未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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帰還

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 一気に間合いを詰めたヒジリがゴーレムに触れるとマナの流れが断ち切られて、唯の岩となって崩れ落ちる。

 ゴーレムの頭上でバランスを崩したチャビンは、咄嗟に【浮遊】の魔法を唱え、落下死を免れた。

「こんな月並つきなみなセリフを言いたくはあるまいが・・・。貴様は死んだはずだ! 何故生きておる」

「あのノームモドキの装置のお陰だ。イグナが持つことでマナが流れ込み、いつでも使える状態になっていたのだ。そして私が倒された時に彼女の感情が高まった事で、この星を覆う遮蔽フィールドに小さく穴を空けて、エマージェンシーコールが発動した。私は死にかけてはいたが、巡回船が見つけてくれたのだ」

「やはり、噂通り! 星のオーガちきゅうじんだったか!」

「さてな。教える義理はあるまい」

「ヒジリ!!」

 イグナがぶつかるようにして、ヒジリに抱きついた。

 その隙を狙って、高速の石つぶてが飛んできたが、ウメボシがフォースシールドで防ぐ。

「ウメボシ達は少々平和ボケしていたのかもしれません。油断し過ぎていたのです」

 ピシュッ! ピシュッ! と音がして一つ目から飛ぶ光線がチャビンの四肢を貫いた。

「ぐあぁぁ!」

 倒れた彼を、ウメボシの人工クモ糸がぐるぐる巻にする。

「何だ、この糸は! マナが遮断される! 放せ!」

「煩いので黙っていてもらおうか」

 ヒジリはチャビンに電流を流して気絶させた。

「よし、何とかパワードスーツもコントロール出来ているな。聞こえているか? 軌道上のカプリコン! ウメボシの回復は複数には対応していない。一気に全員の回復を頼めるか?」

 頭骨に紳士的な声が響く。ヒジリはこれが苦手なのか、ウェっと嫌な顔をした。

「畏まりました。帰還した只今をもって、この星は正式にヒジリ様の所有物となりました。地球史上初、知的生命体の発見という快挙をなされた偉大なる貴方様のサポートができる事を誉れとします」
 
 移民星を巡回していたカプリコンという名の宇宙船は、主に補給や監視、正当な手続きでの要請があれば、破壊や医療行為も容認されている。

「しかしながらヒジリ様。私の力が及ぶ範囲は非常に狭いです。遮蔽フィールドが邪魔をして、樹族国とグランデモニウム王国のみだということをご留意ください。転移の精度もあまり良くないので、指定した場所に飛べない事も多々あると思いますが、ご容赦を」

「うむ」

 そう頷くと、光の粒が負傷者達を包む。

 健康な状態まで戻しているのだ。一定のデータを元に正常な状態を想定して再構成するので、何かしらの持病のあった者は全くの健康体となる。

 ウメボシがメインで使う再構成技術はスキャン時の状態にまでしか戻せない。スキャン時に範囲内にいなかった者は簡易回復が出来ないのだ。

 なのでカプリコンと同じ事を複数相手にしようとすると体に大きな負担がかかる。ミミを蘇生した時は初めてだったので単体でも負担がかかった。

 ゴーレムの攻撃で気を失っていたジュウゾを起こしつつ、突然の仲間の回復を不思議に思いながら、シルビィは意識をはっきりとさせる。

「なんだ?」

「シルビィ様・・・・! あ、あれを!」

 ジュウゾが指差す先を見ると、そこには天窓の光の下で抱きつくイグナを慰める愛しのダーリンが立っていた。その横にはニコニコと微笑むウメボシが浮いている。

 確かに、一度気を失う前にヒジリを見て、その名を呼んで喜びはしたが――――、あれは死を前にした幻だと思いこんでいたのだ。

「ダ、ダーリン!」

 シルビィは走った。

 嬉しすぎて足に力が入らず、「アハハ」と笑いながらよろめいてヒジリに抱きつく。

「流石は! 流石は無敵のオーガだ! ダーリンは死んではいなかった! ・・・う、うわぁぁぁ!アホォ~~!」

 笑っていたかと思うとシルビィは泣いて、ヒジリの股間を拳で連打する。その度にウメボシのフォースシールドが防御した。

「私が、私がどんなに悲しかったか! ダーリンには解るまい! どんなに心が苦しかったか!」

 ヒジリは片手でシルビィを抱き上げる。

「随分と痩せこけているな、シルビィ殿。そして復讐などさせてすまない、イグナ。色々と手続きがあってこの星へ戻って来るのが遅くなったのだ。イグナの装置から再びエマージェンシーコールがあったので、急いで転移してきたら、こんな状況になっていた」

 ジュウゾが静かにやって来る。

「詳しい現状は分かるまい。教えてやろう。魔法院院長が貴様の暗殺を計画していたのだ。魔人族の殺し屋マギンを雇ってな。あの女は吸魔鬼の件で姿をくらまして、逃げたと思っていたのだが」

「何故私を狙う必要があったのかね?」

「あの翁は遺跡守りだからだ。我々もチャビンが遺跡守りだということをこの場ではっきりと知ったのだがね。遺跡守りは古代樹族に関わる遺跡を守っているメイジであり監視者でもある。遺跡を荒らす者や、樹族の秘密を暴こうとする者の前に現れ、脅したり殺したりする。どうやら貴様はその秘密の端にでも触れたようだな」

「ということは、樹族にはそこまでして隠し通す秘密が有るということか。」

 何か都合の悪い歴史でもあるのだろうなとヒジリは考えるも、今はそのことはどうでも良いと頭を振る。

 そして、両腕に抱く二人の頬にキスをする。

「ありがとう二人共。こんなに私のことを思ってくれていたなんて。すまないが、ジュウゾ殿。この場の後始末と陛下への報告は頼んだ」

「ああ、良かろう」

 今の地球人であるヒジリにとって、理解しがたい仇討ちという感情的な行動に、何とも言えない気分になる。地球人であれば対人関係で何かしらの問題があったとしても、感情を制御して法に則って合理的に対処するだろう。しかし彼女たちは自分が死んだと思い、憤って行動に移したのだ。

 その強烈な想いや好意に、ヒジリはどうしていいのかわからなかった。

 自身はイグナやシルビィのボロボロの姿を見て何かを感じたのか?

 ――――答えは否である。チャビンにそれ相応の制裁は必要だとは思ったが、イグナやシルビィの為を思って心の奥底から感情が震えるということはなかった。

(なんなのだ、自分は)

 ヒジリはようやく気がついたのだ。自分が人間でありながら人間味の薄い存在であることを。

 潰さない程度に二人をギュッと抱きしめると、感情制御チップの抑制を振り切って涙がポロリと溢れた。

(私は。私は本当の感情を知りたい。そして、本当の人間になりたい)

「泣いているの? ヒジリ・・・」

 イグナが心配そうにヒジリを見る。

「二人に申し訳なくてな。さぁ帰ろう。そしてまた楽しい日常に戻ろう。今まで通り皆でふざけ合ったり、誰かを助けたり、笑いあったりするのだ」 

 ヒジリは二人を抱いたまま、自律制御の出来るようになったヘルメスブーツでサヴェリフェ邸にあるヒジリーハウスへと向かった。

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