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第十三章 黒髪少女の軌跡編
982話 魔法
しおりを挟むえらん、という名前で呼ばれるようになって、私のむねの中にはぽかぽかしたものがあふれていった。
自分のことも覚えてないけど、名前で呼ばれるってすごいことなんだなぁって。
それからせいれいさんとはお別れして、家の中に入る。
「あまり遠くじゃなければ、外出してくれてもいいから。ここは人里から離れてるし、誰も来ない……危険な人もいない。
けど、危ないことはしちゃだめだよ」
「はーい」
きんぱつの人は、しばらく歩いた先にあるべる……なんとかって国で、私の手がかりをさがしてくれていたみたいだ。
私のこの黒い髪や目のとくちょうは珍しいらしく、大きな国ならすぐに見つかると思ったって。
「でも、ごめんね。手がかりは見つけられなかったよ」
肩を落として私にあやまってくれるきんぱつの人。
別に悪いことをしたわけじゃないから、あやまる必要なんてないのに。
それだけ、私のことをひっしになって探そうとしてくれたってことなのかな。
「エラン……のような特徴の子供を探している人がいないか、ギルドでも聞いてみたんだけど。一人であんなところに倒れていたことを考えると、関係者はベルザ国にいると思うんだけどな……」
「……」
私のこと、こんなに考えてくれてるんだ。うれしい。
私には親の記憶もないけど、もし居たらこんな感じだったのかな?
すごくどきどきする……
くぅー……
「ぁ」
きゅうに、私のおなかが鳴ってしまった。おなかをおさえてみるけど、鳴ってしまった音は取りけせない。
見ると、きんぱつの人はほほえましそうににまにましていた。
うぅ、なんだか恥ずかしいよぅ。顔が熱くなっていく。
「お腹空いたよね。なにかご飯食べないと……はい、いろいろ買ってきたんだ」
そう言って、手に持っていたかみぶくろを机の上におく。
なにを持っていたのかなって思ってたけど……もしかして、食べもの!?
私はつい、とび付くようにふくろの中を見た。
そこには、見たこともない食べもの(?)がたくさん!
「わぁー!」
「エランの好みはわからなかったけど、食べやすいと思えるものを買ってきたんだ。ほら、この木の実とかおいしいと思うぞ?」
お、起きてからは、そんなにおなかはへってなかったけど……こ、これを見たとたんに、おなかの中できゅるきゅると音が大合唱をはじめている……!
ふくろの中に手をつっこみ、木のみを取る。それに、かぶりつく。
がしゅっ、と音がして、かんだところからは水があふれる。すごく……じゅーしーってやつだ!
「おいひぃー!」
「はは、たくさん食べな」
それから私は、ふくろの中のものを手当たりしだいに取って食べた。
みずみずしく、食べやすいものが多かったおかげでパクパクと食べることができた。
……けど。
「んっ、んんー!」
いくら食べやすいとはいっても、あまりに詰め込みすぎたせいだろう。食べていたものがのどに詰まり、飲み込むのに苦労し苦しくなってしまう。
胸をとんとんととたたくけど、くるしさはかいしょうされない。ど、どうしよう。
すると、あせったようきんぱつの人は私にコップを差し出してくれる……
「エラン、これ飲んで!」
「んっ……んくっ……く……」
わたされたコップを手に取り、注いであった水を飲み込む。
そのおかげでのどの詰まりはなくなり、ほっと安心する。
「た、助かったぁ」
「エラン、気をつけないと。焦って食べなくても食べ物は逃げないから」
「うん、ありがとう。……でも、今のって……」
くるしいながらも、私は見た。きんぱつの人がコップに、水を注いでいるのを……手をかざして、なにもないところから水が出てきたのを。
あれは、いったいなに?
「水、どこから出したの!?」
「ん? ……あぁ、これは魔法だよ」
「まほ……う?」
聞きおぼえのない言葉に、私は首をかしげた。
まほう……とは、なんだろう。手から水を出すことを、そう呼ぶのかな。
「魔法、という言葉に聞き覚えはないか。エランの場合、自分の名前や両親といった記憶はないのに、言葉については覚えているものもある。魔法という現象にはピンとこないか」
「?」
「あぁ、ごめん。魔法というのは……うーん、なんて説明すればいいだろう。超常の現象を引き起こす、不可思議な力……と言うべきかな」
「?? ちょーじょ……ふかしぎ……?」
「ご、ごめん、わかりにくかったね」
むずかしい単語を並べられ、私の頭はぱんくすんぜんだ。
それから、多分すごくていねいに教えてくれた。要するに、すごーくふしぎな力……ということらしい。
さっきみたいに水を出したり、明かりを灯したり、風を起こしたり。そんなことができるんだって。
「すごーい!」
私も、そんな力がつかえるのかな!
そんな私の気持ちをさっしてくれたのか、きんぱつの人は小さくうなずいた。
「魔法とは別に、魔術という力もあって……それらを一般的には、魔導と言うんだ。エランの場合は、さっき精霊と仲良くしていたね。精霊を視認して、話ができる……これだけでも、エランには充分に魔導の才能がある」
「……つまり?」
「エランには、魔法を使える可能性があるってことだ。それも、魔導の知識を覚えればすぐにでも」
私にも! 魔法が使える! やった!
私はばんざいして、よろこびを全身で表す。やった、やった!
私には、まほう……まどうの才能がある! それ、すっごく心がときめいてる!
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