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博士の復活?!
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マサヨシから送られたインプの報告を受けて、帝国に向かおうとしていたヒジリとウメボシは、大規模な遮蔽フィールド降下現象により、桃色城のエントランスで気を失って倒れていた。
それを買い物から帰って来たタスネが見つけて、大声でイグナとフランを呼ぶ。
「大変! イグナ、フラン! 早く来て! ヒジリとウメボシが!」
二階の自室から二人は飛び出て来て、階段を駆け下りた。
「どうしたの? お姉ちゃん。やだ! ヒジリどうしたの?」
「買い物から帰ってきたら、二人がエントランスで倒れていたの!」
「ヒジリとウメボシは病気に罹る事はほぼないと言っていた。だから多分、気を失っているだけだと思う」
イグナは懐から嗅ぎ薬を出すと、ヒジリに嗅がせた。
「うぉっと! 臭いな・・・」
ヒジリは意識を取り戻すと上半身を起こし、周りをキョロキョロ見渡した後、ウメボシを真っ先に見つけ強制起動する。
ピピっと音が鳴って、ウメボシの目に瞳が映った。
「マスター・・・」
「異常はないかね? ウメボシ」
「はい・・・。ここは遮蔽フィールドに開いた穴の下なのに、これほどまで影響を受けるとは思いませんでした」
「大丈夫? ヒジリ、ウメボシ」
「ああ、気を失っていただけだ。心配してくれてありがとう、皆」
「良かった」
イグナがヒジリに抱きつく。
「もし私とウメボシが遮蔽フィールドのある帝国領に入っていたらと思うと・・・。それにリツの事も気になる。何とかして向かわねば・・・」
「良く判らないけど、今出かけるのが危ないのなら、行かないでヒジリ・・・」
「しかし・・・」
「イグナの言う通りです。あの大規模な遮蔽フィールドの降下が、また起きないとも限りません。暫くはグランデモニウム王国から出ないで下さい。それに我々は穴の下でも、これほどまでの影響を受けたのです。タケシはもう生きてはいないでしょう」
「ふむ・・・。どれくらい気を失っていた?」
「ヒジリとウメボシが慌てて出かけようとするのを見てから、私たちが自室に籠って三時間ぐらい経ったかしらぁ?」
フランがそう言うと、ドアがノックされた。
「は~い! どちら様?」
タスネが玄関に向かい、ドアを開けるとそこにはマサヨシが立っていた。
「おい~! 何してたんですか~、ヒジリ氏~!」
そう言ってマサヨシは、乗って来た畳みムカデから大きな何かが入った袋を、必死になって引きずり下ろした。
「リツは無事かね? タケシは?」
「タケシならリツちゃんが倒しまつたよぉ~、もぉ~。彼は冷たくなって、この袋の中にいますしお寿司。俺がリツちゃんに秘策を教えてあげたんよ。パワードスーツの首の所にある解除ボタンを押せって。リツちゃんがそれを押して、裸になったタケシの鳩尾に、ドーンとパンチ一発かましたら、体中カビカビになって彼は死んだのでつ」
ヒジリは袋の中身をイグナ達に見せないようにして確認し、ウメボシと顔を合わせる。
「やはり・・・。免疫機能を完全に破壊されている。しかもパワードスーツを脱がされた時点で、こうなったのだろう。タケシは明日の我々だ。気をつけねば。ところでリツは?」
「リツちゃんは皇帝陛下に報告に行きますた。なので俺一人で来ました。タケシの死体は重すぎて大変だったわ」
「カプリコン、タケシを再構成してくれ。情報を聞き出す」
それに対してカプリコンは、申し訳なさそうに答える。
「残念ですが、地球政府から命令が出ています。死体はこちらでお預かりします」
タケシの遺体は直ぐに光の粒子となって消えた。
「ふむ。まぁ気持ちは判らんでもないな。このところ、地球政府は失態ばかりだ。最初は私を転送事故で、ここに飛ばしてきた。そして今も尚、ヴィラン遺伝子を持つ者をずっと放置している。そしてタケシを惑星ヒジリに侵入させてしまった。マザーコンピューターの信頼性は、地に落ちたと言っても過言ではない。なので政府は是が非でも原因を突き止めようとするだろうな」
「地球政府管轄下の宇宙船としては耳が痛い言葉です。恐らく一週間以内に、政府からお詫びのボランティアポイントと、調査結果報告が来るでしょう」
「BPはともかく、納得のいく報告を期待している」
ヒジリはエントランスにある客用のソファーに座ると伸びをした。
「皮肉なものだな。古代樹族が、当時は脅威でも何でもなかった地球人を警戒して遮蔽フィールドを展開し、その効果が現れたのが、九千年後なのだから」
「遮蔽フィールドは、古代樹族の怨念のように感じます」
ウメボシはぶるっと身震いをした。
ヒジリの頭骨にカプリコンの声が今一度響く。
「すみません、言い忘れがありました。ナビから、サカモト博士の座標が解ったという連絡がありましたので、お伝えしておきます」
「早いな・・・。まだ召喚士を用意していないのだが」
そう言って、ヒジリは何となくマサヨシを見る。
「そういえば、優秀とは言えないが召喚士がここにいたな。取りあえず彼で試してみるか」
マサヨシはきょとんとしてヒジリを見つめた。
当たり前だが、カプリコンとヒジリの会話は、マサヨシには聞こえていない。
「マサヨシ、素敵な女性を紹介しよう」
「まじで?」
「ああ。ついて来たまえ」
「ババァ~じゃん! もう~!」
マサヨシはナビを見て、不貞腐れながらヒジリのお尻を叩く。
「私は若い女性を紹介するとは、一言も言っていない」
ヒジリはニヤッとしてそう返す。
「女性どころか、ホログラムじゃないっすか~」
ぬか喜びとはこの事だ、とマサヨシは下唇を突き出して不快感を表明した。
「あら? 彼女は元々は実体のあるホログラムですから、今の透過する状態を直せば、恋人になる事も可能ですよ? マサヨシ様」
「恋人になるって事は、チョメチョメも出来ると?」
「はい、ナビが同意し、マサヨシ様がご年配の女性を好むのであれば」
「おえ・・・」
「おえ、とは失礼であるな。フハハ!」
屋敷の空き部屋に居候するダンティラスは、博士の召喚に立ち会えるかもしれないのでついてきたのだ。
「全くあんたら好き放題言ってくれるねぇ。で、そこの醤油顔の男が、優秀な召喚士かい?」
期待の篭った目で、ナビはマサヨシを見つめる。
「いや、優秀ではないが話が急だったものでね。取りあえず目の前にいた召喚士が、彼だったので連れて来た。召喚に失敗したからといって、博士は消えたりしないだろう? まずはマサヨシで感触を掴みたい」
「まぁそうだけどさぁ・・・。じゃあ今日は博士に会えないんだねぇ? 期待はしない方がいいって事かい?」
「そういう事になるな」
「あのさぁ~。騙して俺を連れて来ておいて、勝手に期待して落胆するの止めてもらえます? 俺の方が被害者ですよぉ~」
マサヨシは細い目を吊り上げて、口を尖らせた。
「まぁまぁ。この老婆に協力しておくのも悪くはないぞ、マサヨシ。この書庫には多くの魔法書がある。君が召喚したくて仕方がないサキュバスを、簡単に召喚出来る巻物があるかもな」
「まじで? ババァ・・・、お婆さん」
「お前さんの活躍次第じゃな」
「やる気出て来た! 頑張ります! でも具体的にどうしろというのですかな?」
「博士の姿を思い浮かべる。それから捕まえて引き戻すイメージをしてくれればいいよぉ」
「っていうか、博士の姿なんて知らないんですけど。オフッオフッ!」
「ああ、勿論博士の映像を見せる」
ナビが手を掲げると、周りが研究室になった。まだ樹族が反乱を起こす前だったのか、研究員の中には樹族もいる。
ホログラムの中では、マサヨシよりも背の低いサカモト博士が、女性研究員のすぐ近くで白々しくこけた。
「うぉっぷ! 足がもつれてしまったわい。歳には勝てんのう・・・」
うつ伏せの博士は腹筋だけで体を跳ね起こすと、ぐるんと回転して仰向けになった。
(パンツの色は白!)
「やはり樹族は、純白の下着が似合う」
研究員の女性は、ヒールの踵で博士の顔を突き刺そうとする。
「うわぁ! 危ない!」
サカモト博士はパワードスーツの背面に付いている小さなバーニアで、ヒールの一撃を緊急回避し、勢い余って壁に激突する。
「どっ!」
頭を抱えてゴロゴロ転がって痛がる博士に対し、誰かが呆れて返っていた。
「天罰ですね」
「なんじゃい! おったんかい、ウィスプ」
頭の側面に付く梵天のような髪を直して、ドローン型アンドロイドのウィスプを見る。
「研究員の下着を見ろと指示したのは、どうせデルフォイでしょう? あれは博士に似てスケベですから」
マサヨシはホログラムの中で、ウメボシとウィスプを見比べている。
「うわぁ。ウメボシくりそつ! 色が青いかピンクかの違いだけですぞ」
「それはそうですよ。ウメボシの装甲は割とどこにでもあるものですから」
そこでホログラムの映像は消えた。
「どうじゃね? イメージできそうかい?」
「まぁスケベ爺だというのはわかった。オフフッ!」
「マサヨシとはある意味、同類の人間と言えるな」
「博士は何でヒジリ氏みたいに、大きくなかったんですかな?」
「博士はナチュラルだ。デザインされて生まれてきておらず、自然分娩で生まれた。あれが本来の地球人の姿なのだ」
「え? 逆に凄くね? チート級地球人の中で、ナチュラルが博士になるなんて!」
「うむ。博士はサカモト粒子も発見している。その優秀さはある意味、デザインドにとって脅威かもしれないな・・・」
ヒジリはナチュラルが迫害された理由が解った気がした。
これまでは単純に、ナチュラルにヴィラン遺伝子を持つ者が多いからだと考えていたが、時折デザインドを凌駕する逸材が生まれるのも事実。その天才が、もし悪人だったら・・・。
(しかし、デザインドにもヴィラン遺伝子を持った突然変異がいる。がマザーコンピューターにとって管理し辛いのはどちらだろうか? それはナチュラルだ。制御チップも埋め込まれていないし、予測のつかない行動をするからな。だからマザーは彼らの存在を、密かに消しているのかもしれない)
「ヒジリ氏?」
「すまない。考え事をしていた。さぁ博士を召喚してみせてくれたまえ、マサヨシ」
「はぁ・・。まぁやるにはやりますが」
マサヨシは意識を集中しだした。
頭の両側に丸い白髪が付いている、団子鼻のスケベ爺。
「座標は、三つほど離れた宇宙の45・22、38・3、32,5にある亜空間」
「それを言われたところで、どうイメージしろと?」
「これは別にイメージせんでいい。聞き流すだけでいいんじゃ。聞く事によって、マナがお前さんの意識をそこまで運んでくれる」
「うわぁ! 目の前が真っ暗になりましたぞ!」
「そこじゃ! 周りをよく見てみぃ! 何かが浮かんでおらんか?」
「博士が浮かんでいる!」
真空の暗闇の中でどこにも光源はない。しかし博士は宇宙空間で太陽の光を受けたかのように白く光っていた。
パワードスーツが白いのでそれが顕著だ。
「引き寄せるイメージで! 博士を引っ張るのじゃ!」
「わかった!」
グギギギギ、とマサヨシはこめかみに血管を浮かせながら拳を握る。亜空間に浮かぶ博士は徐々に、マサヨシの方へと動き始めた。
「そうだ! もっとこっちへ! 俺は可愛いサキュバスちゃんを! 使い魔にするんだぁぁぁ!」
気張ったマサヨシの尻から、ぶぅ! と屁が出たかと思うと、悪臭漂う空間に穴が開き、博士がするりと出て来た。
「うそ! やった! 俺、博士をケツから生みましたぞ!」
「おお・・・。博士・・・。何千年と待ち焦がれた博士が、ついに・・・!」
ナビは博士の遺体に突っ伏して、泣き始めた。
「正直、期待はしていなかったが凄いじゃないか、マサヨシ。一発で博士を連れ戻すとは」
「うむ、将来名の有る召喚士になるかもしれんのである」
ヒジリとダンティラスに褒められて、マサヨシは得意げな顔をする。
「ヒヒヒ! これでサキュバスちゃんと、毎日ムフフフ!」
「はぁ・・・。イヤラシイ」
白目でほくそ笑むマサヨシを見てウメボシは、やはりマスターは紳士的でカッコイイなと再認識したのだった。
それを買い物から帰って来たタスネが見つけて、大声でイグナとフランを呼ぶ。
「大変! イグナ、フラン! 早く来て! ヒジリとウメボシが!」
二階の自室から二人は飛び出て来て、階段を駆け下りた。
「どうしたの? お姉ちゃん。やだ! ヒジリどうしたの?」
「買い物から帰ってきたら、二人がエントランスで倒れていたの!」
「ヒジリとウメボシは病気に罹る事はほぼないと言っていた。だから多分、気を失っているだけだと思う」
イグナは懐から嗅ぎ薬を出すと、ヒジリに嗅がせた。
「うぉっと! 臭いな・・・」
ヒジリは意識を取り戻すと上半身を起こし、周りをキョロキョロ見渡した後、ウメボシを真っ先に見つけ強制起動する。
ピピっと音が鳴って、ウメボシの目に瞳が映った。
「マスター・・・」
「異常はないかね? ウメボシ」
「はい・・・。ここは遮蔽フィールドに開いた穴の下なのに、これほどまで影響を受けるとは思いませんでした」
「大丈夫? ヒジリ、ウメボシ」
「ああ、気を失っていただけだ。心配してくれてありがとう、皆」
「良かった」
イグナがヒジリに抱きつく。
「もし私とウメボシが遮蔽フィールドのある帝国領に入っていたらと思うと・・・。それにリツの事も気になる。何とかして向かわねば・・・」
「良く判らないけど、今出かけるのが危ないのなら、行かないでヒジリ・・・」
「しかし・・・」
「イグナの言う通りです。あの大規模な遮蔽フィールドの降下が、また起きないとも限りません。暫くはグランデモニウム王国から出ないで下さい。それに我々は穴の下でも、これほどまでの影響を受けたのです。タケシはもう生きてはいないでしょう」
「ふむ・・・。どれくらい気を失っていた?」
「ヒジリとウメボシが慌てて出かけようとするのを見てから、私たちが自室に籠って三時間ぐらい経ったかしらぁ?」
フランがそう言うと、ドアがノックされた。
「は~い! どちら様?」
タスネが玄関に向かい、ドアを開けるとそこにはマサヨシが立っていた。
「おい~! 何してたんですか~、ヒジリ氏~!」
そう言ってマサヨシは、乗って来た畳みムカデから大きな何かが入った袋を、必死になって引きずり下ろした。
「リツは無事かね? タケシは?」
「タケシならリツちゃんが倒しまつたよぉ~、もぉ~。彼は冷たくなって、この袋の中にいますしお寿司。俺がリツちゃんに秘策を教えてあげたんよ。パワードスーツの首の所にある解除ボタンを押せって。リツちゃんがそれを押して、裸になったタケシの鳩尾に、ドーンとパンチ一発かましたら、体中カビカビになって彼は死んだのでつ」
ヒジリは袋の中身をイグナ達に見せないようにして確認し、ウメボシと顔を合わせる。
「やはり・・・。免疫機能を完全に破壊されている。しかもパワードスーツを脱がされた時点で、こうなったのだろう。タケシは明日の我々だ。気をつけねば。ところでリツは?」
「リツちゃんは皇帝陛下に報告に行きますた。なので俺一人で来ました。タケシの死体は重すぎて大変だったわ」
「カプリコン、タケシを再構成してくれ。情報を聞き出す」
それに対してカプリコンは、申し訳なさそうに答える。
「残念ですが、地球政府から命令が出ています。死体はこちらでお預かりします」
タケシの遺体は直ぐに光の粒子となって消えた。
「ふむ。まぁ気持ちは判らんでもないな。このところ、地球政府は失態ばかりだ。最初は私を転送事故で、ここに飛ばしてきた。そして今も尚、ヴィラン遺伝子を持つ者をずっと放置している。そしてタケシを惑星ヒジリに侵入させてしまった。マザーコンピューターの信頼性は、地に落ちたと言っても過言ではない。なので政府は是が非でも原因を突き止めようとするだろうな」
「地球政府管轄下の宇宙船としては耳が痛い言葉です。恐らく一週間以内に、政府からお詫びのボランティアポイントと、調査結果報告が来るでしょう」
「BPはともかく、納得のいく報告を期待している」
ヒジリはエントランスにある客用のソファーに座ると伸びをした。
「皮肉なものだな。古代樹族が、当時は脅威でも何でもなかった地球人を警戒して遮蔽フィールドを展開し、その効果が現れたのが、九千年後なのだから」
「遮蔽フィールドは、古代樹族の怨念のように感じます」
ウメボシはぶるっと身震いをした。
ヒジリの頭骨にカプリコンの声が今一度響く。
「すみません、言い忘れがありました。ナビから、サカモト博士の座標が解ったという連絡がありましたので、お伝えしておきます」
「早いな・・・。まだ召喚士を用意していないのだが」
そう言って、ヒジリは何となくマサヨシを見る。
「そういえば、優秀とは言えないが召喚士がここにいたな。取りあえず彼で試してみるか」
マサヨシはきょとんとしてヒジリを見つめた。
当たり前だが、カプリコンとヒジリの会話は、マサヨシには聞こえていない。
「マサヨシ、素敵な女性を紹介しよう」
「まじで?」
「ああ。ついて来たまえ」
「ババァ~じゃん! もう~!」
マサヨシはナビを見て、不貞腐れながらヒジリのお尻を叩く。
「私は若い女性を紹介するとは、一言も言っていない」
ヒジリはニヤッとしてそう返す。
「女性どころか、ホログラムじゃないっすか~」
ぬか喜びとはこの事だ、とマサヨシは下唇を突き出して不快感を表明した。
「あら? 彼女は元々は実体のあるホログラムですから、今の透過する状態を直せば、恋人になる事も可能ですよ? マサヨシ様」
「恋人になるって事は、チョメチョメも出来ると?」
「はい、ナビが同意し、マサヨシ様がご年配の女性を好むのであれば」
「おえ・・・」
「おえ、とは失礼であるな。フハハ!」
屋敷の空き部屋に居候するダンティラスは、博士の召喚に立ち会えるかもしれないのでついてきたのだ。
「全くあんたら好き放題言ってくれるねぇ。で、そこの醤油顔の男が、優秀な召喚士かい?」
期待の篭った目で、ナビはマサヨシを見つめる。
「いや、優秀ではないが話が急だったものでね。取りあえず目の前にいた召喚士が、彼だったので連れて来た。召喚に失敗したからといって、博士は消えたりしないだろう? まずはマサヨシで感触を掴みたい」
「まぁそうだけどさぁ・・・。じゃあ今日は博士に会えないんだねぇ? 期待はしない方がいいって事かい?」
「そういう事になるな」
「あのさぁ~。騙して俺を連れて来ておいて、勝手に期待して落胆するの止めてもらえます? 俺の方が被害者ですよぉ~」
マサヨシは細い目を吊り上げて、口を尖らせた。
「まぁまぁ。この老婆に協力しておくのも悪くはないぞ、マサヨシ。この書庫には多くの魔法書がある。君が召喚したくて仕方がないサキュバスを、簡単に召喚出来る巻物があるかもな」
「まじで? ババァ・・・、お婆さん」
「お前さんの活躍次第じゃな」
「やる気出て来た! 頑張ります! でも具体的にどうしろというのですかな?」
「博士の姿を思い浮かべる。それから捕まえて引き戻すイメージをしてくれればいいよぉ」
「っていうか、博士の姿なんて知らないんですけど。オフッオフッ!」
「ああ、勿論博士の映像を見せる」
ナビが手を掲げると、周りが研究室になった。まだ樹族が反乱を起こす前だったのか、研究員の中には樹族もいる。
ホログラムの中では、マサヨシよりも背の低いサカモト博士が、女性研究員のすぐ近くで白々しくこけた。
「うぉっぷ! 足がもつれてしまったわい。歳には勝てんのう・・・」
うつ伏せの博士は腹筋だけで体を跳ね起こすと、ぐるんと回転して仰向けになった。
(パンツの色は白!)
「やはり樹族は、純白の下着が似合う」
研究員の女性は、ヒールの踵で博士の顔を突き刺そうとする。
「うわぁ! 危ない!」
サカモト博士はパワードスーツの背面に付いている小さなバーニアで、ヒールの一撃を緊急回避し、勢い余って壁に激突する。
「どっ!」
頭を抱えてゴロゴロ転がって痛がる博士に対し、誰かが呆れて返っていた。
「天罰ですね」
「なんじゃい! おったんかい、ウィスプ」
頭の側面に付く梵天のような髪を直して、ドローン型アンドロイドのウィスプを見る。
「研究員の下着を見ろと指示したのは、どうせデルフォイでしょう? あれは博士に似てスケベですから」
マサヨシはホログラムの中で、ウメボシとウィスプを見比べている。
「うわぁ。ウメボシくりそつ! 色が青いかピンクかの違いだけですぞ」
「それはそうですよ。ウメボシの装甲は割とどこにでもあるものですから」
そこでホログラムの映像は消えた。
「どうじゃね? イメージできそうかい?」
「まぁスケベ爺だというのはわかった。オフフッ!」
「マサヨシとはある意味、同類の人間と言えるな」
「博士は何でヒジリ氏みたいに、大きくなかったんですかな?」
「博士はナチュラルだ。デザインされて生まれてきておらず、自然分娩で生まれた。あれが本来の地球人の姿なのだ」
「え? 逆に凄くね? チート級地球人の中で、ナチュラルが博士になるなんて!」
「うむ。博士はサカモト粒子も発見している。その優秀さはある意味、デザインドにとって脅威かもしれないな・・・」
ヒジリはナチュラルが迫害された理由が解った気がした。
これまでは単純に、ナチュラルにヴィラン遺伝子を持つ者が多いからだと考えていたが、時折デザインドを凌駕する逸材が生まれるのも事実。その天才が、もし悪人だったら・・・。
(しかし、デザインドにもヴィラン遺伝子を持った突然変異がいる。がマザーコンピューターにとって管理し辛いのはどちらだろうか? それはナチュラルだ。制御チップも埋め込まれていないし、予測のつかない行動をするからな。だからマザーは彼らの存在を、密かに消しているのかもしれない)
「ヒジリ氏?」
「すまない。考え事をしていた。さぁ博士を召喚してみせてくれたまえ、マサヨシ」
「はぁ・・。まぁやるにはやりますが」
マサヨシは意識を集中しだした。
頭の両側に丸い白髪が付いている、団子鼻のスケベ爺。
「座標は、三つほど離れた宇宙の45・22、38・3、32,5にある亜空間」
「それを言われたところで、どうイメージしろと?」
「これは別にイメージせんでいい。聞き流すだけでいいんじゃ。聞く事によって、マナがお前さんの意識をそこまで運んでくれる」
「うわぁ! 目の前が真っ暗になりましたぞ!」
「そこじゃ! 周りをよく見てみぃ! 何かが浮かんでおらんか?」
「博士が浮かんでいる!」
真空の暗闇の中でどこにも光源はない。しかし博士は宇宙空間で太陽の光を受けたかのように白く光っていた。
パワードスーツが白いのでそれが顕著だ。
「引き寄せるイメージで! 博士を引っ張るのじゃ!」
「わかった!」
グギギギギ、とマサヨシはこめかみに血管を浮かせながら拳を握る。亜空間に浮かぶ博士は徐々に、マサヨシの方へと動き始めた。
「そうだ! もっとこっちへ! 俺は可愛いサキュバスちゃんを! 使い魔にするんだぁぁぁ!」
気張ったマサヨシの尻から、ぶぅ! と屁が出たかと思うと、悪臭漂う空間に穴が開き、博士がするりと出て来た。
「うそ! やった! 俺、博士をケツから生みましたぞ!」
「おお・・・。博士・・・。何千年と待ち焦がれた博士が、ついに・・・!」
ナビは博士の遺体に突っ伏して、泣き始めた。
「正直、期待はしていなかったが凄いじゃないか、マサヨシ。一発で博士を連れ戻すとは」
「うむ、将来名の有る召喚士になるかもしれんのである」
ヒジリとダンティラスに褒められて、マサヨシは得意げな顔をする。
「ヒヒヒ! これでサキュバスちゃんと、毎日ムフフフ!」
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大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
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