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第十三章 黒髪少女の軌跡編
981話 名前
しおりを挟むそれから、きんぱつの人がかえってくるまでせいれいさんと話しつづけた。
家の中でじっとしているように言われたから、かえってくるまえに家の中にもどるつもりだったけど……お話にすっかりむちゅうになっていた私は、すっかり忘れてしまっていた。
「! 外に出て、なにをしているんだ?」
「あ」
だから気づいた時には、かえってきたきんぱつの人に声をかけられたところだった。
私はおこられると思って、カタカタとふるえてしまった。
そんな私の気持ちをさっしてくれたのか、きんぱつの人は「ぷっ」と笑った。
「別に怒らないよ。私も言い方が悪かったな……家から出ていけないわけじゃないんだ。ただ、勝手に動き回ったら危ないかと思って」
「ご、ごめんなさい……」
「謝る必要はないよ」
私がかってなことをしてしまったのに、きんぱつの人はおこるどころか笑ってゆるしてくれた。
やっぱりやさしいな。なら私も、ちゃんとしつもんには答えないと!
「あのね! まどの外を見てたら、きれいな光が見えてね……外に出たら、せいれいさんだったの!」
「……精霊?」
身振り手振りで、なんとか伝える。かってに外に出たのは悪いかもしれないけど、私はべつに悪いことをしていたわけじゃないんだ。
となりのせいれいさんを指さして、この子と話していたのだとあぴーる。
するときんぱつの人は、あごに手を当ててなにやら考えこんでいた。
「キミは……精霊が見えるのかい?」
「? うん」
なにを考えているのかと思ったら、ふしぎなことを聞いてくる。
見えるもなにも、こうしてちゃんととなりにいるし、お話だってできている。
「それで、さっきまでお話していたんだよ!」
「……驚いたな」
おどろいた……? なにに対してだろう?
するときんぱつの人は、私と私のとなりに浮かんでいるせいれいさんとを交互に見た。
「精霊は、誰にでも見えるわけじゃないんだ。魔導の素質がある者……それも、たいていの人間は自らの魔力を高めて初めて精霊を認識できるようになる。
初めから精霊が見えて、しかも話までできるなんて」
「? えっと、いけないことだった?」
「とんでもない。すごいことで、驚いていたってだけだよ。キミには素質があるんだね」
……そしつ、とかそういうのはよくわかんないけど、せいれいさんと仲良くしても問題ないってことだよね。
よかったぁ。だめだって言われたらどうしようかと思った。せっかく仲良くなれたんだもん、もっと仲良くなりたい。
ほっとしたのは私だけじゃなくて、どうやらせいれいさんものようだ。私たちは、しぜんと笑った。
「精霊を見ることができ、話もできて……なにより、精霊が好いているように見える。そういう体質なのか……記憶を失う前からそうだったのか……」
なんだか、きんぱつの人はぶつぶつとむずかしそうなことをつぶやいている。
「だれにでも見えるわけじゃない……って言ってたけど、きんぱつの人は見えるの?」
「ん? あぁ、もちろん。これでも、精霊とはわりと仲良くやって……って、きんぱつの人? それって私のことかい?」
「うん、名前おぼえられなくて」
「……」
きんぱつの人は、なにやらしぶい顔になって、頭をかかえた。
どうしたんだろう。頭痛いのかな?
「グレイシア。グレイシア・フィールドだよ、言ってごらん」
「ぐ、ぐれ……ぐれっしあ、ふぃんがー?」
「全然違う」
ずーん、と落ち込むきんぱつの人。
名前をまちがえられたんだ、それもとうぜんなのかもしれない。私にはおぼえている名前すらないけど。
でも……ほんとうにむずかしいんだもん。長いし、おぼえらんないよ。
「なら、あだ名とかどうだろう」
「あだな?」
「そう。名前が覚えにくいなら、特徴的な印象から覚えやすい単語を言ってみて」
「きんぱつの人」
「……」
またもずーん、と沈むきんぱつの人。だめだっただろうか。
でも特徴的なのってきんぱつだし。あとはみどりの目とか、とがった耳とか……
うーん……
「ま、まあ名前を覚えるか、ゆっくり考えてくれよ、エラン」
「……えらん?」
「あ」
出てきた名前……らしきたんごに、きんぱつの人ははっとした様子で口元をおさえた。
でも、聞いちゃったことばは取りけせない。
「えらんって、だれ? ……もしかして、私?」
「……ごめん、嫌だったかな」
なぜか、ふくざつそうな顔をしている。こういうの、ばつがわるそう……って言うんだっけ。
いやかどうか、って。たしかに、いきなりそう呼ばれてへんな気分だったけど……
ふしぎと、いやじゃなかった。
「ううん、すてきな名前だと思う!」
「……そっか。なら……キミのこと、エランと。そう呼んでもいいかな?」
すてきな名前……そう聞いたしゅんかんのきんぱつの人のひょうじょうは、きっとずっとわすれることはないだろう。
うれしそうな……だけど、どこか悲しそうでないちゃいそうな。そんな顔だった。
それに、どんな答えをのぞんでいるのかはわからないけど……私の答えは、一つだった。
「うん、もちろんだよ!」
そう言って、笑った。うまく笑えていたかはわからないけど……私の答えを聞いて、きんぱつの人もうれしそうに笑っていた。
えらん、えらんか……なんだか、すごく好きだな、この名前!
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