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第一章 魔導学園入学編
3話 魔導学園の存在
しおりを挟む「魔導学園?」
「あぁ」
目の前の食事を楽しむ時間……晩飯時に、それは唐突に起こった。
熱いお肉を頬張っていた私は、水でそれを喉の奥へと流し込み、師匠を見る。
今しがた、師匠が言った『魔導学園』というもの。おそらく……というか、確実に学校だろう。
それも、魔導を扱う感じの。
聞いたことがあるような、ないような。
ただ、どうして師匠からその単語が出てきたのかわからず、私は言葉の先を求める。
「それが、どうかしたんですか?」
「いや……その魔導学園に、通ってみるつもりはないか?」
またも、唐突だった。
私はお肉の切れ端を、ぱくり。
「ど、どうしてそんな、急に……」
「前から言っていたじゃないか、エラン。
いずれ師匠を超える魔導士になるんだー、と」
確かに、言った。
師匠は師匠であり、同時に私の目標だ。
私は魔導に関しては師匠からすべてを教わってきたし、師匠がどれほどの魔導士かもわかっている。
そんな師匠を、いつか超えたいと、いつからか思うようになった。
「そのために、その、魔導学園へ……ってことですか?」
「あぁ。
その名のとおり、魔導を学ぶ学園だ。
在籍する生徒は当然、将来名のある魔導士を目指している。
教師もまた、魔導のスペシャリストだ」
ふむふむ……まさに魔導について学ぶ学園、というわけか。
それだけを聞くと、私にとっては望むべくもない、が……
「でも、私、師匠より教え方がいい人がいるとは思えません」
「あはは、それはありがとう。
けれど、私の下で学んでいたら、それは私の真似事かその延長でしかない。
私を、超えたいのだろう?」
「む……」
師匠の教えがあれば、他の人の教えを受ける必要性を感じない……それを、見事に論破される。
私は、師匠を超えたい。
そして師匠を超えるために、いつまでも師匠を倣っていては、結局は師匠を超えられない。
もちろん、自分なりにアレンジして、師匠とは別のやり方を考えることはできるだろう。
それでも、師匠にしか教えを受けていない私は、師匠のイメージが根本に染み付いてしまっているのだ。
学園に通うことは、いろんな人から教えを学ぶことになり……
「それに、同じ年くらいの子たちと競い合い互いに成長していくのも、エランには経験してほしい」
私は、同年代の友達がいない。
というより、師匠以外の人との関わりが、あんまりない。
この家……あまり大きくはない家は、辺境の地に建っている。
確か、結構遠くにある王都パルデアって国の……その領地に、入ってるか入ってないか。
そのパルデアに、師匠はたまに赴く。私は、それに着いていくこともある。
人との関わりは、パルデアでくらいだ。それも、師匠にくっついているのがほとんど。誰かと仲良くお話、なんて経験もない。
この家の周囲には、なにもないし。
「……その、魔導学園が、ある場所は」
「王都、パルデア。学園には、学園寮もある」
ううむ……ここからパルデアまで、歩いても数時間かかる。
ここから、毎日通え……って、ことだと一瞬思ったけど。
寮があるっていうことは……
「つまり……魔導学園に通うってことは、独り立ちしろ、ってことですか」
「まあ……そうなるかな。
エランももう十六になる。さすがに、ずっと私とここで暮らすわけにもいかないだろう?」
師匠は、私の今後のことを考えてくれている。
魔導のこともそう。人付き合いについてもそう。
おそらく、こういうことでもなければ、私は師匠から離れようなんて、思いもしなかっただろう。
だって……
「師匠、私一つ心配なことがあるんです」
「なにかな……いやまあ、不安なことだらけだとは、思っているんだ……」
「私がいなくなって、師匠の生活が心配です」
「けど…………私?」
だって師匠は、私がこの家から居なくなって、果たしてまともな生活が遅れるのだろうか。
そこだけか、心配だ。
そりゃ、私を拾う前は、一人で生活をしてきたのだろう。
でも、この十年間は違うわけで。
「いや……心配って、私の?」
「大事なことですよ。
師匠、料理とか洗濯とか、できるんですか!?」
「…………できるさ、バカにしないでもらおうか」
なんだか今、ちょっと間があったなぁ。
私が料理を上達したのだって、師匠があまりに料理ができないからだ。
これまでどうやって生活していたのか。
その辺の草でも食べていたんじゃなかろうか。
「えー、ホントですかー?」
「そもそも、師匠の世話を焼きすぎるのも良くないと思うぞ。師匠離れだ、もう少し自分のために時間を使いなさい」
自分のためと言われても……
この家での家事は、この家で生活する私にとって、むしろ自分のためになることなんだけどな。
まあ……考えようによっては、師匠の独り立ちということでもあるのか。
いい大人が、なにも家事できないじゃ心配だし。
それも、エルフだから普通より長生きなのに。
「なんだか、とても不本意なことを考えられている気がする」
「そんなことないですよー?」
ここは私だけでなく師匠の自立のため、ということを考えれば、この家を離れることにそんなに後ろ髪は引かれないかも。
師匠は納得してない顔をしてるけど、まあいっか。
「コホン。
で……まだ、エランの答えを聞いていなかったな。
話を持ってきたのは私だが、最終的に決めるのはエランだ」
咳払いをして、話を元に戻す。
そもそも、まだ行くとも行かないとも言ってないのだ。なのに、ここを離れるだのと考えるのは先走りすぎてる。
私は、考える。
魔導のこと、学園生活のこと、人付き合いのこと……もしかしたら、友達ができるかもしれない。
その友達と、魔導の力を競い合って、お互いを高めあっていく。
うん、悪くない。
それに、私くらいの年の女の子が、どんなことをしているのか……
女の子らしいことも、してみたい。
考えてみれば、これまで魔導の修行と家事ばかりだったもんなぁ。
もちろん、嫌ではないけど。
それでも、一番に考えるのは……やはり、魔導のことだ。
「行きたい……行きたいです!」
気づけば私は、食事も忘れて叫んでいた。
行きたい、行きたい、行きたい……
行ってみたい!
それを聞いた師匠は、うっすらと微笑んでいた。
「じゃあ、決まりだな」
こうして私は、魔導学園へ行くことを、決めた。
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