけど、このお風呂も最高!」

「ちょっと変な声を出さないでよ、フラン!」

「凄い! 泳げるぞ! キャハハ!」

「こらコロネ!」

 タスネは妹達の粗相を恥じて、壁際に立つメイド達の目を気にしたが、メイド達は昨夜シルビィとイツカにプロ意識を持てと叱られているので、目を伏せて何も見ていないという様子だった。

「それにしても、豊かな胸をしているな。地走り族にしては相当珍しいのではないかな? 私も樹族にしては豊かなほうだが」

 また胸のことが気になりだしたシルビィは、姉妹に比べて貧相な自分の胸を見られたくない。なので静かに姉妹の背後から湯船に入った。

「村の男達がじろじろ見て困るのよぉ。ヒジリが作った川のお風呂に入った時は、凄く見られたんだから!」

「なに? ヒジリ殿とお風呂に入ったのか? 羨ましい限りだな。私など、目を合わすだけで男達が逃げていくぞ」

「騎士様は美人なのにぃ?」

「人の魅力は見た目だけじゃないという事だろうな。フハハ! タスネ殿はよく男に言い寄られたりしないか? なんというか、男が好みそうな顔をしている気がする」

 濡れた長い黒髪をタオルでまとめているタスネにシルビィは聞く。

「ないよー。アタシ地味子ですから~。それにアタシ達って村のはみ出し者だしね・・・」

「何を言うのか。タスネ殿はまだまだ若いじゃないか。これからいくらでもやり直しが利く。くよくよしない! そういえば、ヒジリ殿はタスネ殿にやたらと魔物使いになれと言っていたな。よければ魔物調教師を紹介するがどうだ?」

「いいんですか?! でも、貴族の人が紹介してくれる調教師にお金払えるかな・・・」

「その辺は大丈夫だ。出世払いでもOKと言っていたからな。ただし、かなりの色ボケ爺さんでな。その豊満な胸を揉もうと狙ってくるだろう。弟子は一人しか取らないから尚更危険だ」

「そそそそ、そんな危険な人を紹介しないでくださいよ!」

「まぁそこは老人。非力だし動きは速くないので、難なく回避出来る。ともかく教えるのが上手な人でな、本人自身は大したことはないのだが、巣立っていく弟子達は後々必ず名の知れた冒険者や傭兵、士官になる。タスネ殿は既に有名だがな」

「うー、プレッシャーが凄い・・・。そうなると王都に移り住む事になるね。お金足りるかな~」

「彼が住むのは王都と言っても端の方だし、家を借りてもそこまで家賃は高くないだろう。何なら私が個人的にバックアップしてやっても構わない。(エポ村だと遠すぎて、ヒジリ殿に会う口実を毎回作るのは大変だしな。グフフフ」

「途中から心の声が漏れてますよ、騎士様。ほんとヒジリの事が好きなんですね」

「ああ、正直に言うがもう好き過ぎて抑えきれない時がある。何せ私を初めて女扱いしてくれて、なおかつ抱きしめてくれた男だからな。一番厄介なのがあのハンサム顔だ。王都ではヒョロっとした優男が流行っているのだが、私はあのタイプをどうも好きになれん。ヒジリ殿のようにがっしりした顎に、太い眉毛の男が良い。筋肉も、はちきれんばかりだし。ああ! たまらん!」

 シルビィは何かを妄想し、くねくねと体を揺らして「デヘヘ」と笑っていたが、イグナとフランの冷めた真顔と視線を受けて自重する。

「コホン。な、長湯し過ぎたな。そろそろ上がろう。まぁ王都に引っ越すのであれば、家の事も、妹君達の学校の事も、私に任すがいい」

「ありがとうございます、騎士様」

 タスネの返事に満足そうな顔をして頷くと、シルビィは湯船から上がり、メイドの用意したバスローブを着て出て行った。

 タスネは火照った体を少し冷まそうとして湯船の縁に座り、目まぐるしく変わる自分の環境をぼんやりと思い返した。

(私に何が起きたんだろうか)

 ヒジリが来てから数日――――。たった数日で、王の謁見を許されるまでの高みに登ってこれた自分を分不相応に思っているのだ。

 ヒジリとウメボシという強力な二人が支えてくれる――――この脆い櫓から、いつの日か自らの失敗で滑り落ちるのではないかという不安が常に付き纏う。

 自分が滑り落ちなくとも、櫓を支える二人がいなくなれば、瓦解してこの幸せは終わりだ。

 湯の水面に映る自分の顔は、ゆらゆらと揺らめいて、笑顔で励ましてくれているようにも見えるし、不安による悲しみで泣いているようにも見えた。
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